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ムゲンツヅリ

もはやジーザス日記。

密やかな結晶

2005-10-03 | 読書感想文
「密やかな結晶」小川洋子 講談社文庫

*モノが一つずつ消滅していく島。それは香水であり、小鳥であり、写真であり、そして自分の仕事ですらも。消滅が訪れた日、人々はそれ(消滅したもの)を自らの手で燃やし、完全にその存在を無くす。だがごくたまに、消滅が訪れない人間もおり、彼等は恐ろしい秘密警察の捕獲対象となる。小説家である「わたし」は、編集担当者であり消滅が訪れない人種であるR氏を自宅にかくまう。消滅は静かに、静かに、雪が積もるように島の中に浸透していく…

『わたしだってどこにも行きたくはない。あなたと同じ場所にいたいわ。でも無理なのよ。今だってあなたとわたしの心は、こんなにも遠い場所に引き離されているんだもの。あなたの心が感じるものには、ぬくもりと安らぎとみずみずしさと音と香りがあふれているけれど、私の心はどんどん凍り付いてゆくだけ。いつか粉々に砕けて、氷の粒になって、手の届かないところで溶けてしまうの』


※ネタバレすると折角のお話が勿体ないので、ちょっとでも興味の湧いた方はこっから先は読まれぬよう!

やはり小川ワールドが好きだ…
特に、話に意味とかないんだけどな。ちょっと、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』と似たような感触を持ったよ。空想の世界での出来事で、余りに漠然としていて抽象的な世界観なのだけどハマり込まずにいられない。そんでもって「結局、その世界って何だったのぉ!!」とどこか謎解きの答えのようなものを求めずにいられないんだけど、恐らくそんなことは作者の言いたいことではなく、漠然とした世界のまま終わるんだな(笑)なんとなく、今まで読んだ小川さんの作品から予想できたけどね(^^;恐らく、解りやすい結果を明示するのは美徳じゃないんだろね(そういう精神好きだけどね)。
作品を通して感じられるのは、雪が音も立てずに肌に触れるような冷たい哀しさ。消滅が訪れて、秘密警察に言われて泣く泣くというのではなく自分たちの手で進んでそれを燃やす行為というのがなんとも哀しくてたまらない。
『新しい心の空洞が燃やすことを求めるの。何も感じないはずの空洞が、燃やすことに関しては痛いくらいにわたしを突き上げてくるの。全部が灰になった時、やっとそれはおさまるんです。』
恐らく、消滅はしても彼等の心に残っているそのモノに対する愛着のようなものが、彼等に完全な消滅を促すのでしょう。愛着のあるものに、何も感じられないまま触れているのは辛過ぎるから。そして、彼等が恐れているのは強行な秘密警察であり、消滅そのものではないところがまた、恐ろしい。「わたし」は特異な立場にあって、愛する人との隔たりが悲しいが為に消滅のことを気にかける。
展開も上手いんですよね。ゾクゾクした。最終的に待っているのは恐らく“無”だろうと解っていても、おじいさんのフェリーや島の外、海の向こうに一縷の望みを抱いてしまったり。どうやって島に完全な“無”が訪れるのか、次に無くなるのは食べ物か、愛する人か、などと予想したり。体っていうのは納得するとともに恐かったなぁ。
そして、物語と交叉して展開される「わたし」の書く小説。これまたヤラレター。「わたし」が彼を閉じ込めていることが、タイピング少女とその教師の話として表れているのかと思ったら、最終的に自分が狭い部屋にタイプライターの一つとして、消滅したものの一つとして置いて行かれることを暗示していたのか。このタイピング少女の話は、小川さんお得意のちょっと倒錯入った(^^;感じでこれもおもしろかったですね~タイピング教師キモっっ!!(笑)

最後に訪れた、真っ白く雪に閉ざされた世界。
それは「わたし」にとっては何も無い終わりの世界であり、彼にとってはすべての始まりの世界となった。

解説に、小川さんは「アンネの日記」に特別な思いを持っており、この話にもナチのユダヤ人狩りを連想させるものがあるとあり、ほほぉ~なるほどと思い返してみる。まぁそうなんですけど、完璧にファンタジーだと切り離して考えていたので。寓意性があると考えると、あんまお話を素直に楽しめなくなるし。まぁとりあえず、そうすると、島の人々が失っていったものとは“自由”や、“人間としての尊厳”や、“喜び”、“楽しさ”等といったものであるのかもしれない。どちらにしろ共通しているのは、その「不自然さ」に順応してしまう人の心と抵抗できないことへの哀しさ、なのかな…。

寡黙な死骸 みだらな弔い

2005-09-29 | 読書感想文
「寡黙な死骸 みだらな弔い」小川洋子 中公文庫

タイトルからしてこりゃあブラック路線だろうなとは思ってたけど、うん、とてもブラックでした(笑)

あかん、今朝一気に読んでしまったら、おかげで今日一日世界がブラックな視界から見えてしまったよほほほ。
これ、何ていうジャンルになるのかなぁ。ミステリーのようだけど、謎解きが目的の話ではないし。ある意味グロテスク。だけど恐ろしいことに、文章とその構成の美しさから酔ってしまいそうなグロテスク。静謐さとでもいうのか、厳かで美しい独特の世界観に浸らずにいられなかった。恐いんだけどねー。谷山浩子さんのブラック路線の世界観とちょっと似た感じ。暗くて、哀しい。哀しい狂人たち。
11個のお話はそれぞれ独立していながら微妙に繋がっている構成で、同じ人物が違う話の中で違う顔を見せることもしばしば。…なはずなんだけど、あれ、この人もうこの時には死んでるんじゃないの?と混乱したりもして、最終的に「毒草」を読んでどうやらちょっと幻想的なノリもあるらしいと解った(このラストは更に最初の話「洋菓子屋の午後」返って行くもので見事な構成なり)。「ベンガル虎の臨終」が私にとってはちょっと意外な話だった。大抵どの話も哀しいブラックなオチがあるんだけど、この話はただただ静かに終わった。憎しみも適わない死の荘厳さ…みたいなものを感じた。
雰囲気として「老婆J」が一番恐かったかも…他の話読むと一層この話の哀しさが増しますわ。グロいのに何故か「白衣」も「心臓の仮縫い」も結構好きなのよね。

だめだ、ブラックモードから抜けきれない。なんか明るい本を買いにゆこう(^^;

ステップ・ファザー・ステップ

2005-09-28 | 読書感想文
『ステップ・ファザー・ステップ』宮部みゆき 講談社文庫

やっと読んだよー

ミステリーといえば、クリスティとか主に海外のもの(しかも古典的)にしか馴染みがなくて、加納朋子作品を読んだ時には『これでミステリー!?』とちょっとしたカルチャーショック(いい意味で)を受けたものですが、割とあるんですね、ほのぼのミステリー。
なんとなくコメディドラマか漫画に出来そうなノリだなと思った。キャラクターがそれっぽいのよね。画聖とかきっともえキャラになるよ(何故!)。双子のあの喋り方を是非、耳で聞いてみたいものだ。“いいどろぼうさん”だなんて設定からして可愛らしいことで。「お父さん」が、だんだん本当に父親心を持ち始める過程がまた微笑ましいことで。七つの話の中じゃ、やっぱり『ミルキー・ウェイ』が一番好きだったかな。子供を失いかけた「お父さん」の壊れっぷりがたまらなくて(笑)
ソ連崩壊だとかって話題が出て来たところでぶふぉっ!と噴きそうになったよ。いつの時代じゃ…(十年以上前の作品だったのね)

一番のお気に入りキャラは柳瀬の親父です。