プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

不機嫌な彼女

2008-10-01 00:00:56 | SS
 
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 長く美しい黒髪をなびかせた少女は、非常に不機嫌そうに足を進めていた。唇をぎゅっと結び、眉間にはくっきりとしわが刻まれている。誰が見ても「怒っています」という気配を漂わせていた。本当は怒っているというのは正確ではないのだが、彼女をよく知らない者にとって、そんな些細な違いは理解できない。
 少女―火野レイは不機嫌だった。
 本当は不機嫌になる理由など無いし、こんなことで不機嫌になるなんて馬鹿げている。第一今回の件で自分の神経を逆なですることはいくらでもあったのに、心に浮かんだのは、無関係であるはずのある少女だった。少女の顔を思うと何故か胸がぎゅうと熱くなる。想像の中で少女は穏やかな笑みを向けてきたが、なぜかその表情はひどく神経を逆なでさせた。
 心の中で舌打ちする。これから、その彼女に用がある。恐らくはこの不機嫌さを隠し切れないだろう。大人びているという言葉は彼女に良く似合っていたが、自分の感情を完全に隠せるほどではなかった。
いつもの『秘密基地』であるカラオケ、クラウンの扉をくぐる。以前のレイなら興味さえ示さなかった場所だが、止むを得ない。ここにレイの目当ての彼女はいるし、ここに用がある。
 思えばこの場所もレイの不機嫌さの一端である。有線からのメロディーでさえ神経に障る。相変わらず亀と戯れているふざけた従業員にこれまたふざけたパスポートを押し付けるようにかざし、無言でいつもの場所に向かった。自然、足は重くなる。
 いつも以上に重く感じる扉を押すと、そこには目当ての彼女がいた。緑のシートに掛け、机に向かい、どうやら宿題をやっているようだった。彼女―まこと、レイの不機嫌の原因となっている、は突然の来訪者である自分に驚くことも無く、笑顔で出迎えてくれた。
「レイ。早かったね、あ、うさぎは居残り」
「ええ・・・そう」
 自然、言葉もいつも以上に歯切れの悪いものとなる。もともと人と話すということを得意としてはいないが、意識するとますます何を言えばいいのか分からなくなる。思わず目を逸らし、自分の席に足早に腰掛ける。そのまま突っ伏したい衝動に駆られるが、そんなことはより不自然だ。すると、まことがいぶかしげに椅子を寄せてきた。
「レイ、どうした?なんか調子、悪い?」
 レイはどきりとした。こんなわずかな時間に自分の調子を悟られるなんて。なまじ自分が得意としているが故に、されると妙な気分になる。
「・・・なんでもないわ」
 ただ、当たり障りの無い言葉で返す。随分つっけんどんな言い方をしてしまったが、まことは特に気にするでもないようだ。勿論それは普段からつっけんどんなだけということを、レイは自覚していない。
 すると、まことがさらりと口を開いた。しかも、レイが一番聞いて欲しくないことを、いともさらりと。
「そういえばさ、レイ、ライブしたんだって?」
レイの心臓は跳ね上がった。先ほどの比ではない。しかしそんな自分の心中は構わずまことは続ける。
「学校でうさぎに聞いたよ。あたしも聞きたかったな、レイの歌」
 思わず高速でうさぎを―この場にいないが、彼女用のピンク色の空席を―睨む。しかし睨んだところでどうしようもない。第一、うさぎが話さなければ自分が話さなければならなかったのだ。そして、自分が話すのは嫌だったのだから、うさぎが話してくれたことは幸運と言ってしかるべきなのだ。しかし、それでもうさぎに対し怒りのようなものを感じていた。
 ―理不尽―
 自分の中にこんな言葉が浮かんだが、それもどうしようもない。
 自分が戦士として目覚めた。そしてそのきっかけはライブだった。たったそれだけのこと。その情報は仲間にきちんと伝達させなければならない。うさぎと、この場にいないプリンセスは一部始終を知っている。ダークキングダムに囚われている亜美には伝えようが無い。だからあと、一人。彼女に伝えなければならないのだ。だが、自分がライブを行ったということを、どうしても知って欲しくなかった―まことには。
 何故まことは駄目なのだろう。仲間として信用していないわけではない。むしろ自分に無いものを持っている彼女を尊敬しているし、何より友として大切だ。だから何度自問自答しても分からなかった。
 火野レイの不機嫌の原因はコレである。彼女自身が持て余している不機嫌さを、他の人間が理解できるはず無かった。
「・・・・・・・・なによ、おかしい?」
どうしてこんなつっけんどんな言い方しか出来ないのだろう。今度は言ってしまった後にそう思った。それほど、冷たい言い方だったのだ。自己嫌悪が不機嫌に拍車をかけるが、言ってしまった言葉はどうのしようも無い。
 しかしやはり彼女のつっけんどんさは今更誰も気にするものでもないようだ。それが火野レイだと知っているまこともやはり特に気にする様子は無かった。
「別に?ただ、何が覚醒のきっかけになるか分かんないんだなーって思っただけ。だってそうじゃん。誰がレイがライブして覚醒するなんて思う?」
 意外とあっさり、かつ的確な反応であった。もっと根掘り葉掘り聞かれて笑われるかと予想していただけに、拍子抜けした。
 自分の予想していた反応とは違うが、理想とした反応ではある。あまりライブについて深く突っ込んで欲しくなかった、だからこれでいい。・・・はずであった。
 だが、何故か胸がちくりと痛む。モヤモヤとした気分は晴れない。
 この気持ちは、一体、何?
 自問自答してみる。やはり答えは出ない。
 隣ではまことが、あたしも頑張らなきゃなどと呟いているのが聞こえた。それを見るとやはり胸の辺りで、何か自分では処理できない感情が渦巻いている。どういうことだろう。
 知って欲しくなかった。コレは確かなはずなのに、でも今はもっと・・・
「レイ?どうした?ぼーっとしちゃって」
「・・・別に」
 自分の不機嫌の原因とも知らずまことは声をかけてきた。レイはもはや逃げ出したい気分だった。逃げる理由はないが、まことへ伝わっていたのならもうここにいる理由もない。さっさと帰ろうと立ち上がろうとした刹那、まことはにやりと笑ってこんな声をかけてきた。
「でも本当にあたしもレイのライブ見たかったなー。あたし、レイって実は音痴なのかと思ってたよ」
「・・・な、」
 にを、と続けようとして体勢を崩す。ちょうど立ち上がろうとしたので、バランスが崩れたのだ。件のライブ練習中のハウリングの光景が頭をよぎる。瞬間、もう自分では体勢が立て直せないところまで身体が傾く。頭を打つと覚悟し目を反射的に固く瞑ると、急に前にぐっと力がかかり、今度は前に体が傾き、留まる。
抱きとめられた。まことに。
「・・・・・・に」
「あっぶないじゃん、レイ!大丈夫?」
 上から慌てた声が降ってくる。まことに抱きしめられた状態でいることはすぐに把握できた、が、心がそれについていかなかった。何故、このような状態に?
 頭の中でまとまらない思いはぐるぐると巡っていた。
「ったく、レイも結構あぶなっかしいのな。あんだけカラオケ嫌いって言うからには、ひょっとしたら音痴なのかなって思ってただけだよ」
 まことはよどみなく弁解する。呆れの中にも安堵の響きが混じった声だ。しかし、
「い、いつまで抱いてんの・・・」
 まことはまだレイを抱きしめたままだった。そして、レイは初めて戦士として覚醒したときより、アイドルとして人前でステージに立ったときでさえ経験したことの無いほどの動悸を感じていた。体温が一気に上がっていく感覚を覚える。この鼓動がまことに聞こえてしまいそうで、思わず目をつぶった。
「ん?ああ、ごめん、レイ」
 まことは実にあっさりと離れる。離れれば離れたで赤く染まった顔を見られてしまうのが嫌だった。どうしてこんなに自分はまことに対して理不尽な思いを抱いてしまうのだろう。今だって、自分がお礼を言うべきであって、まことが謝らなければいけないことはただの一つもなかったはずなのに。
 必死でポーカーフェイスを装おうとしても、熱と動悸は未だ消えない。急に抱きとめられて驚いたからだと自分に必死で言い聞かせるが、やはり効果は無かった。
 ―あれ、どうして私、こんな言い訳してるんだろう―
 ふと疑問に思ったが、やはり分からない。
 まことはまったく気にしていないようだった。それが更にレイを混乱に招く。自分はこんなに動揺しているというのに、まことはなんとも思わないのだろうか。
 なんだかそれが、無性に悔しい。足にうまく力が入らなくて、結局は再び椅子に戻ってしまった。悔しがる理由も原因も見つからないはずなのに、悔しかった。
 そしてまたまことは爆弾を落とす。実にあっさりと。
「まあでもレイが音痴だったらそれはそれで可愛いと思うけどね」
「ばっ・・・」
 何とも無い風に、さらりと、そんなこと言うから。
 馬鹿なこと言わないで、と言おうとして言葉が詰まる。可愛い、という言葉に心臓がどくんと音を立てた。
 自分をこんな風にさせている本人は、至って自然で。人を動揺させるだけさせておいて、どこまでもいつもどおりだ。レイは知らずに胸元をぎゅっと握り締めていた。
「あーあ、それにしても本当にレイのライブ見たかった!大体うさぎだけってずるいよなぁ?あたしも呼んでくれたってよかったじゃん」
「それは・・・」
 レイは言葉を切った。そう、思ったのだ。最初からまことも呼んでおけば、今こんなに感情を乱されることも無かったと。だが、あの時は真逆これがきっかけで覚醒するなんて思いもしなかったし、なにより、やはりまことには知られたくなかったのだ。
 つまりはそのときから、まことに妙な意識を持っていたことになる。
 何故なのだろう。
 まことは唇を尖らせレイを睨んだ。それはまるで、ふてくされた子どものような表情。
「よーするに、レイはあたしなんか信用できないって訳?」
「ち、違うわよ!」
 レイは思わず立ち上がって叫んだ。まことが、本当は信頼されていると分かった上で冗談めかして言った言葉なのは分かっていた。だが、それでもとっさに言葉が出た。頭が混乱したせいなのか、逆に心の言葉が脳を介さず自然に出てくる。
「あ、あたしは・・・だって、カラオケとか嫌いだったし、自分でも歌うまいとか良く分からなかったし・・・ライブなんてどうしたら良いのかって・・・一人じゃ出来ないけど、でも、うさぎ呼ぶだけでもすごく緊張したんだから・・・あなた呼んだら恥ずかしくて出来ることも出来なくなるじゃない・・・!あなたにだけはみっともないところ見られたくなかったんだから・・・!」
「レ、レイ?」
 レイは自分でもびっくりするほど声を荒げていて、逆にまことの方が面食らったようだった。レイといえば、普段上から感じる目線を下から感じながら、自分らしくない行動に頬を染めていた。
 ばつが悪くなったレイはキッとまことを睨むと、思わず背を向けてしまった。恥ずかしかったのだ。自分の言った言葉を反芻させてみる。そして、気付いた。
 そうだ。自分は、まことには―
 まことの強さに憧れた。まことの優しさに焦がれた。まことの秘めた脆さに―どうしようもない切なさを覚えたのだ。
 自分は母親を亡くして、悲しかった。心が張り裂けそうになった。そして父親が憎かった。悔しくて、自分の非力さがもどかしくて、どうしようもなかった。今でも、その思いを止められない。
 だけどまことは悔しささえ浮かばなかっただろう。そこにあるのは、ただの喪失感。それなのに、彼女は笑う。痛さなど感じさせない明るさで。
 彼女の周りから人が去る。それは、どれだけ辛かったことだろう。自分や亜美のように都合のよいように利用されそうになる孤独とは違う。自分たちはそれを拒絶してきた。拒絶できたのだ。そうすることで、かろうじて自分を守ってこられた。
 でもまことは手を伸ばしても、それを振りほどかれた。去り行く背中をいくつ見てきたことだろう。
 それなのに彼女は、皆を守ろうとする。包み込んでくれる。本当は自分が誰よりも守られたいはずなのに。
 そんな彼女に、自分も今まで何度も救ってもらった。
 そんなまことにだからこそ、頼りたくなかった。自分の弱いところを見せたくなかった。誰でも包み込むおおらかさを持つ彼女だからこそ、自分だけはもう彼女の負担になりたくなかった。むしろ、自分が彼女にとっての、包み込まれる場であるように。そうなりたい。そう思った。だから。―だから。
「あ、あたしは・・・!リーダーとか、そんなんじゃなくて、ただ・・・あなたの前では、何でも出来るって・・・あなたにだけは格好悪い自分は見せたくなかったの!あなたに頼るんじゃなくて、あたしは・・・あなたに頼られるような人になりたいの!」
 後半はもうヒステリックに叫んでいた。微かに涙さえ浮かんでいて、息が切れる。まるで自分に言い聞かせているような言葉だった。
 火野レイの不機嫌はコレだった。
 ―分かってしまった。難しいことを何だかんだ言い連ねていたけど、結局、自分は―
「・・・なんだよ、レイ。案外格好つけたがりだな」
 そうなのだ。まことの前で弱い姿を見せたくない。それは所詮、格好付け。でも。
「悪い?」
 自覚してしまったから。人に頼ること。信頼すること。それが自分に欠けていたもの。だったら、その逆も然り、のはず。
 レイは呼吸を整え、羞恥に染まった頬を隠すこともせず、もう一度まことを見据える。
「だから―、いつかあなたに・・・あなたに頼られるように」
 自分にだけ聞こえるように言った。覚醒したといっても完全でない。それに彼女もすぐ自分に追いついてくるだろう。でも今はまだ格好悪くていい。それに気付いたから。
 先ほどの不機嫌とは嘘のように気分は晴れていた。今なら一曲ぐらい口ずさんでも良いかもしれない。はっきり覚醒したと自覚したとき以上の開放感があった。
 急にご機嫌になったレイにまことは目を丸くする。
「・・・レイ?なんかあんた、今日変だよ?いつも見たいにぶすっとしてるかと思ったら、急に怒ったり笑ったり・・・やっぱ、ライブしてちょっとおかしくなったんじゃ・・・」
「秘密よ」
「・・・なんだよ、それ。レイ、今日絶対変!」
 まことは眉をひそめ、呆れたようにレイを見ていた。そしてしばらくレイを見つめていたが、ふと何かを思いついたようにぴこんと眉がはねた。そして満面の笑顔で立ち上がる。
 上と下。いつもどおりの距離で視線が絡まる。そしてまたレイは心臓がどくん、と鳴るのを感じた。頭の片隅でとっさに、急に立ち上がられて吃驚したからだと言い訳した。先ほどまで自分が優位であったよう意識していたのに、理由もなく笑顔になられると不安になる。
「・・・何?」
「ま、なんにせよ、レイは一歩進んだってことで、それで、今日のレイはあたしの知らないレイになっちゃってことで。やーっぱ詳細は本人の口から聞かないと、な。折角2人っきりだしライブ再現してよ」
「だから、秘密よ。悔しかったらあなたも早く覚醒することね」
「えー、何それ!レイ酷っ!」
 今はまだ、こんな憎まれ口しか叩けないけど。いつかきっと、完全に覚醒することが出来たなら。
 今みたいに格好付けじゃなくて、本当に格好良くなって、いつか彼女に。

「それに、カラオケは嫌いよ。言ったでしょ、まこと?」
 
 いつか、きっと― 


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 長っ!(笑)プラマイゼロ初のカプ小説でした。しかも実写、しかもまこレイ。

 Act23でレイがまことを呼ばなかった理由。まあ本当は大人の事情なんでしょうが(笑)、こーゆーことじゃないかと勝手に想像。恋の始まり?
 さりげにまこのセリフ全てに「レイ」って入ってるのに対し、レイは最後にしか「まこと」って入れてないのがポイント。結構無理矢理;

 まこレイ、好きだー!さり気に実写で一番好きなカプです(笑)美奈レイのが人気だけど、まこレイもいいじゃないか!ってことで。お互い呼び捨てなんも好き。

 タイトルはテキトーです(笑)タイトル考えんの苦手・・・浮かぶときはぱっと浮かぶのに・・・
 お付き合いいただきありがとうございました!





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