突然ですが、毎日目にするものとして、自分の手があると思います。
その手を見ることで、ヒトがどのような性質・性格を持っているか確かめようという研究があることをご存じでしょうか?
それは、決して手相を見ているわけではありません。ここで注目していただきたいのは、指の長さです。実は、「指の長さの比」と様々な行動・身体形質との間に相関があることが指摘されています。つまり、指の長さを見れば、その人の性質・性格の一端がわかる可能性がありそうなのです。
指の長さでわかる、「2D:4D比」とは
「2D:4D比」とは、人差し指の長さ(2D)と、薬指の長さ(4D)の比のことを指します。胎生期(生まれる前に母親のおなかの中にいる時期)に男性ホルモンが分泌されることで、男性は男性らしく体と脳が変化・成長すると考えられています*1。
その男性ホルモンが指に働くことで、薬指が長くなることがわかってきました。
これまでのさまざまな研究で、出生前の男性ホルモン暴露を多く受けた人=2D:4D比が低い、つまり薬指が長い人は男性ホルモンの影響を強く受けていることになります。出生前の男性ホルモン分泌は、脳の発達と将来の行動に影響を与えます。指の長さを見るだけで、そんなことまでわかってしまうのです。
2D:4D比とビジネス
現在までに、指の長さと行動・身体形質の相関を調査した3,000を超える論文が世界各国から発表されています。そのなかで、興味深いものを紹介します。ただし、このような研究結果は確率統計学的に多くの人に当てはまる、ということを示していますので、全員の人に当てはまるわけではないということをご理解ください。また、中には再現性が乏しい研究もあったと報告されています。
まず紹介するのは、2D:4D比と金融取引の関係についてです。高価な金融取引を扱うトレーダーたちにとって、その証券価値についての正しい評価、高額な株を取引する十分な自信、賭けをするためのリスク選択、競争相手の一歩先を行くための迅速な情報処理能力が必要となります。高度の集中力、長時間の視覚運動、迅速な認知及び身体反射が金融取引には求められているのです。それらの行動は、生物学的に高度なスキルを要求しているとも考えられています。
イギリスのシティ(日本の兜町、アメリカのウォール街のような経済の中心地)の株式トレーダー44名の手の指の長さと損益計算書の関係を調査したところ、トレーダーの2D:4D比が低い(つまり、薬指が長い)ほど、利益が多いことが判明しました*2。
また、キャリア2年以上の経験豊富なトレーダーのみを評価したところ、2D:4D比が高い群(0.988)と比較して低い群(0.932)のほうが、年収が5.4倍もあることがわかったのです。
この理由として、出生前の男性ホルモンレベルが2D:4D比に反映しているように、体内に循環している男性ホルモンがトレーダーの脳と体に感作していることが示唆されています。テストステロンが上昇することにより、自信とリスク選好が向上し、金融取引に影響を与えるのです。
また、別の研究では、さらに興味深い結果が出ています。
血中の男性ホルモンであるテストステロンは、唾液でも測定できます。17人のトレーダーの唾液テストステロン値を毎日測定したところ、朝のテストステロン濃度が高かった日のほうが、低かった日と比較すると、金融取引の利益が高いことがわかりました*3。同じ個人でも、ホルモンの値によって金融取引に影響を与えてしまうのです。
スポーツとの関連は?
他にも、スポーツと指の長さに関連する研究は、多数の報告があります。
533人の一般人と、304人のイングランドのプロサッカー選手を比較したところ、プロサッカー選手のほうが2D:4D比が低い(薬指が長い)ことがわかりました。さらに、プロサッカー選手を、国際大会の代表選手、イングランドのプレミアリーグ(リバプールなど)の選手、2部リーグ、3部リーグの選手に分けて詳細に比較したところ、代表選手が最も2D:4D比が低く、次いでプレミアリーグ、2部リーグ、3部リーグの順に低いことがわかったのです。単純に考えると、2D:4D比が低いほうがサッカーの能力があることが示唆されました*4。
サッカーに関しては受賞歴があったり、レッドカードを多くとるようなアグレッシブなプレーをする選手のほうが2D:4D比が低いなんて論文もあります*5。薬指の長さが、サッカーのプレースタイルに影響を与えるのかもしれません。
このほか多くの報告によると2D:4D比が低い(薬指が長い)ほうが、スポーツ分野ではポジティブに働くことがわかっています。その理由として、薬指が長いほうが血中の男性ホルモンが高く、筋力や最大酸素摂取量も上昇していることが影響していると考えられています。(ほかにも、ラグビー、フェンシング、サーフィン、スキー、大相撲といったスポーツも2D:4D比と関係があるとする報告があります)
2D:4D比と病気との関連は?
2D:4D比は、様々な病気とも関連があることが報告されています。
たとえば、現代の死因で最も多い「がん」と指の長さは関連があると指摘されています。過去に発表された18の論文(前立腺がん9件、乳がん2件、精巣がん2件、胃がん2件、口腔がん1件、脳腫瘍1件)をメタ解析すると、がんと2D:4D比の関係がわかってきます*6。たとえば、前立腺がんに関する論文をまとめると、以下のような結果となりました。
1)ブラジルにおいて、100人の前立腺がん患者と100人の健康な男性を比較した結果、前立腺がん患者のほうが2D:4D比が低かった*7。
2)韓国の研究で、前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAの値が40ng/ml以下で、下部尿路症状を呈する40歳以上の男性1136人を調査したところ、2D:4D比が0.95未満の場合、前立腺がんの検出率が高くなった*8。
3)オーストラリアの研究で、6258人の男性を評価したところ、2D:4D比が高いほうが、前立腺がんのリスクが低いことが示された*9。
4)逆に、スペインの研究では、前立腺がんを調べるための生検をうけた患者を調査したところ、がん患者は2D:4D比が0.95より大きい傾向があったという報告もあります*10。
上記は代表的なもので、ほかにも5つの前立腺がんと2D:4D比に関係する論文があります。解析の結果では、2D:4D比が低いほうが前立腺がんのリスクが高くなることがわかりました。
がん以外にも、心臓病、妊娠、自閉症、感染症などの病気も指の長さと関係があると指摘する論文もあります。最近の報告では、コロナウイルスの感染との関連を指摘する論文も出てきており、今後の研究が期待されています。
男性ホルモンであるテストステロンは、生殖器のみならず、脳・筋肉・皮膚・骨・心血管系などに影響を与えることがわかっています。前述したように、指の長さはテストステロンの影響を評価する一つのバロメーターとして多くの報告があり、その人の健康や行動と相関することがわかっているのです。
ただし、あくまでも「相関がある」だけで、全員に当てはまるものではないことをご了承ください。そのうち、手相占いならぬ、指の長さ占いなんてものも出てくるかもしれませんね。