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大谷翔平、成功のきっかけは「DX」練習法とグルテンフリー センサーで動作解析する最先端技術
「週刊新潮」2021年7月15日号 掲載
大谷翔平、成功のきっかけは「DX」練習法とグルテンフリー センサーで動作解析する最先端技術|ニフティニュース
2021年07月16日 10時56分 デイリー新潮
シーズン前、どの評論家がここまでの活躍を予想したことか。打ってはホームラン・キング。投げては160キロ超。ベーブ・ルースの再来と言われるのも買いかぶりではない。メジャー4年目の大谷翔平(27)を世界最高峰の選手に押し上げた、心・技・体の「革命」とは。
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日本人が初めてメジャーリーグに足を踏み入れて57年。時代が変わった……と言えば陳腐な言葉になるが、そんな感慨を抱くオールドファンも少なくないのではないか。ホームラン王争いを独走し、世界一のプレイヤーと評されつつある大谷翔平。
「驚くなんてもんじゃなく、それこそ毎日ひっくり返って見ていますよ」
と語るのは、日本人初のメジャーリーガー・村上雅則氏だ。ちょうど前回の東京五輪が開催された1964年から2年間、サンフランシスコ・ジャイアンツでプレーした。
「その頃からは想像もできないですよ。私は初めはアメリカに行ければいいや、と修学旅行気分で渡米しましたし、当時は人種差別も根深く残っていてね。どう見てもストライクの球をボールと判定され、抗議をしたら審判に凄い剣幕でまくし立てられたこともある。そんな頃を知っているから、まさか私が生きている間に、日本人がメジャーでホームラン王争いをし、それを全米が称讃するなんて日が来るとは思わなかったですよ」
大谷のここまでの成績については連日ニュースで取り上げられているし、日々更新されるので細かくは述べないが、27歳の誕生日を迎えた7月5日時点で31ホームランはメジャートップ。アジア人記録である松井秀喜の数字にシーズン半分を残して並んでしまった。日本を代表するスラッガー・松井の記録を遥かに超えるのは確実である。
それに加えて、今シーズンもメジャーで唯一の「二刀流」に挑み、投手として3勝1敗と好成績をキープ。球速163キロもマークした。二刀流で投打にこれほどの数字を残すのは、1919年のベーブ・ルース以来。
一言で言えば、同時代の選手という横軸のみならず、過去の名選手という縦軸、その双方において世界で無二の存在となっているのが、大谷翔平である。
2018年シーズンにメジャー入りして3年間、大谷は怪我に泣かされてきた。18年に右肘、19年に左膝を手術し、昨20年も右腕を故障。二刀流を1年間全うすることはできなかった。当然、もう限界。投手あるいは打者に専念すべしとの声が強まったが、それを嗤うがごときの数字である。
一体、何が変わったのか。まずは、
「左膝の怪我が完治したことが大きいと思います」
と述べるのは、米在住で、「日刊スポーツ」のMLB担当を務める、斎藤庸裕氏。
「昨年は19年に手術した患部の不安が消えず、十分にトレーニングができなかった。しかし、昨オフから違和感もなくなったようで、下半身の強化にしっかりと取り組めるようになった、と。キャンプインの際、ブルペンで投げている映像を見た時に、はっきりと下半身の厚みが違うな、と感じましたね」
会見でこのことを尋ねられた本人は、
「下半身強化というと、日本では長距離の走り込みを思い浮かべますが、そうではなく、スプリントだと。ジャンプもするそうで、瞬発系のトレーニングに特化していますね。有酸素運動は室内でのエアロバイク。トレーニングでも、約225キロの重さでデッドリフトを行っている姿がインスタグラムに公開されています」(同)
加えて、上半身の強化も怠りないのは高校、日本ハム、そして今の写真を見比べれば一目瞭然だ。そんなハードトレーニングが実り、メジャー移籍時に92キロだった体重も102キロに増加。筋力アップに伴い、打球速度も最速192キロとメジャートップレベルになったばかりか、豪快なアッパースイングも可能に。本塁打率が大幅に向上したというわけである。
続いて、
「食生活にも非常に気を遣っていますね」
とは、「Full-Count」編集部の小谷真弥氏だ。
「昨年のシーズンオフにすぐ血液検査を受け、自分に合う食材、合わない食材を調べたと話していました。それまでは栄養価の高いオムレツを毎朝自分で作って食べていましたが、その検査で卵が合わない食材とわかったようです。“グルテンフリーもしているんですか”と尋ねたら、“はい”と答えていました」
グルテンフリーは、テニスのノバク・ジョコビッチが実践して一躍有名になった。小麦や大麦などに含まれるたんぱく質「グルテン」を摂取しない食事法である。
■48カ所にセンサー飲む・打つ・買うが当たり前の無頼漢も少なくなかった昔のプロ野球。しかし、大谷については日ハム時代からそれらとは無縁。たとえ先輩に飲み会に誘われても断るし、行ってもビールは乾杯だけ、がスタンダードだったとか。休日もトレーニング漬けで、賭け事はもちろん、女性の影も皆無だったが、徹底した自己管理は渡米後も尚更だったというわけである。
「もちろん筋肉量が増えたのは事実。ただ、それだけではあの飛距離もスピードも出ません」
と更なる進化の秘訣を述べるのは、在米スポーツライターの丹羽政善氏。
「自分のパワーを最大限にボールに伝えるにはどうすればいいのか。昨オフになって大谷は、ドライブライン・ベースボールという、シアトル郊外にあるトレーニング施設に通いました。ここは科学的なアプローチで知られ、全米、あるいは日本からもたくさんの選手が訪れています」
具体的には何が行われるのか。有名なのは、上半身裸の状態で全身48カ所にセンサーを付けて打撃や投球を行い、その動作をコンピューターに取り込む「動作解析」だ。パソコンを見ると、フォームの修正点などが立ちどころにわかるという。
「ボールに力を最大限与えるためには、骨盤、体幹といった身体の大きなところから上腕、手といった小さな部位へと動かす必要がある。大谷の場合も自らの動作を解析することで、正しい動きを身に付けることができたのだと思います」(同)
100グラムから2キロまで重さの異なる6種類のボールを投げ、肩や肘に負担のかからない投げ方を身に付けるトレーニングもある。
「これまでの大谷はどちらかというと感覚に従うタイプの選手でしたが、怪我以来、故障予防、パフォーマンス向上の両立を意識して、科学的なアプローチも取り入れた。それが結果に結びついているのだと思います。それができるのも、優れた身体感覚があるからこそ、ですけどね」(同)
今季、大谷が投球練習する際、右肘に黒いバンドが装着されているが、これもこうした「科学」の一環。バンドで肘にかかるストレスを計測し、疲労蓄積を防いでいるのだという。
「ここ数年、メジャーにはこうしたデータ化の波が押し寄せています」
と丹羽氏が続ける。
「最新の技術を用いて得られるデータを利用して感覚を補い、パフォーマンスを向上させる。すなわち、デジタルトランスフォーメーション、DX化が進んでいるわけですが、それに大谷も上手く適応していると言えますね」
米地元紙で大谷番記者を務めた、在米ジャーナリストの志村朋哉氏も言う。
「今やメジャーで活躍するには、自らの頭で考えて成長する力が必要です。いわゆる『スポ根』のような、ただ指導者にやらされるような練習しかできないとなかなか通用しないのです。大谷選手は日本にいる間も、自分の頭で考えるプレーヤーだった。メジャーの気風が合っているのかもしれませんね」
「巨人の星」の大リーグボール養成ギプスでは駄目だというわけだ。
■ジョブズとマスク日本時代、大谷はその完全無欠さで「野球サイボーグ」と言われた。メジャーに行き、世界最先端の科学を取り入れて、その感は増している。「体」と「技」の変化は明らかだが、では「心」についてはどうか。
日ハム時代、大谷は記者泣かせで知られていた。何を聞いてもさしさわりがなく、素っ気ない回答に終始。感情が表に出てこないと言われてきたが……。
「それはアメリカでもあまり変わりませんね」
と、志村氏が続ける。
「メディアに興味がないようで、自分から出たり、キャッチーなことを言ったりということはありません」
同氏と共にYouTubeでメジャー情報を発信している地元紙の番記者も、動画内で「コメントは短くてつまらない」「本心を探るのは非常に難しい」と語っているが、
「それだけ真剣に野球に取り組みたいということなのでしょう。実際、本人のコメントが少なくても、プレーが素晴らしいので記事は書けますし……。他の記者も“彼はプレーで楽しませてくれるからそれでいい”と言っています」(同)
大谷は、恩師である花巻東高校の佐々木洋監督や日ハムの栗山英樹監督の影響で、読書が趣味のひとつとか。愛読書はスティーブ・ジョブズやイーロン・マスク、渋沢栄一や稲盛和夫など、経営者に関してのものが主。こうした書に触れた経験も、不動の精神を形作ってきたのかもしれない。
改めて、
「時代は変わったな、と思いますね」
と感慨深げに語るのは、冒頭の村上雅則氏だ。
「私たちの頃は、何が正解かわからないことも多く、“根性”や“勘”に頼ることも少なくなかった。比べて今はデータが細かく揃っていて、予め“答え”が見えていることも。後はそこに向かって、どれだけ努力ができるかが問われるのでしょう。大谷選手はそんな時代の申し子。最新の手法を取り入れ、高みに立つための努力を惜しまなかったからこそ、今があるのだと思います」
そして、
「シーズン50本塁打まで乗せて欲しいね。毎朝、早起きしてテレビを見ていますよ。彼のお祖父ちゃんだったらなあって思いながら……」
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