プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

Inside Storm

2015-06-01 23:59:52 | SS





 嵐の中に囚われる。

「うぁっ・・・ぁ、あ」

 深夜、壁一枚向こうで嵐は暴虐に荒れ狂っている。暴風に雨礫に雷音が轟く中だからか、よけいに腕の中から漏れる喘ぎ声に耳を澄ます。壁の向こうに音が届くことはないから、いつもより激しく体を絡ませる。

「っ・・・ぁ、は、ぁ」

 押さえつける。爪を立てる。噛みつく。脚で挟み込み、腕で締め付ける。大切な大切な彼女が嵐にさらわれないように、自分の体を楔のように打ち込む。快楽よりも痛みに喘ぐその姿に、ただ、欲情する。

 嵐の夜だから、内なる嵐に囚われる。





 その戦闘は嵐の中だった。

 深夜、火川神社のすぐそば、妖魔の気配を感じたレイは、変身すると嵐の中駆け出した。だが、猛烈な風と雨、耳をつんざくような雷鳴は瞬く間にマーズの感覚を奪った。冷える季節ではないのに、どんどん体温が奪われる。顔を伝って流れる雨が視界や呼吸を妨げる。立っているバランスさえ危うくなるほどの激しい風、そして夜の街をにわかに白く染める雷光。誰もが室内にこもる中悪い気配は街に満ちているのに、嵐の中にいるせいで体がままならない。

「っ、く」

 感覚がずば抜けているマーズにとって、嵐で敵の気配が追えなくなるということはない。だが、肉体の感覚も鋭いゆえに、今夜の天候は容赦なくマーズの五感を刺激した。視界を遮り、聴覚をふさぎ、嗅覚を詰まらせ、味覚を支配し、触覚を撫でまわした。
 目に、耳に、鼻に、口に、体の開いている部分に、雨や風という形で容赦なく嵐は入り込んでくる。身勝手に犯される感覚にマーズは歯を食いしばりながら、細いヒールを軸にしっかり立って、嵐をかきわけ戦いに向かう。

 敢えて誰も呼ばなかった。こんな嵐の夜中、ここに来るまでも難儀なのは見えている。片付くのなら自分ひとりで、と思ったのに。

 こんな日に跋扈する存在がいることが、信じがたい。車の一台も通らないほどの天候の中、この場でいったいなにを為そうというのか。

 雷鳴が、うるさい。敵の捕捉が困難だ。気配は捉えられているのに、体がいつも通りに動かない。炎の技は、放つことはできるだろうが、この嵐の中で正確性が保てるかはわからない。伸ばした腕がちぎれそうなほどの暴風。内臓が震えそうなほどの雷鳴。

 ままならない。

「この・・・!」

 目を細める。雨の礫の中、敵を捉える。おぼろげにしか見えていないが、なにか明確な意思を持っているとは思えず、組織に属しているようではない。おそらくはぐれ妖魔の類で、さほど強いとも思えない。やはり、セーラー戦士というよりは巫女の仕事なのかもしれない。誰も呼ばなかったのは英断だと改めて思う。ただ、嵐の中にいることが、嵐の中で動ける敵なことが難儀なだけで。

「(だからって、収まるのを待つつもりはないわ)」

 さほど強くない、というのは力を持つ自分だから言えること。気配を感じてしまった以上、一般人に接触させるわけにはいかないのだ。

 腰を下げて狙いを定める。転ばないように意識を集中すると、技より殺意が先に飛んでしまったのかもしれない。敵の気配が自身に向かうのを自覚していながら、恐怖ではなく嵐のせいで指が震えた。

 炎熱が集まらない。おぼろげな姿のまま、吹いてくる風と一体化するようにこちらに牙を剥きやってくるもの。かわすか、立ち向かうか、とっさの判断ができない。これも恐怖ゆえではなく、体がままならないからだ。

 感覚に体がついてこないから頭で考えて行動が遅れる。自分の意志ではもうどうにもならない距離まで敵の気配を感じた瞬間から、見えるものがすべてコマ送りのようにも感じられる。
 はじめて経験したことだが、これは死にとても近い。脈拍と同じリズムで、嵐によりぼやけた輪郭がくっきりと濃くなっていく。人とも獣とも違う異形の姿。雷鳴が遠ざかって、雨の音も風の音も遠ざかって、あらゆるものが遮断されて真っ白な視界のなか敵がようやくはっきりと見えた。

 白い世界で飛び散る血しぶきは、花びらを散らしながら落ちる薔薇を思わせる。

 眼球が潰れてしまいそうなほどの稲光の中、とても近くで雷が落ちる音を聞く。地響きなのか自分の鼓動なのかわからないほど激しい振動と、実際にどちらなのか区別をつけられないほど狂っている自分の感覚。
 そして、嵐の気配に紛れて、マーズになにも感じさせずやってきたその人物。

「マーズ、だいじょうぶか!?」

 暴風雨の中、叫んでいる姿はすでにマーズには霞んで見える。ただ、雷が光ったあの瞬間、自分に牙を剥こうとしていた敵を、横から至近距離でジュピターの拳が捉えていたのははっきり見えた。重くあっけなくめり込む拳は、まるで嵐の影響など感じさせない雷のごとく鋭いものだった。

 もしかしたら、血に見えたものは、ほんとうに花びらだったのかもしれない、とマーズは思う。空と地面の区別がつかないほどに濡れているこの場で雷の技を放つことはしなかったのだろう。空からの雷の光の下見えたフラワーハリケーン、花びらの嵐は本物の嵐の中でも霞むことなく、とてもとても美しかった。

 もう、気配など、どこにもない。あるのは吹き荒れる嵐だけ。

「なんで呼ばないんだよ!」

 確かに、強い敵ではなかった。こんな日でなければマーズひとりでも、例えレイであっても苦労せずに倒せただろう、負け惜しみでなくそう思うくらいに。そのせいかジュピターの咎めは言葉ほど厳しいものではない。だが、マーズの心臓は未だに地響きのように激しく轟いていた。
 マーズの命を奪おうとしたのは、敵ではなくこの天候だ。そして、それこそ完全に嵐と気配を同化してやって来たジュピターは、マーズにとって雷のように唐突だった。光の中、目を細め、眉を寄せ、くちびるをしっかりと結び、切り裂くように激しい拳を打ちつける姿を、全神経が集中して捉えていた。

 雷に、撃たれたみたいだった。





「う、っぐ・・・は、ぁ」

 外の暴風の音が耳鳴りみたいにこびりついて、うるさい。レイは苛立ちから逃れるため、まことの鼓動ごと飲み込むみたいに乳首を噛む。ぐずぐずと震える内臓を指でかき回す。まことの両手の指がシーツを掻いているのにまた苛立って、いっそベッドまで待たずに玄関で抱けばよかったとすら思ってしまう。そうすれば握るものなんてなくなるのに。

 戦闘のあと、すぐそばのはずの神社まで送ると言って聞かなかったジュピターに、マーズはほとんど言葉を返さなかった。神社には戻らないことと、家に行くことを暴風の中で一方的に告げたと思う。もう、その記憶さえおぼろげだ。

 ただ、今、レイの腕の中にはまことがいる。嵐から逃れる箱のような家の中、灯りもつけない狭い部屋の一人用のベッドの中、こんなに近くにいるのに、嘘みたいに気配を感じない。今度は体は自由に動くのに、感覚がままならない。目を少しでも離したら嵐の中に溶けて行きそうな予感さえ感じるから、まことに必死にしがみつく。ここに質量を伴っている肉体だけが確かだというのに、ここにはいないみたいで。

 外で雷が鳴っている。音だけで骨が痺れてしまうほど近くて、ますます強くまことをかき抱く。肉体の熱も感触も確かに存在するのに、なんの手ごたえもない。いくら、雨を浴びて濡れた体でかき回しても、乾いたままだ。
 強引で乱暴なことをしている。だが、否定も拒否もされなかった。しかし、受け入れられている実感も湧かない。風を掴んでいるようなあいまいさに怖気を感じて、レイはさらに肉体に肉体を沈める。

 暗闇の中、目を細め、眉を寄せ、くちびるをしっかりと結んでいるのは戦っているときと変わらない。だけどジュピターとは別人だ。おとなしく腕の中にいることも含め、ただ喘ぐだけのまことは、甘やかさなど感じていない。嵐が過ぎ去るのを耐えて待っているようにしか見えなかった。

 どうして、とレイは思う。いやなら否定してほしい。明確に拒絶をしてほしい。でも、まことは口でも態度でもそんなことはしてくれない。

 戦っているジュピターの横顔を至近距離で見た。夜の嵐の中でも世界を白く染めるほどの光の中、少しも霞まなかった。技など関係ない、圧倒的な力というものを目の当たりにした。呼吸が止まって、自分が雷に撃たれたみたいな衝撃があった。美しい、と思った。

 でもそこで頭は気づきたくなかったことに気づいて、それなのに浅ましい体はその横顔にどうしようもなく欲情した。今、ただ受け入れるだけの肉体に途方もなく感覚が奪われ、こうやって押し倒しているのは自分でも、自分の意志では止められないから、自分がまことに支配されているとすら感じているのに。

「あ、ぁぁ」

 気づいてしまってから、まことは快楽によがり狂っているのではなく、苦痛に喘いでいるようにしか見えない。それがわかっていてレイは体をぶつけて絡ませているのに、それだけなのに脳も体もしびれて止まらない。
 捉えられているのはこちら。指を舌を必死に動かして、反応の返ってこない体からやってくる快楽に突き動かされながら、浮かされるように名前を呼ぶ。

「・・・まこと」
「・・・ぁっ・・・レ、イ」
「まこと・・・」

 呼べば答えてくれるのに、体は応えてくれない。
 どうして戦ってるときと同じ力で抱きしめ返してくれないの。どうしてその腕はベッドに沈んだままなの。顔から滴り落ちるものは雨のしずくだけではないはずなのに、どうして体は乾いたままなの。
 脚の間に強引に顔を割り込ませたら。まことの指がさらに深くシーツに絡みつく。足の力の入り方からするに、足の指でさえシーツを握っているのかもしれない。レイの首には、なんの抵抗も返ってこないというのに。
 それにどうしようもなく苛立って顔を上げたら、寝ていてさえ大きく存在を示す乳房に、呼吸のたびに揺れる乳首のいやらしさにまた我慢が利かなくなる。犬みたいに荒く息をしながら舌を出して、噛みつくように性器を舐めた。まことに快楽を与えるためでなく、ただ自分がそうせずにいられなかったから。

 いっそ、まことが快感に我を忘れて、この長い脚が絡みついて首を絞め殺してくれたら、どろどろに濡れて中からあふれ出る液体で窒息できたら、どれだけ幸せだろうか。レイはそんな来るはずもない未来を思う。そんなこと、彼女が望んでいないのはわかっているのに。
 それでもまことに、快楽に喘いで、よがって、自分だけのものになって、理性もなにもかも溶けてしまって、でもどこにもいかないで腕の中にいて欲しいと望むのを止められない。
 あの時ジュピターが見せた激しさが、強さが、力が欲しい。レイを傷つけまいとしている、守ろうとする意思など取り去って、理性を取り払ってただそばにいたいだけなのに。

 奥の奥まで、舌をねじ込む。微かに血の味がして、沸騰しそうな高揚と、冷水を浴びせられたような冷たさを同時に味わう。ぴちゃぴちゃと音を立ててあとからあとからあごを伝うのは、雨のしずくと自分の汗と唾液ばかりだ。それがわかって、むなしいのに、やめることはできない。体に心が引っ張られている。

 まことの体に苦痛ばかりを与えているレイと、レイの体に痛みを決してくれないまこと。心はどちらが痛いか、レイにはわからない。まことのことはわからないことだらけだ。だから、ひとつだけはっきりわかる自分の体に従うしかできない。
 どうしても熱が欲しくて、まことの体の最奥に、入るだけの指を無理やりねじ込む。

「あっ・・・あ、ぁ、レイ・・・!」

 ぎゅ、と握られるのはやはり手ではない。シーツだ。手ごたえのない体と、風で軋み続ける部屋と、もう耳鳴りかも雷鳴かもわからない音に気が狂いそうになる。

 この、まことの血管が浮くほど強く握りしめる手が掴んでいるのが自分の手だったら、血管が破れるだろうか。骨が砕けるだろうか。神経が潰れるだろうか。ひとつもくれないから、わからない。窓の向こうでまた雷鳴が轟く。

 ―どっちがほんとうのあなたなの。

『いたい、よう』

 雨戸を閉めたはずなのに、隙間から雷の光は入り込んでくる。そのせいで、聞こえないはずの言葉が目に見えた。見たくなかった。まことがレイに聞かせない意図があるのが、それがよく見えたから。

 目が痛いほどの光に照らされたまことは、あの時敵に見せた顔とは似ても似つかない。





「・・・レイ」

 事が終わると、まことはなにも聞かず、レイの腕を引っ張って抱き寄せた。レイは抵抗しない。抵抗したら離してくれるかもしれないが、そうされることがレイには一番恐ろしいから。
 シーツを必死で握りしめていた手は、結局行為中最後までレイに触れようとしなかった手は、今は優しくレイの腕をつかむ。痛みなどない。下から、包み込むように抱きしめられる。持っている力の片鱗など、見せもしない。
 ずっと抱きしめてほしかったのに、ほんとうに欲しかった激しさは窓の外にしかない。

「・・・あたし、レイのこと好きだよ」

 言い聞かせるような、子守唄みたいな甘い言葉。嵐の中、安心するあたたかいからだ。どちらも欲しくてたまらなかったはずで、それが欲しいから嵐みたいに暴れてわがままな子どものように振る舞ったのに。
 ほんとうに欲しいものはくれない。それなのに、手を放してくれない。台風の中心の凪いだ天気のように、この人はとてもやさしい。

 そして、とても残酷な人だ。

「・・・まこと」

 はらはらと落ちてくるのが、雨のしずくではないと気づかれてはいけないけど、もう声はくぐもってしまっていてまともに話せそうにないから。

「・・・して」

 精一杯の言葉だった。これ以上のことを言ったらきっと壊れてしまう。でも、もし拒絶されたら、もう生きていけそうにないのだけど。

「いいよ」

 一拍空けて、なんの気負いも感じさせない言葉。そこにあるものを手渡してくれるような気軽な返事。

 痛みなど少しも感じない力で抱きしめて、まことはレイの背中をベッドに押し付けそのまま距離を詰めてきた。いつもそうだ。同じ戦士とは思えないくらい、まるで壊れものみたいに、レイを大切に大切に扱うのだ。ほんとうに欲しいものを見もしないで。
 覆いかぶさってきたのに、少しも重さを感じない。きちんと肘と膝を張ってレイの居場所をきちんと確保してくれているのが、とてもかなしい。

 やさしくしないで、という言葉はやさしい口づけに封じられる。息が止まる苦しさは一瞬で、甘やかな快感が体中に広がる。頭も体もあっという間にままならなくなって、体の中に嵐が吹き荒れる。内なる嵐に囚われていたはずなのに、今こうやって簡単に体をまことに乱される。

 雷鳴が轟く。いっそ、貫いてくれればいいのに。嵐はやがて街に爪痕を残して去っていく。せめて、まことからひとつ、爪痕があればいいのにと願いながら、頬に流れるものを無視して、レイはやさしい手が導く先に心も体も預けた。









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 相性が悪かったら萌えます。
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