プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

ある災難

2009-03-01 23:51:21 | SS
 


 衛星である月の王国にも、昼夜の概念は存在する。ドーム内で全てを管理されてはいるが、そこには四季があり、天候が変わり、きちんと朝は明るく夜は暗くなるようプログラムされている。


 ある夜。既に宵闇は深くほとんどが寝静まった王国のパレス内の小さな一室で、一人モニターを相手にキーボードを叩く青い影があった。王国のプリンセス直属の四守護神の一人、智将マーキュリーである。
 別段珍しい光景ではない。彼女の仕事はデスクワークが多く、それは深夜までもつれ込むことも少なくない。簡素な机と椅子と小さなノートパソコンだけという非常に殺風景な部屋で、彼女はよく仕事をしている。それは周知の事実であった。

 最も、マーキュリーはデスクワークが遅いと言うわけではない。彼女が夜まで仕事をする理由は、他の守護神たちの仕事の遅さの尻拭いをしているからに他ならないのだ。ジュピターはデスクワークに根本から向いておらず、マーズは機械を扱うのが苦手、ヴィーナスはリーダーでありながらどうやってサボるかと言うことばかり考えている節がある。何度文句を言っても改善されない彼女達に、最早愚痴さえ出てこない。ぱちぱちと淀みなくキーボードを叩く音と、コンピュータの微かな機械音のみが部屋を満たしていた。
 
 しかし突然、そのマーキュリーのタイピングが、止まった。
「…暑いわね…」
 パソコンが熱を持ったか、じんわりと額に汗が滲むのを感じた。座っているだけで汗をかくとは室温がかなり高いはず。一応コンピューターを扱う部屋は少し温度を低めにしているつもりであったけれど、と首を傾げつつ空調を下げようとした瞬間、けたたましい爆音が響いた。
 ずどん、ともどすん、ともとれない鈍く低い、何かが爆破されたような音。目の前のモニターが三重にも四重にもブレて見えた後、机と椅子がひっくり返った。無論座っていたマーキュリーと置かれてあったノートパソコンを道連れに。
「きゃっ!!」
 受身を取る暇も無くまともに後頭部から落ち、ごちんと派手な音がした。更に頭の上にパソコンが落ち、額からもティアラとパソコンがぶつかり割れる音がした。しかし爆音の余韻かその音はマーキュリーには聞こえない。目から火花が散るような衝撃に呻きつつ、即座に起き上がる。
「っ…何なのっ!?」
 賊か、それとも妖魔か。何れにせよ尋常ではない。外部からのそういうものの出現はある程度予知できるはずだ。自分やマーズの力が及ばないところで何かが侵入していたのか、それとも―内部からの崩壊か。
 どちらにせよ恐ろしいことである。マーキュリーはこみ上げる恐怖を抑え考えうる限りの被害を想定しながら、壊れたパソコンを見やることもなく音のした方へ駆け出していた。



 部屋の外は既に焦げ臭さと煙が立ち込めていた。匂いと先ほどの音から察するに現場は近そうである。恐らくは四守護神の私室の一角。被害がここだけならプリンセスやクイーンに被害が届くということはないだろうが、まだ何もかもはっきり分からない。
 四守護神の個人的な私室が近いということは―
「…マーズ!ジュピター!ヴィーナス!」
 恐らくは静かに寝ていたであろう彼女たち。それぞれが太陽系惑星の守護を持っているとはいえ、余りにも予想外の襲撃だ。最悪の事態が頭を掠めて、必死に振り払う。
 匂いと煙が強くなる。角を曲がれば四守護神たちの私室が見えるが、視界が悪い。マーキュリーはゴーグルのスイッチを入れた。世界が俄かに青くなり、視界が晴れる。


 その時、視界を確保したことによって、マーキュリーは四守護神として致命的なミスを犯した。四つ角―死角を確認せずに一歩踏み出そうとしたのである。
 無論普段のマーキュリーはそんな初歩的なミスはしない。裏を返せばそれだけ仲間たちの安否が頭を占めていたと言うことなのだが。


「Σっきゃあぁ!!?」



 角を曲がる―直線移動からから直角に進行方向を変えることは自然、スピードが落ちる。その自然の説理がマーキュリーを救ったと言っていい。
 ともあれあとコンマ数秒タイミングがずれればマーキュリーは骨も残さず焼け死んでいただろう。目の前を巨大な火柱が掠めたのである。更にコンマ数秒後、思わず立ち止まるマーキュリーの耳に先ほど以上の爆音が届いた。凄まじいまでの地響きに真っ直ぐ立っていられず思わず尻餅をついた。
「なっ…!!」
 ゴーグルは通常ではありえないほどの熱反応を示していた。今更反応しなくても、と言うのがマーキュリーの正直な感想であったが、自分の相棒とも言えるゴーグルに向かっていちいち突っ込むような愚かな真似はもちろんしない。
 知性の戦士の名を拝命して早幾年、常に冷静であることが『マーキュリー』の性質であり、絶対条件であり、アイデンティティの一つである。
「(…落ち着きなさいマーキュリー、考えて、考えて、考えて…今のところ確認出来たエネルギーの放出は2回。少なくとも今ので通常の爆撃ではないことが分かったから、賊などの襲撃ではないわね…近隣の星でここまでの力のある爆発物を開発する様子は無かったし…ひそかに隠し持っていたとしても、それなら二回連続同じ場所に仕掛けることは有り得ない…陽動の可能性は…それか強い熱の力を持った妖魔か…敵が一体ならプリンセス達に被害はない…敵は…)」
 ポケコンを取り出すまでの僅かな時間の中でもマーキュリーの頭脳は不可能を弾き可能性を選りすぐっていく。警戒態勢は解かないでいたままだ。
 ポケコンやゴーグルに気を取られるのは、戦場ではかなり危険な行動なのだ。仲間がいれば基本後衛に回り本領を発揮できる彼女であるが、独りであるからといって戦えないというような鈍らな戦士でもない。頭では何パターンもの仮定を組み立てつつポケコンを見遣るタイミングを見計らっていた。



 しかし彼女の杞憂は、その後聞こえる声によって、彼女自身が持つ能力の名をそのまま借りて『水』泡に帰すことになる。
 確認できなかった死角から、声が張り飛んできた。




「待てってマーズ!落ち着け!話せばわかる!」
「うるさいッ!出て行け!悪霊退散!」
「そんなこと言われたって…あんただって嫌がってなかったし…!」
「ふざけないでジュピター!あなた、私の生活リズムなんて知り尽くしてるくせに!!朝は祈祷があるって言ってるでしょう!」
「さ、最初はあんただって善がってた、だろぉ!!いきなり技を放つなんて…!」



 声の主。見なくても分かった。全ての問題。これまた見なくても分かった。―もう考える必要はない。緊張感が失せ一気に現実に引き戻される感覚がした。打った頭が無駄に痛い。



「…痴話喧嘩?」




 恐らくは深夜に宜しくやっていた二人が派手な喧嘩に発展した、と言うことだろう。




「ああもう!マーズ!あたしが悪かったから落ち着けって!」
「私は落ち着いてるわよ!むしろ落ち着くのはあなたの方よ…一回だけって言ったのに!ジュピター!煩悩退散してあげるわ、ハイヒールでおしおきよ!」
「ちょっと待てぇ!ほんとにあんたの方が落ち着け!こんなパレスぶっ壊したなんて、クイーンやヴィーナスは兎も角マーキュリーさんにバレたら…」




「私にバレたらどうなるのかしら。ジュピター?マーズ?」




 彼女達は本当にバレないとでも思ったのだろうか。軽い眩暈を感じながらマーキュリーは、ポケコンもゴーグルも解除して、最早危険でもなんでもない死角に足を踏み入れた。
 無論戦闘態勢は解かないまま。前を見据えればジュピターが固まっていた。その後ろには恐らく火球を受けたであろう壁の破片が未だ煙を燻らせている。背後を見る必要はなかった。マーズがいることは分かっていたから。


「Σげっ!!?マーキュリーさん!!?何で!!?」
「何で?あなたたちこそ何?こんな夜更けに随分楽しそうじゃない」
「い、いやぁ~…」


 ジュピターはへらへらと笑うが、その表情は引き攣ったままだ。当然である。自分の仲間であり、リーダーでもサブでもないのに何気に四守護神を束ねている存在であり、怒らせると誰よりも怖い人が目の前で沸騰寸前の怒りのオーラを湛えているのだから。マーズは固まるしかない。


「で、二人。これはどういうことかしら?」
「…………見たまんま、デス…」
「見たまんま、ねぇ…私だってあなたたちをずっと監視してた訳じゃないからよく分からないのだけど?」
「「………………………」」
「コレはあくまで私の推測に過ぎないのだけど、聞きたい?」
「…いえ、結構です………多分当たってるから」
「そう、じゃあ、私が何を言いたいのかも分かるわね?」
 マーキュリーの口角が上がる。その場の空気に余りに不釣合いなその笑みは、正面にいたジュピター、その表情を見ずとも人の感情に敏感なマーズを心胆寒からしめるに充分だった。
 マーキュリーの戦士としての能力は知性。水。そして、氷。マーキュリー自身が技を放ったわけではないが、取り巻く空気がどんどん冷え込んでいく。
「…こんな夜更けに!私たちの使命はこのパレスを護る事であって破壊することじゃないのよ!!しかも何て不潔な理由で…!そんなことのためにあなたたちが溜めた書類作業やってたんじゃないわよ!!」
 夜のパレスにマーキュリーの声がこだました。ジュピターとマーズに反論する道理も勇気も無かった。縮こまって聞いているしかない。
「…とにかくっ!あなたたちの処分はリーダーに任せるわ…ヴィーナス!」

 そこでふと気付く。コレだけの騒ぎでありながらこの場にヴィーナスの姿がない。
 もしやプリンセス達のところに一番に馳せ参じたのではと思ったが、それならば四守護神たちの私室の前でやっているこの痴話喧嘩に気付かぬはずは無いだろう。マーキュリーの頭に、再びある仮定が確信に近い形でよぎった。


「…ヴィーナス!!」


 マーキュリーは目の前の2人を無視し、いきなりノックもせずヴィーナスの私室の扉を蹴破るほどの勢いで開いた。―普段の彼女ならありえないこと。怒る時は誰よりも怖いが、物に当たるような行為に出ることはまずないからだ。ジュピターとマーズも目を見開く。

「ヴィーナス!ヴィーナス!!」

 先ほどの騒ぎのせいか荒れた室内の奥、立派に備え付けられた天蓋付きのベッドから放り出された姿で、シーツを乱し枕を抱いて寝息を立てる人物。
「………」
 マーキュリーの確信はこの瞬間確定に変わる。
 コレだけの騒ぎが起きてなおも眠っているヴィーナス、ある意味大人物には間違いないのだが。その安らかな寝顔はいちいちマーキュリーの神経に障る。
 頭の血管が切れそうになりながらも、マーキュリーはベッドに歩み寄り、腰を下ろすと出来るだけ冷静に言った。しかし体を揺する手つきは少し乱暴だ。

「…起きなさいヴィーナス、ヴィーナス!」

 その刹那、ヴィーナスはまるで魔術師に蘇らされたゾンビのように不気味な速さで体を起こす。そして耳の痛くなるように高い声で予期せぬことを言い放った。
「Σえぇッ!!?ちょ、マーキュリー!?何、夜這い!?いやん、やっぱりマーキュリーちゃんてばあたしを狙って…」
 ヴィーナスは即座に自分の胸に手を当て体を守るようなしぐさをする。その表情は真剣そのものである。

 ―寝起きで早々何を言うか。論点は全くそこじゃない。誰が誰を襲うと言うのか。王国一を誇る頭脳に高速で文句とも突っ込みともとれない言葉が流れる。

 かちん。

 マーキュリーの中で何かが切れる音がした。幻聴かもしれないが。普段なら適当にあしらう軽口も、昂ぶったマーキュリーには神経を逆なでするものでしかなかった。
「…っふざけないで!!私はあなたに夜這いかけるほど暇じゃないわよ!そもそもあの爆音でどうして起きないの!?それでもリーダーなの!?」
 ヴィーナスにとってはそれはある意味八つ当たりでしかないのだが。しかし流石に危険を察知したのか、佇まいを慌てて直した。寝起きに耳元で叫ばれ頭が痛かったが、マーキュリーがこんな、人の寝込みを襲う(?)などただ事ではないだろう。寝惚けた頭でもそれははっきり分かる。何が何だか分からないが、とにかくマーキュリーをなだめようと声をかける。冗談を言っている場合ではなさそうだ。
「…そ、そんなこと言われても…何でそんなに怒って…」
「…何でって?大体あなたは責任感が無いのよ!リーダーの癖に遅刻サボりの常習犯、挙句デスクワークのほとんどを私に押し付けて!私が過労死したら化けて毎晩あなたの枕元に出て祟ってやるんだから!!」
 マーキュリーの口から出てるとは思えないほど非科学的な発言ではあるが、それだけキレているということなのだろう。
 触らぬ神に祟りなし、流石にヴィーナスもそれは心得ている。今のマーキュリーに逆らってはいけない。
「と、とにかく落ち着いてマーキュリー。冷静さがあなたのアイデンティティでしょ?」
「誰のせいでこんな目に遭ってると…」

 くらくらと眩暈さえ感じてマーキュリーは頭を押さえる。先ほど前から後ろから打った頭ががんがんと痛い。パレスの一部を破壊して復旧はどうするか。クイーンにはどう説明するか。費用はどこから出すか。ジュピターとマーズの処分をどうするか。それでなくても多忙な体に新たな問題が舞い込む。

 

 ―多忙と言えば。そもそも自分がこんな時間まで起きていた理由は。



「書類!」



 先ほどの惨劇。パソコンとマーキュリーの頭突き対決はティアラの力を借りてマーキュリー側に軍配が上がったのだ。―完全なる作業中でバックアップなど取っていない。データは恐らく全て飛んだことになるだろう。今までの苦労は当に泡沫の如く弾けた事になる。



「…………………っ!!!」
「…マーキュリーさん?」
「…マーキュリーちゃん?」
「…マーキュリー…?」



 頭の中が真っ白に―ならないのは知性の戦士たる所以。無論それが幸か不幸かはマーキュリー本人にさえ分からないが。
 ただ、残りの三守護神たちには間違いない不幸であった。熱の篭っていたはずの空間が、今度は比喩表現でなく急激なスピードで冷え込んでいく。






「…全員ッ!頭を冷やしておしおきよ!!」







「あたしは関係ないじゃない!」
「ジュピターのせいでしょう!」
「パレスぶっ壊したのはマーズだろ!」






 篭る熱と吹き荒ぶ寒風の入り混じる中でもいつもどおりの夜明け。四者四様の思惑をよそに、嘘のような爽やかさで王国に朝が訪れようとしていた。













           ****************





 頑張れマーキュリー^^
 原作マーキュリーのドSっぷりとそのわりにヘタレ気味なのが好きです(←マーキュリーさんファンにケンカを売る気は毛頭…あわわ)。



 前世ってすごい凄惨なイメージがあるのに、何故私はギャグに走ってしまうのか…orzしかも滑ってるし…小話のはずだったのに何だこの長さは。
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