プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

サンドイッチ

2015-11-24 23:59:30 | SS





「ふふっ」

 亜美はこぼれる笑みを抑えることができなかった。それがとても失礼で不躾なことだとはわかっていたが、相手が彼女であるという信頼感が亜美をそうさせているのだ。そして、それがまたうれしくて、亜美は口元が緩む。

「・・・なにがおかしいのよ」

 たとえ、棘のある言葉が返ってくることは予想できていても。そして亜美の想像通りご機嫌とは言いがたい顔でこちらを睨んでくるレイを、亜美は遠慮がちな笑みで返した。

「いえ、べつに」
「・・・みっともないって?」
「そんなことは・・・ちょっと、かわいいとは思ったけど」

 それはとある休日のこと。
 学校で、定期考査ではない試験が学校であるというレイが、亜美に勉強を見てくれないかと頼んだのがはじまりだった。いつものほかのメンバーは試験ではないからと尻尾を巻いて逃げだしたことで、亜美は自分の部屋で、珍しくレイとふたりきりで勉強をしていたのだ。
 しかし、教えてほしいと言ってはいたものの、さすがにレイは要領がよく、亜美の部屋でもくもくと問題集をこなしていた。亜美は自分の出番があまりないことにさみしさを感じつつ、それでもレイが自分を必要としてここに来てくれたこと、そしてときどきレイが思い出したように声をかけてくれるのがうれしくて、レイの勉強を見守っていたのだ。

 そして、勉強もひと段落、いい時間だからお昼でもいっしょに、となったところで問題は起きた。

「レイちゃん・・・」

 昼食に、サンドイッチを出した。亜美にとっては作るのも食べるのも慣れ親しんだものだったし、正直なところ舌の肥えたレイにしっかりした料理を振る舞う度胸もなかったからだ。勉強に来た人を外に連れ出すのもどうかという気もあった。
 そんな風にいろいろ考えた上で亜美はサンドイッチを出したつもりだった。だが、残念ながらレイに片手でしかも片手間で食事を嗜む習慣はなかったらしい。正座をして行儀よく両手を合わせた食事を始めたレイの両手から、さほど分厚くないはずのサンドイッチはぼろぼろと崩れこぼれおちた。

「・・・ごめんなさい、手ごろな大きさに切って出すべきだったわ」
「・・・亜美ちゃんは、片手で食べられるから好きなんでしょう。サンドイッチ」
「そうだけど・・・私は慣れてるっていうだけで」

 顔の周りや服が悲惨になってしまったレイを見て、慌ててティッシュを渡したのはいいけれど、特に慌てたり騒いだりしてはいないレイの態度と、口の周りにケチャップが散っている姿がアンバランスで、亜美は思わず笑ってしまったのだ。

「でも、レイちゃん、意外と不器用なのね」

 意外な一面が見られてうれしい、亜美はそういう意味で言ったが、レイは亜美の差し出したティッシュを受け取りながらも、睨むような目線をよこしただけだった。こんなあからさまに笑ってしまったらさぞ失礼だろうなと亜美は思いながらも、口の周りや手や服をべっとりと汚したレイはまるで子どものようで、やはり見ていて頬が緩んでしまうのを止められない。
 レイと言えば戦士の時はもちろん普段から隙がないから、こういう一面を見ると、むしろどこか安心してしまう。
 すでにレイの顔周りは綺麗になっていた。顔を汚したレイはそれはそれでかわいかったが、そんなことを言おうものならおそらく相当に機嫌を損ねてしまうことは間違いない。亜美はごしごしと不器用に服についたケチャップを拭うレイを制し立ち上がる。

「笑ってしまってごめんなさい、レイちゃん。でも、その服は脱いだ方がいいわ」
「脱ぐ・・・?」
「ちゃんと洗った方がいいわ。着替えは貸すから、ちょっと待っててもらえる?」
「ああ・・・そう。確かに、そうね」

 レイは亜美の言葉いあいまいにうなずくと、亜美の前にも関わらず勢いよく服を脱ぎ始めた。ケチャップが染みて不愉快だったのかもしれないが、着替えを持って来てから脱ぎ始めるものだと思っていた亜美は目を丸くした。目のやり場に困る。

「れ、レイちゃ・・・ちょっと待って、風邪引いちゃうわ」
「脱げって言ったんでしょう、亜美ちゃんが」
「そうだけど・・・すぐに着替え持ってくるから、もう少し待って」

 思いのほか、レイの態度はそっけない。確かに亜美が作ったサンドイッチで、しかもそれが原因で服を汚してしまったら、いい気分はしないだろう。しかも思わず笑ってしまったのだし。亜美は少し内臓が冷える感覚を味わいながら、それでも亜美の忠告を聞かずさっさと服を剥がすように脱ぐレイに顔ばかりが熱くなる。

「・・・で」

 レイは冷めた目で亜美を見つめている。

「亜美ちゃん、私はいつまで待てばいいの」
「そ、それは・・・手を離してもらわないと」

 服を脱いで、上は下着姿だけになって、レイは着替えを取りに行こうとしていた亜美の手を掴んで阻んでいる。華奢な割に力のある腕は、亜美に痛みは与えないまでも、確実に行動を阻害していた。ここから動くなという明確な意思を、腕から感じる。

 それが亜美には理解が出来なくて、戸惑った。もう先ほど見たいにレイをかわいいと思う余裕はない。

「手を離してなに?着替えを渡して、洗濯機を回して終わり?」
「・・・そこから、お勉強を再開して」
「ああ、そうね。それが目的でそもそも来たのだものね」
「・・・ええ」

 それでも、レイの腕は亜美を掴んだままだ。レイの意図が図れない亜美は困惑するしかない。勉強が嫌でこんな間を取っているとは、レイの性格上思えない。そもそもレイからやってきたのに、勉強という目的を今更思い出したような態度を取って。
 だけど、不思議と怖いとは思えなかった。それは先ほど笑ったときと同じ理由、ただ信頼があるからだ。相手がレイで、それだけでレイがいかな行動に移ろうとレイのことを不快に思わない自分に対する信頼があるから。

 ただ、それでも、意図が図れないのは厳然たる事実で。レイの目線から逃れたくて思わず下を向いて、でも下着姿を見つめるのも気が引けて、思わず顔をそらしてしまった。

「でも、亜美ちゃん」

 それも、しかし許されなかった。レイは自由なもう片方の手で亜美の頬に、やはり痛みは感じないまでも抵抗できないほどの力で自分の方を向かせる。強引な仕草のあと、一拍遅れてやってきたのは、とても、とてもやさしい口づけ。

「・・・誰が不器用だって?」

 微かにケチャップの味を感じながら、思考の止まった亜美の唇から静かに離れていくレイの表情はほんの少しだけ不機嫌そうで、それでもどこかしてやったというような。亜美がかわいいと思って言った言葉は意外なことにレイの火をつけてしまったらしい。くらくらする頭で、亜美はレイの顔を見る。

「レイちゃん、お勉強・・・」
「言うと思った」
「なら・・・」
「それより、亜美ちゃんに不器用と思われたままでいたくない」
「レイちゃ・・・」
「そっちの方が待てない」

 今度の口づけは強引で、もう亜美は逃げられないことを悟る。あり得ないだろうが、これが原因で万が一レイが再試になって、またふたりで勉強なんてことになったら、そのときはサンドイッチだけは用意すまい、亜美はそう思った。






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 レイちゃんはサンドイッチとかハンバーガーとか食べるの下手だと思います。
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