プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

ひだりてに官能

2018-01-15 23:59:56 | SS






「レイって、もしかして左利きだったりする?」

 眠る前、狭いベッドにふたり並んで腰かけていたときのことだ。レイはまことを思っていつものように詰めて寝ようとしたとき、ふと手を掴まれた。眠る体勢を阻害する行為、しかしその言葉の内容は雑談となんら変わらず、それ以上なにかされるということはない。レイは手を掴まれたまま、やや戸惑いながら横になった。

「どうしたの、急に」
「今日レイの試合見たら、右手で矢を引いていたからさ」
「え」
「でも、よく考えたらマーズだとフレイムスナイパーを左手で引くから」

 唐突なようだが、一応まことの中では筋の通った質問のようだ。
 まことの言うとおり、確かに弓道の作法と違い、マーズのときは左手で炎熱の矢を引く。誰に教わったわけでもなく自然な行動だったので、レイの中で深く考えたことはなかったのだが。

 レイは弓道部だが、その競技をする姿を他校にいるまことが見る機会は少ない。そしてレイ自身、対外試合でも可能な限りまことには知らせないようにしている。あまり学校でいる自分の振る舞いを見られたくないというのもあるが、集中力を要する競技、まことに見られたら気が散ってしまうのは否めないからだ。
 それに、校内外を問わずファンの多いレイは、そういう人種に囲まれる可能性が低くない場所でまことといるというのを避けたいという思いもあった。愛想を振りまいているつもりはないが、まことだっていい気はしないと思いたい。それに、なにより、いっしょにいるのなら、ふたりきりのほうがいい。声に出さずレイはそう思い、試合があってもまことが来るのを拒み続けていた。

 だが、いくつかの学校同士の練習試合とは異なり、さすがに公式戦ともなるとホームページなどでも調べられるらしい。レイの希望とは裏腹に、今日の試合でまことは観客席にいた。だが、まことはレイだけでなく、競技そのものを見届けているようにおとなしくそこにいた。

 お利口さん、な観戦をしていた。

 そのあとは当たり前のようにつかまえられて、レイはいささかの観念もあってまことの家にいる。そして、今の今までいちおうはお利口さんだったまことに、現在、眠るのを妨害されている。

「みんな右手で引いてたから、弓道では右手で引くって決まってるんだろうな、とは思ったんだけど」
「そう。弓道は作法をとても大切にするから、型が決まってるの。だから、左利きの人でも右手で引くのよ」
「だよね。武道って型が決まってるもんね。でも、いつも見てる時は左手で引くから、いつもと違うって思って・・・それでもしかしたらレイはほんとは左利きじゃないかって、はじめて思ったんだ」

 レイはまことが握っている左手を見つめる。戦いの戦士でありながら、腕の動きを封じられているのに、温かさが伝わってくる安堵を感じてしまうのは、相手はほかでもないまことだから。

「・・・どうかしら」

 だが、利き手と言われてもぴんと来なかった。
 箸もペンも、右手で持つ。洋食を食べるときはナイフを右手で持つ。物心ついた時からそうで、自分にとっては自然な行動なので深く考えたことはないが、これは右利きと言っていいだろう。まことにもそういう生活態度を見せていたはずだ。
 だが、作法などない、敵を倒すべきところでレイは左手で矢を引く。正確さを重用すべきなら、利き手で引くべきであろうに。

 弓術とて、本来は狩猟や戦闘に使われていた行為である。射抜くという点だけで見れば、各々の利き手で、個々がやりやすい作法で挑むという方が合理的なのに。だが、弓道も食事も文字を紡ぐという行為も、作法に乗っ取られてしまった現代、右手で美しく行うことが規範となりつつある。

 レイは少しだけ考えて、答えになる理由を探し当てた。

「・・・食事とか、ペンとか、ママは右手を使うやりかたで教えてくれたから」

 レイは父の職業柄、幼いころから礼儀作法やマナーを見られる場所に行く機会は多かった。だから本当に幼いころ、母が手を取って、箸の正しい持ち方を教えてくれたことも覚えている。背中から抱きしめて、右手に右手を添えて。今日はパパと食事だから、いろんな人に会うから、こぼさないように。きれいに。家族で外に食事に行くことは、父にとって家族だけの場ではなく、仕事の場であったから。楽しい時間ではなく、公の場にいる時間の作法だった。だが、教えてくれるのが母だったから、それはレイにとっては大切な時間だった。
 レイにとって父のためではなく教えてくれる母のために覚えた作法は、レイを自然と右利きにした。ペンを使うときも、まずは母からもらった自分の名前を書くため、やはり、母が後ろから抱きしめて教えてくれた。母の利き手だった右手を使って。

「そうなんだ」
「ええ」
「じゃあ、レイの右手はお利口さんの手だね」

 レイにとって右手は、社会的な役割を持つ。もともとそうだったかはともかく、少なくともそうあるように教わった。確かに大人が子ども向けに使うような表現をするのなら、まことの言う通り右手はお利口さんの手、ということになる。

「お利口さんって・・・」
「だってそうだろ」

 まことの今日の態度にこっそり思っていた表現をされて、なんとなくレイはささくれ立つ。

 だが、フレイムスナイパーは、ただ純粋に敵を射殺すための技である。美しさも作法もない、膝を曲げ、視線を安定させ、両目の焦点を合わせ、正確に排除するために射抜く。そこに思考回路も教えてくれる人の存在もなく、炎の矢を引くレイが選んだのは左手だった。

 なら、右手がお利口さんの手なら、左手はなんなのだろう。

「だって、こっちは、あんまりお利口さんって感じじゃないし」

 そう言って、握っているレイの左手を、まことがぐっと寄せる。中指の先にくちびるを触れさせる。レイは誘導されるように、くちびるのを指先でたどる。ただほんの指先しか触れていないのに、湿った熱が爪の隙間から食い込んで、神経に入り込み脳髄を焦がすようなような。
 グローブ越しの炎の矢よりも、それがレイを犯すのはずっと速く熱い。

 まことが言うにはこの左手は決して『お利口さん』ではないらしい。確かに右手ほど器用で繊細な動きはできないかもしれない。左手で箸を持っても、ペンを握っても、どこかぎこちなくて、不器用で、右手と同じことはこなせない。それでも感覚は左右変わらず、鋭敏だ。

 指の関節に吐息を感じながら、指先に神経を集中させている。指紋の溝がくちびるの微かな凹凸をなぞる。ほんの少し力を入れれば形を変えるくちびるの柔らかさと弾力に酔いしれた。割れ目が指を迎え入れる瞬間を、自然に待ちわびている。

 のに、唐突にまことの舌が唇からはみだし、レイの指の内側をぞろりと舐めた。熱いと思ったのは一瞬で、あとは一度濡れてしまった箇所が却って熱を奪っていく。唾液に濡れた指先が外気でひんやりとする感覚に、レイは衝動を感じる。一瞬這うだけの熱では儚すぎる。与えられたものより失われたものが惜しむ気持ちが大きい。もっと、もっと舐めて。

 でも、もっと先に進んで。

 欲望ばかりが膨らんでいく。だが、これほど煽られても、お利口さんでないと言われた手前レイには指を無理やり口に押し込むことはできなかった。指先をくちびるでなぞられ、舌先で嬲られ、吐息をかけられる、そんな真綿で首を絞められるような愛撫に身を任せている。

「・・・・・・・・・」

 ふと指の股を強めに開かれて、水かきの部分まで舌を押し付けられた。
 指を他人に向け目いっぱい開く機会というのは案外ないのと、普段とは違う筋肉の軋みで妙な羞恥心がある。手袋でもつけていない限り赤の他人にも平気で見せる場所なのに、妙に過敏で、こういう場においてやたらと卑猥な場所に思えた。秘められた場所を暴かれているような、そんな心地で。

 指を大きく開く筋肉の動きにピアノの演奏を連想させられた。だが、心地よい旋律は感覚から来るものだが、指の動きは作法と理性の場だ。ピアノは鍵盤通りの、レイは楽譜通りの音を奏でる。だが、レイはちりちりと快楽に焼かれていくにつれ、ピアノとは違う音を奏でたい、と思うようになっていた。

 この指先で、まことに触れて、鍵盤とは違う硬さの皮膚が、肉が、骨がレイの指に反応してどんな音を奏でるのだろう。既存のメロディではなく、レイが奏でる、だがレイにも想像のつかない音。不規則で猥雑で生々しい、吐息や微かな声、シーツの音、髪をかきわける音、そして濡れた音。理性による指の動きでは、その音楽は生まれない。

 左手はじくじくと疼いている。敵を射殺すときのように自然に動きそうになる衝動に、レイは耐えるほかない。

「そんな、こわい顔しなくても」

 どうやら、耐えているのを、睨まれていると勘違いしたらしい。まことはなんの余韻もなくレイの指から口を離すと、少ししょぼくれた顔で目を伏せた。違う、そういうことじゃない、という言葉より先に衝動が来た。まことの意志されていたのではなく、今度は自分から、指がまことの口元に行った。

 もはや『お利口さん』な動きではなかった。この手は、ただ舐められるというそれだけのことに我慢が効かなくなるほどに彼女に弱い。

「・・・んっ」

 喉を突く、という恐怖や、歯が当たるかも、という不安は、衝動には勝てない。やってしまってからの申し訳なさや恥ずかしさは、快楽には勝てない。それをいつも受け入れてくれるまことには、一生勝てない。
 くちびるを指すように指を突きだすと、まことは少しだけ困ったように、でも、レイが誰にも見せたくないふにゃふにゃのとろとろの笑顔で迎え入れた。

「やっぱり、お利口さんじゃないね」

 そんなの、知ったことか。
 その顔を、不特定多数に見せたくないから、試合にも来てほしくないのよ。そう言いたいレイの衝動は肉体の情動に封じ込まれて、お利口でなくともみっともない言葉を言わずに済んでいた。
 ほんの少しはみ出させた舌に迎え入れられるように、中指が口腔内にぬるりと入り込む。一本だがさっきよりも深く、深く。なすがままだったさっきとは違い、今度は自分がまことの中をかき回していた。やわらかく濡れた粘膜の中、ようやく望んでいた熱に自らを浸して。

「・・・ん、んん」

 口をかき回しながら、口内でなで回されながら、からだが混ざり合う感覚を味わう。やさしく包み込まれて、甘く吸われて、食糧にでもなっている気分だ。ひとに食べさせるのが好きなまことに食べられている、という目の前の現実はレイに背徳感や優越感や、いろいろな感情を巻き起こす。

 指をしごくように、根元からくちびるを結ばれて、強く吸われる。乳首を吸う赤子のような仕草が、むしろ情欲を煽った。つぷ、と音を立てて、指先までくちびるが滑る。指先とくちびるが、離れがたいと言わんばかりに糸を引いた。

「・・・試合、見たときにさ」

 言葉の合間、指先にくちづけ。いとしいものに触れるというまことの顔が、レイの内面を掻く。触れられてもいないのに、肉壁をかき回されるような。一枚たりとも脱いでいないのに、欲望ごと丸裸にさせられるような。それは恐ろしくも、もう逃れられない甘美な熱である。
 レイはまことの言葉の合間に、自分の指が入っていたまことの口内を想像する。歯の硬質な感覚もあった。自分の意志で動く舌や、上あごのざらついた感触、頬のうちの粘膜を掻いたときにの指の抵抗感を、くちづけを受けながら思い出す。

「右手で矢を引くレイを見てね・・・遠くから見ても、ひとりだけ、ばつぐんにきれいだった。顔じゃなくて、あ、顔もきれいなんだけど、そうじゃなくて・・・姿勢とか動きとか指先とか・・・型ってみんな同じ動きをするから、でも、それで、よけいに」

 指先にくちづけ。一番長い、中指。一番遠くまで届く、この指先を包む肉の感触。もがけばもがくほど溢れる唾液に浸された指先。噛まれるかもしれない、溶けてしまうかもしれない。でも、溺れさせられていた。

「だから、今、わかった。右手を使う・・・普段からレイの仕草がきれいなのは、レイのママのおかげなんだなって」

 右手を使って生きていく作法は、母から教わった。
 レイにとっては、ただ自分が美しいと形容されることより、ただ母を褒められたことが誇らしい。母に教わったレイの形も姿勢も、レイの今の生きざまを映している。それが美しいと感じられるのは、すなわち、母を肯定されていることだ。

 そうであるのなら、『お利口さん』という子どもに向けたような表現もしっくりくるような気がした。

「まわりにもね、レイのこと見てる子、いっぱいいて、きれいだって、かっこいいって、言ってた。でも、あたしは、それを見て」

 それなのに、今愛撫を受けている左手はとてもお利口さんとは言えない衝動をわだかまらせている。
 それはそういうことをされているからで、そういうことを許しているからで、自分がそういうことを望んでいるからで。言葉を紡ぐという理性の行為の狭間に溢れる吐息が、柔い唇の隙間から見え隠れする真っ赤な舌が、レイの指を犯す。

「いつものレイとも違うな、とも思って」

 否、自分から沈んでいた。自分が、左手でまことを犯していた。まことの言葉を聞きながら、そのくちびるがまたこの指を迎え入れてくれるのを待っている。
 
「あたしが知ってるのは、左手で矢を引くレイで、もっと燃えるような目で、静かなのにすごく激しくて」

 弓道は、美しい競技だ。勝敗という概念はあっても、あくまで向き合うのが敵ではなく己の技術と精神である。そして、数ある競技者の中でもレイは、群を抜いて美しいと評される。それはそう教わって、そういう生き方をしてきたから。

「無駄なんてなにもなくて、あんなにきれいなのに・・・それでも、あたしは」

 済んだ水面のような静寂の中、ただ孤独の中、動かない的を自分の目線が、腕が、体幹が、ぶれないようにして、まっすぐに捕える。自らと的を一直線に、空気を割く矢を放ち、繋ぐ。離れているはずの的を矢が射抜く感覚を手のひらに、作法に乗っ取り射技を終える。レイが今日まことにはじめて見せた姿。

 まことに違和感を抱かせた、レイの姿。

「レイに会って、こうしなきゃって」

 レイが普段まことに見せていたの矢を放つ姿勢は、左手が描く軌跡がそのままグローブ越しに腕に熱を巡らせる。どんな体勢だろうが、指先を、爪を、指紋を炙って神経や筋肉繊維を燃やすように炎熱の矢を引く姿。漲る闘志を隠しもせず、敵を排除すべく戦う姿。
 弓術は遠方から敵を射抜く行為であり、戦闘に於いても接近戦より密なるを由とされる行いはであるが、左手に矢を引く姿勢に於いて、敵に自分の存在を強く知らしめる殺意をレイはを隠さない。それが矢を撃つ者の責任であるというように、集中を凝らし、自らは無防備に、敵の前に出る。

 それは目の前に、戦いの場でいつも守ってくれる人がいるから。レイは、安堵と激情を同時に携えることができる。むき出しの闘志で敵に立ち向かえる。

「このひだりてが、苦しそうだったから」

 まことに見えていたのは、作法を繕うレイの姿。あの場で、レイはまことに、いつもと違う姿を見せることで、逆に、本性を見抜かれていた。

 口内で与えられる刺激は、心地いい。だが、確かに快いはずなのに舌の動きがやがてもどかしくなってくる。もっと深くて狭くて熱いところにこの指を浸したい。荒れ狂う指先の衝動を、ここよりもっと甘やかな肉の壁で受け止められたい。

「あたしが、受け止めてあげなきゃって」

 もっと重く柔く深い場所に沈みたい。唾液よりももっと熱い粘液に包まれたい。意思でなく快感に反応する襞に締めつけられたい。誰にも行儀を仕込まれていない方の腔の中で、指を暴れさせて、ありったけの熱を搾り取られたい。そうして鎮めてもらわないと、もう『お利口さん』には戻れない。一度引いた炎の矢を、戻すことはできないように。
 また焦らすように指先にくちづけられる。左手が疼く。解き放ちたい。わだかまる熱。お行儀のよい、動かない的を射る作法に乗っ取られた動きではない。命がけの場で、敵を射殺したいと思うのと、同じくらいの衝動。レイの左手は求めている。左手が、射抜きたがっている。この体を。目の前の彼女を。

 敵を殺すために選んだ左手。社会的な役割を担うこともなく、礼儀作法の上でも主だった役割を与えられず、飼いならされもしなかった左手。普段の生活で形を潜めていても、まことに見抜かれた衝動的なこの左手。こうやって湧き上がる欲望も、それを抑える方法も、まことだけが、知っている。

「ひとの、せいに、しないで」

 レイは、掠れる声で、やっと言葉を絞り出した。幾分か喉が震えてしまったので、もはや説得力はないだろう。だが、この左手を受け止めたいと、彼女から言ってくれたのなら。

「そうだね」

 右利きなのがもともとそうだったのか教わったからなのか、今となっては判別がつかないように、この左手が官能を求めるのは、レイが左手で矢を引いたようにもともとそういう性質なのか、目の前の彼女に欲望を植え付けられてしまったのか、もはやわからない。

「でも」

 手のひらを、手首の辺りから指の根元まで舐めあげられる。その動きで、レイの指先がまことの前髪にかかった。前髪が浮くことで指の隙間からまことの目がいくらかはっきりと見えた。一瞬だけ、それも指の隙間からしか見えなかったまことの目。まことがレイに普段と違うと言ったみたいに、レイにもそのまことの目は普段とは違って見えた。
 レイは、その目に射抜かれた。植物の種のようにいつの間にか根付いていたこの感情は、こうやって時折雷のような激しさでレイを穿つ。

 その顔を、誰にも見せたくなかった。

「あたしも、ちゃんと、おりこうにしてた、だろ?」

 そうやって甘やかされて、欲望に引きずり込まれる。
 次のくちづけはくちびるに。ずるりと口唇から引き剥がされた左手はまことの手に添えられて、いささか乱暴に服を割り込み彼女の欲望の源にたどり着く。あるべきところに来た左手の、指先に甘苦しい痺れが弾けた。









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