プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

存在の証

2010-10-29 23:48:48 | SS




「私、エターナルのフォームには納得できない」

 その言葉を聞いたせつなはパソコンのキーボードを叩く手を止める。唐突なことを言ったのだろうか、とほたるは思いながらせつなのリアクションを待つ。
 さっきから仕事で一心不乱にパソコンに向かっていて、部屋のドアを開けて背後から暫く見ている自分に気づいていないのか気づいて無視しているのか―恐らく後者だろう。無視していると言うよりは、ドアを開けるだけ開けて部屋に入り込むことも声をかけることもなかった自分に構わないのは正解と言えるのかもしれないが。

「エターナルのフォームって・・・エターナルセーラー戦士のことですか?」
「聞いてたの?」
「聞こえたんです。独り言は誰かが聞いた時点で盗み聞きになりますから」
「盗み聞いてるなら返事しないでよ」
「聞くだけだから盗み聞きなんです。返事をすれば会話になりますから」
「・・・じゃあ聞いて。私、エターナルセーラー戦士のコスチュームがどうも気に入ってないのよ」
「どうしてです?私たちも内部戦士もプリンセスもパワーアップできたじゃないですか」
「デザインの問題」

 ほたるはそっけなく答える。
 ほたると言えば、今回の全戦士のエターナル形態への覚醒―それは何度目かの地球侵略に危機に陥っての折であったのだが―それに際し急激に肉体的な成長を遂げ、再び戦士として覚醒した。そして、過去の記憶も取り戻した。デスバスターズとの戦いから、月の世界のシルバーミレニアムのことも、鮮明に。
 永劫に似た時を過ごしてきたプルートに比べれば、サターンに記憶が残るような時間など、瞬きをする暇のようなものではあるのだが。
 そしてその短いサターンの記憶の中にあるプルートは月の世界でも、デスバスターズとの戦いでも、その姿はエターナルのフォームではないシンプルなセーラー姿であったのに。

「コスチュームのデザインですか。それは・・・どうしようもないですね。少なくとも私には」
「そうだけど」
「じゃあどういう風なのが良かったんですか?」
「前のままでよかったのに」

 そう言うとほたるはようやく部屋を横切った。そのまま椅子に座るせつなの首に後ろから緩やかに手を回す。再覚醒する前はよくこのままじゃれ付いたりしたものだけど、変な羞恥心を知ってしまった今、それが出来ないのが少しだけ憎らしい。
 だけど、なら尚更幼いままと同じ態度では困る。

「あなたはエターナルフォームも充分似合ってますよ」
「私の問題じゃないの」
「誰か極端に似合ってない人いました?」
「・・・あなた」

 『あなた』なんて呼び方は、幼いうちはとても出来なかった。怒られると言うことはないだろうけれど、変に思われたりしないだろうかとほたるは微かに緊張する。だが腕の中の番人はにこやかに笑うだけで。

「困りましたね。似合ってないからって私の一存で戻るわけにもいきませんし」
「・・・似合ってないとかそういう問題じゃないの。ただ、私は・・・プルートにはノースリーブでいて欲しかったのに」
「袖ですか。確かに・・・エターナルフォームは袖が付きましたね」
「それが嫌なの」
「どうしてですか?」
「・・・痕が見えない」
「・・・あと?」

 せつなが何を言ってるのか、と言う風に眉を微かに動かす。ほたるは手を首に絡めたまま、せつなのシャツの袖を捲くる。今年はいつまで経っても暑いままなので未だ半袖の彼女の二の腕は簡単に露になった。そしてその露出した部分に指を這わせていく。

「・・・痕」
「あと・・・ああ、はんこ注射ですか?」

 腕に残るは、ぽつりぽつりと肌にくっきり残る痕。せつなは色黒だから人よりはやや目立ちやすいそれは、綺麗な肌に奇しくも映えているのだ。ただの傷痕なのに、微かな色気さえ伴うそれは。

「・・・見えないじゃない」

 彼女がこの地球、この時代に生まれてきた証なのに。
 月の時代に見たプルートの腕にはこの痕はなかった。しかしデスバスターズと戦った折、サターンとして覚醒した後見たプルートの腕には、この証が。
 普通の女の子として生まれ、愛されて育ってきた証明の痕であると言うのに。変身した後でも、あの痕があれば自分たちは前世の歪の産物ではなく確かに生まれ変わり、改めて幸せになるために地球で生を享けた証なのに。
 袖がなければ、例え変身していても、セーラープルートの姿であっても彼女が冥王せつなとしてこの世に生を享けたことを確認できていたのに。

 知ることすら禁忌だった彼女の、現世での存在の証。

「痕が見たいんですか。どうして?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それにしても随分唐突ですね」
「・・・誕生日だから」
「え?」

 ほたるは質問に答えず、それでも肝心要のことは口に出す。隠しておいて本意が伝わるかと言う懸念をしている自分は全く身勝手だと思いながら。

 口に出せない自分は子どもで、敢えて聞こうとしない彼女は大人なのだろう。

 誕生日だから、存在の証を実感して欲しいけれども。言ったところで彼女はむしろほたるの心に巣食うこの感情を、気を遣わせてしまったと必要以上に心配し自分の事など顧みないのだろう。

 それが母親というものだから。

 だけどほたるとて、再成長した今、そんな感情をただ向けられるだけで満足できていたころとは違っている。また彼女の誕生日、数ヶ月だか彼女との年齢差が更に開いてしまうことをどれだけ気に病んでいるのか、きっとせつなは知らない。知られたくもない。

 だから行動に出る。

「・・・ほたる?」

 ドラマや小説に出てくるようなロマンチックな雰囲気もなければ、特別な味がするわけでもない。ただ痕に唇を触れさせたと言う子どものような独占欲めいた行動。
 それは分かっていても、どうしてもしたかった。俄かにほたるの顔に熱が上がっていくが、当のせつなと言えば特に表情を変えるわけでもなく。

「私の腕、おいしんですか?」

 真顔でそんなことを言うものだから。

「・・・ばかぁっ!」

 ほたるはそのまませつなから離れると、顔を見せないように小走りに部屋のドアまで歩いた。もうせつなの顔が見られなかった。
 それでも出て行かないのは次の言葉を期待してしまっているからなのに。

「・・・冷凍庫にアイスがありますから、食べるのならそっちにしなさい」
「せつなさんのばか!!」

 今度こそ、ほたるは部屋から走って出て行った。目に微かな涙を浮かべながら。





 ぱたぱたと廊下をかける音が遠くなっていく。せつなは椅子に座ったまま、ほたるに口付けられた傷跡に触れる。『痕』そのものは自分では意識したことは無かったものだったのだが。

「・・・子ども扱い・・・しすぎましたかね」

 せつなの中にあるプルートが持つサターンの記憶。確かに体は小さいが、その瞳は星の破滅と言う重責を持つに相応しい風格を持つものだった。彼女は僅かな刹那しか目覚めることなく、世界を終わらせ再び目を閉じる。そして再び転生して、彼女がサターンとして目覚めたときも、また。
 だからもう一度赤子として生まれ変わってきたとき、その目が無邪気に純粋に幼い子どものものだったのがせつなには嬉しかった。眠りから目覚めたときも眠りにつく前も、その目は普通の子どもと変わらないもので。
 戦士としてまた彼女は目覚めてしまったけれど、もう破滅に突き進むだけの役割を与えられた戦士ではない。かつて自分が生きてきた時は永劫で、かつて彼女が目覚めたときは刹那で。でも今は長く時を共有し、共に戦い、これからも成長していく同志であるのだ。

 だから。例えママと呼んでくれなくなっても。

「・・・もう少しだけ親子でいたいんです」

 彼女の気持ちに敢えて気づかないふりをするのが、自分への誕生日プレゼント。少し残酷なことではあるけれど、それでももう少しだけ、今の、子どもである彼女とこのままでいたいのだ。

 せつなはふっと息を漏らし袖を戻すと、パソコンの画面をシャットダウンし立ち上がった。そして部屋から出、リビングに向かう。

 いつもと同じ笑顔で。

「・・・ほたる、私にもアイスありますか?」


 いつもと同じ穏やかさで、せつなはほたるの頭をゆるりと撫でた。








         ******************


 せつな誕なのでせつほた!管理人の外部の本命カプなので他の外部誕と比べこの気合いの入りよう(笑)はんこ注射の痕ってエロいよなーとか色黒の方が目立つよなーとか思いついたら止まりませんでした。しかし難しい・・・

 せっちゃんて何となく『何をされてもあんまり動じない人』というイメージがあります。亜美ちゃんの冷静さとまこちゃんの穏やかさを足して2で割らない感じ。大人だから?
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