「・・・レイちゃん、もしかしてあたしたちに気遣ってる?」
まこちゃんのお泊りのお誘いを断って靴を履いている玄関口、私を待っている黒髪の彼女に話しかけた。
彼女はその美しい黒髪を流すように振り向き、悪戯っぽく微笑んだ。
「なに気遣ってんのよ、どーせヒマだし」
―そうかしら?いくら受験が無いとは言え、この時期は色々とあるはず。
はじめて会ったときの頃を思い出す。彼女は凛としていて、決して私たちのペースに惑わされず、『幻の銀水晶を探すこと』という使命でさえ「あたしは忙しい」と積極的でなかった。
それが今、暇だと言う本当かどうかも分からない理由で、私たちに付き合ってくれている。
彼女を変えたのは仲間の存在とともに過ごしてきた時間。彼女がこの空間を心地よいと思っていてくれている要素の中に、私の存在もあるのだと信じていられる。仲間のうちの誰とでも、自信を持っていられる絆。
でもそれ以上に―
「『いつも』早くに座禅会があるんでしょ?それなのに遅くまで付き合ってくれるのね」
「・・・・・・・・・・?」
「まあ、レイちゃんが構わないのなら私も構わないけど。私もみんな揃っていたほうが嬉しいし」
「・・・そう」
「でもレイちゃんってちょっと変わったわよね?前は・・・冷たいとは思わないけど、あくまでも自分は自分・・・こんな風にみんなに合わせてくれたりっていうのは無かったように思うから」
「・・・そう?」
「何がレイちゃんを変えたのかしら」
「・・・知らないわよ。それに、今だって、みんなお泊りなのに私は帰るし」
「それは私もだけど」
「・・・」
「それで『いつも』なのに今日は帰るのね、レイちゃん」
「・・・何が言いたいの、亜美ちゃん」
「まこちゃんの『みんな』泊まっていけば?が気に入らなかったのかしら」
「なっ・・・」
「お泊まりは一人で・・・の方がいい?」
「あっ・・・みちゃん・・・」
「レイちゃん、最近分かりやすくなったわね。でも、まこちゃんのお勉強の邪魔はしちゃ駄目よ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちょっと妬けちゃうわ」
「・・・亜美ちゃん!」
私を待ってくれていた彼女を置いて、一歩先に外に出る。当然、追いかけてくれるものだと言う自信があったから。
でも、追いかけられるのでなく、後ろから強引に手を掴まれた。
「・・・レイちゃん?」
「・・・妬くって・・・」
「?」
「私に?それともまこに?」
「!」
「もし私に妬いているのであれば・・・」
握られた腕が、少しだけ痛い。
―以前のあなたは、こんな風に誰かに興味を示すことなんて無かった。自分の事を積極的に主張することだってなかった。
「・・・さあ。どっちかしら」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『【みんな】、明日は日曜だし泊まっていけば?』
まこちゃんの言葉を思い出す。
あのレイちゃんにそんなことをさせる彼女に妬く反面、二人には、きちんと私たちがいる状態で幸せになっていてほしい。
握られた手をほどき、掌を握り返す。驚いた表情の彼女の手をゆっくりと引っ張る。
「帰りましょ、レイちゃん」
彼女達ならきっと大丈夫。そう、ただ願ってる―
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原作無印~受験戦争編を読んで、レイちゃんの変化はまこちゃんの存在だと疑いません。カサブランカメモリーでのやりとりは大きかったと思う。
そしてあの回レイちゃんがお泊りパスで帰ったのは、まこちゃんちにお泊りするのは二人きりがいいからと思ったと信じてる(きっぱり)
亜美ちゃんは、戦士になる前のレイちゃん、戦士になってからまこちゃんに出会うまでのレイちゃんの態度を知っているので、友達として嬉しくて、ちょっとだけ嫉妬。
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