新・私に続きを記させて(くろまっくのブログ)

ハイキングに里山再生、れんちゃんとお父さんの日々。

さら 大阪弁のあれこれ

2022年10月18日 | 大阪
大阪に来た頃、「天満」(てんま)が読めなかった。


大阪には難読地名が少なくない。「道修町」(どしょうまち)、「立売堀」(いたちぼり)、杭全(くまた)、柴島(くにじま)、茨田大宮(まったおおみや)、鴫野西(しぎのにし)、住道矢田(すんじやた)、どれも読めなかった。我孫子(あびこ)を読めたのは、千葉に同じ地名があったからだ。

町名を省略する文化も、最初は狐につままれる気分だった。「谷四」(たによん)「谷六」(たにろく)「谷九」(たにきゅう)は、漫才の三人組かと思った(谷町四丁目・六丁目・九丁目の略)。「日本一」(日本橋筋一丁目)も、パチンコ屋かディスカウントショップの名前としか思えなかった。

モータープール(駐車場)も、最初は洗車場か何かかと思った。これは大阪の意外にハイカラで、バタ臭い部分だろう。漱石の連載小説も、当時の新聞は総ルビだったが、東京版と大阪版ではふりがなが異なっていたという。「停車場」も東京版は普通に「ていしゃじょう」だが、大阪版は「ステンション」だったそうだ。これは初代大阪駅が「梅田ステンション」というハイカラな呼び名だったことに因むものだろう。


京都や兵庫、関西圏の人は引っかかることはないだろうが、他都道県人が注意しなければならないのは、「直す」である。大阪人はよそものと見れば、意味を知らないことを前提の上で、「弄り」を仕掛けてくる。

「この椅子、直しといて」といわれたとき、どこが壊れているのか、私は大真面目に椅子の各所の点検を始めてしまったものだ。頼んだ人は、「わが意を得たり」という感じで、愉快そうに笑っていた。この「直す」は、「元に戻す」「片付ける」という意味である。

これも一度では懲りず、別の機会に、「直しといて」とプリントの束を渡されたときも、何かミスがあるのか、リライトが必要なのかと思って、校正を始めてしまった。「こいつ、真面目に文章を直しとる!」と依頼者氏は爆笑した。たんにファイルを元の場所に戻しておけというだけの意味だった。

こんなことが続いたので、しばらくの間、疑心暗鬼になった。床屋さんの洗髪のあと、シャワーからお湯を出して「さあ、顔を洗ってください」といわれたときも、最初はまたからわれているのだろうとしか思えなかった(シャワーで顔を洗うのは関西流)。

「小橋町」(おばせちょう)を「こばしまち」と読む失敗をやらかし失笑を買ったあとは、しばらくは読み方のわからない地名は発音しなかった。「農人橋」(のうにんばし)の取引先にバイク便で品を引き取りに行かせるときも、実は「たごのはし」とか、古式ゆかしい読み方をする可能性もあるかと思い、「読み方がわかりません。農民の農、人間の人、橋です」とバイク便の受付に伝えたりしたものだ。

今ではすっかり大阪に馴染んでしまった。

しかし、今日、ふと思った。社内便に使う封筒に、「さらのんは、もったいないしな」とリサイクル置き場に使い古しを取りに行ったときである。

「『さら』ってなんだ?」

ネットで検索したが、要を得なかった。自宅に帰って、『岩波古語辞典』を引いた。古語とは、要するに古代の京都弁である。

さら【さら】 一度物事が行われた後に、やりなおしをして、新たにすること。万葉集などでは、「また-に」の形で、使うことが多く、平安女流文学では、分かりきっているから再びする必要がない、いうまでもないの意に用いる。

『広辞苑』は、こんなふうに解説している。

【新・更】 ①新しいこと。またそのもの。「−の服」「まっ−」②名詞の上に付けて、そのものが新しいことを表す。「−湯」「−地」。

関東にいたころは、温泉・入浴用語の「さら湯」、土建用語の「更地」、そして「まっさら」という複合形で「さら」を用いたことはあった。しかし、関西のように「さら」を単体で用いることはなかった。こういう事例は、ほかにもありそうな気がする。

しかし、「さら」という言葉を聞いたことがあるのも、私と同年代か年長世代で、若い人からは聞いたことがない。大阪のことばも、文化も、誇りも、死に絶えようとしている。しかし、大阪ネイティブの20代の若者が、鶏肉を「かしわ」とナチュラルに言っているのを聞くと、なんだかうれしくなる。



れんちゃんも大阪のまちが好き?
お父さんも大阪の人のために恩返ししないとね。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ryuchyun)
2022-10-20 19:04:01
すみません。
はじめまして。
大阪の話題記事を見て勝手にコメントさせてもらいました。
( ^人^ )
大阪の地名の読み方は、市内にな限らず、変わった読み方するのが多いですよ。
今では当たり前になっていて「は?どこが?」と思う読み方感覚ですが…
よくよく考えたら「枚方」「箕面」「喜連瓜破」「放出」「交野」「私市」…一部だけですが、普通には読めない漢字ばかりですからね。
(^。^;)
まぁ、歴史上から紐解くと、やはり海外との関係が深そうですが…
「杭全」なんて、昔の百済の「百済(くだら)」がなまったという読み方だったり…
「放出」は海外関係なく単純に「水を放って」いる場所だったのが、そのままになってしまった感じですね?
とにかく、書き出すと きりがないぐらいあるので(笑)
(^o^;)
しかし、面白いですね!
また、寄せてもらいます。
あ、、、拍手ありがとうございました!
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Unknown (kuro_mac)
2022-10-20 20:40:54
はじめまして。

漫画、面白かったです!

フォローまでいただき、ありがとうございました。関西の方だったのですね。

放出(はなてん)もインパクトがありました。片町線に乗っていて、「放出ヨガセンター」なる看板を見つけたときは、「何を放出するのだろう? かめかめ波的な?」と考え込んでしまったものです。ちょうどオウム事件のころだったので、オカルト的な団体なのかと思ってしまったのです。関西生まれなら、放出中古車センターでおなじみの地名ですね。

しかし放出って、あれは梅田(埋め田)と一緒で、そのまんまな地名だったのですね。長年の謎が解決しました。ありがとうございます。

このエントリでは、大阪市内の難読地名で、ご縁があり、読めずに恥をかいた地名だけリストアップしましたが、27年経った今も未だに読めない地名があります。「大物」(だいもつ)は、「おおものちゃう、だいぶつちゃう、あれ何やったっけ」とスマホでこっそり検索してしまいます。

なにわともあれ(浪花友あれ)、ご訪問ありがとうございました。また新作楽しみにしております!
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