まるたの日々

まるたです。少しばかり音楽と本とその他趣味の話を。

アシュケナージの音

2006年04月26日 17時01分24秒 | クラシック音楽
アシュケナージの一番の特徴は音色とその使い分けにあると思います。
ピアノでも指揮でもそれぞれのパートあるいは声部に
音楽全体でどのような役割を与えるかをきっちり考え
それに応じて適切な音色と強さを選んで演奏しています。
特にピアノの音色の使い分けについては神がかっている程と感じます。

アシュケナージの音楽の特徴は「歌い方」にあると
よく言われるのは、そういった音色の使い分けが
旋律とバックのメリハリという形で現れることが多いからです。

こういった、音色の使い分け、音の構成力は「歌う」という特徴だけでなく
現代音楽がわかりやすくなるという形でも現れます。
アシュケナージは譜面の指示は守る人ですが、
譜面に指示されていない部分ではかなり好き勝手をやっていることがよくあります。
アシュケナージ指揮の現代音楽がすごくわかりやすいのは
高い理解力と、譜面に指示が無い部分のパートのバランスを高い構成力で組み立て直しているためと思います。

アシュケナージの音の強弱のダイナミックレンジはかなり広いですが、
平均値は普通よりもかなり小さいところにあります。
強い音は他の人の強い音より弱いですが、弱い音は他の人の弱い音よりさらに弱いです。

また、緩急に関しては譜面の指示から大きく逸脱することはほとんどありません。
譜面の指示がない限り極端な緩急はつけませんが、
ちょっとした呼吸感、間のようなものは大切にしていると思います。

アシュケナージの目指す音楽は音そのもので表現されるロマンティックな美しさであり、
刺激の強さは目指していません。
上記のような特徴を駆使してできるものは
繊細で上品なものとなっています。
たとえて言うなら、昆布出汁と鰹出汁の絶妙なバランスを
引き出そうとする和食のような味わいです。

ですので、音色の違いに興味を持たず
全体的な強弱緩急、特に強い音と極端な緩急しか聞いていない向きの方は
よく、アシュケナージの音楽は教科書的でつまらない、面白くないという
ようなことをおっしゃいます。
こういう方のお好みは、例えれば唐辛子とこってりな油で調理された中華料理でしょうか。

ただ、何を良いと思うかは個人の趣味ですので、
和食が好きだろうと中華が好きだろうとどちらでもいいのです。
世間の多くが良いと言うからと言って、
自分もそれを良いと思わなくてはならないということは全くないです。
自分が良いと思う音楽を聴いて、それを大事にして行けは良いと思います。

でも、自分が中華が好きで和食が嫌いだからといって、
和食には価値がないと言い、挙句の果てには
和食みたいな味がはっきりしないものが好きだなんてどうかしているとまで
言われると言われた側はかなりむっとします。

アシュケナージの音楽は情熱的とは言いがたいかもしれません。
(ラフマニノフは除くと思いますが)
でも情熱だけが音楽のすべてではないですよね。
知的で繊細で美しくロマンティックであるというのは十分な美徳と思います。
わかりやすい強音や極端な緩急が無いからといって
「無難なだけで感動するというタイプではない」などと言うのは
自分が中華が好きだからといって和食をけなす行為と同じですよね。

もちろん、自分の感想としてよくわからなかった、つまらなかったと言うのは
別にいいんです。それは単なる好みの問題ですし。
でも、つまらないことがあたかも絶対的な真理であるかのように断言するのはおかしいと思うし、
ましてやそれを吹聴して回るのもどうかと思います。

最近はあまりにもこういうことが多いため
誰の耳にも明白なはっきりした特徴しか聞き分けられない程度の音楽的感受性の人は
音楽以外の部分でも感受性が低いのでは、
違う趣味の人だっているっていう世の中の基本的ことを想像する能力がないのでは
なんて下らないことを考えてしまいます。
もちろんこんなのは極論だし、あったとしてもほんの一部の人だと思いますけど。

それはおいておいて、
ちょっと自慢になりますが、まるたはかなり正確な体内クロックを持っています。
ストップウォッチなしで1ハロン12秒をかなり正確に測ることができます。
アシュケナージもかなり体内クロックが正確な人だと思います。
アシュケナージの音楽には極端な緩急はありませんが、
ちょっとした間は大切にしており、それがまるたの呼吸感にとても
よく合うので「ああ、いいなぁ」と思うのです。
ただ、12秒を正確に測れるってかなり特殊技能だと思うので
アシュケナージの呼吸感を理解できない人が多いのはちょっと仕方ないのかな
と思うことはあります。

でも音色の聞き分けはそんな特殊技能は要求しないと思うので
微妙なところも注意して聞いてみて欲しいなあ、
それでアシュケナージの良さを理解して欲しいなぁと思うのです。


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3 コメント

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アシュケナージの聞き方 (まっちゃん)
2006-04-26 21:40:46
トラックバック、ありがとうございました。

アシュケナージは、たくさんCDを見かけるのに、いいと言う人が私の周りにはいなくて、どうして人気があるのか不思議だったので、和食の説明に納得しました。

確かに私が聞いた曲は、ショパンの「革命のエチュード」だったと思います。

激動的なものを求めていたのですが、それと違う演奏だったので、どうなのか、と思ったのです。

もっと違う曲だったら違う感想だったかもしれません。

検討しているのは、ショパンの「ワルツ集」なので聞いてみようと思います。
コメントありがとうございました (まるた)
2006-04-26 23:31:51
まっちゃんさん、コメントありがとうございました。

ちょっと押し付けがましい記事とトラバで申し訳ないなと思ったのですが、あまり気を悪くされていないようでよかったです。もしワルツをきっかけに興味を持ったらいろいろ聴いてみてください。一番のお薦めはショパンのノクターンです。
好みはいろいろありますから (まっちゃん)
2006-04-28 11:57:53
いえいえ、気を悪くなんてしていませんよ。

私はピアノは弾くばかりで、聴くことを殆どしていないので、ピアニストのことも全然知らないのです。

アシュケナージを知ったきっかけも、たまたま手に入れたホロヴィッツのCDを聴いて、他の作品も聴いてみたいと思って探したら、同じウラディミールで並んで置いてあった。しかもたくさん。

お薦めのノクターンは、向いていそうな曲が多いですね。

そちらも探してみようと思います。

いろいろありがとうございます。

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