京都府の木でもある「北山杉」の維持・発展のため、2021年8月に京都市と北山杉利用者(株式会社内田洋行、菊地建設株式会社、ナイス株式会社、三井住友信託銀行株式会社)と生産者(京都北山丸太生産協同組合、京北銘木生産協同組合)が京都市:建築物等における北山杉の利用促進協定を締結し、北山杉の利用促進を図る取り組みを進めています。
今回、北山杉の認知向上と新しい利活用の可能性を探る施策のひとつとして、有識者を招いた視察ツアーを10月5日(木)に開催しました。
前編に引き続き、北山杉の里、北区中川地区見学の様子をお届けします。
⚫︎人の心までをも浄化する北山杉の里
一同はいよいよ北山杉の故郷、北区中川地区へと移動。
まずは昼食を「山のめんどころ」でいただきました。
「山のめんどころ」がある古民家はかつて「中仁(なかに)商店」という屋号で北山丸太の問屋を営んでいました。
中川地区には宿泊施設がないため、かつては、遠方から買い付けに中川にきた商売人は産地問屋に宿泊されたそうで、その名残をうかがい知れる貴重な古民家です。
産地だけに美しい磨き丸太が床柱以外の個所にも使用されており、きれいな飴色は歴史を感じます。
経年で飴色に変化した美しい絞り丸太
お食事をいただく前に、この中川地区で活動する工芸職人の製品を見せていただきました。ご説明してくださったのは、北山舎の本間智希氏。北山杉に魅力を感じこの中川地区に移住し、さまざまな専門をもつ若手と北山の文化遺産保全に取り組まれています。
北山舎の本間智希さん
囲炉裏のある大広間の横の床の間には、北山杉を使ったプロダクトを作っている工芸ブランド「HOY」「SIBO」「ワシタカ工藝」の作品が並べられていました。
北山杉が持つ表面の美しさ、木目のきめ細やかさを活かしデザインされたスツールやテーブルなどの工芸品を通し、今後一本丸太の建材としてだけではなく、装飾や個性ある日本的なプロダクトを生み出すヒントになる感慨深い時間でした。
帰りがけ、ワシタカ工藝様の御厚意で北山杉のお皿をお土産に。
袋を開けるとふわっと檜にも似た甘い木の香りがします。これも木が持つ力です。断面の年輪の細かさも北山杉ならでは。シンプル且つ自然がもつデザインを存分に活かした逸品です。
お土産の北山杉のお皿
「山のめんどころ」の店主、奥田貴子さんのお話を聞きながら、いろりで焼いた野菜と中川地区のハンターが仕留めたジビエ(鹿)、三穀麺、もち麦米と素朴ながら贅沢な食材と時間を堪能いただきました。
特に鹿の味には皆さん驚かれていました。山を守るためには獣害対策も必要であり、そういった文化にも触れていただく良い機会になったと思います。
囲炉裏で新鮮な野菜を焼いていただきました
⚫︎樹齢600年のマザーツリーと樹齢450年以上の大台杉に感動
京都北山丸太生産協同組合理事の松本吉弥の案内により、母樹や大台杉を見学いただきました。取材はしたことはあっても産地を見たことがない、木材はみたことがあってもあまり山へは来たことがない、という皆さん。車窓から見える、凛として空に向かって立ち並ぶ北山杉の姿に「綺麗」というつぶやきが聞こえてきます。
まずは中川八幡宮内の樹齢600年といわれ、厳かな空気の中にまっすぐそびえている母樹の「シロスギ」へ。真っすぐに伸びた北山杉の木々たちの一部はこの遺伝子を継いだ子孫だそうです。自然界の生命力に一同関心しきりで、かわるがわる母樹に触れていました。
続いて大台杉へと移動。北山は急な斜面で植林や伐採をするのに困難な地形のため、「台杉仕立て」という独自の育林技術が生み出されました。「台杉仕立て」とは一つの株で多くの幹を育て植林の回数を減らすという手法です。一本の樹から何本も木がまっすぐ伸び行く様は強い生命力を感じ、最近では観賞用として国内外からの人気が高まっています。
北山大台杉は樹齢450年とされ、日本最古かつ最大の大きさと言われています。
とてもユニークな林業が海外メディアでも度々紹介され、この日もヨーロッパからの観光客の姿を目にしました。
母樹(上)と大台杉(下)
深秋になると真っ赤な紅葉と天に向かって伸びる北山杉の絶景が拝める宗蓮寺下からも景色を望み「この景色はなくしてはいけないね、日本の誇りだ」との声も参加者からあがりました。
⚫︎枝打ちの見学や磨き丸太体験も
この後、北山杉の魅力でもある節が少なく、表面が滑らかな仕立てについての技術も見学いただきました。
この高さで作業をします。ムササビのような職人ワザ
高さ20メートルほどの枝のない木をスルスルと登る枝打ち職人は、「枝打ち鎌」と鉈(なた)を持ち、木の上で作業をします。1本の木の枝打ちが終わると、隣の木に手をかけ飛び移る、まるでムササビのよう。常に切れ味を保つために鎌の刃を一日4~5回研ぎ、すっと姿が美しくなるように丁寧に枝打ちを行っていく。
北山杉の美しい姿を作るため、どれほど手をかけているかご理解いただけたかと思います。
次に丸太の磨き作業の体験をしていただきました。
昔、北山の村のそばで病気によって倒れてしまった旅の僧侶を村人が懸命に看病をし、元気になった僧侶がお礼に「菩提の滝の滝つぼにある砂で丸太を磨く」ことを伝え、その丸太が美しく、都で高く売れるようになり村が栄えたと言い伝えられています。これが北山杉の製法の始まりだと言われています。その砂で実際に磨き体験をしていただきました。
丸太の磨き体験の様子
⚫︎ストックヤードを見学し、開発中の新製品も披露
製品ストックヤードも見学していただきました。さまざまな丸太に参加者の熱量も上がり、「これはどこに使ってみたいか」という議論で盛り上がりました。
北山杉といえば一本丸太というイメージが強いですが、床柱の需要が少なくなっていることは否めません。しかし現在、北山杉の木肌などの特性を生かした新製品を開発しており、当日はそれらもご覧いただきました。
磨き丸太のみならず、最近人気のある変木にも好反応
新製品の、天然出絞の木肌を生かしたルーバー状の衝立「KITAYAMA」も見学
⚫︎北山杉の未来に向けてディスカッション
最後に皆さんでディスカッション
視察を終え、北山丸太生産協同組合の会議室にてディスカッションを行いました。協定メンバーであるナイス株式会社 管理本部経営企画室の宮川敦氏進行のもと、参加した5名から感想を発表いただき、さまざまな貴重なご意見をいただきました。
「色々取り組んでいるので、アワードに和の空間という部門を設けたらどうか?」
「繊細さなどは女性好み。若い層からシニアまで幅広く受け入れられる。新しいデザインを提案してみては」
「全国の森林や山を調べているが、日本中瀕死の山がたくさんある。文化を伝えることは面白いと思うが、伝わっているようで伝わってないことはたくさんある。お坊さんの言い伝えでこれだけ発展したという事を伝えても面白いのではないか」
「皮をむく工程が大切という事を知らない人がいるはず。そういう人に向けた発信をしていってみては?」
「ここにある歴史が感じられる写真などを全世界に発信しつつ、中川地区北山杉のことを発信することができるかもしれない」
など、ご自身の分野を飛び越えた意見も飛び交いました。
北山杉というブランドを守る林業従事者やプロダクトを生み出す生産者、そして、日本文化として大切に使っていくことで伝えてくれる次世代へ。
今後もこうした視察ツアーを開催し、北山杉を取り巻く関係人口を増やすことで利用を強く推進していきたいと思います。
※産地視察ツアーも随時開催しています。お気軽にお問い合わせください。
<中川地域>
・研修・体験・北山杉の里ガイドツアーご案内ページ
https://www.kyotokitayamamaruta.com/institution/index2.html
・お問い合わせ京都北山杉の里総合センター
TEL 075-406-2212
〒601-0125 京都市北区中川川登74
・お問い合わせご記入ページ
https://www.kyotokitayamamaruta.com/institution/contact.html
<京北地域>
・京北銘木生産協同組合
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