宮崎正弘
石平『中国 ネット革命』(海竜社)
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さて「今更、中国メディアによる情報隠蔽を批判する気はない」という石平さんは、それでも「中国の(ジャスミン革命の)報道をみたとき、筆者はむしろ嬉しくなって未来への希望さえ感じた」
という。
理由は「厳しい言論統制を敷いたのは、両国(チュニジア、エジプト)の反政府運動が中国に」飛び火してくることを「彼ら(共産党)が極端に恐れていたことの証左であ」り、それゆえに「本気でおびえていたのだ」。
先に共産党幹部のどら息子が交通事故をおこして民衆に囲まれたとき「俺の父は李剛だ」と叫んで、共産党幹部の名前を出せば引き下がると思ったらとんでもない。怒りのネット言論は中国全土に飛び火した。「俺の父は李剛だ」は若者の間に流行語となった。
先ごろも同様な事件で、ひき逃げがばれないように、クルマで引いた女性を殺した馬鹿息子がいたが、ついにネット世論のまえに共産党司法当局が屈服、馬鹿息子に死刑判決、すぐに処刑した。
温家宝が「民主、改革」をいくら叫んでも、ネット議論に現れる反応は温首相への罵詈雑言、非難の合唱という。
ややネット勢力への思い入れが熱情的すぎるスタンスだが、石平さんは89年天安門事件で民主化運動を展開して闘士だけに、独裁政権の崩壊を希(のぞ)む熱狂ぶりが基調に流れるのも当然であろう。
評者(宮崎)は、ジャスミン革命の現場を取材しようと、日曜早朝から集会が呼びかけられた上海の南京路から人民広場をあるいた。また広場を見下せる南京路のホテルの十階に部屋を取って、いざという場面に撮影できるよう待機してみた。不発だった。早朝から当該地区に密集していたのは警察官、私服刑事だった。
ネットの第五列「五毛党」(権力の走狗)は約三十万人。一方でネット言論がいかに盛り上がろうとも、軍と警察の「暴力装置」は数百万。独裁体制を民主的にひっくりかえせるシナリオは、まだまだ遠いのではないか。