ドイツはこのまま内側から崩壊するのか

 いつもながら 小気味良い文章
この記事読んでいたら 軽薄な理想論に 騙されませんよ

川口 マーン 惠美

ドイツの空気が変わった

ドイツは昨年9月に総選挙が終わったものの、まだ政権発足の目処が立たない。つい最近まで、「世界で一番権力のある女性(フォーブス誌)」を首相に擁し、EUの牽引役を自負していたのに、11月の半ばに第一回目の連立交渉が決裂して以来、足元が揺れている。とはいえ、ドイツの底力をバカにしてはいけない。この国が逆境に強いことは歴史が証明している。

今、ドイツ上空に黒雲のように漂ったまま去らないのが難民問題だ。

2015年の秋、100万近くの難民を受け入れたときの熱狂を、多くのドイツ人は、もう思い出したくもない。政府とメディアは長い間、難民による犯罪は増えていないと言い張っていたが、SPに守られているわけではない一般国民は、治安の悪化を肌身で感じている。超法規的措置で難民を無制限に入れたメルケル首相の責任も、そろそろ追及され始めるかもしれない。

去年のクリスマス・マーケットはどこも、トラックが突っ込めないよう巨大なコンクリートの塊が置かれ、重装備の警官が並んだ。これが日常の風景になると想像して、憂鬱にならないドイツ人はいないだろう。政府は国民の安全を保証すると言うが、そもそも、そのためにどんどん増加していく経費を負担させられているのは国民自身なのだ。

12月27日、ドイツ中を震撼させる事件が起こった。西南ドイツのラインランド=プファルツ州の閑静な田舎町で、15歳の少女が、やはり15歳の少年に刺し殺された。白昼のドラッグストアでの出来事だった。

少年は、2016年に難民としてドイツに入ったアフガニスタン人で、その少女としばらく付き合っていたが、12月の初め、少女が別れ話を切り出した。ドイツの少年少女の常識では、交際を始めたり、やめたりは日常茶飯事だ。男の言うことに女が従う習慣もない。

アフガニスタンは長くタリバンの支配を受けていた地域で、名誉のための殺人は大目に見られることも多い。女性は今でも、外出するときはチャドルやブルカで体をすっぽりと隠している。それに比べれば、ドイツの女性の服装は裸同然だ。そのほかにも多くのことが異なったが、このアフガン少年は、それらをうまく飲み込めなかったらしい。

別れ話の後、少年からの悪質な嫌がらせがあったため、少女の両親は不安を覚え、12月の半ば、警察に届けた。しかし、だからと言って、少女に警護がついたわけではない。ましてや、まさか白昼の街中で刺し殺されるなどとは誰も夢にも思っていなかった。

ドイツの政治家とメディアは、これまで難民の犯罪をひた隠しにしてきた。難民の犯罪率は平均よりも高いわけではないというのが彼らの見解で、それに異議を唱える人には、たちまち「ポピュリズム」「人種差別」「外国人排斥」といったスタンプが押されたテレビの討論番組で、AfD(ドイツのための選択肢)の政治家が少しでも治安の悪化を示唆しようものなら、キャスターが「そんな統計はない!」とたちまち遮った

しかし、昨年末には、すでにその空気は変わっていた。だから、メディアは堰が切れたように、毎日、この殺人事件を報道した。加害者の少年の年齢にも疑いがかかった。

警官は残業に次ぐ残業

信じがたいことだが、ドイツは一時、身分証明書を持たない難民も無制限に受け入れたので、年齢や出身国が本人の主張通りになった。

たとえば、モロッコやチュニジアなど北アフリカの国からの難民は、通常、難民とは認められず、母国に戻らなければならないが、未成年に限っては、滞在を容認されることが多い。ましてや、シリアやアフガニスタンなど、本当に紛争の起こっている国から来ている難民の場合は、未成年ならほとんど確実に資格を取れる。

そして、資格が取れれば家族を呼べる可能性も高いため、難民の間では、「まずは『未成年』を送り込む」という作戦が取られた。だからドイツには、とてもティーンエイジャーには見えない「未成年」の難民が数多くいる。当然、今回の容疑者である少年にもその疑いがかかった。

手の骨をレントゲンで調べると、おおよその年齢を特定できるそうだが、ドイツでは現在、それは行われていない。ドイツ医師会も、医療目的でないレントゲンは健康を害するとして反対している。しかし今、その検査を徹底的に実施すべきだという声が高くなっている。とはいえ、そうなるとまたお金がかかる。ドイツ人は、どんどん膨らんでいく出費を前に、意気消沈している。

そして新年。2年前の大晦日に地獄のようになったケルンだが、今回は集団婦女暴行も起こらず、カウントダウンのパーティーが「ほぼ平和裡に」終わったと、まるでめでたい話のように伝えられた。ただし、その本当の理由は、1400人の機動隊が出動して、駅前広場を要塞のようにしたこと。そして、なにより、多くの女性たちが夜中に街に繰り出すのを控えたからだ。

しかも実際は「平和裡」でもなかった。多くの都市では、集まった男たちが警備の警官や消防署員を攻撃して憂さ晴らしをし、負傷者が出た。一部は重症だという。ケルンでも、ロケット花火で狙い撃ちされ、警官が目を負傷した。ザクセン州のライプツィヒ市では、放水車まで出動した。翌日、警察組合の会長は、「同僚に対する攻撃は生命を脅かすレベルまで行った」と強く抗議した。

現在、ドイツでは、大晦日だけではなく、常に、あらゆるところで警官がパトロールしている。シュトゥットガルトでもそうだ。警官は残業に次ぐ残業で疲労困憊という。内務省は「国民の安全のため」、警官の大幅な増員を発表したが、そうなると、やはり莫大な経費がかかる。


1月3日には、犯罪学の専門家であるクリスチャン・プファイファー氏が、2014年から16年にかけてニーダーザクセン州の犯罪が10.4%増し、増加分の92.1%は難民によるものだと発表した。政府の依頼でまとめた統計だ。

犯罪者の出身国は、モロッコ、アルジェリア、チュニジアが極端に多く、これら3国からの難民数は全体の0.9%に過ぎないのに、犯罪の17.1%が彼らの手によるものだった。ただ、実際には、婦女暴行、および暴行事件は、難民の間で一番多く起こっているという。しかし、その場合、ほとんど届け出がないため、数字には出ない

ドイツの混乱に乗じて

さて、15歳の少女の殺人事件の起こった町では、警察、町の青少年課が責任のなすり付け合いで混乱し、責任者である町長はホームーページも閉じてしまった。

これまでの難民政策を継続すると、市民、とくに右翼から非難されるし、かといって厳しくすれば、人権グループや左翼から責められる。大手メディアには未だに、この事件を「外国人排斥」のために政治利用してはならないと主張しているところもある。

結局、このような小さな自治体が独自の責任で難民政策を修正するのは無理だろう。せめて州が大筋を示すべきだ。

ただ、現在、州の政治家たちは、ベルリンでの大連立交渉がどうなるかで気もそぞろ。中央の政治家も、組閣か、再選挙かで、右往左往。そんなわけで、難民問題は棚上げ状態だ。

そうする間に、フランスのマクロン大統領が、EUのリーダーとして世界中を闊歩し始めた。来週は、そのドイツの政局について書きたい。


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