くに楽 2

"日々是好日" ならいいのにね

日々(ひび)徒然(つれづれ) 第二十六話

2019-04-05 10:15:34 | はらだおさむ氏コーナー

映画を観るまでに・・・

 日記の余白が少なくなってきた。

 38度超の日が続き、晴雨兼用の傘をさして10月のコーラス発表会の練習に通った酷暑の日々を思い出す。

 喉元過ぎればの熱さとは異なるが、大変だったなぁ、あのときは・・・。

 

 気分転換に久しぶりに映画でも見ようかと、近在の映画館のチラシを手にした。樹木希林さん追悼上映の映画が数本特集に組まれ、あと外国ものが数本並び、「散り椿」の紹介があった。

 「日本を代表する名キャメラマン木村大作3度目の監督作品は,『蜩ノ記』で直木賞を受賞した葉室麟原作を映画化した本格時代劇」との紹介があったが、「蜩」が読めない・・・なんだったかなぁ・・・、思い出せぬままIMパッドの手書きでなぞり、索引。ヒグラシ、か。これは漢字検定一級ものじゃないかとグチりながら、原作者の葉室麟さんも知らないなぁとネットサーフィン。 

50歳から創作活動、4年後に文壇デビュー、直木賞の「蜩ノ記」は2014年に小泉堯史監督で映画化され、その三年後66歳で死亡。遅咲きの、早死にであった。この「散り椿」は映画化二本目の作品、今年の9月に公開されたばかりだが、このシネマでの上映はもう少し先になる。

 小泉堯史は黒沢チームの助監督を務め、木村大作はそのカメラマンであったが、おなじ葉室麟原作の映画化とは何か通じるものを感じさせる。音楽もわたしの好きな加古隆とあって、この「散り椿」上映までその代表作「蜩ノ記」からつきあうことにした。

 図書館から本を取り寄せ、ネットでCDを購入、イヤホンで加古隆の調べを

耳にしながら三百余頁、「蜩の鳴く声が空から降るように聞こえる」(ジエンド)まで、三日ほどかけて読み終えた。

 それなりの感動を覚えたが、それよりも作者の構成力と漢籍などの素養は同じ歴史ものをあつかう藤沢周平とは異なる、遅咲きの作者の実力のほどを示している。

 

 加古隆とは上海での出会いから二十年近く、そのCDはわたしの数次の入院時の無聊を慰めてくれているが、いま小泉堯史の映画との関係を調べるとその全作品(「雨あがる」、「阿弥陀堂だより」、「博士の愛した数式」、「明日への遺言」、「蜩ノ記」)にサウンド、わたしも前二作の映画を鑑賞、もちろんCDは所有している。

 今回のようにCDを聴きながら原作を読むのははじめてだが、二年前の映画に出会うのは稀有に近いと、DVDをも取り寄せた。

 あらすじは頭にあるので、映画館ではできないDVDを見ながらときおりメモをとった。一番の印象は加古隆の調べがそのシーン、シーンの物言わぬ情景を重畳させていることであった、これはCDを聴くだけでは感得できないものである。

 

 すこしこの映画のあらすじを記さないと、一人合点になる。

 「豊後・羽根藩の奥祐筆・檀野庄三郎は、友人である水上信吾と城内で刃傷沙汰に及んだ末、からくも切腹を免れ、家老により向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷の元へ遣わされる。
 秋谷は七年前、前藩主の側室と不義密通を犯した廉で、家譜編纂と十年後の切腹を命じられていた。庄三郎には編纂補助と監視、七年前の事件の真相探求の命が課される。だが、向山村に入った庄三郎は秋谷の清廉さに触れ、その無実を信じるようになり、秋谷の切腹阻止に乗り出す」(ムービウオーカー・コム)。

 秋谷は家譜編纂を日課としながら、日々の出来事を簡潔に日記として書いている―その表題が「蜩ノ記」。むかし郡奉行として管理・監督をしていたこの村のことは庄屋から小百姓の家族まで知らぬことはないが、特産品となった「七島筵」の原料の藺草栽培の田を買い占めようとする出入商人と代官との結託による悪行ぶりには眉をひそめている。

 秋祭りの夜 事件が起こった。

 暗闇の中 悪徳商人が鎖鎌で殺された。

 嫌疑は息子祐太郎の友人の父と見做されたが、すでに姿は見えない。

 息子の元吉が身代わりに引っ立てられ、拷問の末虐殺される。

 祐太郎は友の敵と、城内の家老宅に踏み込み、庄三郎は助太刀に回る。「座敷牢」に閉じ込められた祐太郎と庄三郎、父・秋谷はいまは亡き前藩主の密書を胸に、家老と対決。息子たちを村へ連れ帰る。

 お家騒動になりかねない密書の写しは長久寺慶仙和尚に託し、藩の家譜には簡潔に―御側室ニ不意ノ凶事アリ、江戸屋敷用人戸田順右衛門(秋谷)罰セラレルーとのみ記された。

 その日がやってきた。

 秋谷の切腹は長久寺の境内でとりおこなわれる。

 その朝 身支度を整えた秋谷は茶を口にしつつ妻に問う。

 「悔いはないか」

 「はい、決して悔いはございませぬ」

 織江が迷いのない返事をすると秋谷は微笑んだ。

 「わたしもだ」

 ・・・・・・・・・・・・・

 ともに眺める景色をいとおしむかのように、ふたりは庭を眺め続けた。

 時おり、風が吹き渡って竹林をざわめかせ、カチカチと蜩の鳴く声が聞こえる。

 加古隆のエンディングの調べが、ふたりをつつみこむ(ジエンド)。

               (2018年11月12日 記)


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