サラ☆の物語な毎日とハル文庫

「おーい、トム・ソーヤー」←「鈴木ショウの物語眼鏡」

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  おーい、トム・ソーヤー

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『トム・ソーヤーの冒険』は1876年にイギリスとアメリカで出版され、
以来、少年文学の中で不動の地位を保ちつづけている作品である。

昔、っていうか1986年に日清食品のカップヌードルのCMで
「おーい、トム・ソーヤー」というシリーズがテレビで放映された。
CMディレクターの今村直樹さんの作品で、ミシシッピまで行って撮影したそうだ。
アメリカの、トム・ソーヤーをイメージさせる少年たちが登場する。
なんと長渕剛がナレーションを担当していた。
たとえば巨大な木の根元に仰向けに寝転がって、釣り糸をたれながらボーっとしている少年。
そこに、こんなナレーションが流れる。

「新しい冒険のことを1日中考えていたり、
真っ暗になるまで友達と原っぱを駆け回ったり、
好きな女の子のために眠れない夜があったり、
生きていることをもっともっと楽しみたいから、
僕は今年、トム・ソーヤーになろうと思う。
トム・ソーヤー宣言。…カップヌードル」

あるいは、トムたちが家出をするシーンをイメージしたセカンドバージョンでは

「冒険した後は、2,3センチ、自分が大きくなってるみたいなんだよな。
おーい、トム・ソーヤー。…カップヌードル」

洒落のめした男の子とのケンカのシーンでは

「ちょっと小突いただけで、あいつと友達になっちゃったよ。
おーい、トム・ソーヤー。…カップヌードル」

このCMを見て、子ども時代に読んだ本のことなどすっかり忘れてしまっていた、
ものすごい数の大人たちが、懐かしさにハートを鷲づかみにされ、ウルウルしたんだ。
『トム・ソーヤーの冒険』はそんなパワーのある、特別な物語。

舞台となるのは、作者のマーク・トゥエインが少年時代をすごした、
ミズーリ州ハンニバルというミシシッピ川沿いの小さな田舎町。
トムはジャムを盗み食いする現場を押さえられ、
鞭打たれる寸前でするっと逃げ出すようないたずらな少年。
学校をずる休みして泳ぎにいったことが、弟の告げ口で育ての親のポリーおばさんにバレ
むしゃくしゃしていても、2分もたつと、新しい興味に心を奪われ、
怒られたことなどすっかり忘れてしまうような男の子だ。

…その新しい興味とは黒人に教えてもらったばかりの、めずらしい口笛の吹き方。
何度もくり返し練習してコツを飲み込み、吹けるようになると、
「新しい星を発見した天文学者」にも似た喜びを味わう。
「いや、その愉快さの強く、深く、まじりけのない点からいえば、きっとこの少年のほうが
天文学者にまさっていただろう」と作者のマーク・トウェインは書いている。

トム・ソーヤーが遭遇するさまざまな冒険。
墓場でハックルベリィ・フィンとともに殺人事件を目撃したこと。
酔っ払いのマフ・ポッターを救うため、裁判で証言台に立ったこと。
ポッターは殺人者インディアン・ジョーに、その殺人の罪を押し付けられたのだ。
家出をしてミシシッピ川で溺れ死んだと大人たちに思わせた挙句に、
自分の葬式に突如姿を現して、村中の人々を驚かせたこと。
洞窟でベッキーとともに3日3晩道に迷い、
結果として、盗人達の残した宝を見つけたこと。
めまぐるしい展開の中で、少年のいたずらが現実の事件と交錯し、
読者の心を掴んで放さない。
社会的な責任をまだ背負うことのない黄金の少年時代。
きっとこういう物語が「古き良きアメリカ」なのだろうと思う。

………………………………………………………………
トム・ソーヤーが僕の家に来る
………………………………………………………………
僕があまりせっつくものだから、レディバードもついに折れ、トム・ソーヤーを
再び僕のところによこしてくれた。
「いいわ、そのうちね」とレディバードが言った週の半ば、
仕事から帰ると、僕の仕事椅子に馬乗りになって座っているトム・ソーヤーがいたんだ。
「やあ」とトムソーヤーが言った。
「きてくれたんだね。ありがとう。
こないだは疲れていて、つい寝てしまったんだ。ごめんね。
キャラメル味のポップコーンを用意しておいたよ」

「へー、すごいね。食べたことないや、キャラメル味なんて」と
トム・ソーヤーは嬉しそうに顔を輝かせた。

キャラメル味のポップコーンなんて、そうそう売っているものじゃない。
最初は映画館のカウンターまで買いにいったのだ。
だけど、ポップコーンは時間がたつとそんなに美味しくないし、
そうぼやいていたら、ハル文庫に併設されているブックカフェHARUのヤスコさんが、
キャラメル味ポップコーンを作ってくれた。
「店のメニューにしばらく出すから、いいわ」と言ってくれるので、
ここんとこ、帰りに寄っては買い求め、新しいものを用意して待っていたのだ。

「甘くて美味しいね」
「きっと好きだと思ったんだ」と僕。
コーラのボトルを渡すと、自分にはコーヒーを入れて、トムの前に座った。

「これなあに?」
「コーラだよ。アメリカ人はこれ好きだろ? 
って、そうか、君の時代にはコーラなんてなかったんだ。
飲んでみて。いまではみんな飲んでるよ」

トム・ソーヤーは首をかしげながらコーラを口に含み、ニッと歯を見せて笑った。
「変わった味がするね」
「そうか」
僕もにんまり笑って見せた。

「でさ、レディバードが、あんたが聞きたいことがあるって言ってたけど、どんなこと?」

「その後、きみとハックがどうなったかが知りたいんだ。
きみとハックが泥棒の隠し金を見つけて大金持ちになったあと、
ハックが家出したでしょ。
そして、偶然にもきみと出会って、奴隷のジムは解放され自由になるんだよね。
あのあとどうしたの?」

「ハックはしばらくしてから町に戻ってきたよ。
で、ダグラス未亡人の家に世話になって、教育ってのを受けたんだよ。
僕たち物語の住人は、物語られなければ詳しいことはわからないんだ。
でもハックのモデルとなったのは、トゥエインさんが子どものときに知っていて
あこがれてたトム・ブラッケンシップっていう子なんだよ。
その子は、大人になってから、モンタナ州の奥地の村で治安判事になり、
善良な市民として大いに尊敬されていたらしい。
だから、ハックもそうなってるんじゃないかな」

「へー、やるじゃないか。じゃあ、きみは?」
「僕については、何にも語られてないね。
作家のトゥエインさんは僕を何人かの男の子をミックスして登場させたって
言ってるけど、ほとんどのエピソードはトゥエインさんのものなんだ。
だから、僕がトゥエインさんの分身だとすると、
印刷屋で徒弟として働きはじめ、ミシシッピ川の蒸気船のパイロットとなり、
新聞社に勤め、それから作家になったってとこかな。きっとね」

「ふうん。作家とはすごいね。
とても文章を書くのが好きとは思えなかったけどね」

「目覚めたんだ。話すことは得意だからさ、それを文字に書けばいいだけだろ」
「まあ、そうだけど」

「ミシシッピ川はどんなんだろうね。ときどき憧れるんだ」
と僕はさらに尋ねた。

「大きな川だよ。家が流されたり、島があったり。
場所によっては川幅が2キロもあるんだもの。
実際に見てみないと、その広さは想像がつかないと思うよ。
行ってみればいいじゃない」

「そうだね。まあ機会があったら行ってみよう」

「ぜひ来てよ。いまから僕と行く?」

「そういうわけには行かないんだよ。
休みをつくって、飛行機のチケットをとって、荷物をもって、それから旅立つんだ。
それでも、きみがいるミシシッピ川には行き着けない。
行けるのは、いま現在のアメリカのミシシッピ川さ」

「ふうん。それでもいいじゃない。
想像した先に僕がいるよ。いっしょに川を下って遊ぼうよ」
「そうだね」
僕はうんうんと頷いて、ちょっと嬉しくなって、笑っていた。

【見つけたこと】物語の世界は、想像したに先に存在する。

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レディバードが言ったこと
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「ねえ、僕がそっちの世界に行くことはできないの?」と僕はレディバードに聞いた。

「あら、行きたいの?」とレディバードはにっこり笑ってそういった。
「うん、行ってみたい」

そういう僕に、にこやかな微笑みを投げかけながらレディバードはこう言った。
「ムリね」

なんだよ、やさしそうに笑うから期待したじゃないか。
そりゃムリだよね。
レディバードが目の前にいることすら論外なのに、僕が異次元の世界にもぐり込むなんて。

「だからトム・ソーヤーが言ってたでしょ。物語の世界に行きたかったら、
ただ想像すればいいのよ。
あんたはライターなんだから、想像したことを原稿を書いてれば、
きっと現実のことのように思えてくるわよ。
物語ってそういうものだと思うわ」

「ずるいな、自分たちは物語の世界にいるくせに」

「悔しかったら、書いて書いて書きまくることね。
自分で物語の世界を作っちゃいなさいよ。
人間なんだから努力しないと。努力する自由は、あんたのものよ」
そういうと、レディバードはニンマリと笑った。
薄紫色の水玉の透けるようなドレスが、レディバードを
夢のように妖精っぽく見せていた。

「なんにしても、トム・ソーヤーを呼んでくれてありがとう」
僕は頭をぺこりと下げた。
レディバードは「ふんふん」としたり顔で頷いた。 

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