中国はもはや「アメリカと互角以上」に戦える…!?

覇権国アメリカは、世界最強の軍事力を誇る。

世界の海に、機動部隊を浮かべている(最近は、機動部隊といわないで、空母打撃群という)。横須賀基地にも、空母ロナルド・レーガンやイージス艦が配置されている。

 

台湾で民主化が進み、初めての総統選挙が行なわれることになった。すると中国は、台湾の近くにミサイルを撃ち込んで牽制した。1996年の、台湾海峡ミサイル危機だ。

アメリカ(クリントン政権)はこれに対抗して、ミニッツ、インディペンデンスの二隻の空母を派遣し、圧力をかけた。空母ミニッツは、台湾海峡を通過した。対抗できる戦力のない中国は、指をくわえてみているしかなかった。

それからずいぶん、時間が経った。

その後の中国人民解放軍の、戦力増強は目を見張るほどだ。遼寧、山東の二隻の空母が就役し、三隻目も建造中だ。最新式の戦闘機も、潜水艦も、揚陸艦も、質量ともに充実している。アメリカと互角以上に戦える戦力を整えつつある。

アメリカの空母は「時代遅れ」…

「空母キラー」の名を聞いたことがあるだろうか。人民解放軍が実戦配備したという、対艦弾道ミサイル(ASBM)だ。かなりの高度から、高速で飛んで来るので、防御がむずかしい。精密誘導によって、目標に命中する。射程は、150キロ程度のものから、グアム島に届くもの(グアムキラー)まである。横須賀基地に空母が泊まっているところを攻撃しようと思えばできる計算だ。

これは何を意味するか。空母打撃群を中心にするアメリカ軍は、時代遅れになってしまったということだ。空母はもはや「浮かぶ標的」である。台湾の近くにノコノコ出かけていくのは無謀だし、賢明でもない。

 

空母の歴史をふり返ってみよう。

空母は、戦艦に取ってかわって、過去80年ほど世界の海を支配してきた。戦艦は、主砲を撃ち合う。主砲の有効射程は、たかだか数十キロ。空母は、艦載機を飛ばして、その外から戦艦を攻撃できる。航空機は何百キロも往復できるので、勝負にならない。第二次世界大戦では、航空機の攻撃で、何隻もの戦艦が沈められた。

空母がいれば、その周辺の制空権が手に入る。制空権があれば、作戦を有利に進められる。虎の子の空母が、潜水艦や航空機やミサイルに攻撃されるといけないので、周りを駆逐艦(最近ではイージス艦)が何隻も取り囲む。この無敵の船団が、空母打撃群なのだった。

でも、空母キラーが睨みを利かせていると、その海域では、空母打撃群は作戦行動ができなくなる。台湾の防衛に、支障が生じる。アメリカ軍は、戦略の根本的な見直しを迫られる。

中国が軍事力を強化する「本当のワケ」

さて、同じことを、中国側から見てみよう。中国はなぜ、何を目的に、軍事力を強化しているのか。

 

それには、経済力に見合った軍事力を備え、国際社会に対する発言権を強めたい、という理由がある。アメリカに匹敵する経済力をもつに至った中国が、アメリカに匹敵する軍事力を持つのは当然だ、という考え方だ。

けれども中国は、これにとどまらない重要な軍事目的をもっている。「台湾解放」である。

中華人民共和国憲法(2018年改正)にはこう書いてある。《台湾は、中華人民共和国の神聖な領土の一部分である。祖国の統一を完成する大業は、台湾同胞を含む全中国人民の神聖な職責である》(序言)。このことは、改正前からずっと書いてあった。

中国の念願だ。憲法に書き込むぐらい、重要な目標なのだ。

台湾を解放すると言っても、軍事力がなければできない。台湾の人びとが「祖国に復帰します」と自分から言い出せば話は別だが、どうもそうなりそうにない。だから軍事力が整うのをじっと待っていた。

目的は「台湾の解放」

アメリカは2000年ごろ、中国軍が台湾解放の軍事作戦を実行する能力をもつようになるのは2010年ごろだとみて、「2010年問題」を研究していた。それが、いまはもう、2021年である。黄色信号を通り越して、赤信号がともっている。

中国軍の戦略は、「A2/AD」である。アメリカや日本の軍事専門家が用いるキーワードだ。A2(Anti-Access)とは、接近阻止のこと。アメリカ軍やその同盟国の軍隊を特定区域に接近させないこと、である。AD(Area-Denial)とは、領域拒否のこと。アメリカ軍やその同盟国の軍隊を特定区域で自由に行動させないこと、である。

ある区域に接近を阻止したり、その区域に入り込んでも行動能力を奪ったりするのは、中国軍の戦力である。中国軍は、これだけの能力を身につけることを目標にしている。

 

ではこの特定区域とは、具体的にどこか。第1列島線、第2列島線の内側だ。

列島線。この言葉を聞いたことがあるだろうか。第1列島線は、沖縄~尖閣諸島~台湾~フィリピン西岸~ボルネオ島北岸~ベトナム、を結ぶ線。中国大陸の沿岸地域だ。第2列島線は、小笠原諸島~グアム・サイパン~…を結ぶ線。西太平洋のかなりの部分をカヴァーする。

この線の内側で、アメリカ軍が自由に行動できなくする。これが、「A2/AD」のねらいである。

この区域のど真ん中に、台湾がある。中国軍は、台湾を征圧する軍事作戦を実行したい。それを阻止できるのは、アメリカ軍およびその同盟国軍である。この区域に彼らを近づけない。かりに彼らが入って来ても、自由に行動させない。その隙に、台湾を攻撃したり、台湾への上陸作戦を決行したりしたい。

中国が、着々と軍備を増強しているのは、台湾の解放が目標なのである。中国はすでに何隻も強襲揚陸艦(外見は航空母艦のような大きな艦艇)を配備している。台湾のほかには使い道のない艦艇だ。

中国が「戦争の準備」を本気で進めている

軍には参謀部があって、実際の戦争の前に、机上演習(シミュレーション)で作戦を練る。赤軍と青軍に分かれて戦い、審判が勝敗を判定する。

最近は、審判の代わりにAIが勝敗を判定する、「ウォーゲーム」が主流である。アメリカの軍事専門家は、米中の衝突をいろいろなシナリオでやってみたが、結果はだいたいアメリカ軍の「負け」だという。中国でも同様のウォーゲームをやってみて、結果はだいたい中国軍の「勝ち」になっているに違いない。自信を深めているだろう。

実際に、どういう状況でいつ、戦端が開かれるのか。それとも開かれないのか。誰にもわからない。確実なことは、中国が戦争の準備を本気で進めていること。そして、「ウォーゲーム」で勝つことになっている作戦は、実行に移しやすいことである。

 

アメリカは核大国ではなかったか。中国も強力な核戦力をもっていなかったか。核保有国同士が戦争をして、核戦争にエスカレートしないのか。

核戦争にエスカレートする危険があるので、米ソの間で戦端は開かれなかった。イデオロギーが違うまま、にらみ合った。冷戦である。

でも、米ソ冷戦の常識は、中国とアメリカのあいだでは通用しない。実際に、戦争になる可能性がある。

米中が軍事衝突すれば、日本にとってもただごとでない。その日に備えて、しっかり頭の予行演習をしておくべきなのである。