プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

放課後の秘め事

2009-10-25 23:58:40 | SS





 夕暮れの校舎。橙色の西日が窓ガラスに透け、明かりの消された教室に眩いくらいに差し込んでいる。
 水野亜美は教室で一人、漬物石にも代用できるような分厚い本をめくっていた。体積に反比例して砂粒のように小さい文字が細々と並ぶその本を、亜美は眼鏡越しの目を細めながら読み込んでいく。無論、真剣に。
 凡そ女子高生らしからぬ行為を平気でやってのけている亜美だが、そんな彼女が家にも帰らずこんな場所で本にかじりついているのには女子高生らしい理由がある。

「(美奈、遅いわね・・・)」

 読んでいた文章がちょうど「。」で終わったところで亜美は一息ついて腕時計を見る。部活中の彼女を待っているためだ。
 以前なら人を待つことなくさっさと帰っていたものだが、どうせお勉強はどこでも出来るのだしと一人居残りを敢行するようになった亜美は、ある意味健全な高校生ライフを送れるようになったと言える。
 首を二三度鳴らした亜美は、再び本に目を落とそうとする。すると、教室の前のドアが開く音がした。振り向くとそこは、確かに自分が待っていた彼女。西日に頬がオレンジに染まっている。

「・・・美奈、遅かったわね?」

 亜美は本に栞を挟み閉じ鞄を持つと、美奈子は後ろ手に扉を、そして鍵をも閉めた。これから帰るというのに何故閉める?と亜美が首をかしげた所で、美奈子は何も言わず真っ直ぐ亜美の方に向ってくる。

「・・・美奈?」

 亜美はいつもと少し違う彼女の様子に疑問を覚える。見た目は特に変わらない―何の変哲も無い眼鏡をかけている以外は。

「美奈、いつの間に眼鏡なんて・・・目、悪かったっけ?」
「・・・亜美、ちゃん」

 美奈子の声はいつもの明るさと覇気の無い、篭った物だった。この時点で亜美は、部活の練習で疲れているせいだと至極最もなことを思う。そして、それは―

 がたん。

「・・・み、な」

 外れていた。

 いつの間にやら、亜美は美奈子に窓際―出口から最も遠い場所に追いやられていた。何も言わずに迫るように向かってくる美奈子に亜美の足は自然後退し、背中が窓ガラスに触れたところで亜美はようやく自分の身に何かが起ころうとしていることを悟る。

「・・・ど、どうしたの・・・?」

 すると美奈子は、両手を亜美の頭を挟む形で窓に突き出す。耳元でガラスを叩かれた形になった亜美は、その音と振動に思わず体を震わせる。美奈子の顔が腕一本の長さもないほどの距離で真正面に見据えられ、腕が檻になっている為逃げることも出来ない。
 斜めに差し込む西日が眼鏡のレンズに反射して、亜美から美奈子の目は見えない。そして、美奈子の口元が緩やかに歪む。

「いつまでも下手に出てると思ったら大間違いよ?」
「・・・ど、どういうこと・・・?」
「分からないの?その頭の中に詰まってるもの、意外と大した事無いのね」

 嘲るような口調は、確かに亜美がよく知る美奈子の声だった。そのまま左手で制服のリボンを鷲摑みにされたところで、亜美の血の気が音を立てて引いていく。

「・・・・・・・・!」

 やられる―と流石に亜美も気付いた。それに漢字をふると、殺られる、なのか犯られる、なのかは未だ本人にも区別がつきかねていたが、それでも今のままでは危険であることに違いはない。下手をすれば両方である可能性さえある。それほどまでに美奈子の佇まいは圧倒的だった。

「(何とか・・・しなきゃ)」

 この状況においても、水野亜美、変身はせずとも水星を守護に持つ知性の戦士である。美奈子の頭越しに視線を彷徨わせる。
 ―前の扉は先ほど美奈子に閉められた。後ろの扉も、クラスメイトが全員教室を出たところで自分が戸締りをしたのを覚えている。美奈子の運動神経を知っている亜美には、この腕の檻から出るのもまず困難だが、仮に抜け出せても、ドアまで辿り着き鍵を開ける余裕があるとは思えない。
 だとしたら―背後の窓も、自分の手で全て戸締りをしたはず。亜美は自分の生真面目さをこのときばかりは悔やむが、どうしようもない。いっそ突き破って飛び降りようかと言う思い切った考えも浮かんだが、下には部活中の生徒もいることだろう。戦士である自分は階上から飛び降りても、どんなに酷くてもかすり傷程度で済むだろうが、その人たちにガラスの破片を浴びせかけることは出来ない。
 背後に射す西日が、亜美の背中に嫌な汗をもたらす。助けを呼ぶと言う考えは最初から浮かばなかった。それは、第三者からの目で美奈子を悪者には出来ないと言う心情であった。亜美自身はそのことを悔やみはしないが、それは結果的に自分に不利な状況をもたらしている。

 ―逃げられない。そう亜美が思ったところで、美奈子は再びにやりと口角を上げた。

「逃げ道は見つかったかしら、天才少女さん?逃げてもいいのよ?」

 相変わらず挑発するような口調は、亜美の神経を逆なでする響きがあった。自分が考えている間黙っていたのは、この結論を出させるためだと亜美は確信する。
 絶望は、自分で悟ってこそ、真に重い。
 
「勿論、逃がすわけないけどね」

 リボンを握り締める手が更に力を持ち、亜美は思わず息を飲む。

「―まあ、あなたを傷つけないって、約束は出来ないけど・・・だったらせめて無駄な抵抗をしないほうがいいわよ。勿論、天才少女であるあなたなら、そんなこと、分かってるでしょうけど」
「・・・私を、どうする気?」
「あら、まだそんなこと言えるのね」
「美奈、一体どうしちゃったの。あなたはいつも・・・」
「そうね。あたしはあなたに優しかった・・・でも、それも昨日までの話」

 めり、と音がした。握り締められたリボンがくしゃくしゃになっている。恐怖が亜美の内臓をざわざわと騒がせた。
 大声さえ出せば、まだ校舎に残ってる誰かしらが駆けつけてくれる可能性はある。或いは全力で抵抗すると言う手もある。自分も無傷ではすまないだろうが、時間稼ぎは出来るし、これまた誰かが駆けつけてくる可能性が出来る。
 しかし、それが出来ない。
 なら―と、亜美は思った。

「・・・分かったわ。あなたの・・・好きにして」
「あら、あなたはもっと往生際が悪いと思ったのに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちょっと興ざめね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ま、そんなこと言ってられなくなるけど。今にあたしに泣いて跪くようにしてあげる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」

 美奈子の眼鏡越しの瞳が艶かしく輝く。亜美は体を震わせ顔を反らせようとしたが、美奈子に顎を掴まれそれも許されない。リボンを握っていた手は、いつの間にか亜美のスカートの中に侵入している。

「み、みなっ・・・」
「黙ってなさい」

 一瞬の沈黙の後、がちんと音がした―そして亜美は美奈子の言葉通り、涙を流して、崩れるように跪く羽目になった。
 しかしそれは美奈子の言葉通りでしかなく、しかも美奈子自身も亜美同様涙を流しながら顔を押さえ跪いている。

「「~~~~~~~!」」

 亜美は鈍く頭がくらくらするような痛みに顔を押さえ、それでも現状を把握しようとする。この痛みは経験したことがある分、亜美の判断は早かった。
 先ほど美奈子は亜美にキスをしようとした―そして、『ふたりとも』眼鏡をかけていたせいで、ブリッジの部分がぶつかったのだ。それは人体急所の眉間に酷い衝撃を食らったも同然であり、そのせいで双方で頭を押さえて、声にならない声をあげ呻いているわけである。衝撃で、揃って眼鏡が片耳に引っかかるだけになっていた。
 
「(・・・痛い!)」

 亜美は自分の置かれている立場さえ忘れて頭を抱えた。現状把握できたのは、知性の戦士としてでなく、単に眼鏡のキャリアの長さだけである。そして、それが結果として、亜美を救うことにもなったわけだが。 
 美奈子が一通り呻いた後、ようやく顔を上げる。それと同時に、片耳にだらしなくぶら下がっているだけの眼鏡が落ちた。

「な、何か頭が凄く痛い・・・あれ、あたし、いつの間に教室・・・ああっ亜美ちゃん!?何で泣いてるの!?どうしたの!?」
「・・・美奈、元にもどっ・・・」
「元に・・・って、何?」

 美奈子の表情は呆けており、完全に現状を把握できていない。眉間をさすりながら立ち上がる様はいつも通りで、亜美は安堵で腰が抜けた。しかしながら、咄嗟に美奈子が落とした眼鏡は拾っておいた。

「いつの間に・・・って、どこまで覚えてるの?」
「・・・えー、あたし、部活終わって・・・教室に亜美ちゃんを迎えに行く前に、廊下に眼鏡が落ちてるの見つけて・・・とりあえず職員室に届けようとして、でもその前にちょっと悪戯でかけてみて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、あれ?」
「・・・もういいわ」

 どうやら全ての元凶はこの眼鏡のようだ―そう亜美は判断して、ポケットに眼鏡をしまった。後で自分で調べてみて、魔性のものであるのならばレイに相談しよう、そう心のうちで簡単に決意を固める。眉間がずきずきと痛んで、顔を顰めた。

「あ、亜美ちゃんは・・・大丈夫?何か、泣いて・・・何かあったの?」

 おろおろと肩に手を乗せてくる美奈子は、いつも通り。亜美はそんな美奈子が普段いかに自分を大切に扱ってくれていることを実感した。

「も、もしかして、あたしを待ってる間・・・寂しかった、とか?」

 冗談めいた口調の美奈子の言葉に、亜美は苦笑を漏らした。

「・・・そう、ね・・・寂しかった、わ。すごく・・・すごく」

 いつものあなたに会えなくて、そう心の中で付け足して。てっきり否定の言葉が返っているだろうと思っていたのか、美奈子の頬が、夕暮れの明かりと関係なく染まっていく。

「あ、亜美ちゃん?どうしたの・・・?」
「・・・美奈」

 亜美の目線に合わせた美奈子を、亜美は抱きしめた。普段と違う、しかも学校での亜美の大胆な行動に、美奈子が固まる。

「美奈、好きよ」
「・・・え?あっ亜美ちゃん、熱でもあるの!?」
「いつも・・・優しくしてくれて・・・感謝もしてるし申し訳なくも思ってる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だけど・・・もう少しだけ甘えさせて。もう少ししたら・・・きっと・・・勇気が出るまで」
「・・・な、何を・・・?」

 亜美はふらつく足を何とか立たせると、自分の眼鏡も外し、美奈子に手を差し出した。

「・・・待ってたわ。一緒に帰りましょう」
「・・・う、うん」

 未だ首を傾げる美奈子の手を引き、亜美は鞄を手に取る。背中にあたる日の光は、少しずつ淡く儚く落ちていった。






         *******************


 みなあみだったら、美奈は亜美に眼鏡をかけさせそう・・・と言うお言葉を頂いてめっちゃ納得したんですが、亜美ちゃんは一回やってるし折角なので予想を裏切って(笑)美奈は鬼畜になっても肝心なトコはどじっこ。眉間はマジで痛いんです。

 鬼/畜/眼/鏡シリーズでオチがついたのってこの二人だけのような・・・あとかけてないのはレイちゃんか。でももう全カプやったしなぁ・・・
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