「密やかな結晶」小川洋子 講談社文庫
*モノが一つずつ消滅していく島。それは香水であり、小鳥であり、写真であり、そして自分の仕事ですらも。消滅が訪れた日、人々はそれ(消滅したもの)を自らの手で燃やし、完全にその存在を無くす。だがごくたまに、消滅が訪れない人間もおり、彼等は恐ろしい秘密警察の捕獲対象となる。小説家である「わたし」は、編集担当者であり消滅が訪れない人種であるR氏を自宅にかくまう。消滅は静かに、静かに、雪が積もるように島の中に浸透していく…
『わたしだってどこにも行きたくはない。あなたと同じ場所にいたいわ。でも無理なのよ。今だってあなたとわたしの心は、こんなにも遠い場所に引き離されているんだもの。あなたの心が感じるものには、ぬくもりと安らぎとみずみずしさと音と香りがあふれているけれど、私の心はどんどん凍り付いてゆくだけ。いつか粉々に砕けて、氷の粒になって、手の届かないところで溶けてしまうの』
※ネタバレすると折角のお話が勿体ないので、ちょっとでも興味の湧いた方はこっから先は読まれぬよう!
やはり小川ワールドが好きだ…
特に、話に意味とかないんだけどな。ちょっと、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』と似たような感触を持ったよ。空想の世界での出来事で、余りに漠然としていて抽象的な世界観なのだけどハマり込まずにいられない。そんでもって「結局、その世界って何だったのぉ!!」とどこか謎解きの答えのようなものを求めずにいられないんだけど、恐らくそんなことは作者の言いたいことではなく、漠然とした世界のまま終わるんだな(笑)なんとなく、今まで読んだ小川さんの作品から予想できたけどね(^^;恐らく、解りやすい結果を明示するのは美徳じゃないんだろね(そういう精神好きだけどね)。
作品を通して感じられるのは、雪が音も立てずに肌に触れるような冷たい哀しさ。消滅が訪れて、秘密警察に言われて泣く泣くというのではなく自分たちの手で進んでそれを燃やす行為というのがなんとも哀しくてたまらない。
『新しい心の空洞が燃やすことを求めるの。何も感じないはずの空洞が、燃やすことに関しては痛いくらいにわたしを突き上げてくるの。全部が灰になった時、やっとそれはおさまるんです。』
恐らく、消滅はしても彼等の心に残っているそのモノに対する愛着のようなものが、彼等に完全な消滅を促すのでしょう。愛着のあるものに、何も感じられないまま触れているのは辛過ぎるから。そして、彼等が恐れているのは強行な秘密警察であり、消滅そのものではないところがまた、恐ろしい。「わたし」は特異な立場にあって、愛する人との隔たりが悲しいが為に消滅のことを気にかける。
展開も上手いんですよね。ゾクゾクした。最終的に待っているのは恐らく“無”だろうと解っていても、おじいさんのフェリーや島の外、海の向こうに一縷の望みを抱いてしまったり。どうやって島に完全な“無”が訪れるのか、次に無くなるのは食べ物か、愛する人か、などと予想したり。体っていうのは納得するとともに恐かったなぁ。
そして、物語と交叉して展開される「わたし」の書く小説。これまたヤラレター。「わたし」が彼を閉じ込めていることが、タイピング少女とその教師の話として表れているのかと思ったら、最終的に自分が狭い部屋にタイプライターの一つとして、消滅したものの一つとして置いて行かれることを暗示していたのか。このタイピング少女の話は、小川さんお得意のちょっと倒錯入った(^^;感じでこれもおもしろかったですね~タイピング教師キモっっ!!(笑)
最後に訪れた、真っ白く雪に閉ざされた世界。
それは「わたし」にとっては何も無い終わりの世界であり、彼にとってはすべての始まりの世界となった。
解説に、小川さんは「アンネの日記」に特別な思いを持っており、この話にもナチのユダヤ人狩りを連想させるものがあるとあり、ほほぉ~なるほどと思い返してみる。まぁそうなんですけど、完璧にファンタジーだと切り離して考えていたので。寓意性があると考えると、あんまお話を素直に楽しめなくなるし。まぁとりあえず、そうすると、島の人々が失っていったものとは“自由”や、“人間としての尊厳”や、“喜び”、“楽しさ”等といったものであるのかもしれない。どちらにしろ共通しているのは、その「不自然さ」に順応してしまう人の心と抵抗できないことへの哀しさ、なのかな…。
*モノが一つずつ消滅していく島。それは香水であり、小鳥であり、写真であり、そして自分の仕事ですらも。消滅が訪れた日、人々はそれ(消滅したもの)を自らの手で燃やし、完全にその存在を無くす。だがごくたまに、消滅が訪れない人間もおり、彼等は恐ろしい秘密警察の捕獲対象となる。小説家である「わたし」は、編集担当者であり消滅が訪れない人種であるR氏を自宅にかくまう。消滅は静かに、静かに、雪が積もるように島の中に浸透していく…
『わたしだってどこにも行きたくはない。あなたと同じ場所にいたいわ。でも無理なのよ。今だってあなたとわたしの心は、こんなにも遠い場所に引き離されているんだもの。あなたの心が感じるものには、ぬくもりと安らぎとみずみずしさと音と香りがあふれているけれど、私の心はどんどん凍り付いてゆくだけ。いつか粉々に砕けて、氷の粒になって、手の届かないところで溶けてしまうの』
※ネタバレすると折角のお話が勿体ないので、ちょっとでも興味の湧いた方はこっから先は読まれぬよう!
やはり小川ワールドが好きだ…
特に、話に意味とかないんだけどな。ちょっと、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』と似たような感触を持ったよ。空想の世界での出来事で、余りに漠然としていて抽象的な世界観なのだけどハマり込まずにいられない。そんでもって「結局、その世界って何だったのぉ!!」とどこか謎解きの答えのようなものを求めずにいられないんだけど、恐らくそんなことは作者の言いたいことではなく、漠然とした世界のまま終わるんだな(笑)なんとなく、今まで読んだ小川さんの作品から予想できたけどね(^^;恐らく、解りやすい結果を明示するのは美徳じゃないんだろね(そういう精神好きだけどね)。
作品を通して感じられるのは、雪が音も立てずに肌に触れるような冷たい哀しさ。消滅が訪れて、秘密警察に言われて泣く泣くというのではなく自分たちの手で進んでそれを燃やす行為というのがなんとも哀しくてたまらない。
『新しい心の空洞が燃やすことを求めるの。何も感じないはずの空洞が、燃やすことに関しては痛いくらいにわたしを突き上げてくるの。全部が灰になった時、やっとそれはおさまるんです。』
恐らく、消滅はしても彼等の心に残っているそのモノに対する愛着のようなものが、彼等に完全な消滅を促すのでしょう。愛着のあるものに、何も感じられないまま触れているのは辛過ぎるから。そして、彼等が恐れているのは強行な秘密警察であり、消滅そのものではないところがまた、恐ろしい。「わたし」は特異な立場にあって、愛する人との隔たりが悲しいが為に消滅のことを気にかける。
展開も上手いんですよね。ゾクゾクした。最終的に待っているのは恐らく“無”だろうと解っていても、おじいさんのフェリーや島の外、海の向こうに一縷の望みを抱いてしまったり。どうやって島に完全な“無”が訪れるのか、次に無くなるのは食べ物か、愛する人か、などと予想したり。体っていうのは納得するとともに恐かったなぁ。
そして、物語と交叉して展開される「わたし」の書く小説。これまたヤラレター。「わたし」が彼を閉じ込めていることが、タイピング少女とその教師の話として表れているのかと思ったら、最終的に自分が狭い部屋にタイプライターの一つとして、消滅したものの一つとして置いて行かれることを暗示していたのか。このタイピング少女の話は、小川さんお得意のちょっと倒錯入った(^^;感じでこれもおもしろかったですね~タイピング教師キモっっ!!(笑)
最後に訪れた、真っ白く雪に閉ざされた世界。
それは「わたし」にとっては何も無い終わりの世界であり、彼にとってはすべての始まりの世界となった。
解説に、小川さんは「アンネの日記」に特別な思いを持っており、この話にもナチのユダヤ人狩りを連想させるものがあるとあり、ほほぉ~なるほどと思い返してみる。まぁそうなんですけど、完璧にファンタジーだと切り離して考えていたので。寓意性があると考えると、あんまお話を素直に楽しめなくなるし。まぁとりあえず、そうすると、島の人々が失っていったものとは“自由”や、“人間としての尊厳”や、“喜び”、“楽しさ”等といったものであるのかもしれない。どちらにしろ共通しているのは、その「不自然さ」に順応してしまう人の心と抵抗できないことへの哀しさ、なのかな…。