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「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」

「歌わせたい男たち」を観て

2009-07-27 | 本・番組・映画など
あらゆる演劇賞を独占したという、笑える悲劇、永井 愛の作品だ。

国歌斉唱と起立の強制にやっきになっている熱血改革派青年教師と校長の姿がコミカルに表現されていて、とっつきやすく面白い!
また、思想を押し付けず、いろんな状況や考え・解釈も盛りだくさんで、観た人が考えさせられるのがいいと思った。

この劇は「君が代」をめぐる論争や問題を、高校の卒業式の2時間前からという設定で描くのだ。
登場人物は5人。
・国歌斉唱で、不起立をする「ガチガチの左翼」と呼ばれる男性教師
・「改革」に燃える若い男性教師
・昔国歌斉唱に反対していた校長先生(男性)
・国歌斉唱問題を知らなかった元シャンソン歌手の女性音楽教師
・ドタバタしている状況を楽しんでいるような保健室の女の先生

国歌斉唱で、不起立をする男性教師は、周りから「ガチガチの左翼」と形容され、髪ボサボサ、卒業式なのに服よれよれで靴は運動靴という、イカニモ(?)というキャラクター。一度、国歌斉唱や不起立の話になると、熱く語り出し、強く人に訴えかける。日本がしてきた侵略戦争と君が代がどうしても切り離せないものだと…。また、『内心(思想・良心)の自由』という戦後の民主主義の生命線ともいえる憲法19条とのからみからも、強制的に歌わせる行政のやり方こそ、どうなんだ!?と反論している。

また、一方「改革」に燃える若い男性教師は、国歌を歌うというルールが決められているのに、それを守らないとは、どういうことだ? ひいては「ピアスもいいんだ」「茶髪もいいんだ」というレベルも引き合いに出してくる。また、グローバル社会で日本がもっと発展するために、日本国家を誇りに思えないなんて、世界から認めてもらえない…なんて話しも出したりした。そして「ガチガチの左翼」の先生に「歌いましょうよ~」と誘うのだ。

校長は、昔教師の頃、「歌うも歌わないも皆さん自身で決めて下さい。」と教育していた。卒業式の前には必ず『内心の自由』について説明し、生徒達に考えさせていたのだ。それが「人権尊重教育推進校」で校長になった今、「ガチガチの左翼」の先生に「歌ってくださいよ~」とお願いするのだ。

「日の丸・君が代」問題を知らなかった元シャンソン歌手(独身の女性)が、講師の音楽教師という食いぶちにあやかったが、ピアノが苦手で緊張のあまり、めまいで保健室にいた。「君が代」を伴奏できないと来年の更新に響くと知る。また男たちの話を聞く中で国歌斉唱が「どえりゃ~」問題だと認識するのだ。

保健室の先生は、「去年はもっと凄かったですよ~」とか、携帯をチェックしたり、顔を作ったりとせわしなく、他人事ながらも野次馬的キャラクターで面白い。

以下は、さらなるネタバレになっていますのでご注意下さい。

最後に校長は追い詰められ「…内心で何を思っても自由だという保障がされている…」と屋上から演説するのだ。1人でも不起立者がでたら飛び降りますと宣言し、最後には、「…皆さんは、改革の側につきますか~? …我が校から変えていきませんか~!」とテンションが最高潮に達し、生徒らから「ワー!かっこいい~!」と黄色い声援と共に拍手が鳴り響いたのだ。校長は嬉しそうに「ありがとう」とつぶやく。

そんな姿を「ガチガチの左翼」教師は見て、音楽教師に頼むのだ。
「歌ってちょ(名古屋弁)」と。
リクエストは「♪きかせてよ 愛の言葉を」

どうして男たちは「歌わせたい」のだろう?
校長や熱血改革教師は君が代を、「左翼」の教師はシャンソンを…。
シャンソンには反権力の思いが根底に流れているという。
君が代には権力に尽くそうという思惑が根底に流れているのだろう。

頼れると信じているものが、「権力」なのか、「愛」なのか?
そんな対比もこの劇では揶揄されていたのかもしれない。
(ほいみィ)


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5 コメント

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Unknown (ウナイ)
2009-07-28 20:33:13
この芝居、去年大阪で上演されていた時に観に行こうと思ったんですが、満席でダメでした。
やはりおもしろいんですね。

君が代の伴奏ができない理由を、「拒否」ではなく「ピアノが苦手」にしたところがミソなんでしょうね、きっと。
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音楽教師の苦悩 (ほいみィ)
2009-07-28 23:03:09
コメントありがとうございます。
満席ですか!
会場からも笑い声が聞こえてきて、何も知らない人が観ても、笑える劇だと思います。
(あまり言うと、期待を煽りそれほどでもないと思われてしまうのがコワイですが)
とはいえ私自身、関心も情報もなく、当時全く知りませんでした…。

君が代の伴奏が難しい理由は、演劇では緊張のあまりのめまいでした。
更に、ド近眼なのにコンタクトが破損し、このままでは楽譜が読めない状況に!
度数の合うめがねは「ガチガチの左翼」と形容される教師しか持っていませんでした。音楽教師は貸してもらえるよう必死にお願いするのです。自分の雇用の更新をしてもらえるために。
そんな攻防も見どころの1つです。

私自身、君が代問題を知ったのはごく最近です。ですのでこの音楽教師がいることで非常に親しみやすく、この問題を感じることができました。

中学時代(今から20年ほど前)の音楽教師が「日の丸反対」と書いた紙製の手作りコーンを机上に置いていた風景を思い出します。そういえば、よれよれの服を着た理科の教師もいました。式典で国旗掲揚や国歌斉唱はなかったと思います。この問題について先生から話を聞いたことはありませんでしたが、2人とも生徒思いで情熱的だった印象が残っています。
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DVD (ナベ)
2009-07-29 13:54:10
歌わせたい男たちはDVD化されています。
舞台を録画したものですが、良く出来ています。
下記のサイトをご覧下さい。
http://www.nitosha.net/tuuhan.html
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紹介ありがとうございます (ほいみィ)
2009-07-30 08:14:50
DVDの紹介ありがとうございます。
実は、私もDVDを借りてました。
5000円もするんですね(驚)
公演に行った職場の人もおもしろいと言っていました。そしてまた観たそうでした。
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やっぱり「ガチガチの左翼教師」も、歌わせたい男だった?! (ハンマー)
2009-08-13 19:22:15
ほいみィさん

 鋭い演劇評、深く考えさせられました。ほいみィさんは、「「ガチガチの左翼」教師は見て、音楽教師に頼むのだ。「歌ってちょ(名古屋弁)」と。」と書いていて、君が代を拒否している男性教師も「歌わせたい男」の一人だと捉えています。彼は音楽教師にシャンソンを歌わせたい。僕はこれは深読みのしすぎで、「歌わせたい男」とはやはりここでは、校長や教育委員会のことだと思っていたのですが、この戯曲のシナリオを読んでいて、ほいみイさんの言うように、ガチガチの左翼の教師も「歌わせたい男」の一人だと思うようになりました。
 以下のような場面があります。
 音楽教師が、「左翼教師」に、どうして君が代を拒否していることを言ってくれなかったのか、と詰め寄ります。すると「左翼教師」は、あなたとはそんな話じゃなく、普通の話がしたかったからだと応えます。3人の子持ちの男性教師と独身女性音楽教師の微妙な空気があるのですが、ここで「左翼教師」は、君が代を拒否しただけで「ガチガチの左翼教師」とレッテルを貼られ、皆から孤立し、職員室でまともな会話が出来ない状況に追い込まれていることが見て取れます。日の丸・君が代があたかも「踏み絵」や「赤狩り」のように機能し、「従順な教師」とそうでない教師を選別し、教育現場に重苦しい雰囲気を作り出し、破壊的な影響を与えていることを示唆しています。ですから、日の丸・君が代問題とは、単に卒業式の数時間の話ではなく、教員生活の日常を支配する問題になっていることが浮かび上がってきます。
 だから、「左翼」教師は、心を通わせることができそうな音楽教師に対して、名古屋弁で「歌ってちょ」とシャンソンを歌わせたかったのではないかと思うのです。

 ところで、このシナリオには、重要な逸話が載っています。この戯曲は、ロンドンのある劇場と提携公演をする予定でしたが、その芸術監督が「これは、一体何十年前の話ですか」「もっと普遍的なことが書けないでしょうか」などと言ってきて、作者の永井愛さんが「これは今現に日本で起こっていることで、普遍的なことです」といくら説明しても理解してもらえず、提携公演はボツになったというのです。
 永井さんは、「日本では先生が国家を歌わないと罰を受ける」と海外のメディアが《仰天ニュース》として伝えた、と締めくくっています。

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