「なんだ、その顔は、いっとくが、患者の前では、そんな顔、見せんなよ」
分かってますと答える声にノックスはコーヒーを入れると、元気出せとカップをテーブルに置いた。
「その様子じゃ、進展なしってところだな」
「わかります、どう転んでも告白して玉砕、振られるの構図しか浮かばないんです、下手したら助手としても居づらくなるし」
「自分は年寄りだからとか、これから若くていい男が現れるとか、そんな言い訳するんだろう、思い切って潜り込んだらどうだ」
「ベッドにですか」
そんな図々しいことできませんという返事に、変なところで真面目なんだとノックスは感心したようにコーヒーを飲む彼女を見た。
「言ってやろうか」
「はい、なんですか」
「俺からなら、あいつも断れないだろ」
返事ができず、彼女はノックスをじっと見た。
「それ、ちょっと、なんていうか卑怯ではないですか」
「いいじゃねぇか、女ってのは元々卑怯な生き物なんだ、このままだとずっとバツイチで過ごすことになるぞ、確定だな」
想像したのか、一瞬にして彼女の表情が暗くなった、だが、ほんの少しの沈黙の後、彼女は小声で呟いた、お願いしてもいいですかと。
「おう、任せろ、大船にのったつもりでいろ」
自分のことなのに他人任せにしていいのだろうかと思いながら、告白しようとしてもできなかったとを思うと、ここは任せよう、○投げしようと彼女が思ったのも無理はない。
翌日のこと昼になったばかりの頃、友人が尋ねてきた、痛み止めをくれないかというマルコーの言葉に、なんだ、腹でも下したのかと聞くと自分じゃないとマルコーは首を振って彼女だと呟いた。
ほんの一瞬、ノックスは考え込むような表情になった後、思い当たる節があるのか、生理痛かと尋ねた。
「今朝から顔色も良くなくてね、寝ているよ」
ノックスは友人の抱えていた袋を不思議そうに見た。
「こ、これはだ、その必需品というか」
どこか気まずそうな表情にノックスは、何を照れてるんだと聞くと、いや、別にという返事が返ってくる。
「わからなけりゃ、女の店員に聞け、ちゃんと買えたのか、色々と種類があるだろう」
頷きながら、専用の下着もあるんだなと呟いたマルコーにノックスは、にやにやとした顔つきになると、買ったのかと尋ねた。
「い、色々と勧められて」
「ほう、錬金術師のドクター・マルコーが買う女の下着、どんなのか、見てみたいもんだな」
テーブルの上に置いた袋にノックスは手を伸ばすと中を覗きこんだ。
「派手だな、こういうのが好みか、いい趣味してるじゃねぇか」
友人の言葉にマルコーは眉間に皺を寄せ、顔をしかめながらも顔を赤らめた、だが、俺は褒めてるんだぞとノックスは訂正するようにマルコーを見た。
「生理中ってのは、気分の浮き沈みが激しいんだよ、だから身につけるものが派手だったり、可愛いと、それだけでも気分がよくなるんだよ、女っていう
生き物は」
友人の言葉にマルコーは迷ったが、もしかしたら必要になるかもと思い、店員に勧められるままに購入したのだと、視線を逸らしながら答えた。
「湯たんぽも用意しとけよ、ネェちゃん、冷え性だからな、それから痛み止めか、待ってろ」
口は悪いが、持つべきものは友達だと改めて実感した、ところが帰ろうとしたとき引き止められた。
「ちょっといいか」
真面目な話だ、すぐにすむという友人の顔を見てマルコーは、不可解な顔になったのはいうまでもない。
「今話したら卑怯だなんて思うかもしれねぇが、先延ばしにしたところでどうしようもねぇからな、こういうのはストレートに言ったほうがな」
「な、なんだね」
卑怯、先延ばし、普段聞く事のないワードに何を言われるのかと不安になったのはいうまでもない。
ネェちゃんの事だがなと友人の言葉に、何を言われるのかと思ったが。
「あー、やっぱり、うん、今度にするわ」
とノックスは早く帰れ、ネェちゃんが待ってるぞとマルコーを追い返した。
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