古事記 上つ巻 現代語訳 十七
古事記 上つ巻 十二
三貴子の分治
読み下し文
(三貴子の分治)此の時伊邪那岐命、いたく歓喜ばして詔りたまはく、「吾は子を生らし生らして、生らす終に、三の貴き子を得つ」とのりたまふ。其の御頸珠の玉の緒母由良邇取り由羅迦志て、天照大御神に賜ひて詔りたまはく、「汝が命は、高天原を知らせ」と事依さして賜ふ。故、其の御頸珠の名を、御倉板挙之神と謂ふ。次に月読命に詔りたまはく、「汝が命は、夜之食国を知らせ」と事依さしたまふ。次に建速須佐之男命に詔りたまはく、「汝の命は、海原を知らせ」と事依さしたまふ。故、各依さし賜へる命の随に、知らし看す中に、速須佐之男命、命させる国を治らずて、八拳須心の前に至るまで、啼き伊佐知伎。其の泣く状は、青山は枯山如す泣き枯らし、河海は悉に泣き乾しき。是を以ち悪ぶる神の音、狭蝿如す皆満ち、万の物の妖悉に発る。故、伊邪那岐大御神、速須佐之男命に詔りたまはく、「何に由りて汝は事依させる国を治らずて、哭き伊佐知流」とのりたまふ。尓して答へ白さく、「僕は妣の国根之堅州国に罷らむと欲ふ。故、哭く」とまをしたまふ。尓して伊邪那岐大御神、大く忿怒りて詔りたまはく、「然あらば、汝は此の国にな住むべくあらず」とのりたまひ、神夜良比爾夜良比賜ひき。故、其の伊邪那岐大神は、淡海の多賀に坐すなり。
現代語訳
三貴子の分治
この時、伊邪那岐命は、大変歓喜して、「私は、子を生み生みて、終わりに生んで、三の貴き子を得た」と仰られました。
その御頸珠(みくびたま)の玉の緒を母由良邇(もゆらに)取り由良迦志に(ゆらかし)て、天照大御神に賜いて、「汝が命は、高天原を知らせ」と事依さして賜りました。
故、その御頸珠の名を、御倉板挙之神(みくらたなのかみ)といいます。
次に月読命に、「汝が命は、夜之食国(よるのおすくに)を知らせ」と事依さしされました。
次に建速須佐之男命に、「汝の命は、海原を知らせ」と事依さしされました。
故に、各々に依さし賜える命にしたがい、知らしめす中で、
速須佐之男命は、命させる国を治めずに、八拳須(やつかひげ)が心前(むなさき)に至るまで、啼き伊佐知伎(いさちき)しました。
その泣く状は、青山は枯山の如き泣き枯らし、河海はことごとく泣き乾きました。
ここをもちて悪ぶる神の音は、狭蝿(さばえ)の如く皆満ち、万の物の妖(わざわい)はことごとくおこりました。
故に、伊邪那岐大御神、速須佐之男命に、「どうして汝は、事依させる国を治めずに、哭き伊佐知流るのか」と仰られました。
尓して答えて、「僕は妣(はは)の国・根之堅州国(ねのかたすくに)に罷(まか)りたいと思っています。故に、哭くのです」といいました。
しかして、伊邪那岐大御神は、大いに忿怒して、「然あらば、汝はこの国に、住むべきではない」と仰られ、神夜良比夜良比岐(かむやらひやらひき)を賜りました。
故に、この伊邪那岐大神は、淡海(おうみ)の多賀に坐しています。
・御頸珠(みくびたま)
首飾りの珠
・母由良邇(もゆらに)
玉がゆれうごき、触れあって鳴る
・食国(おすくに)
天皇の統治なさる国。 天下
・八拳須(やつかひげ)
八握りもある長さのヒゲ。転じて長いヒゲ
・心前(むなさき)
胸の鳩尾(みずおち)のあたり。胸元
・伊佐知伎(いさちき)
泣きわめくこと
・神夜良比夜良比岐(かむやらひやらひき)
追放
現代語訳(ゆる~っと)
三貴子の分治
この時、伊邪那岐命は、大変歓喜して、「私は、子を次々と生んだが、生まれしめることの終わりに、三柱の貴い子を得ることができた」と仰られました。
その首飾りをゆらして取り、触れあって鳴る音を響かせて、天照大御神に与えて、「お前は、高天原を統治しなさい」と委任しました。こういうわけで、その御頸珠の名を、御倉板挙之神といいます。
次に月読命に、「お前は、夜之食国を統治しなさい」と委任しました。
次に建速須佐之男命に、「お前は、海原を統治しなさい」と委任しました。
こういうわけで、各々が伊邪那岐命の命に従い、委任された地を統治なさる中で、速須佐之男命は、委任された国を統治せずに、長いヒゲが胸元に至るまで、啼き、泣きわめきました。
その泣く様子は、速須佐之男命が泣くことで、青山が枯山のように枯れ、河海はことごとく乾いてしまいました。
そのため悪ぶる神の声は、五月の蝿のように、辺りに満ち満ちて、よろずの物がみな、禍いを発しました。
こういうわけで、伊邪那岐大御神は、速須佐之男命に、「どうしてお前は、委任された国を統治せずに、哭き、泣きわめいているのか?」と仰られました。
すると速須佐之男命が、「僕は母の国・根の国に行きたいと思い。それで、泣いているのです」と答えました。
しかして、伊邪那岐大御神は、大いに憤怒して、「それならば、お前はこの国に、住むべきではない!」と仰られ、速須佐之男命を追放しました。
この伊邪那岐大神は、近江の多賀に鎮座していらっしゃります。
明日に続きます。
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