晴れ時々曇り 希に雨

日々の事、気ままに綴っています

錦繍

2012-06-05 17:44:53 | 
著者 宮本 輝


これも図書館で借りました。


前略。
蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラリフトのなかで、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。



この文章から始まる小説。
往復書簡という古典的な手法の物語です。

今の時代だと手紙ではなくメールになるのでしょうか?

メールだと情緒的とは言い難くなりますね。



ある事件がきっかけとなり10年前に離婚した夫婦が偶然再会する。

元妻である亜紀が元夫の靖明に手紙を送ります。

何故2人が別れることになったのか、その後どういう人生か送ったのか、そして今現在はどうしているのかなど、手紙のやりとりの中で次第に明かされて行きます。


生きていることと、死んでいることとは同じかもしれない。

亜紀がモーツアルトについて聞かれた時の感想なのですが、
この言葉が何度も出て来ます。



靖明もまた、自分の死を認識する場面でこう綴っています。


私は跡形もなくこの世から姿を消してしまう。けれども、私の命そのものは、自分の背負い込んだ悪と善に包まれながら、決して消滅することなく続いているのだ。


手紙に書く事で過去に囚われて生きてきた事実を認め昇華することで、亜紀も靖明も生きることにもがき苦しみながら、決して平坦とは言えない道を進むことを決意して物語は終わっています。






本の装丁が紅葉の柄だったせいか、読んでいる間中ずっとこの赤いイメージがこびりついていました。


冬になる前に赤く染まる紅葉。「業」という言葉も何度も出てきたのですが、それも赤のイメージですね。


そして冬が来て、また明るい春がやってくる。

そういう予感を感じさせる小説でした。