くに楽 2

"日々是好日" ならいいのにね

日々(ひび)徒然(つれづれ) 第十話

2017-06-07 17:11:30 | はらだおさむ氏コーナー

ある作家展から・・・

 

 GWの翌週 二年ぶりに姫路へ出かけた。

 姫路文学館はおよその見当はつくが、行くのは初めて。

 駅前からタクシーに乗る。

 改装なった白鷺城は、皐月の空に映えてまばゆい。

 城前の駐車場には観光バスが詰め込んでいるが、今日はまだ空いているよ、連休のときはこの道の両側にも鈴なりでつらなっていたという。

 ガイドに連れられて城内へ向かう人ひと、カメラをぶら下げた外国からの二人、隣の好古園の入り口も人で溢れている。

 

 文学館はお城の西北、クルマでそこから数分の距離にあった。

 「藤沢周平~没二十年展」が開催されている。

 城前のざわめきと打って変わって、閑静そのもの。

 一時間余の参観中、入館者は数名、警備の人など関係者の方が多いほどであった。

 「藤沢周平」はわたしにとって旅の憩いであり、病床での慰めの友であった。文庫本がほとんどだが、書棚の隅にほこりにまみれて積み重なっている。

おそらく三十数冊になるだろうが、短編だけではなく一揆や藩の内紛の歴史もの、一茶などの伝記ものなども脳裏に残る。

 展示場で上映されていたTVドラマの数々は、原作は承知しているが「時代劇専門チャンネル」は覗いたことはない。

 文学館のホームページではつぎのように紹介されている。

  「蝉しぐれ」「たそがれ清兵衛」「橋ものがたり」・・・。

   作家・藤沢周平の時代小説は、たとえば藩命で暗殺者となった下級武士や、

   博打で身を滅ぼす男を愛し続ける女など、美しくもはかない登場人物たちを

   通して現代社会にも通じる組織内の不条理や男女の心の機微を描き、多くの

   共感を得ています(後略)。

 

仲代達矢主演・杉田成道監督の『果し合い』が4月26日、「ニューヨーク

フェステイバル」ドラマスペシャル部門金賞を受賞した由で、場内でもその一部が放映されていた。時代劇専門チャンネルとしてははじめての国際賞。

 仲代さんもつぎのように語っている。

  「人間の生き方、心情、寂しさ、思いやりがたくさん入っている作品です。

そのようなところが、国境を越えて、世界の人の心にもしみたのではないか

なと思います」

 

 帰りは文学館から城前まで、車の通らない裏道を歩いた。 

 いまは民家が立ち並んでいるが、江戸時代はどうであったのか・・・。

 姫路駅北口からお城に向かう大手前通りと国道二号線が交差する東北角に、姫路城の南城壁址が残っているが、それを教えてくれたのは誰であったか。

 大手前通りの歩道は人波が絶えないが、この南城壁址から南北に駅まで連なる商店街は閑古鳥が鳴いていた。アーケードの先のビジネスホテルの構えを見て、そうだ、あの南城壁址を教えてくれたのは、姫路獨協大学で教鞭をとる老朋友であった、と思い出した。

 2006年10月のあのとき。

 わたしたちは、同大学のホールで公開フォーラム「中国のきょう、そして明日」を開催した。日中関係学会の総会を午前中に開催、午後にこの公開フォーラムの開催を企画して一年。学長にお会いして賛同をいただき、姫路市と姫路商工会議所の後援もいただけた。

 第一部講演 いまは亡き竹内実先生の「中国のいまを視る目」、現東京大学大学院准教授・阿古智子先生「農村女性にみる中国の現代」、現上海交通大学某研究所所長兼教授・季衛東先生「中国・人治から法治へのみちのり」。

 第二部はパネルディスカッション「わが社の中国ビジネス」、コーデイネーターはわたしが務めたが、商工会議所から紹介された数社を訪問、責任者からお話を伺い、公開の席で自社の中国ビジネスの実際をご披露いただくには、何度も足を運ばねばならぬ日が続いた。最終的には三社の担当役員にその日中ビジネスの実際を赤裸々にご紹介いただき、200名をこえる会場から拍手と哄笑が続いた。 

 姫路駅前からバスで獨協大学に通い、ローカル線で郊外の企業を訪問した日々。

 あれから10年が過ぎたが、いまはどうされているだろうか・・・。

 

 線路は続くよ、どこまでも・・・ではないが、帰路もうひとつの作家展のことを思い出した。横浜で開催された「堀田善衛展」である。

 わたしはかれの芥川賞受賞作「広場の孤独」以来の愛読者で、わたしの中国への思いもかれを離れては考えられない。

 帰宅後、本棚の隅にそのパンフを見つけた。

 これも没10年の回顧展だが、堀田を崇敬する宮崎 駿の企画によるのか。

 特別展「堀田善衛展 スタジオジブリが描く乱世」@神奈川近代文学館、08年10~11月。

 書棚にはこのころ発刊された未発表の『堀田善衛 上海日記  滬上天下 一九四五』(集英社刊)もあった。帯には「現代を予見する『乱世』の記録発見」 

とある。

 さらに宮崎駿が聞き手役の、堀田善衛と司馬遼太郎の対談集というか『時代の風音』(朝日文庫、第一刷97年3月)の第六刷(01年11月)が出てきた。

その最後はつぎのような対話で終わっている。

  堀田 二〇〇一年で二十一世紀がくるわけでしょう。

     司馬さんもいわれましたように、それまで十年を切ってしまったこの間に、

     人殺し騒ぎをやってる連中を全部やめさせ、自然破壊をやめさせる、そう

いう世界会議が必要です。

  司馬 必要です。

 

 天上から、昨今の世情を見てふたりの先達はだれに鉄槌を下そうとされるか。

 

                    (2017年6月1日 記)