新型肺炎の陰で官邸が強行、黒川検事長「定年延長」という大悪事

検察に残された手段は 安倍内閣の倒閣

という こわいことになっていると

過去の例をあげて さすがの解説

読んでおこう

 

倉山満(憲政史家、皇室史学者)

新型肺炎の陰で官邸が強行、黒川検事長「定年延長」という大悪事

iRonnaさんからの依頼です。他に書ける人がいにとか。色んな意味で。わかっている人でも直接の当事者以外は、「触るの怖い」となっているよう。

昔だったら言論人はもっとはっきり言っていたけど、「これ汚職隠しに検察人事に介入したんじゃないの?」

 
東京高検検事長、黒川弘務の定年延長。日本の運命を揺るがす大事件である。
 
 ところが、この大事件を継続的に報道しているのは、朝日新聞とTBSだけである。珍しく真っ当な報道をしているのだが、彼らは日ごろの素行が悪すぎて、普通の人に相手にされない。ちょうど、保守言論人が中国の悪口を言えば言うほど、大企業が聞く耳を持たずに競うように中国に進出するのと同じ構図か。
 
 朝日とTBSも含め、メディアは「武漢肺炎」(新型コロナウイルス)一色である。しかし、世の中の視線が一カ所に集中しているときほど、悪事を起こしやすい。かつて、世間がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)などというタカが貿易交渉で「亡国論」などと愚かな騒ぎを繰り返している間に、復興増税(所得税の増税である)を決められた苦い思い出もある。貿易交渉なのだから、輸出の利益と輸入の不利益があるに決まっているのだが、そんな単純な経済学の初歩の知識もない素人言論人とメディアが「国を二分する大問題!」などと大騒ぎし、より大事な問題から目を逸らしてしまった。
 
 「武漢肺炎」は未知の病気なのだから警戒は必要だが、他のすべてを捨てて大騒ぎする話ではないし、ましてやパニックを煽る言論人など言語道断である。たいていの人にできることなど、どうせ限られているのだから、免疫が落ちないように健康に気をつけ、デマや陰謀論に流されないことである。むしろ、その陰で行われている重大事から目を逸らしてほしくないからこそ、検察人事について一から説明する。
 
 法務検察に関し、抑えておくべき最も重大な基礎知識は三つ
 
 第一は、法務検察の頂点は、検事総長である。他省のように、事務次官ではない。法務事務次官は、他省庁の官房長ぐらいの地位にしかない。検察庁は法務省の「特別の機関」だが、力関係は逆で、司法試験合格者が占める検察庁は法務省のことを「ロジ」と呼ぶ。ロジスティクスとは、「後方」のことである。ニュアンスとしては「飯炊き」くらいか。ただし、歴代検事総長になる人は、法務事務次官から東京高検検事長を経て就任しているので、法務省はエリート検事にとって跳躍台ともいえる。
 
 第二は、法務検察で重要なのは、司法研修所の期数である。他省庁で重要な入省年次は、期数に付随する。検事総長を目指すようなエリートは、司法試験を現役から、せいぜい数回の受験で合格している。出世は年功序列なので、期数と入省年次と年齢は、概ね比例している。
 
 第三は、法務検察のみ出世において、誕生日が決定的に重要なのである。誕生日によって人事を操作した例など、枚挙にいとまがない。検察庁法で、検事総長のみ定年が65歳、その他の検事は63歳と規定されている。ということは、現職検事総長は、定年前に自分の意中の後輩に譲ることもできれば、気に入らない部下を先に定年に追いやるために総長の地位に居座ることもできる
 
 最も熾烈だったのは、平成初頭の竹下派との抗争である。リクルート事件で検察は時の竹下登内閣に徹底抗戦し、捜査情報をマスコミに次々とリーク、支持率を一ケタ台にまで叩き落し、内閣総辞職に追い込んだ。
 
 ところが、内閣総辞職こそ竹下の罠だった竹下は宇野宗佑、海部俊樹、宮澤喜一と次々と傀儡(かいらい)政権を樹立することによって世論の攻撃を避け、その間に法務大臣を四代連続送り込んで検察人事を壟断(ろうだん)した。
 
 その時代、走狗(そうく)となったのが根来泰周である。根来は、政界の闇将軍として君臨していた竹下に忠誠を誓い、法務省大臣官房長→刑事局長→事務次官→東京高検検事長と出世する。法務大臣の梶山静六、検事総長に上り詰める岡村泰孝とともに、「KONトリオ」と呼ばれ、法務検察に一大派閥を築く
 
 このような様子を法務検察の本流の人々は苦々しく思っていたが、好機が到来する。竹下派が分裂、一時的に野党に転落するのだ。この機を逃さず、竹下すら一目置く後藤田正晴が法相に就任、本流の吉永祐介を岡村に代えて検事総長に据える。このとき、根来の定年前に吉永が検察を辞めて総長の地位を譲るとの密約があったとのことだが、そんなものはなかったことになっている。吉永は定年まで居座り、根来を退職に追い込んだ。
 
 このように法務検察は、常に政治との関係に腐心している。そして検察が政治の中心に現れるときは、必ず乱世なのだ。
 
 なお、竹下死後に旧竹下派が没落した後、小泉純一郎の系統の人々が政権を独占するようになり、検察とも蜜月も築いてきて今に至る。小泉の後継者の安倍晋三も検察と良好な関係だったはずだが、第二次安倍内閣以降の7年は一筋縄ではいっていない。首相の安倍と官房長官の菅義偉が、法務検察に人事介入を繰り返してきたからだ。
 
 その主人公は2人。1人が林真琴。もう1人が黒川弘務である。2人とも、昭和32年生まれ、司法研修所も35期のまったくの同期である。林は早くから出世街道を歩み、「プリンス」と目されてきた
 
 ここに、長期政権を築いた安倍・菅ラインが待ったをかける。実に三度も、林の昇進を阻止したのだ。
 
 1回目は2016年8月、法務検察の総意は林の事務次官昇進だったが、安倍・菅は待ったをかけた。代わりに黒川を据える。林は法務省刑事局長に据え置かれた。1年後に林に譲るとの密約が官邸と法務検察の間にあったとされるが、検証のしようがない。
 
 2回目は1年後の2017年8月、今度こそ林の事務次官昇格がなされると、法務検察は考えた。しかし、黒川が次官に留任した。もし前年に密約があったとしたら、安倍・菅は反故にしたことになる。法務検察は局長級の異動を見合わせ、林の次官昇進に備えた。だが、2018年1月、林は名古屋高検検事長に飛ばされた。かくして、林は三度にわたり、昇進を阻止されたこととなる。
 
 一方の黒川は2019年1月、林を飛び越えて、法務検察ナンバー2の東京高検検事長に昇進する。黒川のたぐいまれな調整力を安倍・菅ラインが気に入り重用されたと評されるのが常だ。確かに、そうなのだろう。一方で、甘利明や小渕優子ら安倍内閣の閣僚が起こした事件を、その都度、黒川がもみ消した論功行賞ではないかと批判する人もいる。こちらの真相は分からないが、事実だとしたら由々しき事態ではある。
 
 だが、黒川は東京高検検事長で退官だろうと予想した検察ウォッチャーもいる。ここでカギとなるのが誕生日だ。
 
 この時点で、検事総長は稲田伸夫(1956年8月14日生まれ)。東京高検検事長は黒川(1957年2月8日生まれ)、名古屋高検検事長は林(1957年7月30日)。稲田の定年のみ65歳で2021年8月までが任期である。黒川と林の定年は63歳なので、2020年までに検事総長にならなければ、退官するしかない。
 
 検事総長の任期は2年が慣例化しているが、2020年2月7日までに稲田が譲ってくれなければ、黒川も林も総長になれない。稲田の総長就任は2018年7月だ。法務検察に詳しい人々は、これこそ官邸に対する意趣返しだと気づいていた。稲田が黒川に譲るには、1年半で総長を辞めなければならない。稲田にそんなことをする理由はない。しかも安倍内閣は、2019年7月の参議院選挙に勝利したあたりから、ほころびが目立ち始めた。
 
 通常、自民党は参院選が終われば、即座に内閣改造を行う。選挙の論功行賞の意味も兼ねてだ。ところが、このときは9月上旬にまで、ずれ込んだ。なお、この改造でIR(カジノを中心とした統合型リゾート施設)担当副大臣だった秋元司は、政府を去っている。9月下旬には臨時国会が始まり、「桜を見る会」を安倍が私物化したとして、野党に追及され通しだった。
 
 さらに、経産大臣だった菅原一秀と法務大臣だった河井克行が、公職選挙法違反の疑惑により、更迭に追い込まれた。そして、12月に臨時国会が閉幕するや即日、東京地検特捜部は秋元の家宅捜査を開始した。IR疑獄の始まりである。同時に広島地検は、河井を、妻で参院議員の案里とともに疑惑の対象として、捜査を開始する。
 
 秋元は12月に逮捕されるのだが、まるで選挙と国会が終わるのを待っていたかのようだ。次々と5人の国会議員の名が上がり、他にも「12人リスト」と呼ばれる、IR関係の議員の名簿が永田町ではバラまかれていた。また、官房長官である菅側近の2人の大臣の更迭、そして河井夫妻への捜査は、それまで人事介入され続けた検察の報復のようである。
 
 憲政史上最長総理の勢いはどこへやら、安倍内閣は一気に窮地に立たされた。そして、官邸の「守護神」と目される黒川は、定年で居なくなる。
 
 検事総長の稲田は、2月7日までに黒川に譲る気配など、かけらも見せない。官邸は圧力をかけたが、稲田が頑として抵抗したとも伝わる。2月5日には、黒川の送別会まで予定されていたとか。長年、黒川と林の競争を追ってきた検察ウォッチャーは感慨を漏らしていた。「黒川さんも、ここまでか」と。
 
 ところが、1月30日。突如として、黒川の定年を半年延長するとの閣議決定がなされた。黒川が重大事案を継続中との理由だが、子供だましにもなっていない。検察には検察官一体の原則があり、重大事案では担当検事から検事総長まですべての合意がなければ、組織として動かない。
 
 なぜならば、検察は属人性を排する組織だからだ。担当検事によって、事件の扱いが違うのでは困るので、このような原則が存在するのだ。黒川にしかできない仕事とは何か? 逆に、そんなものが存在することこそ、検察の組織崩壊ではないか。のみならず、日本の司法制度の崩壊である。
 
 安倍内閣が、黒川の定年を延長した根拠法は、国家公務員法である。確かに、国家公務員法では1年まで定年を延長できる。だが、それでは何のために検察庁法で、検事総長と検事の定年を定めたのだ
 
 森雅子法務大臣は「検察庁法に規定がないので、国家公務員法の規定により、云々」と国会でも繰り返した。森は弁護士出身なので、死ぬほど恥ずかしかっただろう。自民党議員としては、お世辞にも実力者と言えないので、言われるままに黒川の定年を請議しただけなのかもしれない。
 
 自分の言っていることの間違いを誰よりも自覚しているのが、森なのは、国会での表情を見ていれば分かる。常に答弁がしどろもどろで、目が泳いでいる。まさか、「一般法は特別法に優先する」と言わねばならない日が来るとは思わなかっただろう。「一般法は特別法に優先する」とは原則であり例外もあるが、この場合に適用できる原則ではない。
 
 野党は、国家公務員法制定当時の答弁を持ち出し、そのときに「政府は検事と大学教員には定年延長を適用せずと明言しているではないか」と攻め立てた。森は壊れたテープレコーダーのように同じことを繰り返すだけだし、菅に至っては、日本語の答弁になっていない。結局、安倍は「解釈を変更した」と、あっさり認めた。
 
 安倍も自分の言っていることの重大性を分かっていないのだろう。同じことを民主党が政権を取ったときにしてもよいのだろうか。
 
 この答弁に関し、人事院は「従来の解釈を変更していない」と法務省と政権の行動を真っ向から否定し、内閣法制局は「解釈は現用官庁に任されている」と原則論で突き放す。森は「事前に人事院と法制局に相談した」と明言していただけに、人事院に後ろから弾を撃たれ、法制局にはしごを外された格好だ。
 
 では、今後どうなるか? と考えること自体が、間違いである。なぜなら、既に死闘が始まっているからだ。
 
 黒川の定年延長が閣議決定された直後の2月3日、IR事件の捜査終結の報道が一斉に流れた。秋元一人を起訴し、他はお咎めなしにするとのことである。
 
 それどころか、その秋元が異例の保釈を認められた。勾留49日である。本来は推定無罪の原則があり、勾留が延長を重ねて49日も続くなど、文明国の所業ではない。自白するまで勾留する「人質司法」には、批判が強かった。裁判所は検察の言いなりではないか、司法府が行政府に都合がよい運用をして無実かもしれない国民の自由を奪うなど何事か、と。
 
 作家の佐藤優氏は、検察の取り調べに対し否認を続け、自白を拒み、徹底抗戦した。結果、勾留は512日に及んだほどだ。ところが裁判所は、検察が起訴した後も否認を続けている被告人の保釈を認めた。検察は不服を申し立てたが、歯牙にもかけなかった。
 
 なぜ裁判所が急に文明的に、物分かりがよくなったのか。検察が起訴後の有罪率は実に99・9%。裁判官は3人しかいないが、検察は重大事件では組織を挙げて戦う。その検察が捜査し、自信を持って起訴した事件に無罪を下すには、かなりの勇気がいる。だが、その検察が割れているとしたら?
 
 裁判所は、今の検察を舐めているのである。少なくとも、黒川の定年延長で、一気に優勢に持ち込んだ。河井事件の捜査も、現場は及び腰になったと伝わる。
 
 このまま河井事件も不起訴、IR事件も幕引き、まして「秋元無罪」になったら、検察にとって悪夢である。事はもはや、黒川と林の出世競争ではなくなった。安倍内閣と法務検察の存亡をかけた戦いなのだ。
 
 法務検察は明治以来、政治との苦闘の歴史を経験している。特に、1954年の造船疑獄では、自由党幹事長だった佐藤栄作の逮捕許諾請求を、時の吉田茂政権の指揮権発動によって阻止された悪夢がある。これ以後20年間、大物政治家の捜査すら存在しない。検察が悪夢を振り払うのは、1976年のロッキード事件での田中角栄逮捕まで待たねばならない。それだけは避けたい。
 
 では、検察に残された手段は何か? 安倍内閣の倒閣しかない。現在、この問題を熱心に扱っているのは、冒頭でも触れたが、朝日新聞グループの媒体とTBSだけである。彼らリベラル勢力の偏向報道は、圧倒的多数の国民からあきれられている。通常ならば、相手にされないだろう。
 
 だが、今回ばかりは朝日やTBSの報道は、取材が行き届き、解説も的確だ。これは、不思議でも何でもない。検察OBが背後についているからに決まっている。現に、リベラル媒体以外でも、検察OBは論陣を張り、安倍内閣の非を鳴らしている。
 
 検察はOBの発言力が強く、特に歴代検事総長の影響力は大きい。黒川の定年延長により検察は総崩れ寸前だが、戦いで最も死人が出るのは大勢が決してから追撃戦に移るときである。今が、形勢が大きく動くときであり、有利な側も確実に仕留めなければ、一瞬で頓死する怖い局面である。
 
 安倍内閣の不支持率も高まってきた。世は「武漢肺炎」一色だが、世の中の視線が一カ所に集中しているときほど、大きなことが起きているのである。(文中敬称略)

 

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