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Journal de Tsurezure

雑多な日常、呟き、小説もUPするかもしれません。

「私が君に教える」と**優しく語りかけるエリックの心情

2025-04-09 12:18:09 | 二次創作

「言葉を覚えた方がいい」

そう言ったとき、美紗緒は少しだけ照れたように笑って、鞄の中から小さな文法書を取り出した。  
その手元には、びっしりとメモが書き込まれた付箋が挟まっている。

「ええ、だから勉強しようと思って……」

ページの端には、かすれた鉛筆の跡。  
一人で、ここまで努力してきたのだと、痛いほど伝わってきた。

エリックは、本を受け取ることも、彼女の手に触れることもせず、ただ見つめていた。  
彼の心には、尊敬と不安が入り混じっていた。

(フランス語は……難しい)

単語を知っていても話せない者は多い。  
書けても、発音が通じなければ意味を成さない。  
特に東洋の発音体系では、フランス語の鼻母音や流れるようなリエゾンは致命的に難解だ。  
それを、彼女は――一人でやろうとしていた。

(限界がある。いや……危険ですらある)

彼女がどれだけ真面目に勉強しようとも、誰もが好意的とは限らないこの街で、言葉を知らぬまま笑って頷くその行為が、どれほど誤解を招くか。  
誤解だけで済めばいい。  
だが、時には“承諾”と受け取られ、彼女自身が知らない間に境界を越えられてしまう。

そんなことは、絶対に――許さない。

けれど、押しつけがましいのは、彼女の自由を奪うことになる。  
だから彼は、慎重に、言葉を選びながら、静かに口を開いた。

「Je pourrais t’enseigner le français. Si tu veux bien.」  
(私が君に、フランス語を教えるよ。……もし君が望むなら)

その声音は、柔らかく、決して彼女を囲い込もうとするものではなかった。  
むしろ、彼の想いを押し殺して、彼女の意志を尊重するように――優しく、穏やかに。

美紗緒は少し驚いたように、彼の目を見た。  
言葉の意味を完全には理解していない。それでも、彼の声色が、彼女の心を打ったのだろう。  
小さく、唇の端をゆるめて笑った。

「……あなたのフランス語、好きです。歌みたいで、すごく綺麗」

「歌……?」

「うん。耳で覚えたくなるくらい、心地よい。私……聞くのは、得意かもしれない」

エリックの胸に、微かな灯がともるような感覚が走った。  
それは恋情だった。  
彼女の無邪気な反応が、ただの語学の話ではないものを運んでくる。

(君に、フランス語を教えられたなら――)

それは、ただの言葉ではなく、想いを渡せる手段になる。  
そして、君が誰かに誤解される前に、俺の声が届けば――君の未来に、安心を届けられるかもしれない。

「Alors… on commence demain ?」  
(じゃあ……明日から始めようか?)

美紗緒は、また微笑んだ。  
まるで、春の陽射しのように、柔らかく、あたたかく。

「……Oui.(うん)」

その一言に、エリックの心はほどけた。

言葉が壁ではなく、橋になるように。  
心が、すれ違わずに繋がるように。  
それを彼は、彼自身の声で叶えたかった。

仮面の奥で、エリックはそっと目を閉じる。  
教えるという行為の中に、自分の気持ちを乗せてしまうかもしれないという怖さ。  
それでも、彼は進もうとしていた。

**彼女が笑って、「わかった」と言ってくれたのなら――それだけで十分だった。

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『お土産と、余計なお世話』

2025-04-01 09:02:28 | 二次創作

本屋デートは無事に終わった。  
楽しそうに「また行きましょうね」と笑う美也の横顔が、午後の陽射しよりも眩しく見えた。

太陽が黄色く見えるのは――そう、たぶん寝不足のせいだ。  
夜中に何度も「何か言いすぎてないか」「近すぎたか」と反省会を開催し、朝を迎えていたから。

「お土産です、修二さん♡」

美也がそっと差し出したのは、可愛らしい動物と景色の描かれたカラーの絵葉書。  
裏には、作家らしいアーティストの直筆のサインが入っている。

「これ……君が選んで?」

「はい。甘い物は……もしかして遠慮されるかと思って」

一瞬、胸の奥がじんわり熱くなる。  
ああ、気を遣わせてしまったのか。自分のために、こんなものを。

だがその直後、美也がもうひとつ、紙袋を差し出した。

「それと、こちらは――智久さんからです」

「……は?」

紙袋を開けた修二の手が、ピタリと止まった。  
中にあったのは、どこからどう見ても、健康志向・脂質制限・糖質カットのスーパーダイエット三点セット。

──カロリミット、プロテインバー、そして「置き換え雑炊」。

「……捨てていいか?」

「だ、ダメですよ!智久さん、一生懸命選んでたんです。『これが修二さんの未来を救う』って!」

「いらん未来だわッ!」

思わず袋を床に叩きつけそうになりながら、修二は内心で誓った。

(絶対に次のデートでは、腕の一本くらい組ませてもらう。チョコレートだって受け取ってもらう。そして……ダイエット食品を押し返す!)

 

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十二国記 蝕は突然、起きた

2024-10-09 19:32:41 | 二次創作

 蝕が起きた前触れもなくだ、といっても他国でのことだ、本来なら慶国の王、中嶋陽子(なかじまようこ)が動くことはない、だが、今回ばかりは違った。
 自分の知り合いが旅に出ていたのだ、最初は近隣の国に行くという連絡があった、だが、半月、一ヶ月が過ぎても連絡がない、手紙もだ、不安になり使令に探させようとしたが、されは景麟(けいき)に止められてしまった、蝕が起こるかもしれない。
 「どういうことだ」
 「海客(かいきゃく)だからです」
 言葉を失った、何故だと聞き返す。
 「蓬莱(ほうらい)から来たというだけなら、ただの海客、ですが、あの方は」
 「言いたいことがあるなら聞くぞ、賓満(ひんまん)をつけたことか、言葉が通じないと不便だと思ったからだ」 
 蝕で流されてきた人間は本来、こちらに来ると言葉が通じない、不便だろうと彼女の為に陽子は彼女に自分の使令をつけたのだ、ところが。
 十日ほどが過ぎ、彼女は言葉がわかるように、話すことができるようになったのだ。
 本当に、ただの海客なのか。
 彼女が慶国を出ていったのは周りの自分を見る目を気にしてのことだ、だが、それだけではない、元、海客の王である陽子の立場を慮っての、陽子は思っていた。
 「主上(しゅじょう)今回の蝕で大きな被害はありません、ですが、海沿いの崖が崩れたとていう報告が入っております、ただ、そのとき、崖の上に」
 話を聞くうち彼女の表情、顔色が変わっていく。
 「天啓かもしれません」

 桜川 美夜(さくらがわ みや)、彼女は自分の元いた世界の知り合いだ、自分より年上で困ったときは助けてくれた、頼りになる姉のような、その彼女が消えた。
 蝕に巻き込まれた、元の世界に戻れたならいい、だが、その可能性は低い、あまりにもだ、別の世界に流されたという確率のほうが高いだろう。
 助けたくても手段がない。
 
 (はははっ)
 声は聞き覚えのあるものだ、だが、それは、けっして、いや、何故、こんなときにと思わずにはいられなかった。

 

 序章です、突発的に書きたくなりました。

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書き直すことに決めた

2024-10-07 22:05:38 | 二次創作

ハーメルンにUPしていた自分の小説を読んでいたら、改行、空きのスペースが大きくてびっくり、全てのページというわけではないのが幸いだったけど、読んでいて自分でも何、これは、ちょっと文章が分かりづらい、書き直そうか。
十二国記は漢字も多いし、初見の人にはわかりづらい部分もあるかもしれない、しかし自分で書いて、こんな下手な文章、恥ずかしい、内容ももっとわかりやすくすればと思ったわ。
うん、やっぱり手直し、いらない部分は削って、シンプルに読みやすくしたい。

少し前から個人サイトを作って、そこに短編、ハガレン、クロスオーバーの小説を書き直して、再UPしたいと考えていたけど、新しくサイトを作る、サーバーを借りてとか色々と調べていたら少し疲れてしまった。
昔はホームページビルダーでサーバーを借りて作っていたけど、今はWordPress、ホームページ作成サービスとかあるんだなと思ったけど、小説サイトならできるだけシンプルにしたい。
コピー&ペーストで作れるような簡単なものをと思ってしまったのよ。

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相棒 見合いとメガネ

2024-09-30 21:22:48 | 二次創作

 理由はと問いかけてくる視線が痛い、いや、刺すような鋭さで自分に突き刺さるような感覚を覚えたが、ここで屈してはいけない、はっきりと断るべきだ。
 申し訳ありませんと伊丹は深く頭を下げた。
 自分は派閥などに入るつもりはない、それに目の前にいる相手は上の役職だが、殆ど面識がなかったといってもいい。
 数日前、気をつけろと三浦から言われていたが、まさか自分のような人間を抱き込もうとするとは驚きだ。

 部屋から出た瞬間、ほっとしたのか、気が緩んだのか、溜息が漏れた、その瞬間、スマホが鳴った。
 心当たりのない番号だが、何かあってはと思いながら、出ることにした。

 顔など殆ど覚えていない、親戚からだ、一体何事か、もしかして、親戚の誰かが亡くなったのかと思った。
 数日前に葬儀の連絡があったが出席はしなかった、いや直前までは出るつもりだったのだ、ところが直前になって事件が起きた。
 自分は決して若いとはいえない、それは自分の親、親戚もだ。
 だから、最低限の礼儀、失礼にならないように対応しているが、この電話には正直、うんざりした。
 
 「あなた、まだ独り身でしょ、お付き合いしている人もいないって聞いたから」

 見合いの話だ、うんざりという、続けてかと思ってしまった。
 つい先ほど、自分を抱き込もうとした上司からの話を思い出し、うんざりした、たが。
 「あなたの御両親も、心配しているんじゃないかしら」
 自分の両親は二人とも亡くなっている。
 生前は仲良くしていたのよと言われると本当かと思ってしまうが、無碍に断ることはできない。
 「すみません、後で、こちらから連絡します」
 断わる口実が、すぐには浮かばず、後で連絡しますと言ってスマホをしまうが、その日の夕方、また電話がかかってきた。

 指定されたのは職場からも近いホテルのロビーだ。
 こういのを完璧なセッティングというのか、相手まで来ていたのだ。 
 そして親戚の叔母という女性の顔を見て思い出した、子供の頃の正月の集まりで誰よりも口うるさく喋り続けていた女性だと。
 ずけずけと臆することなく、人が気にしていることでも平気で口にするのだ。
 裏表がないといえば、それまでかもしれないが、学生のときに自分の顔のことを平気で女にはもてないなど、一生独身だと言ったのだ。
 それも親戚一同の前でだ。
 皆、飲んで食べて、酔っていた者もいだか、だが、その言葉、声は大きくて全員に聞こえたのだろう。
 場はしんとなった。

 自分に深々と頭を下げる女性はシャツにズボンという格好だ、見合いに来たとは思えない。
 「善は急げっていうでしょ、だからね」
 連絡は昼前、その数時間後に見合いの場へ、いくら何でも急すぎるだろう、ジェットコースター並の早さだ。
 多分、いや、目の前の女性も自分と同じで強引に話を進められたのではないだろうかと思ったが。
 
 自分は今、仕事が忙しくて大変なのでと断るつもりだった。
 だが、ロビーでお茶を飲みながら話していると、今回の見合い、相手も自分と同じだった。
 いい人がいるのよ、会うだけでもいいからと強引に連れてこられたようだ。
 しかし、何故、こんなに急ぐのかと思ったが、今まで見合いの話をまとめてきて、今回、四十四組目らしい。 
 縁起がいいのか悪いのか、早くまとめて次の目標、カップル達成を目指しているのだという。
 それを知った後、伊丹はがっくりと脱力した。
 
 「眼鏡、新しくされましたか」
 声をかけられた三浦は頷きながら手元の書類を机に置き、飲みかけの珈琲に手を伸ばそうとしたが、女性の視線に気づいた。
 「それ、もしかして」
 女性の言葉に三浦は一瞬、ぽかんとした表情になった。
 ずっと愛用していた眼鏡を先日、壊してしまったのだ、いや、正確にはトラブルで壊れてしまったのだ・。
 自分の不注意といえばそれまでだが、相手の女性は自分のせいだと店に連れて行かれ、翌日には新しい眼鏡が手に入った。
 以前の眼鏡と似たフレームだが、軽い、それにレンズも薄いのだ。
 かけている時間が長いと外したとき疲れを感じるが、気のせいだろうか。
 最近は眼鏡もチェーン店だと安い。
 「知らないブランドでね」
 三浦の言葉に女性職員は無理ないですよと言葉を続けた。
 「最近ですよ、日本に支店ができたの、人気があるんです、限定品はすぐに完売ですし」
 三浦は無言になった、眼鏡の値段はを聞くべきだったろうかと。

 そのとき、一人の刑事が飛び込んできた、事件らしい、近所のコンビニで立てこもりだという。
 
   

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