まこちゃんと二人で道を歩いていると、ふとまこちゃんがとある百貨店のポスターを見つめた。それはマニキュアのポスター。
まこちゃんってば、強面に見られがちだけど実は乙女なのよね。実際、最近丸くなった表情を見てると、特にわりと釣り目気味のレイちゃんと並んだときなんかは、可愛らしいと思うほど。勿論レイちゃんと並んだときは大抵まこちゃんはいい笑顔だけどね!
「まーこちゃん、何、マニキュア欲しいの?ネイルアートとか」
「あ・・・いや、別に」
「なーに言ってんのよぉ!今更遠慮するガラでもないでしょ?それとも恥ずかしい?」
「い、いや、本当にそうじゃないよ。ただ、あたしたちの周り、あんま爪のおしゃれしてる子いないなぁと思ってさ」
「・・・あー、そういえば」
「あたしはほら、雑誌とかでモデルがやってるのを見て可愛いとは思うけどさ、あんなに爪長いと料理が出来なくなるし、植物触るのにも気を遣うからしないんだ」
「成程。あたしもまこちゃんが爪を気にして料理を作ってくれないのは嫌だわ~」
「レイちゃんは深爪って訳でもないんだけど、巫女さんだからあんま派手な装飾とかしないみたいだし、何よりマニキュアや除光液の匂いが苦手なんだって」
「流石レイちゃんのことには詳しいわね~」
「まあね」
「(まこちゃん最近からかい甲斐がないわ・・・頬を染めないでよ・・・)」
「亜美ちゃんもしないだろ?亜美ちゃん、正直あんま興味なさそうだしね」
「『爪が長いと読む本が傷むわ』とか言いそうよねぇ~」
「美奈も案外しないよな。そーゆーことは好きそうなのに」
「あ、あ・・・えっと、それは・・・」
「あ、不器用だからうまく出来ないんだろ?」
「違うわよ失礼ね!あ、あたしは、ほら、バレーボールやってるから・・・爪伸ばせなくて・・・」
「ああ、そっか。バレーは手を酷使するもんね」
まこちゃんはそこで納得してくれたけど、あたしは思わず自分の短く切り揃えられていた爪を見つめた。
「ってまこちゃんと喋ってたんだけどね」
所変わってここは亜美ちゃんのお部屋。押しかけてきたのはいいけど亜美ちゃんは読書に夢中であんまり構ってくれない。だからあたしはせめて返事がもらえるような言葉を話しかける。
この人の爪も、短い。
「亜美ちゃんは爪のおしゃれしないの?」
「んー・・・長すぎる爪って邪魔だと思うし、読んでる本に傷を付けちゃったりすると思うから」
予想通りの答え。
亜美ちゃんは目線を相変わらず本から外さずにページを繰る。耳と目の同時進行は流石と言うか。昔のお札の人かってーの。
どうせなら目も耳もあたしの方に傾けて欲しいのに。
「そういえば美奈も爪が短いわね。深爪なくらい」
亜美ちゃんはやっぱりあたしの方を見ない。何その態度?本のほうが大切?それともこっちなんて見なくてもあたしのことなんかわかってるとでも言いたいわけ?
派手なネイルアートはしてないけど、深爪なんてじっくり見なきゃわかんないのに。
「あたしは・・・」
「バレーボールでしょ?そもそも、爪が長いなんて、どんな競技であれスポーツをやっている人の精神に欠けるわ。自分が怪我をするだけでなく誰かを傷つけたりする可能性だってあるのだから」
はい、カタブツ全開の答え頂きました。あたしは再び自分の爪をまじまじと見つめる。
あなたの言葉は、あたしがバレーやってるって事実の推測から出た言葉なの?それは知性の戦士だから?それともあたしのことを知ってるからそんなことが言えるの?
腹立つくらい何考えてんだかわかんない。
実は、流石にネイルアートの雑誌に載るようなほどではないけど、バレーボールをやっててもそれなりに爪の長い子は女の子では結構いる。テーピングすれば保護だってできる。
そんな中、この愛の女神たるあたしが、深爪に甘んじている理由は。
「亜美ちゃん、あたし・・・」
「あっ・・・ご、ごめんなさい!お客なのにお茶も出さないで・・・いつも美奈とは一緒にいるからつい・・・」
亜美ちゃんはいきなり本を置き、慌ててばたばたと台所に駆けて行った。あたしは去りゆく彼女の後ろ姿を複雑な思いで見守る。
嬉しいのが、いつも当たり前に一緒にいると思ってくれていること。ムカつくのが、未だに客扱いなこと。
どうせ同じ客扱いなら、本なんて読んであたしを放ってんじゃないわよ!
「あーあ」
あたしは亜美ちゃんのベッドに勝手に倒れこんだ。
「一生爪なんて伸ばせないわよ・・・」
あたしが深爪でいるのは、いつだって彼女があたしを受け入れてくれてもいいように。水泳が好きで人より肌を露出する機会が多い彼女に、間違っても爪あとなんか残さないように。
こんなに気を遣ってるのに、いつまでプラトニックな仲は続くの?
「お茶請けもあるんでしょうねー!?」
あたしは悔し紛れにお茶を用意してるであろう亜美ちゃんにがなる。すると愛想無い返事が帰って来た。
「・・・クラッカーならあるけど?」
「味付いてるやつ?」
「無糖」
いっそ何もないと言ってくれたほうがマシだ。この中途半端さが腹立たしい!
そんなあたしの心中を知らない彼女はお盆に湯気立ち上るお茶と、見るからに味のなさそうなクラッカーの器を持ってやって来た。
「それ、まずそう・・・」
あたしはベッドの上からお茶をひったくるようにして、啜った。何だか異様に甘ったるい。甘いものが好きなあたしでも、水野家から出て来るものの甘さの許容量を越えている気がしてびっくりした。
すると亜美ちゃんはあたしの口に薄っぺらいクラッカーを一枚押し込んだ。まるでカードリーダーにカードを押し込むみたいに。
「こうすればちょうどいいでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あたしは口が塞がって何も言えない。亜美ちゃんの人差し指は相変わらずあたしの唇を押さえているから。仕方ないので租借して飲み込むと、水分を吸ったクラッカーは蜜をを纏ったみたいなほどよい甘さになって喉に落ちた。
「・・・おいしい」
「でしょ?私もこの食べ方気に入ってるから、クラッカーは無糖なの。美奈にも試してもらいたくて」
亜美ちゃんは策が成功したマーキュリーとは少し違う悪戯っぽい表情をする。何か、悔しい。あたしは何も言えなくてせかせかとクラッカーを口に押し込む。
それなのに亜美ちゃんはクラッカー一枚かじりながら、ぼそりと呟いた。
「・・・爪、切ってて良かったわ」
「・・・何で?」
「こんな風にちょっと強引な手に出ても、あなたを怪我させずに済んだから。たまには強引に何かをされてみるのもいいでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
亜美ちゃんは人差し指をひらひらと動かしてみせる。先ほどあたしに押し付けた、指。
あたしにたまに何か強引なことをするために、その爪は短いとでも言いたいわけ?あたしがこんなに我慢してるのに、あなたはあたしの望まないところで平気でそんなことをするの?
それともこれは、あたしに強引なことをして来いって遠まわしに言ってるの?
「・・・あみちゃんの、ばか」
「・・・え?」
わざとやってるなら腹立つ。天然でやってるんなら尚更腹立つ!本を読みながら人の話聞く能力があるんだったら、もっとあたしの気持ちを察せっての!
口の中は甘ったるい筈なのに、何となく次のクラッカーはしょっぱく感じた。
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なんかぐだぐだ・・・美奈の空回ってる紳士っぷりは常に財布にコ○○ーム入れてる男と共通するものがある気がする(笑)
まこレイ編に続くかもしれないデス。
さて、明日はちょっと山に修行(?)に行って来ます。生きて帰って来れますように。
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