とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
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トムは真夜中の庭で : フィリパ・ピアス

2015年02月11日 14時39分37秒 | 小説、文学、一般書
トムは真夜中の庭で : フィリパ・ピアス

内容紹介:
弟のピーターがはしかにかかり、おじとおばの住むアパートに預けられた少年トム。その邸宅には庭すら無く、はしかのために外出すらできない彼は退屈し切っていた。そんなある日の夜、ホールの大時計が奇妙にも「13時」を告げたのをきっかけに、彼は存在しないはずの不思議な庭園を発見する。そこはヴィクトリア朝時代のメルバン家という一家の庭園であった。それから毎日、彼は真夜中になると庭園へと抜け出し、そこで出会った少女、ハティと遊ぶようになる。しかしながら、庭園の中では時間の「流れる速さ」や「順序」が訪れるごとに違っていた。彼はだんだんと、ハティの「時」と自分の「時」が同じでないことに気づいていく。「時間」という抽象的な問題と取り組みながら、理屈っぽさを全く感じさせない。歴史と幻想が織りなすファンタジーで、カーネギー賞受賞の傑作。日本語として出版されたのは1967年。そして1975年刊の本が新版として2000年に刊行、358ページ。(参考:ウィキペディアの「トムは真夜中の庭で」)

著者について:
フィリパ・ピアス(1920-2006): ウィキペディアの記事
イギリスの児童文学作家。ケンブリッジ州のグレート・シェルフォドという田舎町に生まれた。代々その地で大きな製粉工場を経営する家庭だった。ケンブリッジ大学を卒業、のちに英国放送協会(BBC)で学校放送を担当した。『ハヤ号セイ川をいく』で作家としてデビュー。『トムは真夜中の庭で(1958)』でカーネギー賞を受賞した。他に『まぼろしの小さい犬』や短編集『幽霊を見た10の話』、『真夜中のパーティ』などがある。

翻訳者について:
高杉一郎(1908-2008): ウィキペディアの記事
東京文理科大学英文科卒業。和光大学名誉教授。著書に『極光のかげに』、『征きて還りし兵の記憶』、訳書にクロポトキン、スメドレー、グレイヴズなど。編者に「エロシェンコ全集」全3巻。


知り合いから紹介していただいた児童文学の本だ。さもなければ僕がこの本を手に取ることはなかっただろう。本も人も一期一会である。

児童文学など小学生のとき以来、まったく読んでいない。小学生の頃に読んだので覚えているのは「エルマーの冒険」や「ドリトル先生アフリカ行き」、「長くつ下のピッピ」、「だれもしらない小さな国」などのシリーズ物くらいだ。「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」は中学生のときに読んだ。あ、そうそう。大人になってからミヒャエル・エンデの「はてしない物語」と「モモ」も読んでいる。

サン=テグジュペリの「星の王子さま」は大学時代に読んでいたけれども、僕にとっては児童文学というよりフランス語を学ぶときの副教材だった。

ミヒャエル・エンデの小説もそうだが、大人も楽しめる児童文学はそれほど多くない。この「トムは真夜中の庭で」もそのうちのひとつだ。岩波書店の書籍紹介ページによると初版が1967年に出ていたようだが、僕はこの本のことをこれまでまったく知らなかった。

トムは真夜中の庭で(岩波書店)
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/11/0/1108240.html


紹介してもらって本当によかったと思う。途中からぐいぐい引き込まれて止まらなくなり、350ページをいっきに読み終えた。対象年齢は小学6年以上ということだそうだが、大人向けの文章だと思った。ふつう漢字で書くところをひらがなにしてあるというのが子供向けなのだろう。そもそも何をもって児童文学というのだろう?読み始めてわかったのは次の4つのことだ。(もちろんこれにあてはまらない本もあるだろうけど。)

- 子供が主人公であること。
- 子供の視点に立って世界を見ていること。
- 社会や世界や物事について、平均的な子供の知識や理解力を考慮して書かれていること。
- 漢字の使用を控えてひらがなで書いてあること。

表紙の絵や紹介文だけ読むと、夜中に家を抜け出す孤独な少年が少女の幽霊と遊ぶというちょっと不気味なストーリーのように思えてしまう。幻想とオカルトに包まれた少年の初恋がテーマの小説なのかなと僕は勘違いしていた。

読み始めてしばらくは予想どおりに話が進む。100年前のビクトリア朝時代に建てられた古い邸宅を改築したアパートには大時計があり、夜中に13時の鐘を鳴らすという異常なストーリー設定は読者の期待どおりに主人公のトムを不思議な庭園へと誘い出してくれる。その庭園で少年はハティという名前の少女と出会う。

ところがそこから予想と異なる状況が繰り広げられて、好奇心がむくむくと湧いてくるのだ。庭園で出会うのはハティだけでなく彼女の従兄たち3人、そして何人かの大人の姿を目にすることになる。ただしトムのことが見え、話ができるのはハティともうひとりの大人だけという設定だ。

また毎晩トムはその庭園に行ってハティと遊ぶのだが、行くたびにそこは夜だったり昼間だったり、季節も夏の日もあれば雪景色だったりする。そのうちトムは庭園が現在の世界ではないことに気が付く。ハティはビクトリア朝時代の少女だったのだ。ハティのほうもトムが自分とは違う世界の子供だと気がつきトムのことを幽霊だと思うようになる。

これ以上書くとこれからお読みになる方の楽しみを奪ってしまうのでやめておこう。

邸宅や庭園という空間が2つの時代で共有される。だとすると時間とはいったいどのようなものだろうか?

時間は過去から未来へ同じペースで進むという常識が壊れている現実にトムは気付き、自分にとっての時間やパティにとっての時間について懸命に考えを巡らせる。これはタイムトラベルなのだろうか?それとも2つの時代の同じ場所がつながったものなのだろうか?会うたびにパティが成長しているのはなぜだろう?

このように理数系人としての興味も大いに掻き立てられる。難しい専門用語が使われていないから小学生にも理解できる時間と空間の不思議な世界だ。

「パティといつまでも会い続けたい。」とトムは願うようになる。はたしてトムの願いは聞き届けられるのだろうか?もしそうならば、それはどのようにして?

これが読者を惹きつけて離さない本書の魅力のひとつなのだ。


本書の原作が書かれたのは1958年、日本語の初版が出されたのが1967年だ。翻訳をした高杉先生は1908年生まれなので現代では使われていない言いまわしや仮名づかいがちらほらと見受けられる。それはそれで1950年代の雰囲気をかもしだしているので、僕としては魅力のひとつになった。

ウィキペディアの記事に高杉先生がシベリア抑留を経験と書かれていたことには驚かされた。30代の頃である。よく生きて帰ってこられたものだ。100歳で大往生を遂げられたのは、帰国後も先生が生涯に渡って健康そのものだったことをうかがわせる。

また当時のイギリスの風景や美しい庭園が詳しく描写されている。それは原作者フィリッパ・ピアス自身が子供時代を過ごした環境がそのまま小説に使われているからなのだ。

児童文学というレッテルにこだわらず、ぜひお読みになっていただきたい。


原作はこちら。

Tom's Midnight Garden: Philippa Pearce」- 1992 October




4月には新装版が発売された。本書の人気ぶりがよくわかる。Kindle版もでている。

Tom's Midnight Garden: Philippa Pearce」(Kindle版)- 2015 April




関連ページ:

『トムは真夜中の庭で』/アン・フィリッパ・ピアス
http://hayamonogurai.net/archives/1494

トムは真夜中の庭で - 児童文学書評
http://www.hico.jp/sakuhinn/4ta/tomu06.htm


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トムは真夜中の庭で : フィリパ・ピアス



1) 家を遠くはなれて
2) 大時計が13時をうつ
3) 月の光のなかで
4) 日の光のなかで
5) 露のなかの足あと
6) ドアを通りぬける
7) ピーターへの報告
8) いとこたち
9) ハティ
10) いろいろな遊びといろいろな話
11) 川は海へそそぐ
12) ガチョウたち
13) 今はこの世にいないバーソロミューさん
14) 辞典をしらべる
15) 塀の上からの眺め
16) 木のなかの家
17) ハティをさがしもとめる
18) 窓に横木が二本わたしてある寝室
19) つぎの土曜日
20) 天使のことば
21) いつも「時」のことばかり
22) 約束を忘れる
23) スケートの旅
24) トムとピーターがひょっこり顔を合わせる
25) 最後のチャンス
26) あやまりにいく
27) トム・ロングにきかせた話

訳者のことば
「真夜中の庭で」のこと--フィリパ・ピアス
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6 コメント

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これはおもしろそうです! (にわとりおかん)
2015-02-12 17:16:46
とねさん、こんにちは(^-^)
ブログでのあたたかいコメント、ありがとうございます!

さて、とねさんが紹介してくださったこの本。
とてもオモシロそうです!
時間の流れがモチーフになっていて、
なんともミステリアスな内容ですね。
まさに、サイエンスフィクションの醍醐味を感じさせられるような印象を受けます。

読んでみたいな。
ネットで探してみます。
よい本を教えていただき、ありがとうございます!

児童文学・・・ではないのですが、
私の大好きなモリミー(森見登美彦さん)の著書に
「ペンギン・ハイウェイ」という本があります。
これも、とてもオモシロイのでおすすめです。
内容は、子供向きというか、
読み仮名がついてない事さえ大丈夫なら
子どもでも読める内容です。

小学四年生(今のそーさんと同じ学年)の男の子が
主人公で、この子のモノローグで話は進んでいくのですが。
この男の子が、そーさんにすごくよく似ているんです!
なんというか・・・考え方というか、ものの言い方とか、
とてもよく似てて、最初は
「モリミー、うちのそーさんをモデルにして書いたのか!?!」
(面識は全くありません!(笑))
と思ったほどです。

ちょっと切ないSFです。
もしもご興味あったら、お手に取って読んでみてください☆
返信する
Re:これはおもしろそうです! (とね)
2015-02-12 19:22:41
にわとりおかんさん

気に入っていただけそうで、よかったです。
中古のをお買い求めになるとよいですよ。

「ペンギン・ハイウェイ」ですが、アマゾンで内容や読者レビューを読んでみました。これ、よさそうですね!
ついKindle版を買ってしまいました。w
返信する
昔読みました、、 (T_NAKA)
2015-02-15 17:11:38
私がこの本を読んだのは、20代のころでした。当時伝説のバンド「はっぴいえんど」のファンの方が雑誌に投稿した中で「トムは真夜中の庭で」に触れていたからです。ご存じかも知れませんが、はっぴいえんどのドラマーは後に作詞家になる松本隆さんで、はっぴいえんどのアルバムのコンセプトはどこか子供の頃の懐かしさを感じさせるものでした。その雰囲気と「トムは真夜中の庭で」はどこか通じるところがあるようで、私もある種の感動をもって読んだ記憶があります。次の曲は日本的なんで、つげ義春や水木しげるを連想させますが、雰囲気を分かっていただけるでしょうか?「夏なんです」http://youtu.be/EPfUl_vNTVc
返信する
Re: 昔読みました、、 (とね)
2015-02-15 18:54:36
T_NAKAさん

動画拝見させていただきました。はっぴいえんどの活動時期は僕が小学校低学年から中学年の頃なので、リアルタイムでは知りませんでした。懐かしい感傷をひきおこすメロディですね。あの時代にこの感性の音楽を発表していたのは時代を先取りしていると思います。現代の歌手が同じような歌をうたっても十分受け入れられるでしょう。

ファンの方が雑誌に投稿した「トムは真夜中の庭で」がきっかけでT_NAKAさんがお読みになったというのも、当時から関心ごとに対して敏感に反応されていたことがわかり、さすがだなと思います。
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現在読んでいます☆ (にわとりおかん)
2015-02-23 12:37:37
とねさん、こんにちは!

現在そーさんがインフルエンザなので、
看病のために家に閉じこもりになっています。
で、ひさびさに家にゆっくりいる時間を使って、
「トムは真夜中の庭で」を読んでいます!!!

これ、おもしろい!!
まだ半分くらいで、読み切ってはないのですが、
おもしろくてぐいぐいと引き込まれます。
児童書とはいえ、お話が幼稚でなく、
大人でも十分楽しめますね。

良い本を教えていただき、ありがとうございます!
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Re: 現在読んでいます☆ (とね)
2015-02-23 13:07:53
にわとりおかんさん

そーさん、インフルエンザですか。すぐなおるとよいですね。熱がないのなら読書して養生するのもよいと思います。

僕のほうもこの本を姪っ子(小学校6年生)にプレゼントしました。とてもたくさん読書をする娘ですので。
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