八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

Coincidence7

2023-01-29 08:00:00 | Coincidence(完)

 

 

手持ちの仕事が一段落した時に、秘書課から内線。

【すみません。手が空いた時で結構ですので、本年度の新入社員の履歴書を秘書課まで持ってきて下さい。】

 

こんな依頼が入った。

なんで履歴書?

しかも、秘書課。

 

もしかして…。

私のことを調べられたりとかするのかな?

社員ってことを黙っていたなんて、絶対に印象悪くなってしまうよね。

今更なんだけど、やっぱり後悔っ。

 

新入社員が、支社長のジャケットにビールをかけて…。

その上、社員のこと黙っているなんて、最低な社員じゃないの…?私。

 

朝と同じように心臓がバクバクと動き出す。

でも、朝とは全く違って嫌なドキドキ。

 

どうしよう…。

私、明日も出社できるのかな?

 

不安な気持ちで、私はエレベーターに乗った。

私の気持ちとは裏腹に、エレベーターは最上階を目指して上昇している。

私の気持ちは、一気に急下降なのに…。

 

支社長との食事、最初は緊張したけど楽しかったな…。

パパのどうでもいい話を笑ってくれて、私まで嬉しくなったのに…。

 

やっぱり、社員ってことを伝えなかったのが悪かったのかな?

ビールをかけてしまったことが悪かったのかな?

 

あの時─────。

『最初は高めの位置から勢いよく、途中からゆっくり注ぐと泡ができる。泡がグラスの3割になると上手いビールの入れ方なんだ。』

支社長が、こう教えてくれた。

 

だから、私は勢いよく注いでしまったんだよね。

で、グラスにはね返ってしまったビールが、支社長のジャケットにかかってしまったんだよね。

 

昨夜のことを思い出している間に、エレベーターは既に最上階に着いていた。

気合いを入れて、私は最上階に足を踏み出した。

 

そんな私の様子を、西田さんは廊下から伺っていた。

 

ぎゃー!!

気合いを入れたのを見られていたっ。

 

もう、ヤダ…。

なんで気合いを入れている所なんて見られるの!?

私、いつもはもっと普通に仕事をしていますっ!

って、言いたいんだけど言えない。

 

西田さんは、私の変な行動を見なかったことにしてくれたみたいで…。

「牧野さん。昨夜は、遅くまでお疲れ様でした。」

って、普通に話しかけてきてくれたの。

 

ぎゃー!!

やっぱり、私ってバレていた。

 

ど、どうしよう。

でも、黙っていたことを謝るべきよねっ。

 

「昨日、伝えるべきだったのですが…。私、総務部の牧野と申します。昨夜は、父が体調を崩してしまい本当に申し訳ございませんでした。その上、厚かましご馳走になってしまって…。とても美味しかったです。ごちそうさまでした。支社長にも、よろしくお伝えください。」

緊張して早口になってしまったけど、何とか私は謝った。

 

私はすごく緊張しているのに…。

西田さんからは、意外な返事が返ってきたの。

「私は知っていたので、気にしないでください。それより、お父様のお体の具合はいかがですか?」

 

えっ…。

西田さんは、知ってくれていたの。

ってことは、支社長も知ってくれていたってことなのかな?

 

一瞬、自分の考えに頭がストップしてしまったけど…。

私は、パパのことを伝えた。

「もうすっかり良くなりました。ご心配をお掛けして、本当に申し訳ございませんでした。」

 

そもそも、パパは体調不良じゃなくって、緊張からくる腹痛だった。

それを心配して下さるなんて、申し訳ない気持ちになってしまう。

 

そして、西田さんは

「履歴書を、持って来てくださったんですね。ありがとうございます。」

こう言って、私から履歴書を受け取った。

 

履歴書を渡したら、長居は無用。

私は西田さんに会釈して、エレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

執務室のソファーで、俺が牧野との今後について妄想に浸っていると─────。

突然、頭上から西田の声がした。

「なにソファーで寝転んでいるのですか?きちんと仕事をしてください。」

 

なんだよ。

俺の妄想の邪魔をするんじゃねー!

うるせー秘書だ。

お前だって、今さっきまでどこかに行ってたんじゃねーの?

 

なんて思いながら、西田を見上げると─────。

西田は、何かの紙の束を持っていた。

 

この能面メガネ。

また、俺に仕事を押し付けに来たな…。

 

ジト目で西田を、睨んでいると────。

能面メガネは、その紙の束をめくりだした。

 

数枚めくった後で─────。

「牧野つくし。東京都○○区○○…。」

なんて、牧野の名前と住所を読みだしたんだ。

 

あ"っ?

まさかっ!

西田の持っている紙の束は、今年度の履歴書か?

 

「都立○○高校卒業。国立○○大学卒業見込み。」

牧野の経歴。

 

俺の知らねー情報を、西田に読み上げられねーといけねーんだっ!!

西田から、牧野の履歴書を取り上げようとした瞬間!!

 

「司様の本日の仕事は、こちらです。」

こう言って、俺に欲しくもねーパソコンのマウスを押し付けてきた。

 

そして、

「牧野さんの履歴書は、お仕事の後でお渡し致します。大学生の頃の写真も付いています。」

なんて、勝ち誇った顔で言ってきたんだ。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。

 



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