プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

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2013-04-20 23:59:11 | SS





「よっ、おはよ」
「・・・な」

 時刻はAM4:00。
 朝ととらえるか夜ととらえるかは個人差が大きい時間だが、レイにとってはその時間は朝だった。だが知人に訪問されるという点ではレイでさえ十分深夜と感じる無作法な時間帯。というより、親しい人間がこの時間帯に外出していることを考えたくないのに、いつものように起床してまず部屋の雨戸を開けたら、まだ真っ暗な外の世界、まことがそこにいた。

「・・・んで」

 ようやく言ったそれだけの言葉に、まことは笑顔を返した。寝起きで第六感が鈍っていたのもあるにせよ、起き抜けのレイに気付かれず当然のようにそこにいる姿に、レイは困った。少なくとも4時である今ここにいるということは、どれだけ遅くとも3時過ぎには起きて準備をしてここにいるのだろう。突っ込みどころが多すぎて逆にレイは言葉を返せない。
 これまでお泊り等々でお互いの寝起きの姿など何度も見ているが、現在きちんと身なりを整え外出用の格好をしているまことに対し、レイは寝起きだし寝巻きはやや乱れてるし髪は整ってない。この格差はずるい、と案外乙女な思考がまずレイのはだけた襟元を直させる。そしてまだ暗い朝の空気を吸い込んで、脳の覚醒を促す。窓の中からまことに向かって次の言葉を言おうとした。

「誕生日、おめでとう・・・一番に言いたくて」

 だがレイが言葉を発するより前に、まことがふにゃりと笑みを向けた。いつもと違ってレイを下から見上げる仕草で、怒られることをまるで想定していない子どもじみた表情。レイが寝起きに見るには正直刺激が強いものだったが、しかし毒気を抜かれたのも確かだった。
 前世から付き合いはそれなりに長い方だが、いまだに驚かされることは多いものだ、と妙に冷静に思ってしまった。

「・・・とりあえず、上がって」

 とにかく、いつまでもこんな中と外からでは埒が明かない。レイの言わんとすることが分かったのか、まことは静かな仕草で器用に窓を乗り越えた。











「・・・放課後、あなたの家でみんなで会う約束だったでしょ」
「・・・そうだけど、我慢できなかったんだよ」
「だからって、早すぎでしょ」

 我慢できなかったで世の物事が許されるなら、この宇宙にセーラー戦士などいらない。だがそんなことはセーラー戦士である二人には関係ないことであり、今起こったことは二人だけの話である。レイとまことは薄暗い室内で正座し膝をつつき合わせながら小声で話していた。
 放課後はいつものメンバーで、まことの家に集まる予定があった。ほかのメンバーの誕生日は、スペースの広い神社に集まるのが常だが、今日はレイ本人の誕生日ということで、いつもお世話になっている実家に負担をかけないように、とまことの家に集合になった。

 だからレイは、まことに会うのは学校が終わってからだと思って今日を始めようとしていたのに、事態は冒頭から暴投していた。さすがに祖父が他の部屋にいる今大声で怒鳴る気はないが、それにしても陽ののぼらない時間にやってくるのは非常識だ。
 先ほどできなかったぶん、やや強めの眼光でレイはまことを睨む。レイの表情の差に気付いたのか、先ほどの笑顔とは打って変わってまことはうなだれた。

「なんでこんな時間に・・・せめて登校前とか」
「だってさ・・・レイの誕生日って不特定多数に知られてるじゃないか」
「は?」
「なんか昔、知らない人から誕生日に薔薇もらってたとか聞いたことあるし」

 言われてみて、レイは寝起きの頭を無理やり回転させ記憶を引っ張り出す。あれは中学二年生の時。見知らぬ男から、いとこがレイと同校とかという理不尽な理由で誕生日を知られ、薔薇の花束をもらったことがある。まことに言ったことはないはずだが、うさぎあたりから聞いたのかもしれない。
 いずれにせよ寝起きに思い出したくない過去であるのは確かだし、まことの口から聞きたくない言葉なのも確かだ。レイの眉間に殊更に皺が寄る。

「・・・それでなくても、学校でもいろいろもらうんだろ。それでも正直・・・だけど。でも学校はともかく、もし他校でレイが好きなやつとかいて・・・朝あたしの前に誰かが神社に来たら嫌だなーって思って」
「それで、この時間に?」

 後半はぼそぼそと呟くようにしながら、まことはうつむく。しかし、過去の経験を思い出せば、レイと同校ならレイと親しくなくとも誕生日を知るのは簡単ということだ。学校の筋があれば、まったく見知らぬ人間がレイの個人情報を把握している可能性もあるわけで。
 改めてそれを考えて、レイはぞっとした。確かにそれを思うと、まことの行動はまるで理解できないわけではない。納得はできないにしても、だ。

「だからって・・・暗いうちに来ることないでしょ」
「だって・・・ちょっとでも二人きりになりたかったんだ」
「だから・・・放課後ちゃんと行くのに」
「放課後はみんなと一緒になっちゃうし・・・朝も、レイ学校行く前お母さんのとこ行くんだろ。あたしが学校行く前に早い目に来ても会えるかわからないし・・・会ってもすぐとんぼ返りとか嫌だったし、レイに貢ぎに来るやつに遭遇したくないしで」
「貢ぐって・・・」
「ほんのちょっとでも、ちゃんと二人で会えるのって、この時間しかないなって」

 その結果が、この朝か夜かもわからない時間の突撃訪問とは。大体、レイは定時に目をさまし窓を開けただけで、まことはそれよりも前にここにいたのだ。
 夜にわざわざ神社にやって来る人間など、変質者か酔っぱらいか呪術者くらいしかいないとレイは思っていた。逆に、そういう連中に遭遇する可能性もある時間に、そういう連中しか来ない場所で待っているなど。
 そうまでしてわざわざ来てくれてうれしい気持ちも、確かにある。しかしやはりまことはここに来るべきではなかった、とも思うのだ。今ここで怒鳴るわけにはいかないが、手放して喜ぶことも出来ず、レイはますます眉間に皺が寄る。

 そんなレイの表情に気付いたのか、まことはさみしそうな顔をして微笑み立ち上がった。

「・・・でも、悪かったよ。あたしはもう帰るから」
「・・・べつに帰れって言ってるわけじゃ・・・ただ」
「でも、居続けるわけにもいかないし。一番に会えてうれしかった・・・誕生日、おめでとう」

 季節は春。まだ暗くとも、少しずつ朝の気配は近付いている。夜だからという理由で今まことに出ていくな、とはレイは言えない。この家に引き留めたところで、祖父にまことが何故ここにこの時間にいるのかを説明しなければならない事態になったら、それこそお互いに困るのは分かっている。
 そしてなにより、自分も今起きて、身支度さえ済めば出て行く気だったから。いくらレイとて、座禅会の時ならともかく、普段学校がある日にこんな時間にわざわざ起きることはない。今日この時間に起きたのは、ほんとうにレイにとって特別だった。

「じゃ、また放課後待ってるから」

 誕生日だから。
 一番に、それこそまことが言ったみたいに、不特定多数の見知らぬ誰かと顔を合わせ言葉を交わすより先に、少しでも早くレイにはしたいことがあった。学校に行く前に会いたい人がいた。だからこの時間に起きたのに、よりによってまことに先を越されて、家族よりも先に顔を合わす羽目になった。
 まことに、レイは朝の予定は告げていなかった。でも先の言葉から、まことはレイの予定を知っているようだった。わかっていて来たのか、という感情はあるけれど、不愉快ではない。予定とは違ったが、誕生日であるこの日、一番に顔を合わすのがまことでレイはうれしかったのだ。

 家族に会うのと同じくらい、うれしかった。

「ちょっとだけ待って、まこと」

 だけど、やっぱりこの予定を変えるわけにはいかない。レイの誕生日であるこの朝は、まことのためだけには使えない。
 しかし夜が明けるまでまことにここに留まらせるわけにはいかないし、自分も夜が明ける前にここから出て行く。でも、自分の予定はまことがいても、だめじゃない、と思った。
 ならやることは一つしかないように思えて、レイは寝巻きを脱ぎ捨てた。目の前で何の前触れもなく服を脱いだレイにまことは目を丸くして、慌てたように声を押さえる。そんなまことを無視して、レイは前日に用意しておいた服に袖を通す。あとは顔を洗って歯を磨いて身支度を整えれば、昨夜用意した鞄を携えるだけでいい。

「10分だけ待ちなさい。支度するから」
「・・・なんの?」
「私の」
「それはわかってるよ・・・だからあたしは帰るってば」
「帰れって言ってないって、言ったでしょ」

 いつになく強い口調で、レイは戸惑った態度のまことに返した。誕生日なのだし、これくらいの態度は許されてもいいはずだろう。だいたいまことだって、唐突にこんな時間にやってくる時点で充分にふてぶてしいのだ。こんなレイのわがままなど、なんでもないだろう。拒否はさせない。

「・・・一緒に出ましょう。ちゃんと、あなたのこと紹介するから」

 誕生日は平日でも早く起きて、一番に母に会いに行く予定だった。それはレイにとって譲れない行事だった。それこそまことが言うみたいに、学校や、登校前一番に見知らぬ誰かに祝われるなんて事態に遭遇したくない。もちろん家庭で祖父と顔を合わすことはレイにとっての日常を兼ねるものだが、それでも、誕生日に自分の意思と足で一番に家族に会いに行くことはレイにとって特別なことだった。

 それをまことによって壊された。でも、それが嫌だとは思わなかった。暗い時間に一人で歩いてきたことや神社でぽつりと待っていたことに驚き困惑する気持ちはあっても、一番大切なものを壊されたことにはなんの憤りも感じないのだ。

「・・・でも」
「こんな時間にうちに来といて、大人しく帰すわけないでしょ。誘ってるんでしょ?」
「さ、誘ってるわけじゃ・・・!」
「いやとは言わせないわよ」

 てきぱきと布団を畳み、出て行く準備を着々と進めるレイをまことはおろおろした目で見つめる。その様子と気配から感じるに、ほんとうにまことは深い意味や期待をしてここに来たわけではないように思える。だが、それは結果だ。今まことがここにいる以上、レイには誘ってるとしか思えないし、帰す気はさらさらなかった。

「・・・ちゃんと、あなたのこと、守るから・・・今からついてきて」

 まことが息を飲む声が聞こえる。とりあえず否定の言葉が返ってこなくてレイは安堵した。それで充分だった。誕生日であっても特別すぎる。
 その言葉が、まだ暗い、これから母に会うまでの道のりなのか、これからの長い人生の道のりになるのか、まことがどうとらえているのかはレイにはわからない。改めて尋ねる勇気など、ない。
 だができれば、どちらも兼ねてほしい―柄にもなく素直にレイは思った。








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 レイちゃんおめでとうございます!
 難産な上に本来書きたいシーン全カットでした・・・精進します。
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