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クロス豚がゆく

やりたいことは増える一方、しかし自分の時間は減る一方。
そんな中での悪あがきと迷走の日々。

出口のない海

2006-08-08 01:35:14 | 読書
ひとえに自分の選択眼のなさゆえなのだが、テレビも映画も小説も、
最近は亀田興毅選手の世界戦のような、話題先行・内容散々なもの
ばかりで、満足のいく作品にはなかなかめぐり会えなかった。

しかしこの週末、久しぶりに読み応えのある本に出逢うことができた。
横山秀夫「出口のない海」である。
土用の丑明けの土曜日、南千住にあるうなぎの名店・尾花で
1時間半の行列を待つ間に一気に読みきった。

学徒出陣で徴用され、やがて特攻に身を投じる若者の物語だが、
ありがちな血煙が舞うような残酷な戦場描写はまったく出てこない。
むしろ物語が進展するにつれ、描写は主人公1人の心情に収束していく。
それによって読み進むにつれ、主人公の哀しみ、怖れ、そして怒りを
読者自身の感情のそれとして、ダイレクトに感じさせる効果があった
ように思う。

松竹が映画化して9月に公開されるらしい。でもたぶん行かないだろう。

というのは、主人公が乗り込む人間魚雷・回天の操縦席の閉塞感や、
恋人と交わす手紙にこめられた想いなど、その描写を文章にとどめて
個々の無限の想像に任せた方が、より鮮烈に伝わりそうな気がしたからだ。
対して映像化してしまうと、情景のひとつひとつが目に見え、聞こえて
しまうので、想像の描き出す世界が大幅に制限され、月並みな戦争邦画に
なってしまうのではないか。
映像表現に向く向かないは、きっとあると思う。

まあ老婆心は無用かもしれない
文庫版のあとがきによると、日本人のこころを描く名人・山田洋次監督も
脚本に加わる(冨川元文さんとの共著?)とか。
どうのこうの言ってもたぶん、DVDになったら観るんだろうな…

文庫版「孤独のグルメ」

2005-10-23 03:01:55 | 読書
クロス豚を自ら名乗るだけに
食べ物をテーマにした本も大好きである。

この作品、
「小説 江ぐち」の作者、久住昌之さんが原作の
マンガである。

雑貨輸入業を一人で営む主人公が
さまざまなシチュエーションで行き当たる、
個性豊かな店とメニュー。
そこから生まれるちょっとした物語を
1話完結で描いたショートストーリー集だ。

「小説 江ぐち」同様、
その場のユーモアを巧みに捉え、
詳細に描写する技術は見事。
見たことのある店、食べたことのあるメニューが登場する
話では、思わずニンマリとさせられる。

最終話は、職場近くの店が舞台。
知らない店だ。探してみよう。
今週の昼に、格好の楽しみができた。

「東京ゲスト・ハウス」

2005-10-18 23:15:23 | 読書
連日の雨に、買い置きの本もこれが最後である。
今年の直木賞受賞作家 角田光代さんの作品を持って出た。

アジアでの放浪を経て帰国した一人の若者が主人公。
金も行くあてもなく、旅での出会いをつてに、
東京の郊外にある一軒家で暮らし始める。
放浪を経験した若者たちが集うその家は、
やがてゲスト・ハウスのような不思議な空間になっていく。
衝動と虚無を強烈に放つ若者たちとの共同生活。
彼らの言動に、主人公は反発を覚える。
しかし自らも、社会とかかわりを持つ生活に
戻れないでいることを自覚する。
終盤で描かれる、年長の放浪者に対する激しい嫌悪と、
かつての恋人に対しての執着が、主人公の旅の終わりを予見させる。

旅と日常のはざ間にたたずむ主人公の姿を通して、
社会に参加して暮らすという、誰もが直面するテーマを、
考えさせてくれる作品だったのではないか。

アブサン物語

2005-10-18 02:23:59 | 読書
今日も雨。
電車通勤の無聊を慰めてくれるのは、本しかない。

村松友視さん(視=正しくは「示」辺に「見」)の作品は
今回初めて読んだ。

ひょんなことから飼い始めた猫・アブサンとの交流を、
常に猫の感情と視線に思いをはせつつ描く作者。
それが、読者の心にそれぞれの「アブサン」を育てさせてくれる。

一転してアブサンの老衰を淡々と描くエピローグは、
「別れ」がもたらした作者の喪失感を、読者へリアルに伝えてくるように思われた。