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僕&macbexとIFの世界

小説や遊戯王(インフェルニティ)や日常の事などを雑記していきます。

源平合戦 オンラインゲーム 変態

2013-04-10 08:19:40 | 三題小説作品集 
源平合戦 オンラインゲーム 変態

「最近流行っている『アレ』は今までのウィルスとも言えないし、スパイウェアとも言えない。パソコン部副部長の君ならばその理由が分かっているだろうね」
 パソコン部の部室には幾台かのコンピューターが置かれている。小此木先輩の私機はサーバー増設などを惜しみなく施しているため、一台で何台分ものスペースを占領していた。どんなに優秀な爆破物処理班でも、あのコード束の中から一本を見つけ出すのは不可能だろう。純朴な女学生の三つ編みみたいに入り組んだコードは、ナイルの流れのようにして、一筋の大河をを形成している。
「わかりませんね」
 彼女は俺の返答を聞いて非常に残念で楽しそうな顔をした。残念で楽しそう、一見矛盾するような記述だが、とにかく彼女の表情を表現するのはこれが一番的確だ。恐らく、俺が正確に答えを言っていたら、彼女は満足でつまらなそうな顔をしたことだろう。
「分からないだろうと思ってまとめておいて上げたよ」
 彼女がエンターキーを叩くと、桃色チャンネルを表示していたページが消え、デスクトップに新しい窓が開かれた。こっちの事情なんて全く無視だな。諦めに似た気持ちを抱く。画面には「コンピューターウィルスとはなんだろう?」と表示されている。
 俺が黙っていると、小此木先輩が裏声で「なんだろう?」といった。
「え、これ俺答えるんですか」
「コンピューターウィルスとはなんだろう?(裏声)」
 流石に声優までは雇えなかったらしい。丁度作業も一区切りついたところだったし、少しくらい付き合ってやろうか。俺は「パソコンが壊れるプログラムの事です」と言った。画面にすかさず「○」のマークが表示される。
「スパイウェアとはなんだろう?(裏声)」
「もう辞めません? その裏声」
 早く答えろ、と尋問官のようにドスを効かせる小此木先輩。俺は「情報とかを奪うプログラムの事ですよね」といった。再び「○」を付けられる。そして最後に表示されたのが「では今回の『アレ』はなんだろう?」という疑問だった。
 先輩はあくまでもアレと言っているが、アレにもちゃんと名前はある。Cocoon(コクーン)。繭と言う意味だ。誰が呼んだか分からないが、アレにはコクーンという名前が付いていた。小此木先輩がその名前を使いたがらないのは、彼女がテレビメディアに対して激しい嫌悪感をいだいているからであり、他に意味はない。
「今朝見たニュース番組では、『データを盗まれるだけではなく消される』ってみのもんたが言ってました。つまり、CPを壊しつつデータを奪うからどちらとも言えない、ってことですか?」
「はい! TV(ティブイ)メディアに踊らされる人発見!」
「……なんですか突然大声出して。恥ずかしいですよ」
 小此木先輩は勝ち誇った表情で「違うんだなーコレが」とか「情弱はこれだから困る」とか述べた後、「あー気持よかった!」といつかの北島康介のように毒気のない笑みを浮かべた。
「いいかい。TVのバカどもはポピュリズムだか何だか分からないが、民衆に発信しやすいよう情報を編集する。バカが編集するから情報は歪になり、それが結局誤解をもたらすんだ、今回のように」
 彼女はフジテレビデモにも参加した猛者であり、TV局への思い入れは一入だった。テレビが嫌いだ嫌いだと言っておいて、恐らく俺や俺の妹よりもよっぽどテレビを見ているだろう。
「盗んで壊すだけだったのならば、例えばMarketscoreというウィルスが似たようなことをしている。こちらも、個人情報を流出させたあと、ネット接続できなくする」
「じゃあテレビが流しているコクーンの独自性って言うのは論点がズレているってことですか。それなら先輩はどこが『違う』と思うんですか?」
「まず一、コクーンはデータを盗んで壊しているのではなく、『送信』している」
 パソコンにメール到着の文字が踊る。ボックスを確認してみると、小此木先輩からメールが届いており、開いてみると「こんな感じ」と書かれていた。
「その二、コクーンはコピーしていない。――これが最大の特徴だな」
「コンピューターウィルスは、コピーされて感染していくと聞いたんですけど、コピーされていないとしたらそもそも感染しないのではないですか?」
「そこがアレの面白いところなんだ。ただ単に被害を広めたいだけならばコピーして感染していくのが一番だ。でもコクーンは違う。CPに甚大な被害を及ぼした後、オリジナルがそのまま移動する。だから攻撃されたパソコンにそもそもウィルスは残らない。ここはウィルスの『ロジックボム』と呼ばれる形式と似ているね」
 ロジックボムはウィルスが自分ごと爆発する(便宜的にこの言葉を使う)プログラムだ。システムに被害を及ぼした後、自分は消えてしまうから、対策ソフトの会社は「生きているウィルス」を探し出すのに大変苦労した。それは人間の病原菌とよく似ている。ワクチンを作るためには菌を確保しなければならないのである。
「じゃあコクーンはそもそも病原菌とは言えないのかもしれませんね。台風みたいなもんでしょう?」
「言い得て妙だな。自然災害に近い存在であることは間違いない」
 対策できない訳ではないよと彼女はいう。
「つまりアレがパソコンから出て行く前より、アレがデータを暗号化、もしくは送信できなくするソフトを入れておけばいいんだ。そうすれば、最悪自分のパソコンが無茶苦茶になるだけで済む。世を騒がしてるウィルスは滅びるという魂胆さ」
「自衛は出来ないんですね」
「それは諦めるしか無い」
 俺達は乾いた笑い声を上げた。
「エロ画像はUSBだから大丈夫です」
「この変態!」

                    ◆

おいおい、「復学のしおり」に書いてあったことと全然ちげーじゃねーかよ。進研ゼミのマンガと同じパターンかよ。なんだよあの温かく迎えてくれた下級生の図は。畏怖されてるじゃねーかよ。
 ……あれもこれも、二年間もヒッキーしてた私が悪いんだけどさ。
 私はため息を吐いてiPhoneを取り出した。学校に来てからこれしかやっていないような気がする。学校はオンラインゲームで遊ぶ場所じゃねーのに。
 最近はまっているオンラインゲームは「源平合戦」と呼ばれる横スクールアクションゲーで、キャラクターは三頭身のちびキャラであるものの、グラフィックは綺麗だし鎧はカッコイイしですっかりお気に入りだった。ちなみに私は平氏側なので、ストーリー上は負ける予定。でも負ける側につくのってカッコイイじゃん? 助太刀いたす! みたいな感じでさ。
「あ! 恵ちゃんもそれやってるんだ!」
「え、うん。まあね。ちょっと齧る程度にね」
 重課金厨だとは思われたくないのでダミーIDの普通くらいのキャラクターを見せると、彼女は「え~つよ~い」とニワカらしい発言。ふんと笑みが溢れる。この笑みは決して人に安心感を抱かせるようなものではないだろう。その自覚がある。
「私源氏なんだけど、恵ちゃんは?」
「源氏とか厨じゃん」
「え?」
「へ、平氏だよ!」
 あ、危ない。つい掲示板のノリで行ってしまった。源氏は装備のステが高めに設定されている上、ガチャも出やすいからニワカ御用達なのだ。二ヶ月前の大型アプデ以来、平氏はまさに駆逐される一方だった。多分平氏はもう壇ノ浦あたりまで追い詰められている。
「今度一緒にやろうね」
 とニワカは去って行った。……や、やべぇ、名前すら聞いていない。今日は一人でもメアドを手に入れるのが目標だったんだけどなぁ。恐らく、あれが最後のチャンスだったんだろう。まあ頑張りすぎるのはよくない。登校して一週間と経っていないし、最初からはしゃぎ過ぎると厨房と叩かれる。最初はこんなもんでいいだろう。
 帰りのホームルームの時、先生が何かを配った。それは最近じゃめっきり使わなくなったシャーペンと、いわゆる日記帳だった。こんなのは「ボク夏」の世界でしか見たことがない。それに、帰りのホームルームで紙が配られるのなんて初めてだったから、どうやって後ろの席に渡せばいいのか皆戸惑っているようだった。
「最近コクーンと呼ばれるウィルスが流行っています。そこで教育委員会はこのように、電子データに頼らない文化の保存を実技教育として取り入れることになりました。明日の帰りまでに日記を書いて……そうだな、学級委員長が届けに来ること」
 は!? 宿題増えるとか、コクーン死ね。ってか文化の保存ってなんだよ、私達の私生活が文化的と言えんのかよ……。
 そう言えば兄貴と朝ズバ見たとき、コクーンが国立図書館の電子書籍を全て壊したって話が取り上げられていたっけ。蔵書数十七万……何冊だっけ? でもとにかくすげぇ数だった。コクーンが社会現象になるのもよくわかる。よく分かるけど、この宿題は低能と言わざるをえない。
「コクーン怖いね~。ゲームのデータも消えちゃうもんね」
 ニワカは怖がっているといい。私は兄貴の先輩の天才科学者から貰った、特別なソフトをiPhoneにダウンロードしている。これは対コクーンソフトらしい。詳細は分からないが、これがあると多分大丈夫なんだろう。ウィルスめ、重課金厨の恐ろしさを思い知れってんだ。
 だがウィルスは先生という傀儡を使って攻撃を仕掛けてきている。なんて多彩な攻撃手段を持った奴なんだろう。そんなに人間を困らせて嬉しいか。せっかくの放課後なのに気が重かった。メアドは交換できないし、宿題は出されるしで最悪だ。
 そんな時、一通のメールが届いた。

---------感想-----------
三題でも前後編に分けていいよね……?
ってことで、今回は前編にさせて頂きました。いや、本当は完結させるつもりだったんですけど、
序盤の時点で三題を消費できたので、折角だし後編で残りの三題を終わらせてしまいたいなぁって……。
今回もソフトSFですが、伏線貼りが主な目的だったからまだ話は動いてないですね。
今回の主人公は妹の恵ちゃんです。
前回ヒッキーから卒業した彼女ですが、復学してからのことも書きたくってこのお題に絡めさせていただきました。
この三人はキャラクターとして面白いので、動かしやすくて自分は好きです。

次回、 梅雨 非常口 カオス
デュエルスタンバイ☆

心霊スポット 重症 ロリ

2013-04-07 04:04:57 | 三題小説作品集 
ロリ 重症 心霊スポット

 『電子欝』と言う病気が電子辞書に載ったのはつい最近の事で、それは検索サイトのホットワードを一時間独占するほどのスピードで日本に広がった。次の日には電子欝という単語はあちこちで使われるようになり、一週間後には電子欝に効果的と言われる目薬や錠剤が大塚製薬から発売されていた。皆新しい病気に対して興味津々だった。それは、いつかの鳥インフルエンザ騒動を彷彿とさせ、人は学習しないんだなぁとその病気を話題にするクラスメートを眺めていた。

 自称・天才学者を名乗る我が部長の小此木さんは、まるで下水道に痰を吐きかけるような勢いで「馬鹿しかいないな」と、唇をシドビシャスみたいに変形させて言い放つ。俺は「はぁ」と適当に相槌を打って、USBの中にエロ画像を集める作業に戻った。
「電子欝だって? 馬鹿馬鹿しい。第一、あの目薬だって以前あった物にビタミンCを配合しただけじゃないか。錠剤だって同(おんな)じようなもんだ」
 と、彼女はコンビニで買ってきた目薬と錠剤を俺のマウスパッドの上に置き「君にやる」といった。丁度目薬が欲しかったところなので、俺はそれをありがたく受け取った。錠剤はレモンキャンディの味がするらしいから、妹にでも与えればいいや。
「こんなのは電通の陰謀だ。いや、博報堂かもしれない。もしくは越後製菓か」
「あ。じゃあもう俺は帰りますね」
「私は徹底的に抗議するぞ。サイバーテロを仕掛けてやるんだ」
「お疲れ様です」

 小此木先輩はちょっと狂ってると思うが、それを言うのならば電子欝シンパになってしまった民衆もかなりの物だと思う。薬局では店の外まで棚が展開され「電子欝を防ごうキャンペーン」を銘打ち、電車の電光掲示板は「電子欝防止の為、只今放映を休止しております」と紙が貼ってある。すぐに現在地を確認できなくなっている分、乗客はいつもより電車のアナウンスに耳を傾けているようだった。
 まるで機械が反乱を起こしたかのような言い草だなと俺は笑う。前々からパソコンなどの電化製品から発せられる電磁波は体に悪いとは言われていたが、どうしてこんな突然排斥運動のようなことが起こったのだろう?
 iPhoneを開くと、このキャンペーンに疑問を感じるコミュニティーが乱立していた。
 >これは越後製菓の陰謀だ。皆騙されるな。
 >正解は越後製菓って事ですかw 電子欝乙
 >アンチを装ったアンチのアンチ
 >餅食って死ね
 俺はなんとなく小此木先輩に電話をすると、彼女は半なきになりながら「誰も信じてぐれないぃ」と語った。俺も、まさか餅屋にそんな影響力があるとは思わなかったから、適当に宥め賺して書き込みを止めるよう勧めた。
 バチと音がして、iPhoneが床に叩きつけられる。視線をあげると、そこにはカーゴパンツを膝上くらいまで下ろした金髪が、見るからに機嫌悪そうに俺のことを睨んでいた。彼は「てめぇ目が見えねぇのか!」と怒声をあげると、まるで右翼団体の啓蒙ポスターのように貼られる「電子機器使用禁止」の張り紙を指さした。
 ルールを守らなかったのは俺だから、別に反論する気はないけど、乳母日傘で大切にしてきたiPhoneが無残にもたたき落とされたのは、我慢ならないことだった。何もそこまですることはないじゃないか、とう言いかけたとき、乗客がこちらを――いや、俺の事を怪訝そうに見ていることに気づき、俺はiPhoneを拾うと素直に謝って電源を落とした。
 街の中はとにかく静かだった。車の姿も、緊急車輌くらいしか見かけない。車に取り付けられているGPSが電子欝の原因になる、そんな風聞が流行ったからだった。三車線道路の中央を闊歩できる機会なんて滅多にないので、俺は歩道橋の下を歩いて渡ると、道路上でサッカーをしている十数名の子供を見かけた。彼らは駐車場に続くトラ柄のゲートをゴールにしており、こちらに転がってきたボールを蹴り返すと数名が元気に「ありがとうございます!」と感謝を述べた。今日ばかりは、注意する人もいなかった。
 コンビニは電気が切られており、自動ドアは開きっぱなしになっている。自動ドアの赤外線センサーが欝の原因になるから……だそうだ。「当店は電子機器を一切使っておりません」と、赤字で紙にでかでかと書かれており、試しに中を除いてみると、アイス類と冷凍食品のコーナーには「お一人様一品、ご自由にお持ちください」と書かれている。
 そう言われては貰うのも吝かではないな。そう思ってハーゲンダッツをカゴに入れ、ついでに家で食べるためのポテトチップスを買った。レジは動いておらず、バイトが眉間に皺を寄せながら小銭を一つ一つ勘定し、メモ帳で計算していた。
「なんだか大変ですね」
「ええ。ですが電子欝になったら大変ですから……」
「でも、つい昨日までは電波やセンサーに囲まれて生きていましたよね? それがいきなり有害に転じたりすることはあるんでしょうかね」
「僕はそう言うのよく分かんないんですけど、良ければ店長をお呼びしましょうか?」
「計算を続けてください」
「はい」
 バイトから六十三円のお釣りを貰って、店をでる。道路では相変わらずサッカーが続いており、歩道橋の上から投げたサッカーボールを、子供たちは楽しそうに追いかけていた。
 皆バイトと同じような考えで生きているんだ。
 ふとそう思った。電化製品店の大画面液晶には白布が被せられ、「現在は電波受信を拒否しております」と黒いペンキで書かれていた。iPhoneを開いてみると、電波が入っておらず、小此木先輩からの最後のメールにはこう書かれていた。
「日本崩壊乙!」
 ああ。多分崩壊すんだろうなぁ。このままじゃあ。
 そんな風に呑気に構えていられるのは、なんだかんだ言って大丈夫だろうという楽天的な確信があったからだった。石油だって、九〇年に枯渇、〇〇年に危機、一〇年には奪い合いで戦争がおこるなんて言われていたけど、俺んちは相変わらず石油ストーブだし、原爆ニ個落とされても年金制度すら破壊されることはなかったんだから、大丈夫だろう。
 家に帰ると台所には「電気以外使用禁止」と書かれた張り紙が、机の上に置かれていた。こんな時でさえ両親は働きに出るんだから、すげぇもんだと思う。俺は二階に上がると、ゴミ袋が散在する廊下を乗り越え、妹の自室にたどり着くと、彼女の部屋をノックした。まるで心霊スポットみたいなおどろおどろしさに包まれている。
「あ。恵? なんか学校の先輩が飴くれたからお前にやるよ」
 返事は期待してない。まぁ恵は二年も前からこんな調子で、もう半年くらい顔も見ていないから、飴なんかに釣られるとは思っていないさ。俺は飴を扉の横に置くと、落ちているゴミ袋を三個くらい持って階段を降りようとする。そんな時、扉の向こうから弱々しい声が聞こえた。
「兄貴……?」
 彼女は微かに扉を開けると、深淵の向こうから語りかけてくる。
「そ、外、どん、どんな感じ」
「いい天気だよ」
「そ、そういう事じゃなくて、日本、終わんの? ってか、電波無いの、なんで?」
「電子欝だってさ。あっちこっちで電波を切ってる」
「マジかよ……。切った奴、腹切って、し、死ねよ」
「今コンビニでハーゲンダッツ無料配布してるぜ? 一緒にどう?」
 妹は少し考え込んだ後、「兄貴、ジャージある?」と尋ねた。俺は一階の自分の部屋から体育用ジャージを持ってくると、それを扉の間に滑り込ませた。部屋の中でゴソゴソと音が聞こえた後、恵が怖ず怖ずと出てきた。
 陽に当たっていないせいで肌は大根みたいに白くって、華奢だった。
「はい。スリッパ。ここ裸足で歩くと、足怪我するよ」
 母が空き缶を踏んづけて足を負傷して以来、彼女の部屋に料理などを運ぶのはもっぱら俺の役目だった。電波の入らないパソコンでF5を連打し続けていたのだろう彼女は、薄暗い廊下に夜目が効かず、俺の腕をつかみながらえっちらおっちら降りてきた。
 外に出るための靴は下駄箱の一番奥に隠れており、それは彼女がかつて中学校に行っていたときに履いていたローファーだった。今はカビてしまって大変なことになっていたから、彼女は母のベージュ色ミュールをつっかけた。
 誰もいない大通りを目の当たりにして、恵の目は輝いた。「すげぇ! すげぇ誰もいねぇ!」と粗暴な口ぶりで言った後、まるで世界の祝福を一心に受けたかのようにその場でターンした。
「たまに外出るのもいいだろう?」
「きょ、今日はパソコン使えなかったから、だし。っていうか、電子欝予防の飴とか、私を煽っているのかと」
「これ、案外美味いんだぜ?」
 俺と恵はその飴を舐めながらコンビニに向かって歩いた。彼女はいつになく饒舌だった。常日頃、彼女の愚痴の捌け口となっていた掲示板が使えなかったから、鬱憤を晴らす場所を求めていたのかも知れない。まぁ、なんであれ、俺は少しばっかりこの電子欝騒動に感謝していた。
「この電子欝って言うのは、元は、医者が勝手に付けた俗語なんだよ。空の巣症候群とか、燃え尽き症候群とか、なんでも病気にすりゃいいと思ってる」
「それを真に受けて――いや、拡大解釈した結果が今回の騒動なわけだ」
「だから越後製菓の陰謀とか言ってる奴は、馬鹿なんだよ」
 時代劇の見過ぎなんだっつーの。と彼女はいった。小此木先輩はどうやらネット上で大人気みたいだ。
 コンビニの前について、彼女は俺の背中を押しながら「兄貴、代わりに取ってきて」といった。「お一人様一品だよ。二人でいこうよ」と言うが、彼女は「お腹、痛い」とか言ってタイヤ止めに腰を下ろしてしまうのだった。まぁいいか、俺はもうお腹いっぱいだし。
 バイトは再び現れた俺を見ても、特に何を言うこともなかった。彼は言われたとおり仕事をし、言われたとおり戸惑っているようだった。半分溶けかけたハーゲンダッツを食べながら、妹は「皆、繋がり過ぎなんだよ」と今回の騒動をまとめる。
「ハーゲンダッツなうとか、馬鹿かと。勝手にさせてと。こんな風に、実際に食べて、歩いて、そういう物だけが本当なのに、文字とか、ピクセルとかに全部、騙されちゃってさ。皆最初っから電子欝なんだよ」
「大丈夫だから、泣くなよ。ほら、飴くったろ? 治ってるだろ、電子欝なんて」
「うるせー、ばか」
 彼女は家に帰る間にハーゲンダッツを食べ終える。玄関で母とばったり会った。母は突然帰ってきた恵を見て、目を丸くしていたが、彼女の目が赤くなっていることから大体の事情を察したのか、優しく微笑んで「靴、新しいの買わなくちゃね」と言った。
 電子欝ブームはあっという間に通り過ぎ、大塚製薬は飴と目薬の製造を止め、小此木先輩は自分の田代砲が世界を救ったのだと掲示板に書き込みをして「通報しました」と言われていた。それを書いたのは恵だったのだが、彼女はiPhoneで書き込んでいたので「iPhoneで通報できるわけねぇだろにわか」と周りからはやし立てられていた。そして俺はUSBに貯めたエロ画像を放出し神と呼ばれた。
 
------あとがき-----
なんか今回は自信あるわ。
自画自賛って奴か!? まぁいいや。久しぶりに言いたいこと言えたなーって作品に仕上がって
結構満足してます。ただ一つ不安なのは心霊スポットという題材を上手く活かせなかったことかな。
一描写で済ませてしまって本当に申し訳ない。
でもこのサイバーティックな雰囲気に心霊スポットを介入させることが出来なくなってしまったんだよね……。
ちなみに、今回の作品は管理人が得意とするヘタの横好きSFチックになってます。それじゃあ第三作品目に移ろうかな。

ハンドレス カラス、死す 浅間山

2013-04-05 05:26:44 | 三題小説作品集 
カラス、死す ハンドレス 浅間山

 昔はどこの街にも魔女がいて、彼女たちは街中の子供を恐怖で震え上がらせた。

 こんなプロローグで始まる映画があって、僕はそれを彼女との初デートで観に行った。母からは映画の割引クーポンを渡されたんだけど、それを使うのがなんか恥ずかしくって、その紙で小銭を包んで、ポケットの中に突っ込んでいた。こういうアウトローな感じが僕の目指すべき場所だったのだ。
 だから、この映画のプロローグを人伝で知ったときは、さぞかし恐ろしい魔女が登場して、多くの子供を震え上がらせるのだろうと思ったのだが、それは奇人である父とその息子の交流のお噺であり、愕然とする僕を他所に彼女は涙なんて浮かべていたのだった。
 人伝の噂なんて宛にならないな。僕はふと溜息をついて、肘掛けに乗る彼女の手に、自分の手なんかを重ねてみたりするのだった。

 僕がそのホームレスに出会ったのは、もうずーっと前の夏の日の事だった。彼女は僕に会う以前より街の外れにあるトンネルで生活しており、度々街に出没しては危険人物として回覧板にその名を――カラスという名を――轟かせていた。
 ゲリラ豪雨なんて言葉が流行語大賞の候補に選ばれた年、僕はそのゲリラの降撃に遭い慌ててトンネルの中へ避難した。僕は片手にショベルを持ち、もう片手で抱き抱えるようにホワイトシェパードの遺体を持っていて、今更こんな事しても意味がないことは分かっていけど、その犬の体に染みこんだ水を、尻ポケットに入っていたくしゃくしゃのハンカチで拭いた。
 トンネルの中には生活雑貨の包み紙が無数に散乱しており、まるで宇宙船の緊急脱出ポッドみたいな冷蔵庫が、トンネルの中央にドンと置かれている。このトンネルは、新設に伴い使われなくなった旧薊(あざみ)トンネル。奥へ進むための道は閉鎖されており、トンネルの果ては深淵に飲み込まれている。
 僕は持っていたショベルをトンネルの壁に立てかけて、膝に犬を乗せたまま暫く呆然としていた。何かが腐ったような臭いがあたりに漂い始め、僕は早くも遺体が痛んでしまったのかと危惧をした。しかし、臭いの発生源は犬ではなく、僕の横を通り抜ける彼女だった。
 すぐにカラスだと分かった。彼女はオイルが沢山染み込んだぼろ布のような服を来ており、裸足の上に使い古したスニーカーをはいている。髪の毛は昆布のようにグチャグチャで、肌はホワイトロースハムのような色をしていた。
 とんでもない奴と出くわしてしまった。それが僕の感想だった。カラスは頭が狂っていて、野犬の肉を食べるという噂も聞いていた。この豪雨のなか、果たして走って逃げられるだろうか。そんな事を逡巡している間に、僕の横をカラスは通りぬけ、平然と雨の中へ歩き出した。
そして着ていた上着を脱ぎ捨てると、僕の前で雨をシャワー替わりに体を洗い始めたのだった。あんまりにも傍若無人な振る舞いだったので、なんだか彼女の事を気にしていた自分が馬鹿らしくなって、浮かしていた腰を地面に下ろすと長い息を吐いた。カラスは雨の中で洗濯まで行うと、トンネルの中へ戻ってきて、そのTシャツを絞った。
 山岳部のCGパノラマのような模様を浮かび上がらせたシャツを着ると、カラスは僕の存在に初めて気付いたかのように目を丸くして、「あたしの為に持ってきてくれたのかい」としわがれ声で言った。
 やっぱり犬を食べるのか。僕は彼女から隠すように犬を持つと「違う。埋めるんだ」と言った。
「だったらあたしにくれよ。火葬にしてやるから」
「焼いて食べるんだろう」
「悪い?」
「うん」
 そうか、ならいいや。カラスは呆気からんとした様子でトンネルの置くへ行く――かと思われたが、何故か僕の背後にある冷蔵庫に腰掛けて、トンネルの外をぼーっと見ていた。彼女はその海藻類のような髪を輪ゴムで後ろに縛っており、遠目からみると普通の女性だった。だがよく見てみると、黄色く変色した指の爪や、すきっ歯などが目立って、子鬼のような印象を抱くのだった。
「アンタはなかなか物怖じしない性格だねぇ」
「僕は……アウトローなんだ」
「アウトローが子犬を弔うかい? アウトローはなぁ、焼いてかっくらうんだよ」
 カラスは自分の言葉に大笑いしていた。デリカシーを欠いた発言に苛立ちを覚えたが、相手にしてはいけないと自分を諭す。彼女は一仕切笑った後、「その犬はなんて名前なんだい?」と尋ねた。
「ポチって言うらしい」
「アンタの犬じゃないのか」
「友達の犬。死んだからって生ごみの袋に入れて捨ててたから、可哀想だと思ったんだ」
「その友達のほうがよっぽどアウトロゥだねぇ」
 また大笑いするのかと思ったが、今度は呆れたように微笑をこぼすだけだった。
 彼女はかなりの変わり者だったから、僕は幾分自分の異常な行動に対して、素直に話すことができた。客観的に考えるのならば、ゴミ捨て場の袋を破いて犬を拾い上げた僕の行動は、カラスのそれと変わらない。
「こんな事して、何の意味があるんだろう」
 轟々と振り続ける雨は、道路に大きな流れを作り、遠方からは何かとてつもなく大きなものが転がるような雷の音が、時々聞こえた。それは犬がのどを鳴らすような音にも聞こえて、ついその犬の事を僕は見てしまった。
「まぁそうさな。アンタの行為は過干渉とも言えるわな」
 そう彼女は話す。自分の足の指の間を、指でほじり、垢を取り出しながら。
「でもアンタはこんな悪天候の中決意したんだから、それが正しいことだと思ったんだろう? 真っ直ぐに生きるって事は、良い悪い以前に、重要なことさね」
 カラスは立ち上がると立てかけてあったショベルを担いでトンネルの置くへ向かって歩き出す。恐らく、付いてこいと言っているのだろう。僕は犬を両手で抱きながら彼女の後ろを歩いた。
「埋める場所はどこでもいいんだろう?」
「……掘り返して食べたりしないよね」
「緊急時には――冗談だ冗談」
 彼女は飄々とした調子で言う。思い上がりと言われては仕方ないが、僕はこの短い間でカラスという人間の片鱗を少しばっかり覗くことができたと思っていたから、彼女の冗談にも慌てることはなかった。
 トンネルの奥、微かに光が差し込むくらいの深さの場所で、カラスは穴を掘り始める。なんだか奇妙な歌を口ずさみながら、軽快にスコップを動かした。そして膝くらいの深さまで掘ると、ショベルを投げ出してその場に尻を着いた。彼女は自分の手のひらをじっと見て、何事か考えているようだったから、僕は犬を穴の中に置くと、上に土をかぶせ始めた。それはまるで、新芽が生えるのを邪魔しないようにしてるみたいに。
 カラスはうわ言のようにつぶやいた。
「何かを持つ事が苦痛だったからこんな所にいるけど、一人ぼっちで死んで、生ごみに出されちゃうのは、あたしも嫌だなぁ」
 トンネルの入り口に戻ると雨は小雨になっていた。僕はカラスに丁寧にお礼を言うと、彼女は「あたしと会ったことは言うんじゃないよ」と釘を差す。それは、彼の迷いを断ち切った。
 家に帰ると、びしょ濡れの僕の事を母はとても心配していた。一体どこに行っていたんだと聞かれ、僕は咄嗟に本屋さんで立ち読みしていたんだと嘘を吐いた。
 生ごみとして捨てられてしまったイヌ。
 何かを持つことを嫌ったカラス。
 そして僕。この三つの交わりは、まるで雨の向こうに見える景色のように不明瞭で、日を重ねるごとに実体がなくなっていった。それから数年経ったある日、カラスが死んだ事を回覧板で知った。彼女はホームレス狩りに遭い、誰も通らないような裏路地に捨てられ、ひっそりと死んだそうだ。
 カラスは本名すら誰にも知られずに、その生涯を終えることになった。遺体の引き取り手に心当たりがないかを回覧板は訪ねていたが、それは町内を三週回っても剥がされることはなかったから、最後は警察によって処理されたのだろうと僕は思った。

 映画を見終わった僕と彼女は、映画館の隣にある喫茶店に入った。なんだかとても懐かしいことを思い出してしまって、僕は少し泣いてしまった。アウトローな印象を彼女に与えたいと思っていた僕に取って、それは全くの不覚だった。
「また映画来たいね」
 彼女がそう言ってくれたから、まぁ、結果オーライという奴だろう。喫茶店の支払いをするとき、僕は後ろポケットに入っていた小銭を紙ごと取り出した。そしてそれが映画のクーポン券であることを思い出し、紙の中身がバレないようこっそりと解いた。
 街を歩きながら彼女が「小銭を紙で巻くおまじないがあるんだってさ」と話す。
「浅間山ってあるでしょう? あそこの火口にお金を投げ込むときに、小銭を紙で巻くんだって、それで、紙が燃えないと願いが成就するらしいよ」
 どうやって火口の中まで紙が燃えないかを確認するんだ? そう尋ねると彼女は「ターミネーターみたいに降りていくんじゃない? 溶岩に」と真面目な表情で言ったので、僕は少し笑ってしまった。それはとてもアウトローだった。


【あとがき】
お疲れさまでした。まずは第一本目のお題を消化させてもらいました。
雑感としては浅間山を絡ませるのがめちゃくちゃ難しかった。
ってか、なんで浅間山!?浅間氏だけに!?
このお題をどう消化するかが課題で、いっそあさま山荘事件を題材にやろうかとも思ったのですが、
赤連合軍について書くのは難しい気がしたので、浅間山の民間伝承を〆に使わせていただきました。
それじゃあ次のお題は合法ロリ・重度・心霊スポットです。でわでわー