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手持ちの仕事が一段落した時に、秘書課から内線。
【すみません。手が空いた時で結構ですので、本年度の新入社員の履歴書を秘書課まで持ってきて下さい。】
こんな依頼が入った。
なんで履歴書?
しかも、秘書課。
もしかして…。
私のことを調べられたりとかするのかな?
社員ってことを黙っていたなんて、絶対に印象悪くなってしまうよね。
今更なんだけど、やっぱり後悔っ。
新入社員が、支社長のジャケットにビールをかけて…。
その上、社員のこと黙っているなんて、最低な社員じゃないの…?私。
朝と同じように心臓がバクバクと動き出す。
でも、朝とは全く違って嫌なドキドキ。
どうしよう…。
私、明日も出社できるのかな?
不安な気持ちで、私はエレベーターに乗った。
私の気持ちとは裏腹に、エレベーターは最上階を目指して上昇している。
私の気持ちは、一気に急下降なのに…。
支社長との食事、最初は緊張したけど楽しかったな…。
パパのどうでもいい話を笑ってくれて、私まで嬉しくなったのに…。
やっぱり、社員ってことを伝えなかったのが悪かったのかな?
ビールをかけてしまったことが悪かったのかな?
あの時─────。
『最初は高めの位置から勢いよく、途中からゆっくり注ぐと泡ができる。泡がグラスの3割になると上手いビールの入れ方なんだ。』
支社長が、こう教えてくれた。
だから、私は勢いよく注いでしまったんだよね。
で、グラスにはね返ってしまったビールが、支社長のジャケットにかかってしまったんだよね。
昨夜のことを思い出している間に、エレベーターは既に最上階に着いていた。
気合いを入れて、私は最上階に足を踏み出した。
そんな私の様子を、西田さんは廊下から伺っていた。
ぎゃー!!
気合いを入れたのを見られていたっ。
もう、ヤダ…。
なんで気合いを入れている所なんて見られるの!?
私、いつもはもっと普通に仕事をしていますっ!
って、言いたいんだけど言えない。
西田さんは、私の変な行動を見なかったことにしてくれたみたいで…。
「牧野さん。昨夜は、遅くまでお疲れ様でした。」
って、普通に話しかけてきてくれたの。
ぎゃー!!
やっぱり、私ってバレていた。
ど、どうしよう。
でも、黙っていたことを謝るべきよねっ。
「昨日、伝えるべきだったのですが…。私、総務部の牧野と申します。昨夜は、父が体調を崩してしまい本当に申し訳ございませんでした。その上、厚かましご馳走になってしまって…。とても美味しかったです。ごちそうさまでした。支社長にも、よろしくお伝えください。」
緊張して早口になってしまったけど、何とか私は謝った。
私はすごく緊張しているのに…。
西田さんからは、意外な返事が返ってきたの。
「私は知っていたので、気にしないでください。それより、お父様のお体の具合はいかがですか?」
えっ…。
西田さんは、知ってくれていたの。
ってことは、支社長も知ってくれていたってことなのかな?
一瞬、自分の考えに頭がストップしてしまったけど…。
私は、パパのことを伝えた。
「もうすっかり良くなりました。ご心配をお掛けして、本当に申し訳ございませんでした。」
そもそも、パパは体調不良じゃなくって、緊張からくる腹痛だった。
それを心配して下さるなんて、申し訳ない気持ちになってしまう。
そして、西田さんは
「履歴書を、持って来てくださったんですね。ありがとうございます。」
こう言って、私から履歴書を受け取った。
履歴書を渡したら、長居は無用。
私は西田さんに会釈して、エレベーターに乗り込んだ。
執務室のソファーで、俺が牧野との今後について妄想に浸っていると─────。
突然、頭上から西田の声がした。
「なにソファーで寝転んでいるのですか?きちんと仕事をしてください。」
なんだよ。
俺の妄想の邪魔をするんじゃねー!
うるせー秘書だ。
お前だって、今さっきまでどこかに行ってたんじゃねーの?
なんて思いながら、西田を見上げると─────。
西田は、何かの紙の束を持っていた。
この能面メガネ。
また、俺に仕事を押し付けに来たな…。
ジト目で西田を、睨んでいると────。
能面メガネは、その紙の束をめくりだした。
数枚めくった後で─────。
「牧野つくし。東京都○○区○○…。」
なんて、牧野の名前と住所を読みだしたんだ。
あ"っ?
まさかっ!
西田の持っている紙の束は、今年度の履歴書か?
「都立○○高校卒業。国立○○大学卒業見込み。」
牧野の経歴。
俺の知らねー情報を、西田に読み上げられねーといけねーんだっ!!
西田から、牧野の履歴書を取り上げようとした瞬間!!
「司様の本日の仕事は、こちらです。」
こう言って、俺に欲しくもねーパソコンのマウスを押し付けてきた。
そして、
「牧野さんの履歴書は、お仕事の後でお渡し致します。大学生の頃の写真も付いています。」
なんて、勝ち誇った顔で言ってきたんだ。
お読みいただきありがとうございます。