又もや歯のない男の情けない話である。
世の中には想像もつかない見上げた人がいるもので、80歳を過ぎた高齢者で、上下32本の歯全てが生まれた時からの自分の歯という私にはとても考えられない人がいるという。私は丁度その逆で、昨日歯科医でグラグラしていた最後の前歯5本を抜き、代わりに義歯を入れてもらい、これで自分の歯は1本もなく、上下の歯全部が人工の歯に入れ替わった。
幼少時からの歯の手入れへの怠慢が祟り、社会人となった23歳頃から虫歯に侵され歯医者通いが始まり、以来65歳で退職するまで、転勤の度に職場近くの歯医者を転々とした。いずれの歯医者でも当面の痛みを取るだけの応急措置で済ませ、徹底的な治療を怠り、年と共に1本1本と歯が欠け落ちていった。その中で医者の判断で金属の被せ治療してもらった3本だけが、現在も何とか機能している。20年近く前、卒業生の父親で学校医でもあった職場近くのY歯科で、今回のブリッジ義歯の支柱になり、ほとんど無償で治療してくれたY氏の好意と技術に今も感謝している。
もう一つの完全治療は5年前にしたインプラント手術である。(2012.6.10付けブログ記事)上顎の残っていた数本の歯全てを抜き、インプラント4本を埋入後総義歯を装着、現在のところ何の障害もなく毎日の食事を楽しんでいる。現在インプラント治療には歯科医の間でも賛否両論あり、厚生省も正式な治療法と認めてなく、従って健康保険も効かず個人に高額な負担がかかり、私も決心するまで随分迷った。しかし5年経った今は踏み切ってよかったと思っている。これも老化による顎の骨の衰えを考慮しながら、危険と言われる高齢者のインプラント埋入手術に踏み切ってくれたT医院長に感謝している。
昔の人は老化して歯が無くなってもさほど気にせず、もぐもぐと根気よく顎を動かし消化していた。しかし現代はグルメの時代、食を抜きにした生活はあまりにも寂しく味気ない。死ぬまで少しでも長く好きなものが食べられる幸せを保ちたいという欲望が優先した。と言うより生まれつき人一倍“食い意地“が張っているからだろう。
(追記) もう一つ、たとえインプラント治療が迫られ、経費が掛っても下の前歯だけはしっかりと固定したかった。それは
クラリネットを吹くとき、マウスピースの先端を上下の歯でくわえねばならず、最近痛くて練習できなかった。今回義歯を入れた結果、何の痛みもなく吹けるようになり、歯は単に食べ物を噛むためでなく、いろいろな作業に重要な働きをしていることを改めて感じた。