八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

Redoing Love 11

2024-06-22 09:23:02 | Redoing Love

 

 

あたしが泣いている間─────。

亜門は、ずっとあたしを抱き締めてくれていた。

 

抱き締めてくれている亜門の体温が心地よくって─────。

あたしは、しゃくり上げが出るほど泣いた。

 

道明寺とよく似ている亜門。

でも、香りは全く違う。

道明寺からは、森林を連想するような爽やかな香りだった。

 

でも、亜門は─────。

スパイシーさの中に柑橘系のサッパリした香りがして…。

そして、道明寺からは絶対にしなかった煙草の匂いがした。

 

煙草の匂いは苦手なのに…。

その煙草の匂いすら気にならなくって、あたしの昂った心を落ち着かせてくれた。

 

亜門の香りに包まれて、ホッとしてしまったのか…?

泣き疲れてしまったのか…?

亜門の胸の中で、あたしは舟を漕ぎそうになった。

 

あっ…。

あたし、今、ウトウトしてしまった。

 

いつもみたいに、また皮肉を言われるんじゃないかって

思いながら、亜門をチラって見上げると─────。

 

亜門は、すごく優しい顔であたしを見ていた。

そして、

「泣いた後は、メシだ。」

って言って、あたしの手を取ってきた。

 

亜門に手を引かれ、あたしは駅の方へ向かって歩き出した。

大きな道路に出る時に、救急車とすれ違う。

 

救急車のサイレンと赤い回転灯で、あの日のことを思い出す。

全く心が痛まないって訳じゃないけど、昨日までの痛みは無い。

 

もしかすると…。

あたしは、一番苦しかった時期を乗り越えることが出来たのかもしれない。




頭を、ハンマーで殴られているような痛み。

そして、グルグルと回転する眩暈に─────。

俺は、意識を失ってしまっていた。

 

好きだった女を、やっと手に入れた─────。

はずだった…。

 

でも、俺は─────。

手に入れた瞬間、手離してしまっていた。 

 

事故以降の日々。

そして、必死で牧野を追いかけていた日々が、頭の中を交差する。

 

俺は、今まで…。

何をしていたんだ?

 

牧野のことを『類の女』と呼んでいた。

しかも、牧野以外の女を、そばに置いてしまった。

その上、牧野が作った弁当を、あの女が作ったと思ってしまった。

 

 

薄らと目を開けると─────。

そこは、さっきまでいた公園ではなく、俺はベッドで横たわっていた。

ここは、つい最近まで入院していた病院で…

しかも、最悪なことに同じ病室だった。

 

俺を、あきら、総二郎。

そして、三条が、俺のことを心配そうに見ていた。

 

体を起こすと、めまいも無く、頭痛も消えていた。

そして、靄は完全に消えていた。

 

部屋の端椅子に、類が座っていた。

でも、牧野はいなかった。

当然といえば、当然なのかもしんねー。

 

「大丈夫か?」

「気分はどうだ?」

「私、先生を呼んできます。」

こんなことを、こいつらが口々に言い出した。

 

それには、返事をしねーで、俺は気になったことを口にした。

「牧野はどうした?あいつと2人で、どこかに行ったんじゃねーんだろうな。」

 

この俺の言葉に、あきらと総二郎の目が見開いた。

そして、病室を出ようとしていた三条の足が止まった。

 

「司、記憶…。」

「記憶、戻ったのか?いつ、戻ったんだよ。」

「道明寺さんっ。先輩のこと、思い出したんですかっ?」

こんなことを、口々に話し出した。

 

でも、類は─────。

驚きもせず、黙ったままだ。

それどころか、怒っているのが感じ取れる。

 

俺の記憶が戻ったことなんて、類にはお見通しなんだろう。

記憶を無くした俺が、気付かなかっただけで、

もしかすると、あの事故以降─────。

類は、ずっと怒っていたのかもしんねー。

 

類が怒っていたとしても、牧野だ。

俺は、ベッドから立ち上がろうとした。

 

このタイミングで、廊下からスゲー足音が響いてきた。

医者とナースが来たか…?

 

正直、今は俺の診察とかじゃなく─────。

牧野に会って謝りてー。

 

こんなことを思っていると─────。

入ってきたのは、滋だった。

こいつの足音、どれだけ大きいんだよっ。

 

しかも、滋は部屋に入って来るなり

「司、大丈夫っ?桜子から、電話もらって…って、あれ?もう目を覚ましたの?」

こんなことを、デケー声で話し出した。

 

そして、

「また、この個室?まさかと思うけど、あざと女のオプションは付いてないよね。名前は言わないけど、司の彼女の海って名前の子。」

っつー余計なことを、言ってきた。

 

こんな余計なことだっつーのに、

あきらと総二郎にはツボだったらしく─────。

「あざと女のオプション。」

「名前は言わないけどって、言ってるだろっ!」

なんて言いながら、滋と一緒にゲラゲラと笑い出した。

 

バカ笑いしてるこいつらをよそ眼に、俺は牧野に向かって走り出した。





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