我が家には、ちょっとしたコレクションがある。
それは梅酒、おそらく60種類以上ある。
最初の梅酒を買ったのは、10年ほど前になる。
きっかけというほどのものではないが、それは
相棒とはじめて居酒屋へ行ったことだったのではないか。
当時のぼくは日本酒党だったので兵庫の富久錦を選び、
相棒は梅酒を頼んだ。
付き合い始めたばかりだったから、お互いの情報もまだ少ない。
話し上手でもないから、仕方なくありきたりの話題を選んだ。
―お酒好きですか?
「ええ、梅酒に凝っているんです」
その話題は見事にそれで終わったが、
付き合い始めたばかりの男は実に殊勝なもので、
ぼくの中に、その言葉はしっかりインプットされてしまった。
その後、自分の酒を買いに行った酒屋で、
その話をふと思い出した。
―梅酒って、凝るほどの種類があるんかな?
試しに陳列棚を探してみると、これがあった。
チョーヤ以外の梅酒。
「みなべ南高梅100%使用・梅酒」というその梅酒を
ぼくは早速買って、週末のデートでプレゼントした。
相棒は想像以上に喜んだ。
―これは、いける。
また別の日、別の店で見つけた梅酒を持っていくと、さらに激しく
相棒は喜んだ。
指輪やネックレスはその当時も今も、選ぶ基準は分からないが
梅酒は珍しいものを見つければ、とりあえずはOKなのだ。
こんなことを繰り返すうちに、初めての酒屋では必ず梅酒を探す
習慣がいつも間にかついてしまった。
相棒が東京に転勤になった後は、休みのたびにどこかしこへと出かけ、
晩酌のための地酒と梅酒を買いあさってきた。
次に会うときのため…である。
探してみると、地酒と同じように地梅酒があることも分かってきた。
まわりまわって鹿児島から北海道まで、全国45都道府県。
地酒は旅の夜露とともに消えうせたが、相棒はぼくとは違い
飲ん兵衛ではなかった。梅酒は増え続けた。
やがてぼくも東京勤務となり、引越し業者にあきれられるほどの
梅酒とともに板橋のマンションに入った。
ふたりで過ごせる時間は増えたが、会社の職種も違うので、
休みが合わないこともしばしばあった。
その日もそんな休日だった。
引越し後間もない頃であったので、少しは整理しようと
引越しのままになった段ボール箱を開けた。
色とりどりの瓶、個性豊かなラベル、そして甘い香りが漂う。
中は梅酒だった。数えると40本あまり。
いつの間にか、梅酒コレクターになっていたようだ。
その中の1本を手にとり、ラベルを隅々まで読んでみた。
作り手のこだわりなどが、実に細やかに書いてある。
―少しは笑えるかもしれない。
イメージしたのは居酒屋にあるような、地酒のリストだ。
予定はない。相棒が戻るまで時間はたっぷりある。
デジカメで1本1本撮影してみた。
飽き足らずにパソコンを立ち上げてワードを開き、
ラベルを見たり、インターネットで検索したりしながら、
酒蔵と産地、その梅酒の特徴などを入力した。
夜、仕事に疲れた相棒が帰ってきた。
―お疲れさん、何か飲むか?
と、作ったばかりのリストを無造作に突き出すと、
相棒は一瞬沈黙して、それから笑顔になって「ありがとう」と言った。
それから4年、さらに梅酒は増え続けて今日に至る。
リストの更新はぜんぜん追いつかないが、
今でも相棒は時折リストを見て梅酒を選んでくれているようだ。
それで、いい。
(了)

それは梅酒、おそらく60種類以上ある。
最初の梅酒を買ったのは、10年ほど前になる。
きっかけというほどのものではないが、それは
相棒とはじめて居酒屋へ行ったことだったのではないか。
当時のぼくは日本酒党だったので兵庫の富久錦を選び、
相棒は梅酒を頼んだ。
付き合い始めたばかりだったから、お互いの情報もまだ少ない。
話し上手でもないから、仕方なくありきたりの話題を選んだ。
―お酒好きですか?
「ええ、梅酒に凝っているんです」
その話題は見事にそれで終わったが、
付き合い始めたばかりの男は実に殊勝なもので、
ぼくの中に、その言葉はしっかりインプットされてしまった。
その後、自分の酒を買いに行った酒屋で、
その話をふと思い出した。
―梅酒って、凝るほどの種類があるんかな?
試しに陳列棚を探してみると、これがあった。
チョーヤ以外の梅酒。
「みなべ南高梅100%使用・梅酒」というその梅酒を
ぼくは早速買って、週末のデートでプレゼントした。
相棒は想像以上に喜んだ。
―これは、いける。
また別の日、別の店で見つけた梅酒を持っていくと、さらに激しく
相棒は喜んだ。
指輪やネックレスはその当時も今も、選ぶ基準は分からないが
梅酒は珍しいものを見つければ、とりあえずはOKなのだ。
こんなことを繰り返すうちに、初めての酒屋では必ず梅酒を探す
習慣がいつも間にかついてしまった。
相棒が東京に転勤になった後は、休みのたびにどこかしこへと出かけ、
晩酌のための地酒と梅酒を買いあさってきた。
次に会うときのため…である。
探してみると、地酒と同じように地梅酒があることも分かってきた。
まわりまわって鹿児島から北海道まで、全国45都道府県。
地酒は旅の夜露とともに消えうせたが、相棒はぼくとは違い
飲ん兵衛ではなかった。梅酒は増え続けた。
やがてぼくも東京勤務となり、引越し業者にあきれられるほどの
梅酒とともに板橋のマンションに入った。
ふたりで過ごせる時間は増えたが、会社の職種も違うので、
休みが合わないこともしばしばあった。
その日もそんな休日だった。
引越し後間もない頃であったので、少しは整理しようと
引越しのままになった段ボール箱を開けた。
色とりどりの瓶、個性豊かなラベル、そして甘い香りが漂う。
中は梅酒だった。数えると40本あまり。
いつの間にか、梅酒コレクターになっていたようだ。
その中の1本を手にとり、ラベルを隅々まで読んでみた。
作り手のこだわりなどが、実に細やかに書いてある。
―少しは笑えるかもしれない。
イメージしたのは居酒屋にあるような、地酒のリストだ。
予定はない。相棒が戻るまで時間はたっぷりある。
デジカメで1本1本撮影してみた。
飽き足らずにパソコンを立ち上げてワードを開き、
ラベルを見たり、インターネットで検索したりしながら、
酒蔵と産地、その梅酒の特徴などを入力した。
夜、仕事に疲れた相棒が帰ってきた。
―お疲れさん、何か飲むか?
と、作ったばかりのリストを無造作に突き出すと、
相棒は一瞬沈黙して、それから笑顔になって「ありがとう」と言った。
それから4年、さらに梅酒は増え続けて今日に至る。
リストの更新はぜんぜん追いつかないが、
今でも相棒は時折リストを見て梅酒を選んでくれているようだ。
それで、いい。
(了)
