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競馬のスポーツとしての魅力や、感動的な人と馬とのドラマを熱く語ります。

馬名無き競馬日記

2006-11-06 20:11:29 | 競馬全般
この足あと誰だろう。
彼女はパソコンを操りディスプレイに表示された足あとをクリックした。

◇◇◇◇◇◇◇◇

職場の人に招待されて、とりあえず登録してみたソーシャル・ネットワーキング・サイト。
略してSNSと呼ばれ、ソコソコ流行っているらしい。
自分の自己紹介ページをインターネット上に作り、登録した人同士で交流して楽しむ。
そんなことが売りみたいだけど、イマイチ使い方が分からない。

色々と操作して自分のページを見に来た人の名前が足あととして残ることを発見、それをクリックするとプロフィール画面が表示された。

はて、名前に聞き覚えは無い。
競馬好きの方みたいだけど、やっぱり心当たりが無い。
他の欄を読んでみるとお友達からの紹介文で日記を絶賛されている。
どんな日記なのかと興味半分で読んでみることにした。

――――――――

女は男には敵わない。
そんな事を言う輩も居る。
確かに性別の違いによる生まれ持っての身体的能力差は如何ともし難い。
事実、スポーツでは男女混合で争うものは皆無に等しい。

人間のみならず馬の世界でもそれは同じである。
競馬は基本的に男女混合で行われる。
その場合、女つまり牝馬にはハンデが与えられる。
それでも牝馬が男馬相手に勝つことは容易ではない。
ましてやチャンピオン決定戦となる大レースでは尚更である。
だが、男馬を蹴散らしチャンピオンに輝いた牝馬がかつて存在した。

秋の盾と呼ばれる大レース。
最後の直線で本命馬が先頭に立とうとしていた。
昨年のこのレースの覇者。
今年も力の違いを見せつけるように横綱相撲の正攻法で勝ちに来た。
その馬に外から並びかけ、堂々と勝負を挑んできたのは牝馬だった。

牝馬特有の切れ味と称されるように、その特徴を活かしある意味奇襲のような形で男馬に勝利する馬は居る。
だがこの馬は正々堂々と力と力の戦いを挑んだのである。

両馬共に一歩も譲らない激しい叩き合い。
相手を力で捻じ伏せるべく意地と意地のぶつかり合い。
長い戦いの末、先頭でゴールを駆け抜けたのは牝馬だった。

この馬はその後も一線級の男馬を相手に回し正攻法で戦い続けた。
大レースを再び勝つことは出来なかったが常に上位争いを演じ、最後まで誇り高い走りを見せ続けた。

フロックや一発屋という言葉があるように一度だけ結果を残しても決して認められない。
戦い続け力を見せ続けることで初めてその実力を認められるのだろう。
そして、その評価には性別は関係ないのである。
彼女の走りはそう物語っていた。

――――――――

思わず読み入ってしまった。
今まで競馬は単なるギャンブルという認識しか無かった。
でも、この日記はまるで短い小説を読んでいるような感覚だった。
ふと馬を自分になぞらえて思いを巡らす。

そういえば私も前の会社では頑張っていた。
この馬のように男に負けるかと言う意気込みで戦っていた。
でも、男社会という言葉はまだまだ死語では無くてどんなに実力を見せても、なかなか正当に評価をしてもらえない。

それに反発して、とにかく誰よりも働いた。
誰に認められたいのかもよく分かってなかったけど。

それでも、ちゃんと見てくれている人が居た。
お前の頑張りは俺が一番知っているからと言ってくれた。
そういう上司に恵まれていたからあそこまで頑張れたし、やりがいも感じた。
今思うとあの頃は良かったな。
競馬のことは知らないけど読んで昔の自分を思い出す。
なんだかとても気になる日記を発見してしまった。
SNSの楽しみ方が少しだけ分かった気がした。

◇◇◇◇◇◇◇◇

またあの人の足あとだ。

仕事に追われ存在を忘れていたSNSに、久しぶりにアクセスして足あとを発見。
ふとあの時の日記を思い出し、ため息をつく。

今の私は何でこんなに無理しているんだろう。
昔もよく体調を崩すほど仕事をしたけど、こんな気持ちにはならなかった。
もっと自分らしく前を向いていた。

でも、そんな日々もあと少しで終わる。
無理をする必要も無くなる。

足あとをクリックすると新しい日記が書かれていた。
短編小説の次のページをめくるように日記を読み始めた。

――――――――

この牝馬は生まれたときから血の宿命を背負ってきた。

偉大なる母と同じように男馬を相手に勝利することを期待される。
だが、結果を出すことは出来なかった。

それでも女の子同士の争いでは十分な結果を残してきた。
昨年の女王決定戦では年下の馬を相手に意地を見せて女王の座は譲らなかった。
だが、どうしても母と比べられてしまう。

皮肉なことにこの馬が出走し惨敗した大レースで他の牝馬が男馬を捻じ伏せた。
その牝馬は奇しくも女王決定戦で負かした年下の馬だった。
最近は走りにも精彩を欠き今や立場は逆転。
世代交代などと囁かれている。

三連覇が掛かった今日の女王決定戦。
もはや、主役の座はこの馬ではなかった。
昨年負かした年下の子が一年経ち、男を負かした女傑として主役の座を射止めていた。

まだまだ女の子同士の戦いでは負けられない。
そんな意地が感じられる走りをこの馬は見せた。
一瞬勝てるのではと思わせるような。
だが最後の直線、同じような位置からスパートした年下の子についてゆけない。
完全に力負けである。
長年君臨してきた女王の座を名実共に奪われてしまった。

この馬の今の力は十分に見せてくれた。
年内一杯で引退が決まっているこの馬にとっては次の世代へバトンを渡した良いレースだった。
それでもこの馬を観続けて来た私は寂しさを感じずにはいられない。

次のレースがラストラン。
最後まで彼女の物語を見守り続けよう。
たとえそれがハッピーエンドで無かったとしても。

――――――――

偉大なる母。
ひょっとして前の日記の馬かな。
馬の世界も立派な親を持つと大変なんだ。
この馬は年内一杯で引退か。
私と同じだな。
それになんだか、今の私の状況と似ている気がする。

激務でとうとう体を壊し、派遣として新たに働き始めて早数年。
新しい職場でも自分の能力を活かし、次第に正社員と変わらぬ働きをしてきた。
それなりに忙しく、充実した日々を送ってきた。
でも、徐々に状況が変わってきた。

折からの不況で会社の業績は一向に上向かず、経費削減の嵐が吹き荒れる。
そして、ついに派遣の私にもリストラの手が伸びてきたのだった。

所詮私は派遣社員。
定められた派遣期間が終了し契約更新されなければ、もうここで働き続けることはできない。
どれだけ会社に貢献し頑張ってきたとしても。

私の後任はずっと一緒に働いてきた年下の正社員。
彼女が新人の頃には色々と教えてあげたっけ。
今では私と変わらないくらい実力をつけたけど、まさか彼女にポジションを奪われるなんて思ってもみなかった。
別に彼女が悪いわけではない。
それは分かっているんだけど。

日記の彼女と今の私は同じなのかな。
競馬のことはよく分からないけど、この馬の気持ちは分かったような気がした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あれ、足あとがあったのに。

あれから何回かSNSをチェックしてようやく見つけたのに新しい日記は無かった。
足あとは新作が書きあがったサインだと思っていたのに。

何度もチェックしたのは、私に少し似ている彼女のことが気になっていたからだ。
今年もあと残すところ二週。
年内一杯で引退と言うことは、そろそろ最後のレースを走っていてもおかしく無いと思うんだけど。

そこでふと思いついた。
そういえば今日はお休み。
競馬って確か日曜だっけ。
慌ててテレビを点けると中継が始まったところだった。

競馬をこうしてちゃんと見るのは初めて。
そう言えばあの日記には馬の名前が書いていなかった。
そもそも、あの文章自体どこか物語のようで実在の馬なのだろうか。
そんな事を思いながらもどこか確信めいたものがあった。

「今日が引退レースになります」
そんな言葉がテレビから聞こえてきたとき思わず鳥肌が立った。
間違いないこの馬だ。
このレースだ。
物語の中の彼女を私は初めて目にした。

ピカピカの毛並み。
スラリと長い脚。
キリリとした目。
額から鼻筋にスッと通った白いライン。

彼女はとても綺麗だった。
その凛とした表情は戦う女性のそれに見えた。
間もなくレースの時間となり、最後の舞台の幕が上がった。

内側から一頭飛び出してドンドン後ろを引き離して行く。
彼女は後ろの方。
どうしたの。
元女王なんでしょ。
相手は同じ女の子でしょ。
そんな思いも空しく彼女は未だに後ろにいる。

やっぱりもうダメなんだ、全然ついて行けてない。
もう見ていられなくて目を逸らそうとした、そのときだった。

彼女が外側からグングン前の馬を追い抜いて行く。
一頭また一頭と順位を上げてゆく。

「行けっ、行けっ」
彼女の走りに釘付けになりながら思わず声が漏れる。
ほとんどの馬を抜き去り後はスタートで飛び出して先頭を独走していた馬だけ。
その先頭との差もみるみる縮まって行く。
最後の直線に入ると、とうとう前の馬を抜き差って先頭に踊り出た。

「やったー」
喜びの声を上げたのも束の間、今度は後ろの馬が迫ってくる。
ゴールまでどのくらいなのか分からない。
彼女は必死に抜かせまいと走り続けている。

「頑張れ、頑張れ」
せっかくここまで頑張ったんだから。
ゴールまで後少しなんだから。

その応援が届いたかのように彼女は先頭を譲らない。
ジワジワと後ろから差を詰められても決して並ばせない。

女のプライド。
女の意地。
忘れかけていた感情が私の胸を締め付ける。

彼女はそのまま先頭でゴールを駆け抜けた。
その瞬間テレビから大歓声が聞こえてきた。
多くの人たちが彼女を祝福している。
私も思わず拍手と共に祝福の声を上げた。

「おめでとう、かっこよかったよ」

◇◇◇◇◇◇◇◇

私も引退まで後少し。
それまでに終わらせなければならない仕事、そして後任への引継ぎ作業に追われている。
でも、モチベーションが上がらず思うようにはかどらない。
そんな自分が嫌になる。

それでも、私はここまで自分の力で戦い抜いてきた。
それに対する小さなプライドもある。
ゴールまで後少し。
最後の意地をみせてやる。
彼女に負けないくらいのね。

◇◇◇◇◇◇◇◇

彼女は今日が仕事の最終日。
真っ直ぐ前を見つめながら職場に向う。
ふと見上げた冬の空は雲ひとつ無い晴天だった。
それは彼女の新しい門出を祝福しているかのように澄み切っていた。

忘れない

2006-09-04 21:36:52 | 競馬全般
昨日、痛ましいニュースを目にした。
船橋競馬場での厩舎火災。
競走馬9頭が焼死した。

命を落とした馬たちの中に知っている名前があり愕然とした。
3年前の夏、北海道日高地方が台風により壊滅的な被害を被った。
その中で濁流に飲まれながらも生き残った馬が2頭居た。
その内の1頭が今回の火災に巻き込まれていたのだ。

もう1頭は競走馬を引退し乗馬として幸せな馬生を過ごしている。
それを知ったときは嬉しくて私は思わず文章として書いたほどだった。
まだ現役として走っていたもう1頭がこんなことになるなんて。
どうしようもない遣る瀬無さに思わず天を仰いでしまう。
あのときの想いが胸に蘇ってくる。


前の職場に私の尊敬する先輩が居た。
彼は張り詰めたように仕事をする私に息の抜き方を教えてくれた。
おかしいものはおかしいと声に出しても良いんだと教えてくれた。

ある日、彼はバイクで転倒した。
骨が露出するほどの骨折で暫く入院することになった。
幸い大事には至らず数ヶ月で無事に退院することができた。

それから1ヶ月も経たない間に再び事故にあった。
自転車で歩道を走っていたら突っ込んできた車に跳ねられた。
即死だった。

なんであの人が。
なんでこんな短い間に2度も。
なんで…

あのときのことが蘇る。


それからずいぶん時が流れた。
いつの間にか彼よりも年上になっていた。
思い出すこともずいぶん少なくなってきた。
でも、決して彼のことは忘れないだろう。
彼の生きていた証は私の胸の中にある。

彼が私の人生を変えたのかどうかは分からない。
だが、私の心の一部になったことは確かである。
彼無しに今の自分は存在しない。

今回の痛ましいニュースも私はきっと忘れないだろう。
そうしてまた私の心の一部となる。

私と同じように心を痛めた人たちは大勢居るだろう。
だから、きっと火災に巻き込まれた馬たちの命は無駄にはならない。
そう思いたい。


私は彼のことを思い出すときこう問いかける。
私はあなたのように頑張れてますか?

彼はその問いに答えてはくれない。
ただ、人懐っこい顔で微笑んでいる。
あの時と変わらない笑顔で。

競争馬のふるさと

2006-08-28 18:55:47 | 競馬全般
夏の北海道といえば牧場巡り。
というわけで、今日は日高にやってきた。

この地に来て驚いたのは馬が普通に居るということ。
車を運転していると窓からこれでもかというほど見ることができる。
「馬横断注意」なんて標識も見かけた。
ここでは馬が生活に根付いていると実感する。

道の駅に車を停めたときだった。
ふと見ると、道の向こう側にまた馬が居た。
私は吸い寄せられるように側に近づいていった。
競争馬は繊細で臆病で近寄りがたい。
そんなイメージなのにこの馬はとてものんびりしている。

眼を見つめていたら更に顔を近づけてきて鼻を鳴らした。
とても穏やかでリラックスした表情に私の心も解れて来る。
本当はまずいのだろうけど鼻面をそっとなでてみる。
気持ち良さそうに眼を細めた顔はとても優しい。
レースに向かう前とはこんなに違うものかと今更ながらに感心した。

やはり、この場所だから馬はリラックスしているのだろう。
見えるものは広い草原、木々の生い茂った山、そして海。
自然のものばかりなのに、都会の作られた街よりも美しい。
人でも馬でも動物はこういうところに住むべきなのだろう。
だが、今更後戻りはできない。
戦いの場は自分で決めたのだから。


牧場巡りといえば再会が待っている。
現役時代を知っている馬達が戦いを終えて帰ってきていた。
一頭一頭を見ているとレースの光景が蘇ってくる。

お前のあの菊での逃げ切りは凄かったなあ。
すっかり白くなった顔を見つめながら心で語りかける。

お前、こんなところに居たのか。
平坦のダートで人気薄のときばかり逃げ切りを決めてたっけ。
無事種馬になれたみたいで良かったなあ。

お前もここに居たのか。
あの鋭い末脚は好きだったよ。
不治の病を克服しての勝利は感動して日記に書かせてもらったよ。

そして、美しい栗毛の馬にこう語りかけた。
今年、お前が挑戦できなかったあのレースに出走する奴が現れたよ。
海を渡ったのに前哨戦しか走れなかった無念をきっと晴らしてくれるよ。

彼らとの会話は尽きることが無かった。


ここは競争馬のふるさと。
ここに帰ってこれるのはほんの一握りの馬たち。
自らの存在価値を戦いの中で証明したものだけが帰ることを許される。

私たちにはどんな形であれ帰る場所はある。
それは当たり前でいてとても幸せなことなんだ。
そんな当たり前のことに気づかせてもらった。

私は旅を終えたらまた日常へ戻る。
また戦いが待っている。
そこで存在価値を証明していこう。
胸を張ってふるさとに帰るために。

格差への憤り

2006-04-02 18:35:09 | 競馬全般
地方と中央。
狭い日本に於いて未だに二種類の競馬が存在する。

高額の賞金をキレイな競馬場で大歓声を浴びて争う。
走る馬は名門牧場で英才教育を受けた良血。
華やかな中央の舞台は勝ち組。

赤字続きで削減され続ける賞金。
次々に廃止されてゆく競馬場。
出口の見えない不安に苛まれている地方は負け組。

このような印象が一般的だろう。

他の様々な華やかな世界にも同じように影がある。
プロ野球なども1軍の試合と2軍の差では雲泥の差があるように。
それは実力の世界だから。
客を呼べる一流のプレーができないものが日陰に甘んじる。
それは単純明快であり至極当然である。
だが、競馬に於いてはこの図式が必ずしも当てはまらない。

本日、中山競馬場では地方騎手が6勝を挙げた。
中央の騎手とは違い常に参戦できるかは分からない。
故にテン乗りの馬も多くなる。
中央の馬に日々の調教を付けて癖を把握することなど全くできない。
それでも勝ち星を量産し続けている。
今では中央の騎手を差し置いて上位人気の馬にも騎乗依頼を受けるほど。

誰の目にもこのジョッキーの実力は中央に於いてもトップクラス。
だが、どんなに実力があっても自由に中央の桧舞台に立てるわけではない。
地方の自分の乗る馬が遠征しなければそれは叶わないのである。
力のあるものが頂点を競い合う舞台に立つことすらできない。
どう考えても理不尽で歪な世界であると思わざるを得ない。

ただ、中央の騎乗機会を得られる者はまだ恵まれている。
多くの地方騎手はそのチャンスすら巡ってこない。
中央の競馬場から遠く馬のレベルも低い。
そんな地方競馬からは中央に遠征する馬がほとんど居ないからである。

そういう地方競馬の騎手は中央の騎手よりも実力が劣る。
ということならば納得が行く。
しかし、実情は大きく異なる。

地方騎手は毎日の調教を約20頭ほど行う。
それも、馬の質が低いため癖馬も多くそれを御する技術が必要とされる。
調教を終えればほぼ毎日レース。
タイトな小回りコースで深い砂のダート。
コーナリング技術と馬を動かす腕っぷしが自ずと磨かれて行く。

一方、中央では調教は5頭前後。
名門牧場でしっかりと仕付けられた馬も多い。
レースは週末だけ。

これだけ馬に乗る時間が違えば相対的にどちらの技術が上回るのか。
言う必要も無いだろう。

ある地方騎手が研修のために中央のトレーニングセンターを訪れていた。
某厩舎で暴れて手に負えないという馬が居たので自分が乗ることに。
それは地方の癖馬に比べれば楽なレベルで簡単に御することができた。
その事実にがっかりしたと言う。

地方と中央では何倍もの収入の格差がある。
それに見合うほどの腕の差があるならば納得が行く。
正直そうあってほしかったと大きく落胆したと言う。


必ずしも実力のある者が得をするわけではない社会。
日々の努力が報われず表面上の誤魔化しが通用してしまう世の中。
せめて生活に楽しみを与えてくれる競馬くらいは。
色々な大事なことを教えてくれる競馬くらいは。
憤り無く観られる日が来るのだろうか。
そんな世の中が訪れるのだろうか。

それは自分の心がけ次第。
間違っているものを間違っていると言える姿勢。
たとえ自分が損をしても。
正しいと信じた道を堂々と歩んで行ければ。
きっといつかは。
そう思いたい。

歴史を刻むため

2005-10-21 00:14:41 | 競馬全般
21年前、皇帝と呼ばれた馬が無敗で三冠を達成した。
その事実は私の中では史実であり、自分とは関係の無い出来事だった。

その息子が父の偉大な足跡を辿るように制した競馬界最高峰のレース。
このレースから競馬の世界に足を踏み入れた私はここが歴史のスタート地点。

翌年のクラシックでは距離の壁に挑み続け無敗の三冠に王手を掛けながら惜しくも敗れ去った馬が居た。
その次の年は三強と呼ばれた馬達が凌ぎを削るレベルの高いクラシック戦線だった。

そして、その1年後。
今から早11年前、怪物と呼ばれたあの馬が競馬界を席巻した。
いつも直線では後続を突き放すあのレース振り。
重心の低い力強い走り。
どれを取っても文句のつけようが無く、当然のように三冠を達成した。

私の競馬歴の始まりはこのようにスターホースが毎年のように現れた時期だった。
だから、次々と現れる強い馬達の中からついに三冠馬が出たかと。
むしろ現れない方が不思議なくらいの流れだった。

それから11年。
今年になるまで三冠を取っても不思議は無いという馬は現れなかった。
この歴史の積み重ねであの怪物が如何に偉大だったかが身に沁みてくる。
そして、自分が何と良い時期に競馬を観始めたんだという幸運に気づかされる。

あの頃の私はまだ若く、その事実の重みも歴史的価値も分かっていなかった。
だが、競馬を観続け人生の経験も積んだ今なら、今週末がどれだけ特別な日なのかが理解できる。
あの頃の自分とは違い、今ではその歴史的な出来事の証人としてその場に立ち会うこともできる。
そして、それがどれだけ幸運なことなのかも理解している。

きっと、史実として後世まで語り継がれるような瞬間になるであろう。
それをこの眼に焼きつけ、その雰囲気を全身で感じる。
一生忘れられない思い出として。

これから先、自分の人生を振り返ったとき。
必ずこの瞬間を思い出すだろう。
そんな予感を感じながら週末は淀に足を運ぶ。
自らの歴史を刻むために。

サラブレッドランキング

2005-08-11 00:12:10 | 競馬全般
2005年上半期サラブレッドランキングが発表された。
昨年よりクラシフィケーションから名称を改め、競馬を知らない人にも馴染みやすい名前にしたそうだが、やはり一般的ではないだろう。
競馬好きな人でも、何のことか分からない人も多いのではないだろうか。
世界中のサラブレッドの能力を数値化するこの試み。
馬ごと、あるいはレースごとに見ると納得の行かない数字になることもあるが、強さの目安としては、なかなか面白いものである。

例えば、今年の上半期のトップはディープインパクトの120ポンド。
この値は実際に戦っていない馬との比較にも使える。
古馬のトップは安田記念勝ちのアサクサデンエンの119。
天皇賞馬のスズカマンボは114。
つまり、ディープはそれらの馬よりも強いとみなされたのである。

また、過去の馬との比較にも使える。
昨年のダービー馬キングカメハメハは117。
同じ二冠馬のネオユニヴァースも117。
近年の最高値だったタニノギムレットでも118。
歴代ダービー馬ではもちろん、今年の値は現在の方式になった1997年以来の最高値である。

120ポンドというと、ちょうど昨年の宝塚勝ち時のタップダンスシチーと同じ値。
また、ドバイシーマクラシックを勝ったときのステイゴールドも同値。
何れも、その年の上半期トップの値である。

また、海外の馬との比較をするもの面白い。
ケンタッキーダービーを人気薄で勝ったジャコモが奇しくも120ポンド。
こんな比較からも、今年の日本ダービー馬は評価が高いことがわかる。

しかし、無敗の英国ダービー馬のモティヴェイターは126。
芝無敗で仏二冠馬のシャマーダルも126。
米二冠馬のアフリートアレックスは125。
やはり、日本馬だけのレースでは世界的な評価は高くならないということがわかる。

海外で勝った日本馬の評価はというと、シーザリオは116ポンド。
牝馬には4ポンドのセックスアローワンスがつくので実質120で3歳牝馬ながら上半期日本トップタイである。

海外との比較では、ミエスクの再来とまで呼ばれているディヴァインプロポーションズが123。
愛オークスを5馬身差で勝ったシャワンダが121。
シーザリオはそれに次ぐ3歳牝馬世界第3位ということになり、無敗で英オークスを制したエスワラーと並んでいる。
やはり、海外で勝つことが世界的な評価を高めるということである。

余談だが、日本馬での過去最高値はエルコンドルパサーの134ポンドで、凱旋門賞2着時のものである。
この値を上回る日本馬は現れるのだろうか。
それは一体どんな舞台で、どんな相手に、どんなレースをした時なのだろうか。
そんなことを想像するのもまた面白い。

G1新設の噂

2005-08-08 21:34:18 | 競馬全般
G1新設。
そんな噂を耳にした。
有馬記念の前週に阪神芝1400m戦。
早ければ来年から実施されるという。
果たしていかがなものだろうか。

私は常々G1レースとはチャンピオン決定戦の位置づけであると考えている。
日本の競馬界は2400mのダービーを頂点としている。
生産者も期待の繁殖は当然ダービーを意識した配合をするだろう。
将来性のある若駒を預かった調教師は、ダービーを目標に馬を仕上げてゆくに違いない。
ゆえに、中長距離路線の層が厚くなるのは至極当然である。
逆を言うならば、短距離路線の層が薄くなるのも当然である。
現状でも、特にスプリント路線は層が薄く、G1でも数頭の有力馬以外はチャンピオン決定戦にふさわしいメンバーとは言いがたい。
それなのに、なぜ短距離にもう一つG1が必要なのだろうか。

さらに日程にも疑問がある。
年末の連続G1の狭間の週を埋め盛り上げようという目論見なのだろう。
だが、前週には香港国際競争がある。
そこには国際G1の1000m戦と1600m戦があり、最近は日本のトップマイラーやトップスプリンターが出走するのも珍しくない。
欧米のトップホースも出走する国際競争に日本のトップホースが戦いを挑む。
そんな戦いを否定するかのようなこの日程。
下手すればメンバーが分散し、空き家のようなG1に成りかねない。
そんなレースに勝った馬を果たしてチャンピオンと呼べるのだろうか。

国際化を目指すのであれば、名ばかりの国際競争を増やすよりも他国のビッグレースに配慮した日程を考えるべきだと思う。
スピード優先の現在の競馬に合わせるのであれば、春の古馬頂点のレースの距離を見直す方が先だろう。

現状、平場のレースの売り上げはとても採算が取れず、G1などの大レースに頼らざるを得ないという。
ならば、日本馬が毎年のように遠征する海外レースや、ほぼ中央の馬たちの争いとなる交流重賞の馬券を売るなどの工夫があっても良いのではないだろうか。
G1を新設するというのはあまりにも短絡的すぎるとしか思えない。

競馬ファンはG1という冠がついたレースが観たいわけではない。
G1にふさわしいメンバーが競い合う、良いレースが観たいのだ。

夏競馬

2005-08-04 00:27:53 | 競馬全般
夏競馬。
そんな響きがよく似合う写真を目にした。

「優駿」で特集されていた、海外のリゾート競馬場の紹介。
ドーヴィルやサラトガなどのよく聞くものに混じって、愛国のレイタウンという聞きなれない場所があった。

遠浅の浜が1年のうち最も干潮を迎える日に1日だけ行われる開催。
潮の引いた浜に朝早くから柵をを作り、コースを生み出す。

直線のみの競馬で、スターティングゲートなども無し。
スタート地点に馬が揃った時点でレースが始まる。
まるでお祭りの草競馬といった感じである。
しかし、アイルランドの年間レース日程に掲載されている、れっきとした公式のレースなのである。

波打ち際の砂浜の上を、サラブレッドが疾走する。
まさに、これこそ夏競馬と言うのに相応しいだろう。

また一つ、訪れてみたい競馬場が増えた。
また一つ、心に刻んでみたい風景が増えた。

日米オークス馬故障

2005-07-22 00:12:23 | 競馬全般
早来到着後、右前脚に違和感があったためエコー検査を行った結果、右前外側繋靭帯炎を発症していることが判明。

「外見ではそう目立ちませんが、よく見るとやや腫れがある感じです。
念のためエコー検査を行ったところ内出血が認められました。
右前蹄の内側がやや減っていることから負担がかかり徐々に症状が出てきたようです。
まだ判明したばかりなのではっきりしたことは言えませんが、程度的に2~3ヶ月の休養は必要と思われます。
治癒を助ける意味で21日にショックウェーブを施しました。
他にレーザーと湿布で治療を行っています」

キャロットホームページより


こういうニュースは心臓を素手で握られたような気分になる。
南関東二冠馬のときもそうだった。

本当にあの馬だけは、どうかあの馬だけは無事に秋を迎えられますように。
私たち競馬ファンにできることと言えば、ただ祈ることのみである。

母も歩んだ道

2005-07-15 00:30:28 | 競馬全般
今週ある馬がデビューを迎える。

父は無念の故障で無敗のまま引退した幻の三冠馬。
母はG1を5勝した名牝。
その三番目の仔にあたる牝馬。

初仔は、世界最高峰まで半馬身まで迫った馬が父。
だが、脚部不安で結局デビューできなかった。

二番目の仔は日本一のリーディングサイヤーが父。
だが、幼い頃に負った怪我が原因で片方の視力がなく、やはり競走馬にはなれなかった。

三頭目にして初めて、デビューを迎える。


顔つきとかイメージはダブるとこがある。
馬主も牧場も厩舎スタッフもみんな待ち焦がれていた。

母も手がけた調教師の目尻が下がる。


ダッシュ力があり負けん気の強い気性で実戦向き。
潜在能力は相当高そうです。

母も世話した調教厩務員はそう語る。


いいスピードがあるし手先が軽い。
抑えるとき首を上げるところと、放したときにグッと首が下がるところとかはお母さんに似てますね。

母の手綱も取った騎手はレースが待ち遠しそう。


似なくてもいいのにカリカリしたところが出てきた。

苦笑いを浮かべたトレーナーだが、仕上がりには自信を持っているようだ。


関係者やファンの夢を背負い、母がデビューした舞台で競争馬としての第一歩を踏み出す。