自然妊娠の確率をあげるためのアドバイス
(アメリカ生殖医学会)
妊娠しやすいいライフスタイルや性生活のあり方について、アドバイスしてほしいと患者さんから言われることが多いですが、エビデンスに基づいたガイドラインは、これまでありませんでした。
今回、アメリカ生殖医学会の学会誌 「Fertility & Sterlility」に、専門家の意見がまとめられました。
これから妊娠を考えている(まだ不妊かどうかわからない)ご夫婦に対し、今後、どのくらいの期間で妊娠できるのか?妊娠しやすいライフスタイルとは?性交渉の頻度は?などについてです。
その内容をご紹介したいと思います。
1. 妊娠までの期間と 妊娠しやすさ(妊娠力)
1). だいたい80%の夫婦は、最初の6か月以内に妊娠するが、特に妊娠しやすいのは、最初の3か月である。
2) 妊娠しやすさ(妊娠力)は人種によって異なるが、女性も男性も、加齢に伴い妊娠力は低下する。
・加齢による影響は、特に女性で顕著であり、35歳以上で妊娠力は著しく低下する。
・ 30代後半の女性の妊娠力は、20代前半の女性の妊娠力の約半分に減少する。
・男性も35歳以降は、精液所見が悪くなってくるが、50歳くらいまでは、妊娠力の低下はそれほど顕著ではない。
2. 不妊症?
1) 定期的な性交渉がありながら、12か月妊娠しない場合を不妊症と診断します。
2) 35歳以上の女性は、加齢による妊娠力の低下が急速であるため、6か月妊娠しなければ、不妊の検査を受けることをお勧めします。
3. 妊娠しやすい性生活の頻度 :
最低でも、1日おきまたは2日おきの性交渉が妊娠率をあげる。
1) 5日以上の禁欲は精子の状態が不良になるので、2日以内の禁欲をすすめる
2)頻回の射精は精子数が減少して妊娠率が低下すると思われがちだが、実際は、毎日射精しても、精子数や精子の運動率は変わらない。(1万件の精液検査のデータによると)
3 )驚いたことに、乏精子症の患者の場合、毎日射精したほうが、精子濃度も運動率も最も多くなった。
4) 221組の不妊でないカップルにおける研究では、
・最も妊娠率が高かった月は、毎日性交渉を持った場合で、1周期の妊娠率は37%だった。
・1日おきに性交渉を持った場合は、1周期33%の妊娠率だった。
・1週間に1回の性交渉の場合、1周期の妊娠率は、15%に減少した。
妊娠を意識しすぎるとストレスとなり、性欲を低下させ、性交渉の満足感も減少し、性交渉の頻度も減少することになる。
4. 妊娠の決め手は、タイミングの時期と頸管粘液の状態!
① 性交渉をもって、妊娠可能なのは、排卵日の6日前から。
妊娠するには、経管粘液の状態が重要なカギとなる。
(経管粘液は、排卵日が近くなると、子宮の入り口(経管)の分泌腺から、出てくる透明な伸びるおりもののことで、射精された精子は経管粘液を介して子宮に入っていく。この液が透明でさらさらしていて水っぽいと、精子はスムーズに泳ぎやすく、ネバネバしていると、精子が粘液につかまってしまい、泳げないので、子宮に侵入できない。)
② タイミングで妊娠しやすい日は、排卵日の1~2日前だが、
最も妊娠率が高い日は、排卵日の1日前。
③月経周期が順調な女性でも、自分の体の状態から、排卵日を正確に感じることは、難しく、正しくわかるの周期は、50%以下なので、排卵検査薬などを使ったほうがより確実である。
④経管粘液の状態と妊娠率
・頸管粘液の分泌量が多く、さらさらつるつるしていて、透明で水っぽい場合の妊娠率は38%
・粘液の分泌がピークになるのは排卵日の1日前で、そこでタイミングを持った場合、妊娠率は38%
・粘液が少ないまたはねばねばしているときに性交渉を持った場合の妊娠率は15~20%
⑤性交渉を頻回にもてない場合
基礎体温の記録を行うことと、尿のLH検査薬を使って排卵日を確認するとよい。
尿の検査でLH陽性の少なくとも2日以内に排卵するが、偽陽性が7%ほどあるので、注意が必要。
5 性交渉の実際
① 性交後、しばらく骨盤高位を保ち、安静をとることは必要ない。
(性交後、しばらく仰向けに寝ていたほうが膣からの精液の逆流が防がれ精子が子宮内に入りやすいと考えて、儀式のように行っている場合が多いが、そのほうが妊娠しやすいという科学的根拠はない。)
子宮頸部にはいった精子は15分以内に卵管采に到達する。
ラベルをつけたパーティクルを用いたある研究によると、膣の中の精子は2分以内に卵管采に到達する。興味深いことに、パーティクル(精子)は、排卵しようとしているドミナントフォリクルのある側の卵管に多量にみられ、反対側の卵管にはみられないパーティクル(精子)は卵胞のサイズの増加に伴い増加し、オキシトシンの投与によっても増加する。オキシトシンは、性交渉とオーガズムによって分泌される。
② 体位によって妊娠率が変わるというエビデンスはない。体位に関係なく、精子は、射精後数秒以内に、子宮経管にはいっている。
③ オーガズムは精子の卵管への移送を促進する可能性があるが、オーガズムの有無と妊娠率に関する関連性はわかっていない。
④ 性交用のゼリーの使用は、妊娠率を低下させるので、使用しないこと
ゼリーは精子の運動率を低下させてしまう。60分以内に精子の運動率が60%~100%減少するので、使用しないこと。
ミネラルオイルやキャノーラオイルではそのような作用がないので、どうしても必要な場合は、これらを使用したほうがいい。
6.食事とライフスタイル
健康的なライフスタイルは排卵障害を有する女性の妊娠率をあげる
1) やせ、肥満
やせの女性も肥満の女性も妊娠率は低下するが、
BMI 35以上では、妊娠までの期間が2倍かかる。
BMI 19未満では、妊娠までの期間が4倍かかる。
2) 食生活
・菜食主義、低脂肪食、ビタミンの多い食事、抗酸化物質の摂取、ハーブなどは妊娠率をあげるというごくわずかなエビデンスがある。
・魚貝類の摂取が多すぎると、血中の水銀濃度が高くなり、不妊につながる。
・葉酸の摂取は、無脳児や神経管異常の発生率を下げる
3) 喫煙と不妊
喫煙は有意に妊娠率を下げる。
喫煙者10928人と非喫煙者19128人でのデータでは、
・喫煙は不妊のリスクを1.60倍高める。
・閉経年齢が1歳から4歳早まることから、喫煙は、卵子の枯渇を加速する。
・流産のリスクが上昇する。
・喫煙は、男性の精子濃度、運動率を低下させ、奇形精子の率が増加することにより、妊娠率が低下する。
4)アルコール
・飲酒と女性の妊娠力については明確なデータは得られていない。
しかし、かなり多量の飲酒は妊娠率を低下させる。
・男性の飲酒と精液検査との関係は認められていない。
5) カフェイン
・多量のカフェイン 1日コップ5杯以上のコーヒーまたは、それに相当するカフェインは、妊娠率を低下させる。
6) その他
・女性のサウナは問題ない
・男性は、サウナなどの高温環境は避けたほうがいい
・大気汚染、環境汚染、有毒物質、化学物質への暴露はさけたほうがいい
・職業からくる影響:印刷やドライクリーニングなどのある種の溶液や毒素を使う仕事
・・農業、造園業などの場合、農薬、殺虫剤の影響などにも注意
・男性も重金属への暴露を避ける 鉛、電磁波は、精子への影響がある