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競馬のスポーツとしての魅力や、感動的な人と馬とのドラマを熱く語ります。

歓喜のレース

2005-11-24 22:29:35 | 思い出の名レース
いつからだろうか。
ジャパンカップが詰まらなくなったのは。

私が競馬を観始めた頃は外国馬が圧倒的に強かった。
故にこのレースは世界への挑戦という位置付けだった。

ここで走る日本馬は皆挑戦者。
勝てない可能性が高いと知りつつも日本代表を応援する。
競馬の本場の馬たちに一泡吹かせて欲しい。
などと儚い想いで観るレースは他には無かった。
あの時も勝てないだろうと思いながらも日本馬を応援していた。

この馬の父は偉大な馬だった。
そして、父の足跡を辿るかのように輝かしい実績を残してきた。
だが、古馬になり世紀の対決と呼ばれた一戦で惨敗を喫する。
さらに雪辱を期して臨んだ復帰戦でも敗れ去った。

二度続けての惨敗。
そんなことで強い外国馬に勝てるのか。
周囲のこの馬への期待は決して大きくは無かった。

ましてやこの年は過去最強の外国馬が集まったと言われていた。
欧州年度代表馬に英国ダービー馬二頭。
米国100万ドルレースの勝ち馬。
豪州年度代表馬に豪州代表馬。
とても勝ち目があるとは思えなかった。

でも、もしかしたらこの馬なら。
そんな儚い期待を抱きながらこのレースを見つめていた。

道中は馬群の外側を気持ち良さそうに走っていた。
この馬には8枠のピンクの帽子が良く似合う。
そんなことを思いながらこの馬の走りを眺めていた。

大欅を通り過ぎた辺り。
この馬が持ったままでスーッと上がって行く。
いつものあの手ごたえだ。
もしかしたら。
そんな想いが頭を霞める。

直線入り口でもまだ持ったまま。
そのまま先行集団から抜け出す勢い。
これはもしかするともしかする。
この時点でようやく思えた。
勝てるかも知れないと。

やがて内から抜け出した豪州ダービー馬と馬体を併せる。
そこからは完全に一騎打ち。
この馬を交わせば勝てる。
私の胸は張り裂けそうなくらい苦しくなる。

叩き合いが続く。
鞍上の右手で見せ鞭を振るう。
左手で馬の首を押す。
頑張ってくれ。
私は祈るような気持ちで見つめる。

ゴールまで競り合いは続いた。
そのまま、馬体を併せたままゴール板を通過した。

外側のピンクの帽子がクビだけ前に出ていた。
常に冷静沈着な鞍上が大きく右手でガッツポーズを作る。
実況では「やったあ」とアナウンサーが叫んだ。
私は思わず「よっしゃー」と絶叫した。

ゴールの余韻を楽しむかのようなウイニングラン。
勝者を称えるコールがスタンドから巻き起こる。
その光景がとにかく嬉しかった。
この馬が世界に勝ったんだ。
とにかくムチャクチャ嬉しかった。

それから幾許かの時が流れた。
今では日本馬が勝って当たり前。
そんなレースになってしまった。

それでも私は期待する。
あのときのような感動を。
あのときのような喜びを。

激闘

2005-11-17 00:27:57 | 思い出の名レース
今週末は秋のマイル王決定戦。
数々の名マイラー達がそのスピードを見せつけてきた舞台。
過去、このレースで伝説として語り継がれるような激闘が繰り広げられた。

昭和最後の名勝負と謳われた年末の大一番。
そこでライバルを退け3歳にして名実共に日本一に輝いた馬。
そんな一流馬の翌年のローテーションは過酷なものだった。

前哨戦を2つも使われ、中2週、中2週で迎えた秋の盾。
誰もが芦毛の怪物と呼ばたその馬の勝利を疑わなかった。
しかし最後の直線、さあここからという所で前を塞がれる。
懸命に外へ立て直し、そこから爆発的な追い上げを見せた。
だが、積極的な競馬で早めに抜け出した馬に僅かに届かなかった。

この予定外の敗戦によりローテーションは更に過酷を極める。
また中2週でマイル王決定戦を走り、連闘で世界に挑むというのだ。
とても常識とは思えない使われ方。
そして、レースではそれが祟ったかのような走りだった。

序盤から周りのペースについて行くのが精一杯。
鞍上は最初からずっと追いどおし。
その直後につけた春のマイル王の楽な手ごたえとは対象的だった。

勝負どころの4コーナー。
先に仕掛けたのは春のマイル王。
抜群の手ごたえのままスーッと外に持ち出し一気に抜け出しに行く。
レースの流れに乗ったそのスピードは正に短距離馬のそれだった。

一方、全く流れに乗れない怪物は馬群の真っ只中。
外に出すことが出来ない。
前には馬の壁。
前走の悪夢が蘇る。

馬群を抉じ開けるようにして、なんとか内から抜け出したときマイル王は遥か前に居た。
この距離に水を得た魚の如くスイスイと前へ進んでゆく。
直線も半ば過ぎでのこの差。
また、勝てないのか。
誰もが一瞬諦めかけた。

しかし、この馬は諦めない。
そこから必死で前を追う。
常識ではこんな展開では勝てるわけが無い。
それでも鞍上の連打する右鞭に応える様にひたすら前へ。

そこからの光景は信じられないものだった。
完全に抜け出したマイル王との差が詰まって行く。
前は決して止まっている訳ではない。
事実、3番手以降の後続との差はドンドン広がってゆく。
それでも内から喰らいつく様に追い詰める。

ゴール板が迫る。
内と外とで馬体が併さる。
とうとう差は無くなった。
ゴールの瞬間2頭はハナ面を並べた。
内側がほんの少しだけ先にゴールラインを通過していた。

レース後の勝利ジョッキーインタビュー。
今日もまた負けたかと思った。
そんなことを語る勝利騎手の声は震えていた。

あの絶望的な展開からの大逆転。
前走の不利を受けるような騎乗。
様々なことを思い出したのだろう。

借りはまだ半分しか返して居ない。
来週、倍にして返したい。
その言葉に、そして何よりこの馬の走りに大歓声が送られた。


今週末、私はこんな熱い戦いを期待している。

熱い女たちの争い

2005-11-09 23:16:24 | 思い出の名レース
今週末は女王決定戦。
このレースが古馬に開放されてから早10回目を数える。
それまでは古馬も出走可能な牝馬限定のG1は無かった。
故に総じて牝馬の強豪は引退時期が早かった。
事実、史上初の三冠牝馬は3歳で引退している。

時代は変わり現在ではクラシックを戦い抜いた3歳馬と歴戦の古馬との熱い女の戦いが観られるようになった。
そんな世代を越えた争いの中でも特に白熱したレースが過去の歴史に刻まれている。

その年は3頭の3歳馬が注目を集めていた。
圧倒的なスピードを誇る2歳チャンピオンにして二冠牝馬。
その二冠馬を最高峰の舞台で破った樫の女王。
この2頭とクラシック戦線で互角の争いを演じた圧倒的な末脚を持つ馬。

それを迎え撃つ古馬は世界最高賞金を誇る海外の大舞台で2着に入る快挙を成し遂げた馬が大将格。
他にも昨年秋の3歳G1勝ち馬も虎視眈々と勝利を狙っていた。

レースは伏兵の2頭が速いペースで引っ張り後続を引き離す展開。
それを直線入り口で早くも捕まえに行ったのが今年の二冠牝馬。
圧倒的なスピードで押し切るつもりだ。
しかし、そうはさせじと内ラチ沿いから樫の女王が脚を伸ばす。
春の大舞台で見せたような息の長い末脚を爆発させる。

そんな3歳のG1ホース達の争いを歴戦の古馬達が黙って見過ごすわけが無かった。
先頭に立とうとする二冠牝馬の直ぐ内側に馬体をピタリと併せて競りかけてくる馬がいた。
昨年秋にG1を勝って以来勝ち星に恵まれなかった馬がここ一番で勝負を懸けてきたのだ。

そして、驚かされたのが古馬の大将格。
普段は天性のスピードを生かして先行し、時には逃げることもある。
そんな馬が後方待機から直線で一気に脚を伸ばしてきた。
天才と呼ばれる鞍上の魔法が見事に成功したのだ。

ゴールまで後100m。
この4頭が横一線で激しく競り合い続ける。
一体どの馬が勝つのか全く分からない。

その競り合いにゴール直前でグングン迫る黒い影。
大外からまとめて交わす勢いの物凄い切れ味の末脚。
この脚で今年のクラシック戦線を戦ってきた3歳馬が最後に強襲を仕掛けてきたのだ。

そのまま5頭の馬が競り合いながら、ほぼ横一線でゴール板を通過した。

死闘と呼ぶのが相応しい壮絶な争い。
どの馬も持ち味を存分に発揮し全ての力を出し切った。
正にこれが競馬の醍醐味と言えよう。

1着から5着の着差が、ハナ、ハナ、クビ、クビという大接戦。
女王に輝いたのは歴戦の古馬の大将格の馬だった。

願わくば今年も熱い争いが観られますように。

府中の魔物

2005-10-28 21:14:54 | 思い出の名レース
府中には魔物が棲んでいる。
数年まで古馬最高峰の格式を誇る秋の盾を称して、そんな言葉が囁かれていた。

春秋連覇を達成したかに見えた、芦毛の最強ステイヤーの大降着劇。
デビューから一度も連を外さなかった三冠馬を弟に持つ芦毛馬は故障により初の大敗を喫した。
そして、絶対的なスピードで逃げ、この距離を最も得意としていた天才ランナーは二度と帰らぬ馬となってしまった。

しかし、そんな呪いは世紀末に君臨した古馬王道路線の覇王により過去のものとなる。
それからは強者が力を発揮するG1レースらしいチャンピオン決定戦となった。
そんな今世紀の新しい秋の盾で私が強烈に印象に残った一戦がある。

私はその馬の強さに半信半疑だった。
前年に秋のG1を2つ制し年度代表馬に輝いたその馬。
まさにチャンピオンに相応しい実績なのだが、私はその馬に対して絶対的な強さを感じられなかった。

古馬の強豪達が引退し空き巣状態に近かったレースで積み上げた実績。
外国馬に敗れ去った国際競争。
春の盾回避。
色々と理由はあるが、要は私が好きなタイプでは無いからだろう。

決定的だったのは休み明けで出走した春のグランプリ。
史上最高メンバーが揃ったと言われた強豪達が犇くそのレースで見せ場も無く惨敗を喫した。
なんだ、やっぱりか。
私は落胆すると同時に自分の感覚が正しかったことを確信した。

そんな流れで迎えた2度目の秋の盾。
前走で苦杯を舐めたのにも関わらず、懲りずに休み明けのぶっつけ本番。
そして、府中の二千で最も不利とされる大外枠。
私はこの馬が勝つことはまず無いと思っていた。

レースは私が応援する馬が先頭で飛ばしていた。
いくらなんでも飛ばしすぎな驚異的なハイペースだったが直線入り口では後続を引き離す。
馬群全体を捉える為かなり引いた映像をターフビジョンで見た私は一瞬このまま行けるかと思った。
そのとき、横一線だった後続馬群から一頭だけ飛び出してきた。
引いた映像ではその飛び出した馬はとても小さくしか見えず、どの馬なのかターフビジョンでは中々分からなかった。
肉眼で捉えようと芝コースに視線を移したとき、目の前を通り過ぎる緑の勝負服と漆黒の馬体に眼が釘付けになった。

前を行く栗毛の馬に襲い掛からんばかりの勢いの末脚。
それはサバンナを疾走する猫科の肉食動物を連想させる。
あっという間に先頭を飲み込み一気に突き抜けるその姿に体中が震えた。
それはこの馬の強さを否応無しに認めさせられた瞬間だった。

強い馬の強い勝ち方。
それは、もう府中には魔物が棲んで居ない証である。


魔物の居ない秋の盾。
今年はどんな強者が力を見せつけてくれるのだろうか。

伝説の函館記念

2005-07-20 21:16:36 | 思い出の名レース
かつて、夏の北海道シリーズは札幌開催が先だった。
よって、現在の札幌記念の時期に函館記念が行われていた。
今の札幌記念はローカル開催ながら、毎年のようにG1ホースが出走する豪華なレースである。
その昔、同じ時期に行われた函館記念でも、豪華なメンバーが揃ったことがあった。
そして、そのレースは伝説のレースとなっている。

その年の函館記念には3頭のクラシックホースが出走してきた。
前年、競馬界最高峰のレースを6馬身差もの大差で圧勝した牡馬。
前年、圧倒的な強さで桜、樫の女王に君臨した牝馬。
3年前に3歳の頂点を極め、競馬の本場欧州へ長期遠征をしていた馬。
だが、そのレースで注目を集めていたのは、そのクラシックホースたちではなかった。
奇しくも、その年のクラシックの主役と目され、期待を裏切った馬がここでは主役だった。

その馬は2歳チャンピオン。
まだ、関東関西でそれぞれチャンピオン決定戦を行っていたころの西の王者。
その決定戦で8馬身差の圧勝。
そして、16年間破られなかったレコードタイムを0秒6も縮めてみせた。
その圧倒的な強さと、尾花栗毛の美しい馬体から、貴公子の再来とまで呼ばれるほどだった。

しかし、3歳の緒戦で敗れるとこの馬の歯車は狂いだす。
牡馬クラシック第一弾を軽い故障で回避することになってしまう。
目標を切り替え、競馬界の祭典に挑むことにするが、トライアル、本番共に主役に押されながら惨敗を喫する。

夏場は秋に備えて休養に当てる。
しかし、その特権が与えられるのは春に活躍した馬である。
一つも勝ち星を上げられなかったこの馬にはその権利はなかった。

そんな夏場の中京で復活の狼煙を上げる。
破ったのは、奇しくもこの馬が出走できなかったクラシックを制した馬だった。

大器復活。
その期待から、この函館記念では注目を一心に集めていた。
そして、このレースではその期待を上回るパフォーマンスを見せつけた。

道中は超のつくくらいのハイペース。
だが、そんなものは関係ないとばかりに、後方から早めに前へ進出してゆく。
3コーナーで捲くって行き、4コーナーでは早くも先頭に並びかける。
ハイペースでそんな強引な競馬をすれば直線で伸びるわけがない。
しかし、この馬にはそんな常識は通用しなかった。

後続との差が詰まるどころか、むしろ広がって行く。
まさに独壇場となり、後続に5馬身の差をつけゴール板を駆け抜けた。
そのレース振り、着差だけでも脅威的だが、掲示板に表示されたタイムはさらに恐ろしいものだった。
1分57秒8。
当時の日本レコードは秋の盾で記録された1分58秒3。
レコードはおろか、日本馬で初めて2000mを1分57秒台で駆け抜けたのだ。

この日記録したレコードは今世紀中には破られないだろうとまで言わしめた。
実際には20世紀中に破られてしまったのだが。

しかし、それまでに約10年の月日が費やされたのだった。

熱い一騎打ちの宝塚記念

2005-06-25 00:39:12 | 思い出の名レース
どちらの馬が強いのか。
競馬の基本はやはりこれだろう。
実際、競馬の発祥は欧州の貴族が自分の持ち馬を競わせたことから端を発している。
あの年の宝塚記念は現役最強馬同士の戦いという、みんなが見たかったレースを実現させてくれた。

一頭は前年のダービー馬。
天才騎手を背に5馬身もぶっちぎった馬。
クラシック三冠レースで全て一番人気。
4歳になったその年は重賞3連勝で天皇賞制覇。
正に競馬の王道を主役として歩んできた正統派の王者だった。

方やもう一頭は外国産馬。
それ故にクラシック、天皇賞には出走できない。
また、無敗での2歳チャンピオン。
一転、骨折で3歳の春シーズンを棒に振り。
休養明けの不振からグランプリでの鮮やかな復活。
裏路線を歩み、浮き沈みの激しい劇的なチャンピオンだった。

正に対照的なこの二頭、同世代でありながら同じレースを走ったことが無かった。
そんな二頭がついに直接対決を向かえることになった。

王道を歩む王者は競馬振りも正統派、ここ数戦は先行抜け出しの正攻法で勝ち続けていた。
もう一方の劇的なチャンピオンは競馬振りも激しい、大迫力の末脚を武器に他馬をなぎ倒すような走り。
レース振りも対照的な二頭。

自ら競馬を作り堂々と4角で先頭に立つ正統派王者。
それをマークするように後ろから強烈な末脚で追いかける。
レース前からそんなことを想像して、ワクワクしていた。
どちらが強いのか、どちらが勝つのか。
とにかくレースが待ち遠しかった。

待ちに待ったサマーグランプリ宝塚記念。
やはり、想像通り、期待通りの一騎打ちとなった。
先に仕掛けたのは予想通り正統派王者。
3コーナー手前から仕掛けて、4コーナーで後続を引き離す。
想像よりもずっと早い仕掛け。
だが、無理をする風でもなく、それでいてあの時点であれだけ後続に差をつける。
他馬との力の違いを見せつけるような競馬振りに、この時背筋がゾクッとした。

だが、その馬からワンテンポ遅れて仕掛けられて、追いかけてくる馬がいた。
3~4コーナーを中団から猛烈な勢いで上がってくる。
まるで前の馬に照準を定めるかのように。
この勢いに私の心臓は大きく高鳴った。

直線入り口。完全に二頭が抜け出し、後続はついてこれない。
期待通りの一騎打ち。
後はどちらが強いかの答えを見るだけ。
これこそ競馬の醍醐味である。
ここまでの完璧な展開に酔いしれた。

勝負は直線半ばであっさりと決着がついてしまった。
先に抜け出した王者を徹底マークしたグランプリホースが並ぶ間もなく差し切り、そのまま差を広げてゴール。
だが、私は大満足だった。
結果的にはっきりとした差がついてしまったが、その濃いレース内容を加味すれば、やはり二頭はほぼ互角だろうと思った。
あの着差は勝負のアヤ、展開のアヤ。
もう一度やれば、また違った展開、違った結果になるのではないか。
次の対決がさらに楽しみになり、秋が待ちきれないくらいの気持ちになった。


今年の宝塚記念も世間一般的には一騎打ちムード。
昨年末のグランプリで実際に一騎打ちを演じた二頭が揃って出走。
さながら現役最強馬決定戦の様相。

もし、一騎打ちになるのであれば、あの年のような熱いレースが観てみたい。

主役の春のグランプリ

2005-06-21 00:09:36 | 思い出の名レース
競馬では主役がいるとわかりやすくて面白い。
特にG1レースは主役が居ないと始まらない気がする。
そして、その主役が圧倒的な強さを見せると、とても爽快な気分になる。

最近では、G1に手が届かない脇役が主役不在となりがちなこのレースで初タイトルを得る。
そんな春競馬の総決算だが、その昔主役が圧倒的な強さを見せたことがある。

その馬は2歳の秋にデビューしたときから主役だった。
新馬戦を大差でぶっち切り、特別、重賞と連続レコード勝ち。
2歳チャンピオン決定戦のG1でも当然のように主役だった。
だが、最後の直線で叩き合いの末、ハナ差で敗れてしまう。

当時は、今でも語り継がれるような強さを持つ主役が毎年のように現れていた。
来年の主役は当然この馬に決まっている、どんな強い勝ち方をするんだろう。
この馬が勝つのは当たり前だと思っていた。
なのに、こんなところで敗れてしまって、とてもショックだった。

3歳の緒戦は府中を経験させるため、早めの始動だった。
前走は展開の綾だったのだ。
ここでは、本来の強さを見せてくれるはず。
なぜなら今年のクラシックの主役はこの馬だから。
そう思っていた。
だが、またも僅差で敗れてしまう。
なぜだ、主役のはずなのにどうして。
もどかしくて堪らなかった。

次は本番と同距離、同コースの指定オープン。
このレースから名実共にナンバーワンのベテランジョッキーに乗り代わり必勝体制。
それに応えるかのように、ほとんど追ったところの無い大楽勝。
やっぱり、今年の主役はこの馬なんだ。
そう確信した。

迎えたクラシック緒戦。
このレースは私が初めて現地観戦したG1レース。
人の多さと、歓声の凄さに圧倒されながら私の中の主役の走りを見守った。
直線で先頭に立ったときは、やっぱりこの馬なんだと興奮した。
だが、ゴール直前で外から何かが通り抜けて先頭で走り抜けた。
天才と呼ばれる男が駆る馬だと後からわかったが、その瞬間は呆然として何が何だかわからなかった。
ただ、また惜しくも負けたことは確かだった。

次こそは。きっと次こそはと迎えた競馬の祭典。
だが、このレースを勝ったら騎手を辞めても良い。
そんなベテラン騎手の気迫の前に、またも惜敗を喫する。
この馬は、本当は強いはずだ。
きっと次こそは。
そんな思いは秋に持ち越された。

その馬は夏に放牧へ出ずに、ひたすら坂路を上り続けた。
少しの差を埋めるために、とにかく体を鍛え上げた。

秋の緒戦ではトレードマークのメンコも外した。
全ては勝つために。
レースはひと夏を越した成長をヒシヒシと感じる楽な勝ち方。
まだまだ力を出し切って居ない。
なのにこの勝ちっぷり。
やっぱりこの馬が主役なんだと。
今度こそ確信した。

次のクラシック最終戦で確信が現実のものとなる。
4角先頭から後続をドンドン引き離し、5馬身差のレコード勝ち。
正攻法でのその強い勝ち方は、この馬の時代の幕開けを感じさせるものだった。
正に主役の走りそのものである。

続く年末のグランプリは、忘れられていたもう一頭の主役の奇跡の復活劇の前に後塵を拝する。
だが、1年を通しての堅実な走りが認められ、その年の年度代表馬に選ばれた。
このとき、名実共に主役となったのである。

翌年も主役らしい走りを続ける。
その年の緒戦を59キロの斤量など物ともせず、先行抜け出しの正攻法で後続をちぎり捨て7馬身差の圧勝。
続く春の盾でも道中2番手で、直線入り口で早くも先頭に立つ。
外から迫ってくるのは、昨年春に並ぶ間も無く交わされた馬だった。
だが、この馬はもうその頃の馬では無い。
最後まで並ばれることなく、堂々と先頭でゴール板を駆け抜けた。

次のレースは春のグランプリ。
人気投票も堂々の1位。
今年に入って負けなし。
昨年の年度代表馬の名に恥じない、どこからどう見てもこのレースの主役。
いや、日本競馬界の主役だった。

レースでも主役らしく、正攻法の走り。
無理に前につけるのではなく、溢れるスピードで自然と先行する。
展開を自分で作り、自ら勝ちに行く王道の競馬。
圧倒的なスピードの違いで、4コーナーでは持ったままで先頭に踊り出す。
そこからは、この馬のワンマンショー。
後続に5馬身の差をつけレコードタイムでゴールを駆け抜けた。

1年前はあんなにもどかしい思いをしたのに。
今ではこの馬が負けることなど想像出来ない。
そのくらいの馬になったのだと。
やっぱり主役だったんだと。
この馬を応援し続けたことが誇りに思えた。

主役の馬が圧倒的な強さを見せる。
そんな競馬が今年のこのレースでは観られるのだろうか。
いや、今年は主役が2頭なので少し違うかな。
マッチレースというのも悪くないか。

色々思いを巡らせると、週末が待ち遠しくなる。

怪物の東京優駿

2005-05-27 00:09:05 | 思い出の名レース
強い馬を称して、怪物と呼ぶ。
過去にもそう呼ばれた馬が何頭かいる。

だが、私がこの季節にその呼び名を聞くと、やはりあの馬を思い浮かべる。

その馬のことはデビュー時から知っていた。
一つ上の兄の走りに魅せられていたからだ。
だが、デビューから数戦はその兄とは比べ物にならない走りだった。
そのうちに、この馬に対する期待は少なくなっていった。

久しぶりにこの馬を見たとき、それまでしていなかった白いシャドーロールが印象に残った。
前走の京都でのレースから着けているらしいが、ようやく強い勝ち方をしてきたということしか知らなかった。
だが、このレースでそのシャドーロールが忘れられなくなった。
私が今まで観てきた2歳馬のレースとは明らかに桁が違う勝ちっぷり。
いつの間に、こんなに強い馬になったのだろう。
白いシャドーロールを着けたとたんに別馬に変わったかのようだった。

それからのこの馬は、走るたびに強さを見せ付けるものばかりだった。
常に直線で後続を完膚なきまで突き放し、圧倒的な勝利。
この馬が負けるところなど、全く想像がつかないほどだった。

連戦連勝で迎えたクラシック第一冠。
それまでのレースと違い、強い馬が集まるはずのこの舞台でも、この馬のワンマンショーとなる。
内枠で包まれるのを嫌ったのか、道中かなりのハイペースにも関わらず先行する。
4コーナーでは早くも先頭に並びかける勢いで進出。
普通の馬ならば、こんな強引な競馬では、ここで脚が上がり後続馬の餌食となる。
だが、この馬にはペースだとか、展開など全く関係ない。
いつものように、強烈な末脚で後続をドンドン突き放し、そのままゴール板を駆け抜けた。
勝ちタイムはレースレコードどころか、古馬のタイムを上回るコースレコードだった。

そして、競馬界最高峰のレースに挑む。
観衆はこの馬が、どんな強い勝ち方をするか。
それだけを期待するかのような雰囲気だった。
だが、これほどまでの勝ち方をするとは想像していなかっただろう。

道中は中団を堂々と進み、4コーナーでは外に持ち出す。
いや、あれは外なんていうところではない。
一頭だけ別のコースを走っている。
そのくらいの大外を直線で走り出した。

そこからは、まさに他の馬とは違うレースをしていた。
内で競り合っている馬など眼中に無い。
一頭だけ無人の野を駆せるが如く、周りに馬は全くいない。
競馬界最高峰のこのレースで、今までで最も強い競馬を見せ付けた。

そして、今年もこの季節がやってきた。
このレースで、強い競馬を見せる馬は何頭も観てきた。
だが、あそこまでの衝撃を与えてくれる馬は未だにいない。

しかし、今年はこの馬に似ている馬を見つけた。
姿形は似ていないが、走る姿がよく似ている。
重心の低い伸びやかなフォームが、あの怪物の姿と重なる。

怪物と呼ばれた馬は、その後クラシック三冠を達成した。
あれから、11年の月日が流れた。

今年はどんなドラマが生まれるのだろうか。
今からとても楽しみである。

東京優駿を勝ったら・・

2005-05-25 21:12:36 | 思い出の名レース
全てのホースマンが目標とする競馬界最高峰のレース。

このレースを勝ったら騎手を辞めてもいい。
そんなことを言った騎手がいる。

この騎手は若手の頃、このレースでも勝てそうな名馬と出会う。
だが、クラシック本番を前に、当時のリーディングジョッキーへの乗り代わりを命じられることになる。

どうしても、納得がいかない。
生意気言うなとぶん殴られてもいい。
そんな覚悟で、涙ながらに調教師に詰め寄った。

だが、殴るどころか調教師も涙を流し、こう答えた。

誰よりもこの馬にお前を乗せてやりたい。
だが、もうこの馬はお前の馬では無い、みんなの馬だ。
それほどの馬には日本一の騎手を乗せないと周りが納得しない。
悔しかったら、そういう馬に乗れる騎手になれ。

それから時は流れ、そのときの若手騎手は押しも押されぬトップジョッキーとなっていた。
そしてこの年、競馬界最高峰のレースの有力馬に騎乗することになる。

この年のクラシックは3強と呼ばれ、上位の馬の実力が均衡していた。
そして、それぞれの馬にはトップジョッキーが騎乗している。
この騎手はトップジョッキーの一人として、その3強の一角の馬上にいた。

3強対決となったゲートが開いた。

道中は、中団の内目を進む。
前と後ろのライバルを見据えて。
そのまま、4コーナーを迎えて、内を進んだこの馬の進路が馬群で塞がる。
そう思ったときだった。
前の馬たちが外に振られて、前方にぽっかりと道が現れた。

府中の直線はとても長い。
直線の入り口で仕掛けるのは早すぎる。
だが、その騎手は躊躇無く一気に先頭に躍り出た。

先行していた、ライバルが並びかけてくる。
後ろで脚を溜めていたライバルが迫ってくる。
やはり3強対決となった。

その騎手は、何かを叫びながら、必死に馬を追った。
鬼気迫るその騎手に、応えるように馬も頑張り続ける。
結局、最後までライバルに先頭を譲ることなく、先頭でゴール板を駆け抜けた。

レースを終え、勝者がウイニングランで戻ってきたとき、騎手を称えるコールが巻き起こった。
府中にいる全ての人が喜んでいるかのような、大声援だった。

全てのホースマンが勝ちたいと願うレース。
それが、競馬界最高峰のこのレースである。

距離へ挑んだ東京優駿

2005-05-24 21:58:35 | 思い出の名レース
スプリンター。
競馬では、1200m前後を得意とする馬をそう呼ぶ。
調教師から、本質はスプリンターと言われていた馬が、2400mのレースの最高峰に挑んだことがある。

その馬は豊かなスピードを持っていた。
前へ行きたがる気性とあわせると、確かにスプリンターのそれだった。。
実際に、2歳チャンピオン決定戦では、道中掛かりぎみに前へ前へと行きたがり、勝つには勝ったが後ろから来た馬にハナ差まで詰め寄られる辛勝だった。

2歳チャンピオンは、当然クラシックの主役となる。
ましてや、この馬はこれまで無敗。
しかし、この馬は皐月賞トライアルの結果如何では、スプリント路線を歩むと調教師が公言した。
それほど、この馬は距離に不安があったのだ。

そんな中迎えたレースでは、そんな不安を吹き飛ばすような走りだった。
行きたがるこの馬は行かせた方が良い。
そう判断した鞍上に応えるように、道中は気持ちよさそうに先頭を走る。
直線を迎えると、距離に不安があるはずが逆に後続との差を広げて行き、大楽勝となった。
スプリント路線どころか、一躍クラシックの大本命に躍り出た瞬間だった。

クラシック第一冠。
そのレースでも、この馬は天性のスピードでハナを切り飛ばしてゆく。
後続の馬は、その馬の影も踏めずに後塵を拝する。
速い馬が勝つというそのレースで、スピードの違いを見せ付ける逃げ切り勝ちで、クラシックの栄冠を手にした。

次は競馬界最高の栄誉を誇るレース。
広いコースと長い直線でごまかしの利かない舞台。
ハイペースと直線の坂で、スタミナの無い馬ではとても乗り切れるレースではない。
ここでも、距離への不安が付き纏う。
だが、この馬はここでもその走りを変えることは無かった。

距離を心配して、控えたり、スローに落としたりといった小細工は一切なしの逃げ。
相変わらず、天性のスピードで気持ちよさそうに飛ばしてゆく。
先頭のまま直線に入る。

残り400m。
ここからが未知の世界。
だが、後続との差は縮まらない。
2200mを通過した。
後続との差は逆に開いてゆく。
実況アナウンサーが「もう大丈夫だぞ」と叫んだ。
先頭でゴール板を通過したところで、ようやくこの馬への不安が解消された。

このレースまで圧倒的な強さで連戦連勝。
このレースでも圧倒的な着差で、無敗の二冠馬となったこの馬。

だが、その戦跡とは裏腹に、こんなに息の詰まるようなハラハラした思いで、このレースを見守った馬は他にいない。