加瀬英明
崩壊しつつある世界の「戦後レジーム」 2015/04/21
私はニューヨークに留学したが、客が来ると、エンパイア・ステートビルに案内した。
エンパイア・ステートビルは、1931年に竣工したが、大恐慌の真只中だったから、テナントがいなかったために、「エムプティ・ステートビル」と、呼ばれた。
今年、上海に世界でもっとも高い、超高層の「上海タワー」が完成する。
しかし、「上海タワー」はじきに、現在、サウジアラビアで建設が進んでいる、「キングドム・タワー」が完成すると、世界第2位に転落する。「キングドム・ タワー」は、いま、世界でもっとも高いビルである、ニューヨークの「ワン・ワールド・トレード・センター」の2倍の高さになるといわれる。
私はマレーシアに招かれた時に、「ペトロナス・タワー」で講演した。1996年に完成して、世界でもっとも高いビルとなったが、アジア経済危機によって見舞われた。
私は世界一高いビルが出現すると、その経済が破綻するというルールを、エンパイアで学んでいたから、やはりそうなんだと思った。
2010年に、ドバイに世界一高いビルが誕生したが、世界経済が失速した。
このような超高層ビルは、その国の経済が最高潮に達した時に、着工されるものだ。だから、右肩下がりの前兆となるのだろう。
「上海タワー」は、中国経済が大きく蹌踉(よろ)めく前触れなのだろうか。
サウジアラビアの「キングドム・タワー」は、石油ブームによって、砂漠に砂上の楼閣のように出現した王国が、危機にさらされている兆のように、思われてならない。
それにしても、中国、サウジアラビア、ドバイ、マレーシアにまるで競うように、つぎつぎと地上最高のビルが出現してゆくというのは、この四半世紀のうちに 世界構造が大きく変わったことを、痛感させられる。ついこのあいだまでは、中国は苦力(クーリー)の国として知られていたし、中東といえば、棗椰子(なつ めやし)の蔭で、駱駝が居眠りをしているところを、連想したものだった。
第1次安倍内閣が登場してから、安倍首相が「戦後レジームからの脱却」を、訴えてきた。だが、「戦後レジーム」は、日本のなかだけに限られた、国内問題である。
ところが、いま、日本にとってそれよりもはるかに大きな問題が、世界を大きく揺さぶっている。
アメリカがオバマ政権のもとで、内に籠るようになって、アメリカの力が後退してゆくなかで、世界を律してきた「戦後レジーム」が崩壊しつつある。オバマ大統領はもはや「アメリカは世界の警察官ではない」と、公けの場で述べている。
そうなると、日本がたいへんだ。日本が誇る「平和憲法体制」は、アメリカが日本をしっかりと守ってくれることを前提としてきた。わが「平和憲法体制」と、 アメリカが超大国として、アメリカに腰巾着(こしぎんちゃく)のように従ってきた国々を守るという、第2次大戦後の「戦後体制」は、一体のものであってき た。
それなのに、国会では集団的自衛権の解釈を見直して、日本の役割をひろげようという安保法制をめぐって、“平和憲法”に抵触するといって反対する声が、囂(かしま)しい。
“平和憲法体制”は、アメリカが日本に強要した「戦後レジーム」であるのに、それを必死に守ろうとするのは、アメリカという母親への甘えなのだろう