日本人の書く英語は、「何が言いたいのか分からない」「長すぎて読みづらい」という話を外国人からよく聞く。海外在住経験がなくともビジネスメールのレベルであれば、日本の中学から高校まで習った文法力で十分間に合う。なのになぜ、分かりづらい英語を私たちは書いてしまうのだろう。

 

その大きな原因は、日本人の「生真面目さ」にあるかもしれない。丁寧で間違いのないコミュニケーションをとろうとして結果的に、ポイントがどこにあるのか分からない文章になってしまうのだ。そこで、ニューヨークで長年会社員だった筆者が、自身の経験から学んだ英文メールの意外な注意点を紹介したい。

「Dear」は使わなくてもよい

筆者が一番印象に残っているのは、同じ会社の上司や同僚、たとえクライアントであっても、英語圏のアメリカ人、イギリス人、オーストラリア人やシンガポール人から、「Dear」で始ったメールをもらった記憶がないことだ。

「Dear」や「Hello」に問題があるわけではないが、丁寧すぎてぎこちない印象を与えてしまう可能性がある。こちらから「Hi 名前,」とカジュアルにメールをしてみても失礼にはあたらないし、この方が無難だ。ちなみにメールの終わりは、「Sincerely」よりも「Regards」と結ぶのが万能(例文は次ページを参照)。

アクションポイントを「Hi」の次に書く

日本語で話すときはどうしても事情を説明してから、相手に求めることを伝えてしまう。だが、英語では「読み手に何をしてほしいか」というアクションポイントが冒頭に書かれていなければいけない。「何をいつまでにすべきか」が一見にして分かるメールでないと、多忙なビジネスパーソンには読んでもらえない。アクションポイントが分かりやすいように〔〕で囲ってみた。

Hi Lisa, (←個人宛の時は個人名、チーム全体ならTeamでも、単なるHiでもよい)

Could you 〔send〕me our sales figures for last month 〔by the meeting next week〕? And please 〔read〕 www.something.com/salesfigures2020 〔before attending〕.

Regards,
Waka

また、「※」で注意書きを書く日本人がいるが、見落とされやすいので注意書きなど大事なことはアクションポイントとして最初に書こう。

 

説明や詳細は箇条書きにする

英語に自信のない人に、ことさらオススメしたいのが「箇条書き」だ。ただし、箇条書きの前には必ずアクションポイントをもってくること。そして、箇条書きの下に文章を加えるのをやめよう。「Hi→アクションポイント→箇条書き→Regards」と簡潔にまとめるのが好ましい。

箇条書きの後に「※」で追加情報を書いてしまう人もいるが、それだと読みにくいので注意事項も箇条書きの前に書こう(今回もアクションポイントを〔〕で囲ってみた)。

Hi,

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Regards,
Waka

 

改行してはいけない

メールで英語の文章を書くときは改行してはいけない。「最近の若者は改行しない人が多い」と嘆く日本のビジネスパーソンもいるらしいが、実は若者のほうが正しいのである。なぜなら、人によってメールを読むときの画面のサイズは違う。改行されていない文章のほうがスマホでもPCでも、異なるサイズの画面で見たときに、実は読みやすいのだ。

 

日本人の目には大した違いには見えないかもしれないが、改行する習慣のない外国人にとってこういった改行アリのメールは非常識に見えるらしい。外国人の何人かにその理由を聞いてみたが、「パッと見、まとまっていないから変」「この行間に何か意味があるのかと考えてしまう」「とにかく気持ち悪い」とのことだった。英語でメールを書くときは心にとめておきたい点だ。

 

高校1年生が読んでも分かるように書く

ビジネスライティング以外にも、アメリカの学校教育ではライティングを非常に重要視する。筆者が通ったアメリカの高校と大学で特に叩き込まれたのは、文芸作品でない限り「高校1年生が読んでも分かるような文章にすべし」というものであった。

つまり、難解な言葉使いや文学的な言い回しは英語ではご法度なのだ。特にビジネスメールにおいては、読み手の時間を無駄にしないようにシンプルで分かりやすいメールを書かなければいけない。というわけで、筆者がアメリカの大学で習った「ビジネスライティングの5Cs」を紹介したい。

Complete 「誰がいつまでに何をするか」というポイントが完全に表現されているか。

Clear 「読み手がとるアクションポイント」が明確に記載されているか。

Correct 文法やスペルが正確かどうか。

Concise 短い文章に簡潔にまとめられているか。1文につき15字から20字が妥当。

Courteous 礼儀正しいかどうか。これは丁寧な英語を使うというよりも、読み手のニーズにそったロジカルな文章を書くということ。 

ビジネスで「怒り」は禁物

もうひとつ、ハーバード・ビジネス・スクールのMBA保持者であるアメリカ人上司に教えてもらって忘れられないことがある。それは「怒っているときにメールを書いてはいけない」ということ。ビジネスの場では決してエモーショナルになってはいけない。怒りが落ち着いてからメールを書けと説かれた。

そう言えば、ニューヨークでは新卒から働いたのだが、アメリカ人の上司たちに注意はされたことはあるが、くどくどと怒られた記憶はない。「あ、今イラッとしているかも」「怒っているなぁ」と感じた瞬間は当然何度もあったのだが、彼らは部下を叱責したり、怒鳴ったりすることは絶対にしなかった。

それは、職場におけるハラスメントが即解雇につながるというアメリカの風潮もあるだろうが、「エモーショナルになるヤツはメンタルが弱い」「部下がデキないのは上司のマネージメントスキル不足」という共通認識があるからだと思う。

 

そんなことを言うと、ニューヨークの職場はフレンドリーで働きやすいと思うかもしれないが、実は日本よりもずっと過酷な競争社会だった。確かに先輩・後輩のような縦関係がないのは楽だったし、基本的にユーモアが大切とされている企業文化なので皆とおしゃべりしながら仕事をするのは楽しかったが、部下の人事権を上司が掌握している場合が多いので、上司に「できないヤツ」と認識されて昇進(=昇給)できなかったり、クビになったりするのが一番の恐怖だった。上司が変わるたびに組織編成もされるし、本当にいつクビになるのか分からないのだ。

だから、上司に「なぜ、うまくできなかったのか」という問いかけをされたときに、その理由を簡潔に答えるだけではなく、解決方法や改善方法も瞬時に、ロジカルに説明しなければいけないことが非常にストレスだったように思う

頑張ります」や「これから気をつけます」が一切通用しないアメリカでは、話すのも書くのも、簡潔で合理的でなければいけないのだ。海外出張がなくなったコロナ下では、英語でビジネスメールを書く機会が増えた人もいるだろう。この機会に自分の英文メールの合理性を見直してもよいかもしれない。