「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」

 

飛行機や新幹線などでドクターコールがかかった時に、自信を持って挙手できる医師になりたいというのが、学生時代の私の理想像でした。

コロナ禍で外出の機会は相当減少したと思われますが、医師がそのようなドクターコールをされた時に、応酬に応じるかどうかは、個人に任されているのが現状のようです。応じなくても法的に罰せられることはないと言え、人が苦しんでいるのに知らぬふりをするというのは良心の呵責にさいなまれることは間違いありません。

しかしながら、ドクターコールに応じないという選択肢はありだと思います。例えば、長年臨床から遠ざかり、医学の世界から事実上引退している/医学部卒業後に外科、内科などの経験が全くなく、飛行機内での緊急疾患に対応する知識、技術を持ち合わせていない――などのドクターは、簡単に応じることは難しいと思われます。

ドクターコールがかかった時に多くのドクターの頭によぎるのが、法的責任ではないでしょうか。米国やカナダでは「よきサマリア人の法理」という考え方があり、医師や近くにいた人が緊急処置をした場合に法的責任に問われないという法律が存在しています。もちろん重大な過失や、故意の過失が行われた場合はその限りではないようですが。

飛行機内は地上と違い、様々な病気が引き起こされやすくなります。気圧が最大0.74気圧まで低下しますので、中耳炎、副鼻腔(びくう)炎の増悪、腸管ガスが膨張して腹痛が起きやすくなります。また、湿度が10~20%まで低下するので、不感蒸泄(せつ)が増え、脱水を引き起こしやすくなります。加えて長時間の座位が静脈血栓症を引き起こしやすくします。体調不良の方は、事前に主治医に相談して搭乗することが大切です。

◆谷光 利昭 兵庫県伊丹市・たにみつ内科院長。外科医時代を経て、06年に同医院開院。診察は内科、外科、胃腸科、肛門科など。