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lightwoブログ

競馬のスポーツとしての魅力や、感動的な人と馬とのドラマを熱く語ります。

続けること

2006-03-07 23:38:31 | 心に残る名馬たち
続けること。
簡単なようで難しい。
結果が出ないとやめてしまいたくなる。
だが、やめた瞬間に可能性は皆無となる。

しかし、分かっていても諦めたくなる。
続ければ続けるほど打ちのめされるから。
難しさが骨身に沁みてくるから。

この馬も戦い続けていた。
地方に在籍しながらも中央の頂点を目指して。
手を伸ばせば届きそうなところまでたどり着いた。
だが、その手をすり抜けていった。

挑戦し続ければ掴める筈。
そんな手ごたえは十分だった。
しかし、距離は遠くなるばかり。
気がつけばもはや誰も手が届かないと思われるほど離れていた。

争った相手の仔がターフを走り出す。
それだけの時が流れれば力も衰えてくるだろう。
彼の挑戦に送られていた声援も殆ど聞こえてこない。
それでも戦うことを止めなかった。

私も彼のことを忘れかけていた。
あの内を切り裂くような脚を見せつけられるまでは。
ゴールの瞬間は本当に信じられなかった。
まるであの頃のような強さだったから。

時と共に変わって行くことは誰にも止められない。
だが、それは自らだけではない。
周りも同じように変化し続けて行く。
それが時に幸運をもたらす事もある。

続けていなければ訪れることは無い。
当たり前のことである。
でも、結果が出ないとそんなことも考えられなくなる。

続けなければいけない。
なぜ、こんなことを続けるのだろうか。
時々分からなくなる。

こんなことを続けて何か意味があるのか。
もう、やめてしまおう。
そんな風に心が荒んだら彼の走りを思い出そう。

続けていればそのうち良いことあるよな。
そう彼に問いかけながら。

この馬のための言葉

2006-02-27 21:49:11 | 心に残る名馬たち
ターフの紳士が鞭を置く日に重賞を制する。
そんな華やかな場面の影で一頭の馬が競走を中止した。
最期まで競走馬としての使命を全うしたのだった。

この馬には地味な印象がある。
血統が良いわけではない。
誰も追いつけないようなスピードに溢れるわけでもない。
そして、人々の注目を一身に集める人気者でも無かった。
だが、決して忘れることの出来ない馬である。

2歳の初夏に早くもデビュー。
3戦目でようやく勝ち上がると6戦目で2歳重賞制覇。
タイトルホルダーとして2歳チャンプ決定戦に臨んだ。

主役はデビューから4連勝の快速馬。
過去に一度対戦し影を踏むことも出来なかった相手。
一方、この馬はそれほど注目されて居ない。
重賞を走ったことも無い馬よりも人気が無かった。

レースでは暴走気味に飛ばす快速馬を追いかけ続けた。
直線でも追い続けジワジワと差を詰める。
しぶとく脚を伸ばし続けゴール直前でクビだけ差し切った。
見事にリベンジを果たし2歳王者の座に輝いたのだった。

叩き上げのサクセスストーリー。
そんな呼び名で人気が出てもおかしくは無い活躍である。
だが、その賞賛は僚馬に集まった。

同じ父を持つ道営所属馬。
外厩制度で中央に風穴を開けるべく戦う北の勇者。
安馬がエリート達に戦いを挑む。
瞬く間にスターダムへの階段を駆け上った。

この馬は2歳チャンプとはいえ僚馬の影に隠れているようだった。
それでも地道に戦い続けた。
クラシック一冠目では着実な走りで掲示板に載った。
次は3歳マイル王決定戦に臨み、後のダービー馬以外には負けなかった。

2歳王者の名に恥じない堂々たる成績。
だからこそ厳しいローテーションながら競馬界の祭典に挑んだのだろう。
そんな華やかな舞台でこの馬は地獄を見た。

息の入らないほどのハイペースでレースは進む。
ペースは後半でも全く緩まず付いてゆけないものは脱落する。
そんなサバイバルな様相を呈していた。
距離的に持たないと目されていたこの馬にとっては厳しすぎる競馬だった。
4コーナーでは内にもたれて苦しがる。
なんとかゴールにはたどり着いた。
しかし、その代償は大きく左第一指節種子骨々折の重傷を負っていた。

命に関わるほどの重傷。
助かったとしても競争能力喪失は免れない。
再起の可能性は僅か10%にも満たない。
ターフからこの馬の姿は消えた。


それから1年2ヶ月。
この馬は再びターフに戻ってきた。
再び競争馬として走るために。
命すら危ぶまれた重傷を克服して。
しかも、休み明けでいきなり掲示板に載って見せた。

馬は嫌な記憶は中々忘れない。
あれほどの怪我をしたのならその痛みも覚えているだろう。
それでも、この馬は全力で走りきった。
その心の強さは賞賛に値する。
しかし、この馬の復活にはあまり光は当たらなかった。

競馬やはり勝たなければ栄光は掴めない。
勝って華々しく完全復活となれば良い。
だが、この後この馬は不振を極める。
精彩を欠いた走りは脚を気にしている様だった。

競馬を一度走り、あのときの記憶が蘇ったのだろう。
地味だが堅実に走る。
この馬らしさが失われていた。

陣営は賭けに出た。
競馬で闘争心が高まっている内に次のレースに使う。
そうすれば嫌な記憶も忘れられるのではないか。
連闘での出走が決定した。

一度あれだけの大怪我をした馬を連闘で走らせる。
普通であれば考えられない。
事実、決定を下した調教師も追われるたびに胸が痛んだという。

それでもこの馬は走った。
最後まで決して力を抜かずに。
しぶとく脚を伸ばすその走りは全盛期のものと変わらなかった。
痛みと言う恐怖を克服し先頭でゴールを駆け抜けた。
ようやくこの馬に陽が差したのだった。

今年は短距離路線の主役の一頭。
満を持しての休養明け初戦。
新たなる一歩を踏み出すはずだった…

この馬が後退していったとき怪我が再発したかに思えた。
だが、原因は急性心不全。
怪我に再び負けたわけでは無かった。
レースという競走馬としての宿命に殉じたのだ。
ただ直向に。

死ぬほど頑張った。
そんな言葉を間々耳にする。
自分も使ったことがある。
だが、私は二度とその言葉を使うことは無いだろう。
不謹慎かも知れないが、それはこの馬のために使われるべき言葉だから。

夏の夜空の一等星

2006-02-15 22:56:00 | 心に残る名馬たち
厳寒期の東京競馬場。
雪に煙る大欅の手前で早くも先頭に並びかける。
手ごたえは全くの持ったまま。
中団から一気に捲くってきた。

4コーナーを回り直線に入るとドンドン後続を引き離す。
牝馬ながらに57キロを背負い牡馬が相手でも関係無い。
力強く砂を蹴り上げ更に差を広げて行く。
残り100mで手綱を抑え、そのままゴール板を駆け抜けた。

この瞬間、6歳にして彼女はダートで無敵の存在となった。


元々彼女は芝で一線級の活躍をしていた。
史上二頭目の牝馬三冠。
その偉業に挑んだ西の一等星。
阻んだのは奇しくも同じ名を持つこの馬だった。

しかし、当時は古馬の牝馬限定G1が無かった。
牡馬の一線級を相手ではそうそう勝ち切れず。
新たな活路を見出すべく始まったばかりの交流重賞への出走を決断する。

G1ホースが無様な走りを見せるわけには行かない。
そんな陣営の苦悩をよそにこの馬は自ら運命を切り開いた。
後続に18馬身3秒6もの大差をつけての圧勝。
今でもこのレースは伝説として語られている。

それから暫くはまた芝のレースを走っていたが、やはり結果は出ない。
6歳を迎えそろそろ引き際を考え始める。
もう一度ダートを使って引退。
そんな青写真を描きながら再び交流重賞に挑んだ。

前年から整備され始めた交流重賞を次々に制したダート王。
世界最高賞金レースへ挑戦するその馬が出走していたこのレース。
ラストランのはずがその相手を捻じ伏せての完勝。
引退は白紙に戻され厳寒期の府中へと向うことになったのだった。


その後の彼女はダートで連戦連勝。
東の一等星はいつしか砂の女王と呼ばれるようになった。

交流重賞10連勝。
そんな実績を置き土産に彼女は遠く中東の地へ向った。
日本代表として世界の舞台に立つために。
最後の引退の花道として。


彼女は夜空に輝く星となった…



その数年後、厳寒期のはずがとても暖かい東京競馬場。
織女星の名を持つ馬の仔が先頭でゴール板を駆け抜けた。
次は日本のダート王として世界に挑戦する。
母の三冠を阻み同じ一等星の名を持つ砂の女王の散ったあの地へ。


今年もこのレースから世界へ飛び立つ馬が現れるのだろうか。
夏の夜空に一際眩い輝きを放つような。

隻眼のサラブレッド

2006-02-12 17:48:59 | 心に残る名馬たち
鼻筋に通る流星。
白いシャドーロール。
美男子と言う形容が相応しい馬が居た。

デビューより4戦目で初勝利を挙げる。
次走では後の年度代表馬相手に2着と好走。
将来を期待させるものだった。

その後もコンスタントに走り続ける。
勝ちきれないまでも常に好走し出世するのは時間の問題。
陣営もそう思っていたのだろう。
連戦の疲れを癒し充実の秋を迎えるべく夏休みを与えられた。

その放牧中での出来事。
運動中に右眼を強打。
その影響で復帰が遅れてしまう。

軽度と思われていた怪我は遅々として良化せず。
設備の揃った牧場で精密検査を受けることになる。
そこでの診断結果は残酷なものだった。

右眼は既に手遅れ。
他への感染症を防ぐためには眼球を摘出せざるを得ない。

こうして、この馬は隻眼となった。


両眼に視力が無ければ競争馬にはなれない。
猛スピードで争うレースに片側しか見えない状態で走る。
それが危険であるからだろう。

だが、この規定には例外がある。
既に競走馬として走った馬はその限りではないのである。

その翌年、彼はターフに戻ってきた。

その美しい顔を黒い覆面で覆い。
ホライゾネットと呼ばれる網で右眼を隠し。
美男子の面影は全く無い。

それでもこの馬の走りは以前と変わらないものだった。
復帰戦でいきなり2着と好走して見せたのだ。
次も2着に入り迎えた復帰3戦目。
見事に人気に応え隻眼での初勝利を挙げる。

馬の視野はとても広く350度にも及ぶ。
その片側が全く見えないのである。
走りに支障を来たさないわけが無い。
それでもこの馬は自らのハンデを微塵も感じさせない。
次のレースも制し連勝して見せたのだ。

しかし、影響はあるのだろう。
復帰戦から好走し続けているが全て左回り。
陣営も意識してレースを選んでいたのだろう。

見えない方向に猛スピードでハンドルを切る。
それがどんなに恐ろしいことかは想像に難くない。
事実、久々の右回りはデビュー以来最低の5着に敗れた。

だが、この馬はその恐怖にも打ち勝った。
昨年末の中山開催。
苦手なはずの右回りでも果敢に先行し力強く抜け出す。
半分の暗闇を臆することも無く。
堂々した勝利だった。

いや、右回りが苦手だと思うのは偏見だったのでは無いか。
次の昇級戦もあっさりと中山で勝ってしまったからだ。
周りの声などどこ吹く風と言わんばかりに。

とうとう最高クラスのオープンへ上り詰めた。
美男子然としたあの頃描いていた将来通りに。
違うのは片眼が無くなってしまった。
ただそれだけである。

母の名前から連想される世界名作劇場と呼ばれるアニメの一作品。
主人公が不幸な最期を遂げる直前に感動を与えた絵を描いた画家。
同じ名を持つサラブレッドの走りは私たちに感動を与えてくれる。
素晴らしい思い出となるような。

直線一気

2006-01-28 19:06:24 | 心に残る名馬たち
明日行われる根岸S。
このレース名を聞くと今でもあの馬を思い出す。
それはこのレースが秋に行われた最後の時だった。

ダートの1200m。
その頃はマイナーな路線である印象だった。
故にそのレースも重賞だからという理由で何となく見ていた。

4コーナーを回り最後の直線。
そこからの光景はとても信じられないものだった。

一頭の牝馬が大外から伸びてくる。
直線に向いた時点ではほぼ最後方。
そこから前を走る馬を一頭また一頭と抜き去ってゆく。

脚の回転が速いピッチ走法でグングン加速して行く。
周りが止まって見えるとは正にこのこと。
ついに縦長だった馬群の先頭に追いついた。
刹那並ぶ間もなく交わし去り1馬身以上差をつけてのゴール。
その瞬間は呆然としてしまった。

芝のレースではこのような追い込みは稀に目にする。
しかし、ダートでのこんな光景は見たことが無かった。
この1レース、いやこの直線だけでこの馬に魅せられてしまった。

それからこの馬の出走するレースはいつもワクワクしながら見ていた。
今日も果たして届くのか。
そんなことを思いながら直線での彼女の走りを追う。
届いたときも届かなかったときも常に発揮されるあの末脚。
その脚はとにかく爽快なものだった。

思えばこの馬自身も遅咲きで直線一気のようだった。
デビューは遅く4歳の秋。
初重賞勝利が6歳。
7歳にして重賞3勝の大活躍。
8歳での引退レースは世界最高峰舞台のドバイ。

同世代の馬たちが引退してゆく中も走り続ける。
歳を重ねてもその末脚は全く衰えない。
いつしかこの馬自身の生き方に惹かれていった。

今は周りから遅れているかも知れない。
でも今は脚を溜めているんだ。
今に見ていろ最後には。
彼女のように直線一気だ。

金色の鬣を靡かせて

2006-01-22 18:25:10 | 心に残る名馬たち
人は美しいものに惹かれる。
故に美しくあろうと努力する。
だが、果たして美しさとはどんなものなのだろうか。

人の創り出した最高の芸術品と称されるサラブレッド。
その中でも一際美しい馬が居た。

一年の最初に行われる重賞。
そこで私は初めてその馬を観た。
このレースにピッタリな金色の鬣を靡かせて先頭でゴールを駆け抜けた。
500キロを超える雄大な馬体に三白流星尾花栗毛。
私はその美しさに一目で虜になってしまった。

次にその馬を見たのは三週間後。
G1馬や重賞勝ち馬など錚々たる顔ぶれとなった一戦。
このレースでも彼は美しかった。
スタートで先頭に立つと鬣をキラキラ輝かせながら一人旅。
そのまま後続に影も踏ませず強豪を相手に重賞連勝を飾った。

これで6歳にして準オープンから三連勝。
かつて三強の一角と呼ばれた父。
ライバル達が引退しても走り続け6歳にして年度代表馬に輝いた。
そんな晩成の血が開花したような父子同一重賞制覇だった。

このまま父のような一流馬への階段を昇るかに思えた。
だが、持病の裂蹄が再発し休養に入ることとなる。
一度は復帰したものの本来の走りが出来ずに大敗。
そのまま競争馬生命を終えた。

しかし、彼はターフに戻ってきた。
美しさと素直な性格を活かし誘導馬として。
その姿に惹かれたものは多く現役馬顔負けの人気だった。
それは誘導馬を退くとき、お別れセレモニーが行われたほどだった。

誘導馬を引退後は馬の博物館で悠々自適な余生を過ごしていた。
やはりそこでも人気者で彼に会いに来る人が後を絶たなかった。

そんな彼も老いには勝てず昨年の秋、老衰でこの世を去った。
彼との最後のお別れ会は多くの人々で盛大に行われた。

今でも彼を祀る馬頭観音は溢れるほどのお花が供えられている。
その光景は美しかった彼への最高の餞となるだろう。


この馬は果たして見た目が美しいから幸せな馬生を過ごせたのだろうか。
だが、全く勝てない馬が容姿だけで人気者になるとは思い難い。
また、そういう馬は人々の記憶に残る前に姿を消してゆく。
彼は勝つことで生き残り続け、やがて人々に認知されていったのだ。

そして、重賞という多くの人々が注目する舞台まで上り詰めた。
そこで勝利と言う競走馬として最高に輝く瞬間を魅せつけた。
そんな美しい姿が多くの人々の心を捉え馬生を切り開いたのだ。

美しさとは決して外見だけではないと私は思う。

稲妻の如き末脚

2006-01-07 20:49:18 | 心に残る名馬たち
今年も始まった中央競馬。
競馬初めで賑わう中山競馬場。
そこで行われた新馬戦。
勝ち馬の父の欄に懐かしい名前を見つけた。

その名の如く稲妻のような脚を持っていた馬。
だが、近年のリーディングサイヤーの仔の様な切れ味ではない。
どこか古めかしい感じのする息の長い末脚だった。

ある年のマイル戦線。
前年でこの路線の女王が引退し主役不在。
秋のマイル王決定戦も混戦ムードだった。

最後の直線で前哨戦を制した巨漢スプリンターが抜け出す。
その馬をゴール直前で並ぶ間もなく差し切ったのがこの馬だった。
地方出身で6歳秋にして重賞初勝利がG1。
この時点ではまだ彼をマイル王と呼ぶ者は居なかった。

7歳を迎えた翌年の春もその末脚に衰えは無かった。
春のマイル王決定戦でも4コーナーの時点ではほぼ最後方。
そこから一頭また一頭と先行馬を交わして行く。
最後は計ったようにハナ差だけ差し切った。

一番人気でのマイルG1連覇。
マイルでは無敗の戦績。
遅咲きのマイル王の誕生である。

だが、これが彼の現役最後の勇姿だった。

秋のG1へ向けて調整中の出来事。
馬主の名義貸し疑惑が発覚。
この馬もそれに巻き込まれ引退を余儀なくされたのだ。

馬には何の罪も責任も無い。
なぜこの馬が追われるようにターフを去らなければならないのか。
この馬の引退には憤りを感じずには居られなかった。

地味な血統のこの馬の種牡馬生活は決して順調では無かった。
良質な繁殖は集まらず目立った活躍馬も出てこない。
やがて、この馬のことは人々の記憶から薄れていった。

私もその例外では無かった。
今日までこの馬が亡くなっているとは知らなかったのだから。

詳しい死亡原因は分からない。
この馬は種牡馬を引退し個人牧場で余生を過ごしていたという。
その姿は種牡馬時代とは比べ物にならないくらい痩せていた。

その話を聞いただけで、また人間の勝手な都合によって…
私はそう思わずにはいられない。

競馬にはこのような影の面が数多く存在する。
だが、そこから目を逸らしてはいけない。
その様な事実を踏まえて競馬を観るべきなのではないだろうか。

知らなければ楽かも知れない。
だが、そこには深い感動は生まれてこないだろう。

地味な血統の馬が新馬戦を勝ち上がった。
その父親に深い感慨を覚え、その馬を思わず見守りたくなる。
少なくとも私はこのように競馬を観て行きたいと思う。

DIVA

2006-01-03 07:33:54 | 心に残る名馬たち
昨年、春の盾に挑んだ豪州の牝馬。
豪州最大のレース、メルボルンC連覇の実績を誇ったこの馬。
人気を集めながらも上位争いに加わることは出来なかった。

日本での結果を見れば特別凄い馬だとは思えない。
しかし、彼女は多くの人々の記憶に名を刻んだ歴史的名牝なのである。

日本遠征から帰国後、約4ヶ月の休養を挟みレースに復帰する。
3戦叩きコックスプレートに挑む。

豪州最大のレース、メルボルンCはハンデ戦。
いわばお祭り色の強いレースである。
ワールドシリーズにも名を連ねるコックスプレート。
別定戦のこちらは事実上の豪州最強馬決定戦とも言えよう。

一線級の牡馬が顔を揃える中、圧倒的人気に応え圧勝。
南半球の数え方では7歳となる彼女。
7歳牝馬による勝利は61年振り史上2頭目の快挙であった。
また、この勝利により豪州の歴代最高賞金収得馬となった。

こうして迎えたメルボルンカップ。
レース当日は「国全体がストップする日」とも言われる国民的イベント。
歴代優勝馬が街中をパレードしたりと何日も前から街は大賑わい。
開催地のヴィクトリア州では、その日が祝日となる程である。

145回の歴史を誇るこのレースを3連覇した馬は居ない。
その歴史的快挙に彼女は58キロという酷量のハンデを背負い挑んだ。

最後の直線で馬群を力強く抜け出す。
58キロの斤量などものともせずに。
圧倒的人気と国民の期待に応えるように。
13万人の観衆が歓喜の声を轟かせる。
そのまま彼女は先頭でゴールし歴史は作られた。

レース直後に行われる馬上でのインタビュー。
手綱を取った騎手は感極まっていた。

「もの凄く感動して言葉にならない」
「彼女が私に自身を与えてくれた」

震える声でそう語った。

観客は何度も何度も彼女の名を連呼し彼女を讃える。
騎手は体全体で何度も何度も喜びを表し歓声に応える。
その喧騒はいつまでも止むことは無かった。

レースの20分後に行われた優勝馬主のスピーチ。
そこで再びレース直後と同じ歓声が上がった。

「これ以上を彼女に求めるのはフェアではありません」
「今日をもって彼女は現役を退きます」

誰もが予想だにしなかったこの発言。
陣営も予定していなかったこの決断。
この鮮やかな引き際を観衆は涙と拍手と喝采で祝福した。
それは彼女が歴史的名牝として人々の記憶に名を刻んだ瞬間だった。

世界への夢

2005-11-21 23:42:04 | 心に残る名馬たち
土曜日の2歳重賞。
芦毛の馬体が先頭でゴール板を駆け抜けた。

前脚を高く上げる力強いフォーム。
長く持続させる高次元のスピード。
同じ芦毛だった父親を彷彿とさせる。
そういえば今週末は彼が最後に走ったレースだ。

クラシック開放元年。
その名の通り競馬界の祭典へ来襲したこの馬。

前走に信じられないような追込で3歳マイル王に戴冠。
三冠確実と言われたライバルは不在。
私はこの馬が我が国を鎖国競馬から開放してくれる。
そう期待していた。

しかし、結果は不可解な惨敗。
ここから歯車が狂いだす。

秋初戦のらしくない負け方。
出走を確信しながらの秋の盾の除外。
前日のダート戦への出走を余儀なくされた。

こんなところを走る馬ではない。
明日でも勝ち負けできたはず。
そんなことを思いつつそのダート戦を眺めていた。

直線で後続がドンドン離れてゆく。
一体こいつは何なんだ。
一頭だけ芝を走っているのか。
あまりの凄さに思わず笑ってしまった。

勝ち時計は芝のレースかと見間違えるほどのスーパーレコード。
絶対にこいつは芝を走ってきた。
そんなことを思いながらもう一度笑ってしまった。

狂ってしまった歯車が全く別の場所にピタリと嵌る。
そんな信じ難い偶然があるものなんだな。
この馬をこの場所に追いやった、後の天皇賞馬に感謝した。

迎えた砂の国際招待競争。
誰もがこの馬に期待していた。

また、あの圧勝劇を見せてくれる。
また、物凄い時計を叩き出してくれる。
もちろん私も多分に漏れず、レース前から胸が踊っていた。

そして、レースは期待以上だった。
ペースや展開など関係ない。
そんな意思が感じられる大外一捲りで4角先頭。
直線入り口からドンドン後続を引き離す。
期待通りのワンマンショーに皆嬉しそうな歓声を上げた。

勝ちは決まった後は時計だ。
電光掲示板に注目する。
そこに浮かんだレコードの赤い文字。
再び歓喜の声が上がった。

ようやく世界を狙える馬が現れた。
この馬ならドバイで勝てる。
そんな夢を観させてくれた歴史的瞬間。
そこに立ち会えたことが、ただただ嬉しかった。
この馬に出会えたことが、ただただ嬉しかった。

結果的にこの馬のラストランとなったこのレース。
今年はどんな馬が勝つのだろうか。
どんな夢が観られるのだろうか。

嫌いな馬

2005-11-07 22:14:06 | 心に残る名馬たち
好きの反対は嫌いではない。
本当にどうでも良い相手には無関心になるはず。
寧ろ好きと嫌いは紙一重である。

私はその馬が嫌いだった。
その年のクラシック戦線は三強と言われる馬たちが凌ぎを削っていた。
それぞれにタイトルを分け合い、来年もレベルの高い争いが観られるものと思っていた。
しかし、翌年の古馬戦線は三強の中の一頭に独占されてしまう。
その戦犯とも言えるのがこの馬だった。

三頭の内の一頭は脚部不安で早々に戦線離脱した。
よって二強のライバル対決になるはず。
だが、何度戦っても勝者は変わらずとても好敵手とは呼べない状況。
秋には後から台頭してきた上がり馬にその座すら奪われてしまう。

何度走っても勝つことができず。
そんな成績から秋の王道路線のG1を除外され。
確勝を期した王者不在のレースすら勝ちきれず。
そんな情けない姿が私は嫌いだった。

次の年、この馬は復活を遂げる。
得意の距離でのブッチ切りのレコード勝ち。
王者への挑戦権を再び手に入れたと言えるその勝利。
私の中でこの馬に対する風向きが少し変わった瞬間だった。

続く春の盾。
王者は前哨戦で敗れ嫌な流れ。
一方、この馬は前走久々の勝利で勢いがある。
勝つならここしかない。

だが、無常にもこの馬の苦手とする雨に祟られる。
それでも4角で先頭に立つ勢いの積極的なレースで勝ちに行った。
最後に差されてしまったが、戦って敗れたその姿は男らしさを感じた。

その年の秋は散々だった。
落馬のアクシデントに見舞われ盾を使えず。
昨年除外されたレースは満足とは言えない状態での出走。
レースでもこの馬らしくない後方からの競馬。
完全に運に見放されたような流れ。
それでも直線よく追い込んで3着に入って見せた。
その走りに胸が熱くなった。

結局、古馬になってからはライバルに一度も勝てず。
大きく水を開けられたまま先に引退されてしまう。
現役に留まったこの馬をもはや主役と呼ぶものは無く。
台頭してきた新しい世代が翌年の古馬戦線では注目されていた。

そんな時代の流れに異を唱えるようにこの馬は勝った。
重い斤量を背負いながらも。
新しい世代の代表格の年度代表馬相手でも。
引退したライバルの名誉を守るためにも負けるわけにはいかない。
そんな意地を見せ付けられ私はこの馬を応援せずにいられなかった。

その後、結局大レースを勝つことができなかった。
それでもその堂々たる走りは清々しかった。
私の中でこの年の古馬戦線の主役はこの馬以外考えられなかった。


今日、私の大好きだったこの馬がこの世を去った。