日々、雑多な日常

オリジナル、二次小説、日々の呟きです。

復讐ではない、嫌いだったから(子供は)そして別れた夫の末路は

2021-07-30 17:47:59 | オリジナル小説

子供が生まれた時、女は喜んだ、結婚三年目で初めての妊娠、子供の性別を聞きたかったが、それは楽しみにの為に我慢した。
 生まれてくるのを心待ちにして、夫も喜んでくれる筈だと思っていた。
 一年、二年たっても、うまく言葉が話せない、医者に診せると、軽い障害があるという、だが、女よりも夫である夫の方が驚きショックを受けた。

 「俺の息子が障害を持っているなんて」

 信じられない、もしかして、自分の子供ではないかもしれない、そんなことさえ思ってしまう。
 最後には、おまえ浮気したんだろうと妻である女を責めた、エリート社員、社長の右腕と噂され、プライドもあった男はショックも大きかったのだろう。
 
 息子が障害を持って生まれたという事実がどうしても受け入れられない。
 入社して実績を伸ばして、周りから認められて結婚した、これからというときに自分の人生はどうなってしまうんだと男は悲観した。
 だが、そんな自分の気持ちなど妻は気づかないのか、息子にかかりきりだ、障害があっても普通に生活している人はいると。
 前向きなのはいいことだ、だが、息子だけではなく夫の自分のことも気遣ってくれてはいいのではないだろうかと不満を抱いてしまった。
 最初は小さな不満、だが、少しずつ心の中で大きく膨らんでいく。
 息子の障害、自分に問題があるわけではない、では、妻に原因が、もしかして、浮気をしていないかと男は妻に問いかけた。
 だが、妻は笑うだけだ、あまりにも馬鹿馬鹿しいと言いたげに、そして相談があるのと夫を見た。
 塾に行かせたいという言葉に男は驚いた、今だって学校の授業で大変なのに塾だと、何を考えているんだ。
 学校から連絡を受け、呼び出されたことを思い出す、恥ずかしさと屈辱以外、何もない。
 ただ、わかったのは息子の存在は教師たちにとって異質な者だ、言葉にはしないが、表情や室内の空気から感じたのだ。
 こんな惨めな気持ちになるのは妻と子供のせいだと思ってしまった。
 
 「今度から君が行ってくれ、今は忙しいんだ、大きなプロジェクトもあるし」

 自分の言葉に妻の顔は一瞬強ばったが、わかったわと頷いただけだ。
 仕事が忙しいという言葉は、この時の男に取っては救いだった、逃げているという気持ちはない、ただほっとしただけだ。
 そして子供の事は妻に任せてしまうという事態になるのに時間はかからなかった。
 
 

 「顔色、よくないですね、大丈夫ですか」
 
 部下の気遣ってくれる言葉に男は大丈夫と答えたが、嘘だ、息子の事、妻の浮気、本来なら探偵などを雇って調べたら答えはすぐに出るだろう、だが。
 奥さんは浮気をしていますよと報告されたとき、自分は冷静でいられるだろうかと考えた。
 結婚したときは好きだと思っていた妻の存在は息子を生んだこともあって今では重荷のような存在になっていた。
 自分の人生において不要なものだ、一から結婚する前からやり直したい、ふと、離婚という文字が浮かんだ。
 もし、自分が離婚を切り出したら妻は、どんな反応をするだろう。
 養育費は払うことにして、今後、息子にも妻にも関わりを持たないということにすれば、そんなことを考え、頭に思い描く未来に心が軽くなった気がした。
 
 夕食の後、大事な話があると切り出すと妻は別れたいのと聞いてきた。
 あなたの態度を見ていたらわかるわよ、子供が負担なんでしょうと言われて顔には出さなかった、だが。

 「養育費は払うよ」

 ところが妻はいらないわと即答だ。
 息子のこと、自分のことも愛していない、そんな人から、お金なんていらないわと言われて内心、むっとした。
 実家が裕福というわけでもないし、結婚してからずっと専業主婦の彼女に金があるとは思えない。
 
 「以前、復職したいって忘れたの、色々と準備してたのよ」
 
 離婚には簡単には応じないだろうと思っていただけに意外すぎて、どんな言葉を返せばいいのか分からなかった。
 だが、はっきりしているのは妻と子供から開放されるということだ。
 

 

 数年が過ぎた、男は再婚して家庭を持った、男の子が産まれたが、普通に育っている、障害などない。
 妻のほうに問題があったのだ、自分は悪くないと思うと、別れたのは正解だったと思えた。
 だが、ふとした時に妻だった女と息子は、今、どんな生活を送っているのだろうかと思っていた。
 
 その日は食堂ではなく、会社近くのカフェでランチを取っていたときだ、近くの席に座っていた女性グループの会話が耳に入ってきた。

 「ねぇ、あの人、間違いないわよ」
 「本人なの」
 「見た目、普通の人って感じね」
 「セレブがいつもブランドを着てると思っているの、凄い人よ、離婚したけど、一人息子はね」

 店の奥でランチを食べている一人の女性のことを言っているようだと男は、ちらりと視線を向けた。 
 妻だった女に似ていると思ったのだ、いいや、別人だ、こんなところに別れた妻がいるわけがない、だが、食事をすませた女は立ち上がると店を出ていこうとする。
 自分のテーブルのすぐそばを取りすぎた女が振り返った。
 その顔を見て確信した、間違いないと。

 店を出た女の後ろ姿を追いかけ、男は声をかけようとした、そのときだ、気配を感じて振り返るとがたいの大きな男性が立っていた。
 まるで、威嚇するような目つきだ。
 そのとき、振り返った女性が、こちらを見て笑った、その笑顔に男はどきりとして思わず声を名前を呼んだ。
 不思議そうな顔で自分を見る女に元気だったかと声をかけた。
 返事はなかった、だが、しばらくの沈黙が続いた、ようやく思い出したと言わんばかりに女は軽く会釈をした。
 ただ、それだけだった。

 

 別れた妻に今更、会ってどうする、一言も話をすることもないまま別れてしまったが、どうしても気になってしまう、妻の実家に電話して連絡先を聞こうとしたが駄目だった。
 こんな時はネットだ、もしかしてブログやインスタなどをやっているかもしれないと思ったが、それもだ。
 そんなときだ、自宅を二人の男女が訪ねてきた。
 
 顧問弁護士だと紹介されて、何故と思ったのも不思議はない。
 
 「先日、お会いになったそうですが」

 偶然ですと答える男に二人は、そうですかと頷いた。

 「彼女は息子は元気でしょうか、実は気になっていまして」

 半分は嘘だ、だが少しは真実、どんな生活をしているのかと知りたかったのは店での女性たちの会話を思い出したからだ。

 「実家に連絡されたようですね、理由をお伺いしても」
 「それは気になって」
 「今まで連絡したことはないですよね」
 
 言葉ではない、責められているような視線を受けて男は焦りと同時に苛立ちも感じた。
 離婚したとはいえ結婚していたのだ。
 
 「二度と、このようなことはないように別れたのですから他人でしょう、不快だそうですよ」

 自分の息子といいかけたのを女が遮った。
 
 「いいえ、ムッシュの息子です、あなたの、ではありません」
 「彼女は再婚したんですか、外国人ですか」
 「いいえ、彼女の息子さんは養子になりました」

 意味がわからないといいたげな男の顔に二人が説明を始めた。
 生まれたときに障害者と思っていた息子は養子になって外国で暮らしているという、信じられなかった。
 何故という疑問が顔に出ていたのだろう。
 
 「彼は天才です、母親である彼女の努力もあるでしょうが」

 「息子には障害があって」
 
 「まれにあるんですよ、生まれたときに一見、障害に見えてしまうような兆候が、ですが」

 信じられない、別れた妻と息子は現在、外国で暮らしている、それに比べて今の自分は。

 

 妻、いや、それは息子の復讐

 離婚の話が出てきたとき驚いたのは、まだ先の事になると思ったからだ、別れた夫はプライドの高く世間体を気にするタ
イプだから簡単にはうまくいかないのではと思っていたのだ。
 きっぱりと後腐れなく別れたかったし、自分の仕事だけで大丈夫だと思っていたからだ、それに友人たちも助けてくれ
る。
 子供の障害の事について、ちゃんとした検査をしたほうがいいと助言をしてくれた友人には感謝だ。
 日本では障害者といっても細かい部分まではわからないこともあるらしい、だから海外の病院や専門の医者、施設にと言われた時は驚いた。
 その結果、子供の障害は。
 医者やアドバイザーから診断の結果を聞かされた時は驚き、呆れ、そして笑いたくなった。
 胎児の時の記憶が関係していますね、父親が好きではなかったんでしょうと医者に言われて妊娠していたときの夫婦関係を思い出した。
 妊娠して普通の生活ができない自分を夫は怠けているとか、醜い腹、そんな体で、よく人前にと言われたことを。

 
 会社の経営がうまくいっていないことを感じていた、吸収合併されるのではないかという話に社内は不安な空気が漂い始めた頃だ。
 ある会社が解雇される社員を受け入れるという話が持ち上がった。
 
 何故、自分が新会社で働く事ができないのか、男が不満を抱いたのは無理もない、ただの平社員ではない、役職についているのだ。
 理由を聞くと人事部の人間は困った顔であちらから言われたことを自分は伝えただけだという。
 だが、納得できないといわんばかりの男の態度に、それなら、直接、あちらの方とお話になりますかと言われた。

 男は驚いた新会社の社長は自分の息子だった。
 
 「息子の会社に父親がなんて外聞が悪いでしょう、それに別れてから一度も会っていないというし」

 わかるでしょうと人事の人間から言われて何も言えなくなった、いや、言葉が出てこなかったといったほうがいいかもしれない。

 


マルコーさんは優しいと改めて実感(女)自宅と療養所の改装 12

2021-07-10 15:05:28 | ハガレン

 古い家屋を改装、修繕というので時間も思ったほどかからなかったし、費用も抑えられたのは幸いだった、一ヶ月あまりで自宅から少し離れているが街から近い一軒家を療養所に改装できたときは、マルコーはほっとした。
 
 三人のドボジョはマルコーの作ったシャーペットを食べながら、次の仕事について話していた、診療所を建てたことで自信がついてきたのかもしれない。

 「知り合いに内装とか家具の販売とかやりたいって人がいるのよ」
 「キンブリー先生が、一度セントラルに戻った方がいいっていうけど、軍が何か言ってきたのかな、でも、アイザックさんは無関係だよね」
 「ブラッドレイさんの養女にならないかって話、どうする」
 
 三人は顔を見合わせた。

 「受けた方がいいんじゃない、退役したけど偉い人だっていうし」
 「そうだね、長いものには巻かれろって、キンブリー先生も言ってるよ」

 

 診療所が新しくなって、街に近くなったことで通院も楽になったと患者達は喜んだ、だが、療養所だけではなく自宅のほうも少し修繕しようということとなり、新しく家具も購入した。
 ところが、その日、運びこまれたものを見てマルコーは驚いた、浴槽は広くてシャワー付き、ベッドはダブルだ、運びこんで来た職人は首を振った。
 
 職人の女房の病気は今まで医者にかかったが、症状はなかなか良くはならず本人も歳だからと諦めていた、そんなときだ、弟子入りした青年が自分の知っている医者に診てもらったらどうかと勧めたのだ。
 青年は錬金術講座を受けた日本人だ、青年から看て欲しい人がいるといわれて、診察したマルコーは簡単な手術で妻の症状は改善するという診断を下した。
 術後からしばらくして元々の抵抗力もあったのか職人の女房は周りが驚く程、元気になったのだが、しばらくしてマルコーが病院を改装することをキンブリー、ドボジョから聞いた青年は、そのことを自分の職場の上司に報告した。
 すると、先生のおかげで女房が良くなったんですからと職人は知り合いの職人や業者にも声をかけた、そして療養所だけでなく自宅の方も古いようですから、手入れ、修繕をしてはどうですと申し出た

 「遠慮しないでください、先生のおかげで女房のやつ、以前より元気になったんですから、参ってしまいますよ」


 病院が新しくなって張り合いも出てきたのはいいことだ、やれる、できる範囲で仕事はぼちぼちすればいい、医者は自分だけではないのだからと思っていたが、セントラルから彼女が来て助手として働くことになったので多少なりとも気持ちが楽になった。
 久しぶりに会った彼女は顔色もよくなかったが、しばらくして助手として働くようになると食欲が出てきたのか、食べるし眠るのも早くなった、いいことだと思っていたが、本人は太ってしまうとシチューをお代わりしながらマルコーを見る。
 だが、ここに来たばかりの頃は、見た目からして明らかに良くなかったというと彼女は困った顔で自分を見る。
 
 「とにかく健康で元気が大事だ」
 
 頷く彼女の様子を見ながら、こういうところは素直でいいんだがと思いながら、夜更かしは厳禁だと付け加えた。
 
 
 新しいベッドはシングルより少し大きめだ、凄く嬉しい、だが、助手とはいえ、居候のようなといってもいい自分がいいのだろうかと思ってしまう。
 届け物をしてくれとノックスさんに言われたときは即答で引き受けた。
 講座が終わってしまう事に不安があって、困っているとノックスさんが俺んとこで手伝いを飯と掃除、洗濯をしてくれと言われたので、それでもいいかと思っていたのだが、その後だ、色々と。
 ノックスさんを軍医だと思って近づいてくる人間は男女ともども自分の存在を疎ましく思っていたのだろう。
 軍医でも、そうでなくても何かうまみがあると思ったのだろうか、あのとき二つ名を持つ錬金術師とは懇意、友人らしい、だったらそのツテ、コネで。
 (マルコーさんのことだ)
 でも、イシュヴァールへ帰ったのだから。


 マルコーさんはと、ここへ来て改めて思ってしまう、講座が始まった時も生徒達は、マルコー先生は色々と教えてくれて親切だ、優しいと言っていたことを思い出す、ベッドの上でゴロゴロしてながらノックスさんは元気だろうかと考えていると、何故か思い出した、おまえさん、マルコーといると顔がなあといわれたことを。


 「なんですか、顔がおかしい、ヘンですか」
 「いや、変なのは元からだ」

 意味が分からなくて尋ねるとノックスは、そんくらいの方がいいんだとニヤニヤしていた事を思い出した

 
 「マルコーさん、優しいですよね」
 
 朝食の後の会話に、んっとなったのはいうまでもない。

 「どうしたんだね、いきなり」
 「少しぐらい図々しくてずる賢くなってもいいと思いますよ、どこかのオッサン並みに、その、講座がなくなる時って、何かあったんじゃないですか」
 「あっ、ああ、まあ少しは」
 
 まあ、そこは色々と、曖昧な返事をされた女はそうですかと呟いた。
 
 「気になりますよ、生徒ですし」
 「そうだな、今は助手だし、今度から何かあったらちゃんと話す、説明もするよ」
 
 マルコーの言葉に、ほっとした気分になり、本当ですねと念を押す。
 
 「男に嘘をつかれたり、騙されるのは嫌ですからね」
 「おいおい、なんだね、その」

 知らない人が聞いたら誤解するだろうと困った顔でマルコーは呟いた、だが。

 顔、赤いですよと言われて、益々困惑したのはいうまでもない、だが、彼女の方も、そうですねと頷いたが、何故か、この時、ノックスのニヤニヤとした笑いを思い出して、互いにしばし無言になってしまった。  


イシュヴァールでの過ごし方と白スーツ男の訪問、色々あるようです 11  11

2021-07-03 14:44:05 | ハガレン

 ノックスさんから頼まれた医術書を見るとマルコーさんは喜んだ、だが、その後は何故か、寝ると食べるだけの生活が一週間ほど続いてしまった、掃除や洗濯をしようと思ったら、長旅で疲れただろうから休みなさいと言われてしまうのだ。
 いいのだろうか、気を遣われているのだろうかと思ったが、三時のおやつまでついているとお客様扱いされているようで嬉しい反面、もしかしてと嫌な事を考えてしま
う。

 
 具合が悪いのか、あの女はとスカーから聞かれたマルコーは返事をしようとして少し戸惑った。
 目の下にはクマは化粧で誤魔化してたのだろうが、風呂上がりの彼女の顔色は自分が知っていた頃とは違う、顔つきも少しほっそりとして、痩せたというよりは肉が落ちたという感じだ。
 気になってノックスに聞こうとすると、まあ、色々あってなと言われてしまって詳しい事情はスルーされてしまう。

 「説明はちょっと待ってくれ、正直、俺はただの町医者の方が気楽でいい、おまえさんもだろ」

 ネェちゃんは、こっちに戻らない方がいいと言われて、仕方なく頷く、もしかして何か知っているかもしれないとスカーに尋ねようとした、ところが。
 

 「お久しぶりです、ドクター、お元気そうで安心しました」

 それは珍しい来客だった、キンブリーの訪問にマルコーが驚いたのも無理はない、講座が廃止されて暇なのだろかと思ったが、キンブリーの顔を見て疲れているのかねと聞くと、ええと素直に頷いたので驚いた。
 講師をしていた時より今の方が忙しいという。

 「実は、ここに来たのは直接、確認したかったというのもあります、療養所の件で」
 
 そのことだがとマルコーは言葉を飲み込んだ、数日前、ノックスから自宅の療養所を改装しないかと言われて迷っていたのだ。
 
 「先生、外に出ませんか、少しこの辺りを案内してほしいんですよ」

 外に出るとキンブリーは、元気になったみたいですね、彼女と笑った。

 「やはり、イシュヴァールに来たのは正解でしたね」
 「ノックスに頼まれて本を届けに来たと思っていたが、それだけではないのかね」 


  学校建設ですとキンブリーは低い声で呟いた。

 「ノックス先生を正式な軍医と思った人間が助手になればと思ったんでしょうね、ところが、生徒だった筈の人間が助手として、しかも異国人となれば、いい気分ではないでしょう」
 
 その話は初耳だ、だから、ノックスは説明しづらかったのかとマルコーは驚いた。

 「実は他にも生徒同士の間でも、ありまして」
 
 キンブリーは少し声のトーンを落とした。

 「全く、金と権力に固執しすぎると人間は駄目ですね」

 聞けば理由を詳しく話してくれるかもしれない、だが、友人の話と照らし合わせると予想がつく。
 金のある裕福な自国民の生徒だけで学校を作る、すると扉をくぐって、こちら側に来た彼らは。
 最初は錬金術を学ばせたところで意味がないだろうという意見があった、だが、それは軍の怠慢ではないかという意見で上は折れたのだ。

 「何かできる事はないかね、私に」

 セントラルの事はとキンブリーは首を振った、手を出せないといわんばかりだ、ところで、この辺りの土地は所有者が決まっているのでしょうかと言われてマルコーは首を振った。
 
 「ところで、ここに療養所を新しく立て直す、いや、増築というのはどうですか」

 簡単に言ってくれると思ったのは無理もない。

 「少しは貯め込んでいるんでしょう、何も大病院を建てるという訳ではありません」

 随分と積極的というか後押しをしてくるなと思ったのは無理もない、だが、それだけではない、施工業者を任せて貰えませんかとキンブリーはマルコーを見た。

 「実は弟子入りさせた生徒、ドボジョの三人を覚えていますか」
 
 ああとマルコーは頷いた、キンブリーの錬金術は自分達の仕事に必要ではないかと講座を受ける熱心さは有名だったからだ、ところがクビになったんですと意外な言葉が返ってきた。

 「それで機械鎧の工房に弟子入りさせました」
 「畑違いだろう、彼女らは建築の」
 「ええ、ですが、工房の主人、主人のガーフィールと話した結果、そこに収まったんです、彼女らを受け入れてくれるところは難しいだろうと」

 「実は、新しい学校の教師にならないかという申し出がありまして」

 この男の事だ、受けたのか、いや。

 「クビになったのは自分達の仕事が満足できるものでなかったからと報告に来たんです、ですが」
 
 そういってキンブリーは黙ってしまった、沈黙がしばらく続いた後、増築は以前から考えていたんだと、話を進めようかとマルコーは声をかけた。

 翌日、土地をならすために重機が運ばれてきた、病院の増築ということで地元の住人も手伝うことになった、ところが、数日後、話を聞きつけてきたのだろう、セントラルから数人の人間が視察という名目でやってきた。
 だが、補助金を受けている訳ではない、個人の病院建設に軍が関与する必要があるのかと追い払ったのはキンブリーだけではなかった、アイザック・マクドゥーガル、軍を辞めた後、民間事業でイシュヴァールの復興に助力している男の姿に軍の視察と称する人間は顔色を変えた。

 街の近くに古い空き家があって、その家を療養所に改装するつもりだという、業者の手配も施工もすぐに取りかかる事になると聞いて驚いたのも無理はない。
 こちらに移住してくる人間も増えている、忙しくなるだろう、手伝って貰えるとありがたい、マルコーの言葉に、でもと言いよどんでいると。

 「ノックスの方は息子がいるからな、向こうで色々と手伝っていたんだろう、いや、帰りたいというなら無理強いは」

 手伝いますと即答されてマルコーは、ほっとした、今、向こうに帰らないほうがいい、ノックスもだが、キンブリーの話を聞くと益々、そう思える、スカーが生徒達の間のことを何も知らないというのは驚いたが、キンブリーの話を聞くと納得した。
 こちらに来てしまった生徒達は、こちらの人間、相手が自分達と同じ子供同士でも喧嘩などをしては問題になると思っているらしい。

 難しい顔つきで、その事を話していたキンブリーの顔を思い出すと、マルコーはなんともいえない気分になった。