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競馬のスポーツとしての魅力や、感動的な人と馬とのドラマを熱く語ります。

第50回有馬記念

2005-12-25 19:17:35 | 競馬観戦記
ドリームレース。
年末の大一番はそんな名前が相応しい。

クラシックを戦い抜いた3歳馬。
秋の王道路線を戦い抜いた古馬。
そんな馬達からファン投票で出走馬を選ぶグランプリレース。
ここを勝った馬が名実共に日本一。
そんな期待感から常に胸躍るレースだった。

だが、近年ではその様な風潮も薄まってきている。
秋の国際招待競争を頂点とするような番組編成。
それに伴い既に決着のついたメンバーでの再戦。
どことなく昔のドキドキ感が失われつつある。
昔から競馬を観ている者としてはやはりJCより有馬なのである。

しかし、今年は1頭の救世主により昔のようなドリームレースとなった。
21年振りの無敗の三冠馬。
そんな歴史的偉業を達成した馬がJCではなく有馬を選んだのだ。
否応無しに盛り上がるのは至極当然である。

とにかく観る人を魅了し人を呼べる馬である。
ただでさえ混雑する年末の大一番は恐らく大変なことになる。
そう予想した私はいつもより早く昼前に競馬場へ向う事にした。

西船橋駅で武蔵野線ホームへ上がってまず人の多さに驚いた。
「おいおい、まだ昼前だぞ」
そんな事を言いたくなるような人の量である。
やはり早めに出ておいて良かったと一人納得した。

そんな多くの人込みに続くように競馬場への地下連絡通路を歩く。
壁には歴代のグランプリホースの写真が並んでいる。
その反対側にはいつからか今年のクラシック三冠のゴール前の写真が。
やり過ぎの感は否めないが、やはり目が行ってしまう。
全ての現場に立ち会ったあの感動が蘇ってくる。
今日もこの馬を観られる幸福感で胸が高鳴る。
やはり今日はドリームレースだ。

まずスタンドに上がり周りを見渡す。
見渡す限りに人、人、人・・・
既に普通のG1よりも多いくらいの状態。
人に押されながら5Rを観戦する。

その後、早めに馬券を購入しスタンドに戻る。
すると先ほどよりもスペースが出来ている。
まだお昼だというのに敷物撤去のアナウンスが流れていた。
この時点で私はスタンドに陣取りメインレースまで待つことにした。

幸い空には雲ひとつ無い晴天。
ほとんど風も無く日差しが降り注ぎとても暖かい。
待っている間に周りの人の会話が聞こえてくる。
「今日の主役に乗る騎手はあまり乗らないんだなあ」
そんな声が気になり調べてみると確かに後はメインレースだけだった。
大一番に懸ける意気込みが感じられ、ますます楽しみが膨らんでゆく。

楽しみを待つ時間と言うのはとても短く感じる。
いつの間にか太陽はスタンドの影に隠れ師走の寒さが戻ってきた。
そして、いよいよパドックがターフビジョンに映し出される。

寒さの為か馬体増の馬が目立つ中、本日の主役は馬体減。
デビュー以来の最低体重である。
出走メンバーの中でも最軽量。
一番重い馬とは100キロ以上も差がある。
こんな小さな体のどこにあんな力を秘めているのか。
この馬を観るたびにそんな事を思ってしまう。

馬体は減っているものの決して悪くは見えない。
日向に出ると光り輝く馬体はいつもどおりに感じる。
春の頃のようにチャカつく様子も無く心配は無さそうだ。
その内に他場のレースを映す為、一旦パドックが観られなくなった。

再びパドックが映し出されたときは既に騎乗命令が掛かっていた。
この馬の騎乗する瞬間が大写しとなりスタンドで拍手が巻き起こった。
満員のスタンドのボルテージは高まる一方である。
最後の一周で一頭一頭、順番に映されてゆく。
一番最後にこの馬が映されて地下道に消えていった。
いつの間にか順番を入れ替え一番後ろを歩いていた。

いよいよ、本馬場入場。
待ちわびた観衆が怒号のような歓声を上げる。
一番最後に出てきたこの馬はやや小走り加減で時折グイと首を下げる。
だが、春の頃のような入れ込んだ感じではない。
寧ろ「よし、やるか」とでも言いたげな雰囲気に見える。

ゴール板過ぎの辺りから芝コースに入り1コーナー側へ返し馬に入る。
フワっとした感じの入り方に今日は掛かる心配は無さそうに感じた。

続いて輪乗りの様子が映し出される。
落ち着かせるために鐙から足を外して乗る馬が多く見られる。
だが、この馬の鞍上は終始鐙に足を掛けていた。
まるで緊張感を切らさないかのように。
途中で一度立ち止まり遠くを眺める。
そんな仕草からも落ち着きが感じられる。

発走が近づき、いよいよスタンドの混雑もピークに達する。
満員電車のようにギュウギュウ詰めで時折、後ろから押される。
毎年の事だがこのときだけは一瞬生命の危機を感じる。
こんな事になるのも年末のこの日だけである。

発走直線に過去の三冠馬のレースが写し出される。
三冠を達成した年にこのレースに出走した馬は二頭。
その二頭とも圧倒的な強さを見せつけた。
さて、今年は一体・・・

スターターが映し出され待ちに待った様な歓声が上がる。
満員電車の中、皆無理やり手を出しファンファーレに併せて手を叩く。
そして、最後には轟く様な歓声を上げスタンドのボルテージは最高潮に達した。

今日は後入れの偶数枠。
他の馬のゲート入りも大人しく待って、自分のゲート入りもスムーズ。
「良し、今日は大丈夫だ」
そんな私の思いと共にゲートが開いた。

普通に出たように見えた。
だが、直ぐに馬群が前に固まる。
行き脚が付かないのか、あえて抑えたのか。
無理やり抑えたとか行けなかったという印象ではない。
スーッと下がり気がつけば最後方からの競馬となった。

戦前は前へ引っ張る馬が居るのでペースは速くなる。
そんな予想が多く聞かれていた。
しかし、目の前の直線を走る馬群はどう見ても速くは見えない。
「こんなペースで最後方で大丈夫なのか」
一瞬はそう思った。

だが、馬群の外目を走るこの馬の姿を見たら、そんな気持ちは吹き飛んだ。
完璧に折り合い、まるで秋初戦の走りを見ている様だったのだ。
そして、徐々にポジションを上げてゆく姿に今日も行けると確信した。

向正面では中団のやや後方。
馬群に包まれること無く、外目を追走。
ペースは相変わらず速くは見えないがいけるだろう。
いつものように捲くって行けるだろう。

勝負どころの3コーナー。
「良し!来たっ!」
いつものようにスーッと外目を上がってゆく。
手ごたえ抜群で持ったまま。
「良し!良し!」
勝利を確信した私は興奮して叫んでいた。

4コーナーでは先行集団に取り付き、外を回り前も空いている。
いつもの必勝パターン。
ここから飛んでくれる。
私は圧勝まで期待した。

ところがどうしたことか、いつまで立っても抜け出してこない。
坂でもがいているかのようにポジションが上がらない。
やがて、内から一頭鋭く抜け出してきた馬がいた。

「まずい」
脚色からして直感的にその馬が勝つと感じてしまった。
しかし、坂でもがいていたこの馬がその抜け出した馬を追いかけ始めた。

「いけるのか、届くのか」
抜け出した馬との差が徐々に縮まる。
だが、もうゴールは目前。

「届いてくれ」
あと1馬身まで迫る。

「届いてくれ」
前の馬のトモの辺りに鼻面が掛かる。

「馬体が併さるか」
そう思った瞬間、ゴール板を通過していた。

「あーーー」
ゴールの瞬間そんなため息がスタンドから漏れた。

スタンドの声が揃ったのはその瞬間だけだった。
後はただザワついていた。
そのザワつきはいつまでも続いていた。
いつまでもいつまでも続いていた。


無敗の四冠制覇は成らなかった。
しかし、この馬には多くの夢を見させてもらった。
この馬が現れなかったら今年の競馬はどうなっていたか。
想像するだけで恐ろしくなる。

既に大きな夢は叶えてもらった。
言わば今日からは夢の続きである。

夢の続きは一体どんなストーリーになるのだろうか。
第一章は初めての敗北が記された。

その先はどんな展開になるのだろうか。
想像してみよう。

そして、彼の物語を見続けて行こう。
一頭のサラブレッドの英雄譚を。

引退の花道

2005-12-18 18:12:25 | 競馬観戦記
この馬は生まれる前から周囲の期待を集めていた。

母は樫の女王に輝き母子2代制覇を成し遂げた名牝。
それだけに留まらず古馬になってからは牡馬と戦い続け結果を残した。
17年振りの牝馬による天皇賞制覇。
26年振りの牝馬による年度代表馬。
だが、そんな記録だけでなく一線級の牡馬最後まで対等に渡り合った。
そんな記憶が彼女を近年の最強牝馬という呼び声が高い所以であろう。

そんな偉大なる母の初仔。
父は日本の血統勢力図を塗り替えてしまったスーパーサイヤー。
期待を一心に集めるのは至極当然と言えよう。

この馬は生まれて数ヶ月で更に話題となる。
良血馬のみ上場されるセリ市で牝馬史上最高額となる2億3千万。
そんな落札価格により周囲の期待はドンドン高まっていった。

待望のデビューから破竹の3連勝。
特に3勝目は際どいレースとなりゴール前では首の上げ下げ。
そんなどちらが勝ってもおかしく無いレースで勝ちを拾う。
負けていればクラシック初戦には出られない。
この勝利は何か不思議な力に導かれているかの様だった。

クラシック戦線では常に一番人気。
そんな期待を一心に受けながらも同期のライバルには勝てなかった。
結局、ライバルに史上2頭目となる牝馬三冠を許してしまう。
だが、その雪辱を次走の牝馬女王決定戦で果たす。
古馬など問題にせず同期のライバルとのマッチレースで。
その力強さに初めて母の面影が重なった。

古馬となり母と同じように一線級の牡馬へ戦いを挑んだ。
母のような歴史的な結果は出せなかったが、秋の盾で3着。
そして、連覇の懸かった女王決定戦を楽勝。
素晴らしい実績で現役最強牝馬の座に君臨した。

そんな期待通りの活躍を続けたこの馬も今年で5歳。
レースでの走りにも精彩を欠くようになってきた。
3連覇の懸かった女王決定戦でも年下の後塵を拝する。
そろそろ潮時である。
年内一杯での引退が決定した。

迎えた今日の引退レース。
鞍上には半年振りに全勝ち鞍を挙げている主戦騎手。
母の手綱も取った天才騎手と共に最後のレースに臨む。

先頭を走るのは3歳馬。
春に変則二冠を達成し来年の牝馬戦線でも主役級の馬。
この馬が勝って名実共に世代交代となるのだろうか。

5歳の秋を迎え今年未勝利のこの馬。
だが、その走りは全盛期を思わせるように力強い。
首が高く、頭を振りながら走る独特のフォーム。
3~4コーナーを抜群の手ごたえで上がって行く。
正攻法の女王の走りである。

4コーナーでついに先頭を走る3歳馬に追いついた。
そこから並ぶ間もなく突き放しグングン後続を引き離す。
力の違いを見せつけるかの様に。
役者が違うかの様に。

そのまま皆に見守られるように先頭で最後のゴールを駆け抜けた。
その瞬間はまるで皆が祝福しているかの様だった。

この馬は偉大なる母には及ばなかったかも知れない。
しかし、血統など関係無く私はこの一頭の名牝の走りに何度も感動した。
その感動は決して最強牝馬と呼ばれるあの名牝に劣るものではない。
今はただこの一頭の名牝による引退の花道の感動に浸りたい。
いつかその仔がターフを翔ることを夢見ながら。

2005香港国際競争

2005-12-11 20:25:40 | 競馬観戦記
香港国際競争。
そう聞くと今でもあの3連勝を思い出す。
だが、考えてみるとそれ以来で日本馬の勝利は無いのである。
毎年トップクラスが遠征しているのにも関わらず。
それだけアウェイの地で勝ちきるのは難しいのだろう。
だからこそ勝利の喜びが大きいのだろう。

今年は3レースに4頭の日本馬が挑戦している。

先ずは2400mの香港ヴァーズ。
4レースの中で一番メンバーが揃ったと言われるこのレース。
ここへ果敢に挑戦したのは3歳馬。
日本の同世代では三冠馬が圧倒的だが二番手の存在ともいえるこの馬。
世界のこの舞台でどこまで通用するかが興味深い。

スタートはゲートを飛び上がるように出る。
結果、やや出遅れて最後方からの競馬となった。
しかし、幸いにも序盤から超のつくくらいのスローペース。
外枠を利してジワジワ馬群の外を上がって行くことができた。
1コーナーを中団の大外で回って行く。

そのままの位置で淡々と進み勝負どころの3コーナー。
ここで日本の3歳馬がスーッと上がって行く。
その抜群の手ごたえに思わず「おー」と声が出る。

4コーナーでは先頭集団の大外。
これはもしかするともしかする。
思わぬ展開にドキドキしてきた。

そこから直線ジワジワ脚を伸ばす。
横一線の馬群の先頭争いに加わる。
いけるかと思ったとき、力強く馬群を割って突き抜けた馬が居た。
昨年の欧州年度代表馬に輝いた牝馬である。

日本では見せられなかった本来の脚を見せつけドンドン後続を離す。
そのまま、後続をちぎり捨ててゴール板を駆け抜けた。
だが、私が見ていたのは横一線の2着争い。
ジワジワ伸びた日本の3歳馬が見事にその争いを制した。

「おーよくやった」思わずそんな声が漏れる。
正直、私はこの馬に期待をしていなかった。
だから完敗の内容とは言え、2着という好走は喜ばしい驚きだった。

続く直線1000mの香港スプリント。
日本からは春のスプリント王が挑戦している。
香港の英雄が回避したのでかすかな望みは抱ける。
だが、過去の日本馬はレースすらさせてもらえない。
どうだろうかと言う想いの方が強い。

レースは序盤後方から進める。
というより後方しか追走できないのだろう。
結局、そのまま後方でレースを終える。
このレースは日本馬にとってはやはり鬼門である。

そして、最も期待の大きい1600mの香港マイル。
日本からは春、秋それぞれのマイル王の2頭。
ベストとも言える日本の布陣であろう。

ゲートが開いて直ぐに秋のマイル王の鞍上の手が動く。
出遅れ気味のスタートを取り戻すように。
それでもエンジンの掛かりが遅いのか最後方近く。
直ぐ前には春のマイル王。
日本チームは後方からだ。

3~4コーナーでスーッと春のマイル王が上がってゆく。
その後ろから追っつけながら上がってゆく。
対照的な手ごたえだが日本チームはこれで良いんだ。
心が弾んできた。

そのまま2頭で併せるように直線を進んでゆく。
外からジワジワと内側の馬達を抜いてゆく。
やがて残り200mで秋のマイル王が更に加速した。

前走のように息の長い末脚でグングン伸びる。
残り100mでついに先頭を捕らえた。
「よっしゃー、いける」
ここで私は勝利を確信した。

更にグイグイ脚を伸ばし1馬身程の差をつけゴールを駆け抜けた。

あの日から早4年。
待ちに待った日本馬の勝利。
感無量な気持ちである。

ここ数年はこのレース後にやるせなくなった。
だが、今日は非常に気持ちが良い。

夏に続いて冬にもこんな気持ちにさせてくれた。
世界へ挑戦してくれた敏腕調教師に乾杯!

第57回朝日杯フューテュリティS

2005-12-11 18:45:48 | 競馬観戦記
2歳チャンピオン決定戦。
一昔前まではこのレースはクラシックへの登竜門だった。
シャドーロールの怪物と呼ばれた三冠馬もこのレースを制している。
しかし、近年では年末の仁川にその役割が移り変わっている。
だが、今年は例年に無く2歳のトップクラスが顔を揃えた。

新馬、オープンと2連勝してきた外国産馬。
特に前走は2度も不利がありながらも33秒前半の末脚を繰り出し圧勝。
父は日本でも走り、その翌年に欧州古馬チャンピオンに輝いた馬。

新馬戦では敗れたものの、その後は3連勝で重賞を制した馬。
特に前走は自らレースを作り出し34秒の末脚でレコードタイムの圧勝。
父は芝でもダートでもG1を制し、世界への夢を抱かせてくれた馬。

新馬、重賞と夏の新潟で連勝した馬。
特に前走はほぼ最後方から33秒台の末脚で全てを抜き去り5馬身差の圧勝。
父は無敗で皐月賞を制しながらもそれを最後に引退し幻の三冠馬と呼ばれた馬。

3頭何れも前走を圧勝してここへ勝ち進んできた。
この3強対決を制した馬は文句無く2歳チャンピオンと呼べるだろう。
そして何よりこの3頭の中でどの馬が一番強いのか。
そんなことを考えるだけでワクワクするメンバーが揃ったことが喜ばしい。

師走の冷たい空気を切り裂きながら3頭がそれぞれ返し馬に入る。
首を丸めてゆったりと走る外国産馬。
首は高めで大きなストライドで走る芦毛馬。
首をグッと下げて少しやんちゃな雰囲気で走るシャドーロールの馬。
三者三様の個性が現れていて面白い。
そして、レース振りも三者三様の展開となった。

前へつけたのは芦毛のスピード馬。
3連勝を全て逃げ切ったこの馬が今日は2番手。
スローペースの中、上手く控えることが出来ている。

中団につけたのは外国産馬。
馬群の中で前を捕らえるべく虎視眈々といった感じ。
ここから前走のような末脚を繰り出せば楽々届くだろう。

最後方近くに緑のシャドーロールの馬。
課題のゲートは上手く出たがそこから控えたのだろうか。
内枠ということもあり内々を後方から進む苦しい展開。

4コーナーではスピードの違いで芦毛馬が先頭に並びかける。
遅いペースに痺れを切らしたかのような抜群な手ごたえで。

中団を進んだ外国産馬もつれて押し上げ直後につける。
こちらは既にゴーサインを出して追い始める。

後方から内ラチ沿いに緑のシャドーロールも上がってくる。
前は馬群の壁で外にも馬がいて、こちらは苦しい展開か。

直線では得意の持続するスピードで芦毛がドンドン前へ行く。
それを追いかける外国産馬は捕まえきれない。
外の馬をやり過ごしようやく外に持ち出したシャドーロールは更に後ろ。

追いかけていた外国産馬の脚が止まったとき、その外から伏兵馬が飛んできた。
グングン先頭までの距離を縮める。
芦毛馬は最後までそのスピードを緩めることなくゴールへ向う。
伏兵が外から並びかけたところがゴール板だった。
際どい争いだったが先にゴールしたのは間違いなく内側の芦毛馬だった。

その後に少し遅れて外国産馬。
絶好の展開に見えたが最後に脚が止まってしまった。

更にその後ろに緑のシャドーロール。
直線の半ばでようやく外に出していたのではやはり遅すぎたのだろう。

今日の三強対決は芦毛馬がスピードを見せつけ勝利した。
だが、来年の春に戦ったらどうなるのだろう。
もっとペースが速かったら。
もっと距離が長かったら、もっと広々とした長い直線だったら…
などと想像し出すとキリが無い。

そんな三頭の未来・将来・前途が楽しみとなるようなレースだった。
来年の牡馬クラシック戦線は楽しくなりそうだ。

第57回阪神ジュベナイルF

2005-12-04 18:39:32 | 競馬観戦記
2歳女王決定戦。
その響きだけで波乱の予感を感じさせる。

私が競馬を観始めた年から牝馬限定戦に生まれ変わったこのレース。
その年は無敗の女王が誕生。
この馬は翌春に桜の女王に輝いた。
しかし、その翌年は大波乱の結果。
勝ち馬はその後、掲示板にすら載る事が無かった。
そんな出だしが象徴するように、このレースは極端な結果となる。

今年は4連勝中という抜群の実績を誇る馬が出走してきた。
先行して良し、後ろから追い込んで良し。
一見死角など無いように思える。
だが、早熟な母方の血統や夏から使い詰めの臨戦過程。
そして、何よりこのレースの今までの歴史。
やはり一筋縄では行かない雰囲気を感じる。

スタート直前には大粒の雨が降り注ぐ。
そんな波乱の要素が色濃くなる中ゲートが開いた。
唯一の重賞勝ち馬はほとんど最後方。
この時点で大波乱の匂いが強くなる。

4コーナーを回り直線に入る。
もはや、どの馬が勝つのか分からない。
そんな中、後方から追い込んできた馬が居た。
渋った馬場をものともせずに力強く。
そして、そのまま突き抜けてゴール板を先頭で駆け抜けた。

今年も無敗の女王が誕生した。
しかし、どうもこの馬にはそんな響きは似合わない。

馬はセリで250万で取引された。
厩舎はG1はおろか重賞勝ちすらない。
騎手も十年以上振りのG1勝利。
どの要素からも華やかさは感じられない。

だが、良血馬・名門厩舎・リーディング上位騎手。
そんな勝ち組が隆盛を誇る現在の競馬界。
本当にそれで良いのだろうか。

雑草のような馬がエリート達を薙ぎ倒す。
過去に競馬ブームを巻き起こしたのはそんな馬たちだった。
そんな馬の生い立ちに自分を重ね合わせ応援する。
自分が果たせなかった夢をその馬に託すように。
そんなところに競馬の面白さがあったのではないのだろうか。

今日のレースの勝ち馬のレース振り。
3コーナーから追いどおしで馬群に包まれる。
そんな状況からもしぶとく抜け出す根性のある走り。
どこか懐かしさを感じさせる。

そして、そんな泥臭い手綱捌きの鞍上。
600勝を超える勝ち鞍を挙げながらも、未だに障害に乗り続ける。
夢は大障害を勝つ事という個性派。
平地・障害の両方で重賞を10勝以上を挙げている。
そんな史上唯一の記録を持ちながらも世間の評価は押し並べて低い。

この馬にしてこの騎手はベストコンビではないだろうか。

来春のクラシック戦線ではキラ星の如き勝ち組たちが主役を張るだろう。
この地味なコンビにはそれほど注目は集まらない。
だが、レースは走ってみるまで分からない。
そして、そのレースでは今日のような走りを見せてくれることを期待する。
無敗の挑戦者としての走りを。

後世に語り継がれる光景

2005-12-03 20:45:02 | 感動エピソード
ケーブルテレビで競馬専門チャンネルを眺めていた。
画面に映っていたのはホースマントークという企画。

先日、天皇賞を制した調教師がゲスト。
ゲストの生い立ちを振り返って行く。
そこで私はこの調教師が元騎手だったことを思い出した。
そう、あの悲劇の名馬の主戦騎手だったということを。

その馬はとにかく速かった。
デビューから無傷の6連勝。
そのほとんどを逃げ切り勝ち。
何度も後続に大差をつけてレコード勝ちも3つある。
アメリカの特急から取ったというその名の通りの活躍だった。

その6連勝目のとき主戦騎手へ電報が届いた。
「おめでとう。こちらも楽勝、今度は負かす」
それは同日に重賞を制した兄弟子からだった。

関西の重鎮と言われた伝説の調教師。
その厩舎の看板騎手からの電報。
6連勝中に負かされた馬での挑戦状を叩きつけたのだ。

そして、次走の皐月賞トライアルでの直接対決。
超特急のように大逃げするその馬をゴール寸前で交わし去る。
予告通り負かして見せたのだった。

続くクラシック第一弾ではデビュー以来初の大敗を喫する。
万全を期して目一杯に仕上げたつもりが裏目に出たのだ。

気性が良すぎて人に対して優しすぎる。
ずるさがまるで無くて手抜きが出来ない。
悲しいくらいに自己犠牲の精神を持っていたその馬。
だから期待に応えようと調教で走りすぎてしまった。

だが、そんな直向な走りは次で報われる。
競馬界の最高峰日本ダービー。
鮮やかな逃げ切り勝ちを収めた。

鞍上の喜びも一入だった。
交通機関がそれほど発達していなかったこの時代。
関西から関東への出張は出たら行ったっきり。
文字通り馬に付きっ切りで春のクラシックを戦った。
それほど深い結びつきがこの人馬にはあった。

優しすぎる馬の性格と人馬の結びつき。
それが、あの感動的なシーンを生んだのだろう。

ダービーの栄光から約2年半後。
その人馬は暮れの阪神競馬場を走っていた。
いつものように直向に逃げて後続を引き離す。
直線を迎えて鞍上も勝利を確信していた。
しかし、その瞬間騎手の体は宙に浮いていた。
そのまま地面に叩きつけられ意識を失う。

馬は左前脚を骨折し、もんどりうって前に倒れた。
だが、馬は自力で三本脚で立ち上がり歩き始める。
少し離れた場所で倒れてピクリとも動かない主人の元へ。
左前脚は完全脱臼し、もはや皮一枚で繋がっている状態。
激痛で狂ったように暴れてもおかしくない状況である。

それでもこの馬は歩き続けた。
三本脚でもただ直向に。
長年苦楽を共にしたパートナーの元に。

やがてターフに寝ている男の傍らに立った。
三本の脚を踏ん張り鼻先を摺り寄せた。
まるで倒れて動かない主人の安否を気遣うように。

二度三度と繰り返すとやがて騎手は意識を取り戻す。
男は摺り寄せてきた馬の顔を抱きしめ頬を寄せた。
最期に何かを確かめ合うように。

この光景は後世にまで語り継がれている。