ウクライナ戦争の裏で再燃する「EUの難民問題」怒涛の勢いに各国ともお手上げ状態に

 

 

ウクライナ戦争の裏で再燃する「EUの難民問題」怒涛の勢いに各国ともお手上げ状態に(川口 マーン 惠美) @gendai_biz

 

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ウクライナ戦争の裏で再燃する「EUの難民問題」怒涛の勢いに各国ともお手上げ状態に - ライブドアニュース

海上で行き場を失う難民たち

今、難民が急増している。シリア難民がEUに殺到した2015年の秋の状態の再燃ではないかと言われているほどで、EUを目指す難民も、ドイツへ到達する難民も、どちらも増えている。

まず、地中海の方だが、一番多いのは相変わらずシリア難民で、次いでアフガニスタン、イラク。侵入ルートはいずれも以前よりさらに危険になっている。

これまでは、まずトルコに入り、そこから目と鼻の先のギリシャの島に渡るという方法が多くとられていたが、現在は、シリアからレバノンに入り、そこからキプロスを目指すケースが増えているという。

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トルコ沿岸からギリシャの島への距離は、一番近い島(例えばレスヴォス島)では9kmほどだが、それでもゴムボートに乗った難民はしばしば遭難した。ところが、レバノンからキプロス島までは175kmもあり、ゴムボートではないにしろ、粗末な木製のぼろ船が多いため、遭難が後を絶たない。そもそも途中でたいてい燃料が切れる。

EUに行きたい人たちを斡旋し、不法入国を助けているのは国際犯罪組織で、難民ビジネスは彼らにとって、すでにもう何年も前から麻薬よりも割の良い資金源となっている。密航希望者が支払うのは成功報酬ではないから、たとえ船が沈没しても斡旋者は丸儲けだ。

IMO(国際海事機関)が9月に発表した数字によれば、今年の地中海での死亡者、および行方不明者はすでに1300人を超えている。しかも、これは公式に確認された数なので、おそらく氷山の一角に過ぎないという。

レバノン-キプロスルートは、世界でも最も危険な難民ルートの一つとされるが、なぜ、犯罪組織がこのルートを使い始めたかというと、これまでのギリシャの島経由のルートが、ギリシャ当局の警戒強化で機能しなくなってしまったからだ。

 

例えば9月22日、トルコが73人の遭難者を救助したというニュースがあった。トルコ側によれば、これはレバノンからギリシャに行こうとしていた難民だったが、ギリシャ当局がそれを阻止(push back)し、無理やりトルコの領海に押し込んだのだという。

ところがギリシャ側は、トルコが彼らを積極的にギリシャの領海に送り込んだ(push forward)として、非難の応酬になっている。要するに、難民は押したり、押し返されたりで行き場を失い、そのうち沈没してしまうというわけだ。

犯罪組織と連携するNGO組織

一方、現在、この危険な海上で極めて活発に活動しているのが、さまざまなNGO組織だ。

Ocean Viking, SOD Mediterranee, Open Arms, Sea Watch, Sea Eye, Rise Above, Mission Lifeline, SOS Humanityなどなど、枚挙にいとまがない。しかも、どの組織もかなり立派な船を所有している。それも1隻ならず、3隻、4隻と幅広く展開しているNGOもあり、しばしばその財源が取り沙汰されている。

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NGO船は、ボロ船やゴムボートで波間に漂っている難民たちを掬い上げて、イタリアの港に連れてくる。義憤の念に駆られた活動家たちが、難民を救いたい一心で活動しているという道徳的な一面はあるにしろ、勇み足が過ぎて、特定のNGOと、特定の密航幇助の犯罪組織が密に連絡を取り合っているという疑いも、すでに10年以上も前からある。

つまり、オンボロの難民船が公海に出た途端、あるいは、燃料切れになった途端に、NGOの船が現れて助けるというシナリオだ。

なぜ、NGOが助けた難民をイタリアへ連れてくるかといえば、イタリアのいくつかの港以外は、すでに難民を積んだNGO船の入港を拒否しているからだ。実際、ギリシャは9月10日に、今年すでに15万人の入国を拒否したと発表した。そのうち25000人は8月の話だそうだ(トルコからギリシャへは、国境のエヴロス川を渡河で密入国することも可能なため、ギリシャは海でも陸でも国境防衛に懸命)。

ただ、イタリアとて喜んで難民を受け入れているわけではもちろんない。最近では、NGOの船が何百人もの難民を積んだまま、入港許可が出るまで何週間も公海で待機しなくてはならない事態が頻繁に起こっている。

 

その場合、食料や水だけは補給されても、鮨詰めの船内の衛生状態は極度に悪化。病人は出るわ、精神に異常をきたす人は出るわで、状況は限界に達するという。高熱の幼児がヘリで救出された話なども伝わってきているが、詳細はわからない。

イタリアではすでに今年の難民(希望者)受け入れ数が6万6000人を超えており、去年の4万3000人から見ると50%以上の増加だ。イタリア自体、経済が疲弊しているので、この負担はかなりのものだし、財政面だけではなく、治安の悪化も問題だ。9月25日の総選挙で右派が勝利したのは、彼らが難民の制限を公約にしていたということも大きいだろう。

ドイツではウクライナ難民も急激中

ドイツはというと、以前より主流の中東難民の流入が、夏以来、再び急激に増えている。トルコからブルガリア、あるいは北マケドニア→セルビア→ハンガリー→オーストリア、そしてドイツという、いわゆるバルカンルートを使って入ってくる難民だ。

中東難民を300万人も保護しているといわれるトルコが、最近、難民を祖国に送還し始めたため、それを嫌う難民が怒涛のようにドイツに向かって逃走しているのが、現在のドイツにおける難民の増加の直接の原因らしい。つまり、ここでも難民は押したり、押し戻されたりしている。

それに加えて、ポーランドと国境を接しているドイツ東部の州、ザクセン州などでは、ウクライナからの避難民が急激に増加。9月の政府の発表によれば、ウクライナからの避難民はすでに100万人を超えた。その影響で、2022年の前半、ドイツの人口が8400万人を超え、過去最高となった(連邦統計局)。

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ドイツでは元々、ウクライナ人は珍しくない。90年代、ソ連崩壊を機にドイツに移住したドイツ系ウクライナ人が大勢いた上、ビザなしで3ヵ月はEUに滞在できたため、ウクライナ戦争の勃発前、すでに25万人のウクライナ人が出稼ぎ労働者としてドイツとウクライナの間を定期的に行ったり来たりしていた。

出稼ぎ労働者の6割以上が女性で、職種は介護関係が多い。ロシアのウクライナ侵攻以後に避難して来たのも、やはり女性。ただ、プーチン大統領の国民動員令の発令後は、動員を逃れてきたウクライナ男性も難民として受け入れることが検討されている。

現在、ドイツのアウトーバーンを走っていると、しょっちゅうウクライナナンバーの乗用車やマイクロバスを見かける。ドイツではウクライナ人に対してはすでに、これまでの3ヵ月の縛りを外して、無条件で1年間の滞在を許可しているし、援助は難民用の枠ではなく、生活保護が適用されている。

ウクライナは貧しく、しかも政治家の腐敗で有名な国だったせいもあり、前々から、できれば出稼ぎではなく、正式にEUに移住したいと思っていた人たちは多かった。今のドイツでは、それが無条件で、しかも援助付きで叶うため、ウクライナからの難民はまだまだ増えるだろう。

 

ウクライナ難民のための収容施設は、他国の難民と一緒にせず、分けている自治体がほとんどで、子供たちはすでに特別学校に通い、先生もウクライナ人。この好待遇に、白人とそれ以外の難民を差別しているという非難の声が上がっているほどだが、ドイツ人にしてみれば、ウクライナ人は、ドイツで労働力が不足している分野に即、投入できる良質な労働力だし、女性と子供が多いので治安の乱れる心配もないし、宗教のベースがキリスト教ということで価値観の違いもさほどないし、要するに親和性が高い。

多くはドイツにいる知り合いや親戚を頼っているので、中東難民などよりはずっと早く社会に溶け込み、経済的にも早く独立できそうだ。しかも若い人たちが多いので、そのうち、高齢化社会ドイツの救世主となってくれることを期待されているのだろう。

もしも難民船が日本に押し寄せたら

いずれにせよ、現在のドイツ政府の認識では、危急の問題はウクライナ難民ではなく、イタリアやギリシャなどに怒涛のように迫っている中東、およびアフリカ難民だ。

そもそも2015年の難民到来のきっかけを作ったのが、当時のメルケル首相の「難民ようこそ政策」だったとして、いまだに非難されているドイツであるから、現在、困窮しているイタリアやギリシャを放っておくわけにもいかない。

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しかし、EUで手分けして引き取ろうと提案しても、誰も賛成しないことはすでに証明済みだ。もし、今後、イタリアさえもNGO船を受け入れなくなったら、地中海で繰り広げられる惨劇は想像するだけで恐ろしい。EUの難民問題はすでにお手上げ状態だ。

 

難民が海から来れば、人道上、拒絶することはほぼ不可能だ。頑なな国境防衛は、即、難民の溺死につながるから、受け入れるしかない。EUでは多くの国がひしめいているので、押し付け合いも可能だが、日本に難民をたくさん積んだNGO船が訪れれば、それがどれほど多くても、日本は全て受け入れることになるだろう。

ただし、善意だけでは解決不能。そういう意味では、難民は日本にとって爆弾のようなものだ。核兵器など使わなくても、日本を虚弱化する方法はいくらでもある。だからこそ、政治家は次の選挙で票を取ることだけでなく、そういうさまざまな国難を想定することにも尽力してほしい。

少なくとも、一時的な収容場所などは確保しておかないと大変なことになると、本気で思う。

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