PM7:00に2PMの事を考える

クリームソーダ的宇宙

アナウンサー!冬物語chapter.5

2014-02-15 12:00:00 | アナ冬

麻布十番のカジュアル・イタリアン。

賛成の帰国と誕生日を祝う会が、ごく親しいもの達で行われている。

「サヤちゃん、なんでそわそわしてるの?」

右太郎が、隣のサヤ子の、落ち着かない様子に気がつき声をかけた。

「そわそわなんてしてないわよ?」

「…そお?ならいいけど」

じっとサヤ子をみつめる。

「・・・なに?」

「ボブカット、かわいいね」

「・・・」

右太郎の、ふたつのくるりとした瞳が純粋に愛を信じきっていて、

サヤ子を所在ない気持ちにさせた。

奥の賛成達のテーブルの方から、おーい、と右太郎を呼ぶ声がした。

「ほら、呼んでるわよ」

「うん・・・ちょっと行ってくる」

結局、会に出席する事を断る口実は見つからず、今日になった。

玉澤とはち合う覚悟で来てみたが、彼の姿はまだ、ない。

それとなく訊ねたら、遅れてやってくるという。

サヤ子は時計を見た。

パーティ開始から一時間が経過していた。

もういいだろう。

バッグをとり立ち上げると、賛成と話す右太郎に近づいた。

「ウタ、急患みたいなの。行くね。」

ケータイを見るふり。

「え!?急患!?」

「賛成さん、誕生日おめでとうございます。すみません最後までいられなくて」

「サヤ子さん、もう?」

「ごめんなさい、急患だから、また今度。レイさんによろしくお伝えください」

サヤ子は手早くコートを羽織ると出口に向かった。

「ちょ、サヤちゃん、送るよ!」

追う右太郎。

しかしドアの前でサヤ子は止める。

「送らなくてほんとに大丈夫だから。電話する。」

「でも、もうすぐ社長もくるのに。もうちょっとだめ?紹介したいんだ。」

「ウータ?」

—聞き分けのない事、言わないで?

「急患だもんね・・・。わかったあ~、がんばってね…」

「うん、ウタ・・・ごめんね?」

ドアを開ける。

冷たい外気が店に吹き込み、サヤ子の頬にあたる。

痛い。

雪の舞う中、コートのベルトを締めコツコツと歩いてゆくサヤ子の後ろ姿を、

すねた表情の右太郎がドアの前からなにか言いたげに、でも無言で、見送った。

 

 

パーティは続く。

酔いの回った純保は陽気になっていた。

「紀村さんとミーコちゃんは、どうなんすか?結婚」

ふいにでた“結婚”ということばに顔を見合わせるふたり。

「それは・・・ねえ?俊・・・」

ミーコは頬を染めながら口を濁す。

まんざらでもない。

「え、なに、その顔。もしかしてもう決まってたりして?仲いいもんなーふたり」

「そんなこと…。」

俊を見るミーコ。彼の言葉を期待している表情だ。

俊が口を開く。

「結婚は・・・」

注目する。が、

「しばらくはないかな?ハハハ」

「・・・」

ミーコの表情が一気に暗くなった。

聞いてはいけないタイミングだったのかもしれない。純保は焦った。

「・・・あ、あ、紀村さん、ワイン貰います?ミーコちゃんも。すみませんー、ボトルもう一本!」

まずい空気に気がつき、賛成が口を挟んできた。

「純保、今日ハルナちゃんは?」

「あ!いま生放送。今日特番だから」

「あ~。そうだよね、だから右太郎が来れたんだもんね~」

「うん・・・」

いまいち暗いムードを払拭しきれない、と思ったそのとき。

店内の灯りが消えた。そして・・・、

“ハッピ”

“バースデートゥユー”

“ハッピバースデイ トゥーユー

ハッピバースデイ ディア賛成”

“ハッピバースデイ トゥユーーーー”

わー

パチパチパチ

サプライズだ。

突然の緑の猫の登場に、一同騒然としたのち、爆笑した。

「え?!なにこれ、なにこれ!!」

「賛成、誕生日おめでとー!!」

拍手に包まれる。

「すごい!なに、だれ?純保が仕込んだの?!」

「いや・・・」

緑の猫が頭に手をかけ、外すと・・・。

「プハッ!息できない!」

中から出てきたのは玉澤だった。

 

「玉さーん!」

「わりぃわりぃ、遅くなって」

「玉さ~ん!!」

抱きしめ合う。

玉澤と賛成—兄弟のようなこのふたりもまた、久しぶりの再会だった。

 

 

宴もたけなわをすぎ、そろそろお開きという時間。

帰るもの、残るもの、三々五々。

「玉澤さん、すみません、JYPCの決算で忙しいんですよね。俺なんもできなくて…」

俊が申し訳ないと頭を下げた。

「いや、堀辺さんがああいう状態だ。それに紀村くんはそんなこと考えなくていいよ。

君は新しいもの、面白いものを作ることに、専念してくれ?な?クリエイターなんだから。」

「でも・・・」

「だーいじょうぶだから。俺は全体を見て指示出してるだけだ。気にすんな!さあ、飲め!」

ワインを注ぐ。

「いただきます。・・玉澤さん、ゴキゲンですね、なんかいいことでも、あったんですか?」

玉澤はニヤニヤしていた。

「いやー?別にー?むふー?むふふふ・・・」

実は・・・。

ここに来る直前・・・。

 

 ・

雪の中、玉澤は、タクシーに緑の猫のキグルミをのせ、店の近くまでやってきた。

ばれないよう、店から10メートルほど離れたところでタクシーを止めてもらう。

支払いを終えドアが開いたちょうどその時、

入れ替わりでタクシーに乗ろうとした女性がいた。

「乗れますか?」

運転手に声をかけた女性。

それは—。

”シンデレラ”だった。

「き、み・・・!」

「・・・!!!」

驚きで声がでない。

「やっと逢えたね・・・」

去年の12月、ヒールが折れて困っていた彼女を助けて以来、玉澤のこころに存在し続けている女性。

名も知らぬ彼女のことを、“シンデレラ”と名付けた。

その後のクリスマスパーティーでの偶然の再会、そして今日。

これを運命と言わずしてー、

玉澤の気持ちは高揚しているのだが、意外にも女性は、なにもいわずタクシーに乗り込む。

クリスマスイブに逢おうという約束は果たされなかった。

彼女は、来なかったのだ、待ち合わせの場所に。

それが彼女の答えなのかもしれない、だけど。

タクシーのドアが閉まる。

「まって!」

玉澤はタクシーの窓をコツコツとノックし、開けろと言う。

彼女が観念して窓を開けた。

のぞきこむ玉澤。

「・・・」

シンデレラを見つめる。

—彼女は感じた。

自分をみつめている目線。

痛いほど、自分をみつめている視線。

彼女もまたなにかの感情を押さえきれず、しかし無言のまま、ちらりと玉澤のほうを見た。

するとー、

「・・・逢いたかった」

「・・・。ごめんなさい、急いでるから。運転手さん、出して」

「まって!これ!」

何かを差し出した。

名刺だった。

「受けとってくれ。」

そうして彼は店のほうへ、大荷物を抱え、歩いていった・・・。

タクシーが動き出す。

名刺をみる。

”プチテレビ 代表取締役 社長 玉澤竜二” 

「知ってるわよ・・・」

サヤ子がため息をついた。

 

 ・

「運命って信じるかい?」

「うん、めい?たましゃわしゃん、のみまひょ!」

すっかり酔いのまわった純保が絡む。

「なんだなんだ伊藤はー!飲み過ぎだろー?ひゃひゃひゃ」

「社長、もう伊藤さんに飲ませないでくださいよ~」

「ウタ!なにいってんだよ!飲め!おまえも飲め!」

「え~、もう飲めませんよ~」

全員、泥酔だ。

 

玉澤は嬉しかった。

シンデレラに再会できたこと、彼女のほうは再会を望んでいなかったのかー、

無言の対応には寂しさを感じたが、

二度と逢えないかもしれないと思っていた彼女に、3度目、逢えた。

それだけでなにか、自分の運の強さや、巡り合わせに感謝できる。

そして今。

紀村、張本、伊藤。

そして今日は、賛成がいた。

このごろの最大の心配事は堀辺の様子だったが、

4人と一緒に酒を飲むこの瞬間、日常のわずらわしさから少しだけ解放され、心底ほっとしているのだ。

—つづくー

 


 

このお話「アナウンサー!冬物語」は下記からの続編です。

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※この物語はフィクションであり実在の2PMとは一切関係ありません。


アナウンサー!冬物語chapter.4

2014-02-13 14:00:00 | アナ冬

「”いかなる羅針盤も、かつて航路を発見したことのない、荒波”」

「は?」

賛成の唐突な発言に純保は目を見開いた。

「ハイネが結婚について語った言葉だよ」

「・・・だれ」

そっけない返事しながら、その実、ひさしぶりに会った賛成の前と変わらぬペースが、うれしく、なんだかくすぐったいような気持ちだ。

プチテレビに寄った後、ふたりは近くのレストランに入り、軽い食事をとる。

話題はもちろん―、

純保とハルナの結婚式が延期になったわけ。

「反省しろ純保、お前がわるい」

「・・・わかってるよ」

純保はうなだれる。

誤解される行動をしたことは事実だし、なにもないとはいえ!外泊、しかも噂になった女性と。

ハルナが怒るのは当然だ。

心底反省している。

しかし、許すといったはずなのにハルナとの関係は今もぎこちない。

微妙な距離ができている。

以前のような親密な関係には二度と戻れないのだろうか?

「でも、きちんと説明したしぃ、わかったって言ってたのにぃ…」

「・・・」

結婚式に出席するため、1月末に一時帰国する予定でいた賛成は、

式延期の知らせに驚きつつ、どちらにせよ一度東京には戻らねばならない、と思った。

ハーバードビジネススクールの最終面接をパスした賛成は、時期を後ろ倒しにして帰国することを決めた。

本当はそんな暇はないのだが、日本に帰って確認したいこともあった…。

「結婚は荒波、か…。は!俺は海に漕ぎ出せてもいないんだ…はん!」

純保はコーヒーを一気飲みする。

本当は酒でも飲みたい気分なんだろう。

「純保、なぜそんなに結婚したい?」

「…なんでかな」

孤児院で育って、6才で里子にだされ、今の親にもらわれた。

両親に何の不満もない。

だが人知れぬ孤独はいつも胸の中にある。

幼少期の自分の、どこか所在のない、満たされない部分。

親という存在から受けられるはずの無償の愛情を得られなかった彼にとって

結婚するということは家族になるという事で、それはとても重要なことだ。

「あこがれみたいなもんかな…」

純保の表情からすべてを読み取った賛成は、それ以上はなにも聞かない。

ひとり、想像をしてみる。

ハルナはまだ若い。

最近はレギュラー番組も増え、仕事が楽しくなってきた時期だろう。

出逢いも多い職業だ。

急いで結婚を決める理由はないし、彼女になにか、結婚を躊躇する別の理由ができていても、不思議ではない。

それに、今回の純保の軽率な行動について、賛成はハルナに同情していた。

しかし、自分はいつでも純保の味方でいるほかない。

友人だから。

純保は女性関係において要領がわるいだけなのだ、きっと。

からになったコーヒーカップを見つめる純保の様子に、賛成はウェイターを呼び止めビールを二つ注文した。

 

そして数日たち−。

賛成は元麻布の実家へ立ち寄った。

散歩がてらと思い、宿泊している六本木のホテルから歩いてみたが…なかなかの距離だ。

なにより黄桜家の門に着いてから玄関までがまたひと運動だった。

長いアプローチを進み重厚な扉を開ける。

そこには老齢の執事が立っていた。

「賛成ぼっちゃま!」

「黒井、ただいま。」

賛成の祖父の代から使える執事、黒井が喜びまじりの、驚きの声をあげた。

執事とは−、

屋敷の主人に従い、家政・事務を執りしきる者のことだ。

黒井は賛成の祖父の代から仕えている、まさに黄桜家の生き字引。

賛成が生まれた時からずっと、父母よりも面倒を見、見守ってくれている大切な存在。

祖父のような、母のような、しかし血縁などではなく、やがて賛成が主人になれば、彼に忠実な下僕となる−。

執事というのは、そんな不思議な存在だ。

「ぼっちゃま、帰国なら帰国と言っていただければ迎えを寄越しましたのに…」

「必要ないよ。どう?変わりはない?」

「はい、それはもう。旦那様も奥様もお元気でらっしゃいますよ。」

「そうじゃないよ、黒井は、体調はなんともない?」

「ぼっちゃま・・・」

黒井は賛成が自分のことを気に掛けてくれたことに感動した。

家庭を持たない彼にとって、おこがましくも賛成は孫のような存在だ。

そして、黄桜の大切な跡取り、その思いのほどは執事を経験したものでないと計り知れないだろう。

賛成は靴をぬぎ、玄関横の広間で休んだ。

メイドが間髪入れず茶とフルーツを出してくる。―黒井の教育が行き届いている証拠だ。

「ぼっちゃま、いま部屋を整えますのでゆっくりお休みください。学校はいつからですか?何日ほどこちらに?」

「一週間かな…。でもホテルを取ってるから泊まらないよ。それよりどう?…あの件」

古いパスポートを探すように黒井に頼んだが、音沙汰がなかった。

「すみません、探しましたが…みつかりませんでした」

黒井は表情を変えずそう言った。

「…僕はパスポートは失効しても捨てないよ。なぜ、ないんだろう?」

「はあ…。メイドが掃除の際、間違えて廃棄したのもしれませんな。さっそくメイド頭に調査してご報告を」

「いや、それはいい。いいんだ…そんな犯人捜しなんて。

でも、黒井。ほんとうに覚えていない?僕が10歳の時。ほんとうにニューヨークへは行っていない?」

「ぼっちゃま、10歳のときはイングランドですよ。黒井はそう記憶しています。

さあ、紅茶がさめますので早くお召し上がりを」

「…」

やはりおかしい、

メイドが間違って捨てた?

そんなことがあるわけがない。

黒井を筆頭に黄桜家で働く者がそんなミスをしたするはずがない。

第一おかしいじゃないか。僕の問い合わせにどんな回答であれ連絡してこないなんて、他の執事ならともかく黒井の性格上ありえない。

なにかを隠しているー?

「…わかったよ。パパンとママンは?」

「旦那様はお食事に、奥様はご友人と歌舞伎に行ってらっしゃいます。」

「そう…」

賛成は自室へ向かった。

黄桜邸は豪奢な洋館だ。古いが手入れが行き届いている。

賛成が子供の頃から家を出るまで過ごした部屋は、螺旋階段を上がった二階の奥にあった。

部屋に入るとなつかしい匂いがした。

あらためて帰ってみると、本当に広い部屋だ。

”一人暮らしのマンションの部屋が、すっぽりと入るな”—初めてここにきた玉澤さんが、そう言ってたっけ。

奥に進んで机の引き出しをあけた。

黒井が言うとおり、いパスポートがあるべき場所には、なにもなかった。

「・・・」

釈然としないまま引き出しを閉じる。

ふと、出窓につるされている古い鉄製の鳥かごに目をやった。

子供の頃、フランスの蚤の市でママンが買ってくれたものだ。

”子供の癖にこんなものをほしがるなんて賛成ちゃんは変わった子ね”、若いママンの優しい笑い顔がフラッシュバックする。

(ママンは外国にいくと、のびのびとして、きれいだったな…。だから僕は外国に行くのが好きだったよ)

ふと思い出し微笑んだ。

壁際の、作り付けの棚にふと目をやる。

ちいさな地球儀や手製のマーブル染めでつくられたノート。

たしかこれも、フィレンツェにいったときママンが買ってくれたものだ。

ノートを手に取ってめくってみた。

使うのが惜しくてなにも書いてはいなかった。

―ああ、僕が珍しそうに何かをみていると、ママンはすぐに気が付いて、何でも買ってくれた。

ほんとうに僕を良く見ていたんだ。

なぜか賛成の目に涙が浮かんだ。

「・・・なんだ」

自分でもよくわからない涙だ。

零れ落ちないよう上を向き、指で涙の粒をぬぐう。

 

子供の頃遊んでいた鉄道の模型や、マンガ本、やんちゃだったころ読んでいた古いファッション雑誌。

そんなものも棚にそのまま置かれている。

ある本で手を止める。

「ああ、これ…」

ママンの部屋から勝手に持ち出した、フランスの作家の描いた子供向けの本。

懐かしい。たしか…ゾウが大蛇に飲み込まれる挿絵が面白くて、

ああ、あとはどんな筋だったっけ・・

賛成は本を手にとりパラパラとページをめくった。

 

手が止まった。

 

途中から―、

ありとあらゆるページが真っ赤なペンで乱雑に塗り潰されている。

「…なん…だ…これ」

混乱した。

混乱の中、なにかが見えた。

フラッシュバック―、

真っ赤なページと交互に見えるのは、若い母の、血の気のない、表情を失った能面のような顔、うつろな目。

「なん…だ…!?」

断片的に見えるこれは、いったいなんなんだ?!

本が床に落ちる。

賛成はそれ以上何も思い出せない。

 

階段を足早に降り靴を履く。

「ぼっちゃま、もうお帰りで…」

「黒井、…屋敷を頼むよ」

逃げるように去る賛成に、黒井が声をかける。

「賛成ぼっちゃま、お誕生日おめでとうございます」

 

「…うん」

そのまま屋敷をあとにする。

 

−つづく−


 

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アナウンサー!冬物語chapter.3

2014-02-12 14:00:00 | アナ冬

「Hello?George?」

 『タマサワさん!?』

大型のバンの後部座席から国際電話をかける男、

プチテレビ社長、玉澤竜二。39才、独身。

 

電話の相手はアメリカのジョージ。

ジョージはアメリカの巨大企業・JYの創始者堀辺英人と、その息子・堀辺創に仕える従順な補佐だ。

経歴は謎だが、堀辺家のためならオンオフ問わずスパイ活動、家政婦活動、芸者遊び、なんでもできる頼れる男。

神出鬼没、様々な所に現れる彼だが、現在はアメリカで創につきっきりだ。

「元気か、ジョージ。」

『元気です。タマさん、東京はスゴい雪だそうですね?』

「ああ。でもそっちに比べりゃたいした事ないさ」

玉澤が2年間赴任していたニューヨーク。

車窓から見える雪に、ニューヨークでの楽しかった想い出が重なった。

「堀辺さんの具合はどうかな?記憶は戻りそうか?」

『um…』

ジョージがもごつく。

堀辺創。

昨年、プチテレビが紀村俊(当時サイパー.com社長)から仕掛けられた敵対的TOBでピンチに窮したとき、

ホワイトナイトとして颯爽と登場し、プチを救った男。

その後、紀村俊と玉澤を和解させ、さらに会社を追われた紀村を合弁会社JYPCへ招いた。

しばらく日本に滞在していた創だが、年末、飛行機事故に巻き込まれた際に負った傷で12才以降の記憶を失った。

玉澤は堀辺創の容態を、頻繁にジョージに問い合わせていた。

『Um…悪い状態ではありませんヨ。病院へ定期的に通って投薬しています。薬は気休めですがネ。

本人はいたって元気デスよ?近所のジュニアハイに通って、バドミントン部に所属していい成績を残してます。公式な試合には出られませんが』

それはそうだろう、気持ちはティーンでも外見はアダルトだ。

「記憶は12才のまま?」

『いえ、それが、ペースは不明ですが、時おり急激に記憶が戻るようです。

ボクがみたところ、今15,6才まで記憶もどってんじゃないかな創さん。でも大人びた子供だし正確じゃないケドね?』

「うむ…」

バンの中でメイクと着替えを終えた玉澤。

これから経団連のパーティだ。

社付きのヘアメイクに無理を言って移動のバンの中で仕上げてもらったのだった。

創の記憶がすべて戻るのはそう遠くないかもしれない。

しかし、会社への復帰の目処は当分先だろう。

玉澤はため息をつく。

堀辺とタッグを組んで始めた会社、JYPCの運営は、堀辺の不在からひと月を超え、紀村へ全負担がかかっている。

現場で動ける人員は増やしているが、経営は堀辺の手腕による。

ブレーンの紀村に経営の事までやらせては…。このままでは彼がパンクしてしまう・・・。

なにより人には得意分野というものがある。

アーティスティックな紀村に金の計算は向かない。

「ジョージ、ありがとう、また連絡するよ。」

『あ、タマさん、合コンの件ですが、国籍は問いませんか?年齢は?」

「合コンの件覚えててくれたのか?ジョージはさすがだな!

そうだな、俺は国籍も年齢も問わないが、ちょっと今は、…それどころじゃないかもな…」

玉澤は二度目のため息をついた。

『え!ナンデ?!いい子いるよ!あんなに合コン合コン言ってたジャない!めずらしい!ナンデ?!彼女デキタ?!』

やんやと騒ぎ立てるジョージの奇声を最後に電話を切った。

 

玉澤はスマートフォンのロックを解除して画面を眺める。

そこには少女の写真があった。

彼女の名前は愛。

愛とかいてめぐみと読む。

養女に出した、玉澤の隠し子だ。

彼女は年明け早々、アメリカの家族に無断で、日本へやってきた。

新年あいさつで社員が集まるプチテレビのエントランスで”パパ!”と言いながら抱きつかれたときはさすがの玉澤も肝が冷えた・・・。

”パパ?パパってなんすか社長!!”

”結婚してたの?社長”

驚く社員たちを前に、

“パパなわけないだろう、姪だ、死んだ兄貴の娘をパパがわりに可愛がっているんだ”と、苦しい言い訳ながらその場を乗り切った。

認めてしまえば大スキャンダル。

愛の生みの母の正体を追求されてはいけない-。

今はもう天国に逝ったあの女(ひと)の輝かしい経歴を守るため-。

愛は、目の前で”パパではない”、と否定され傷ついただろう。

しかし彼女は勝ち気な性格で頭もいい。すぐに事情を飲みこんでくれた。

 「いや、俺はいいんだよ、隠す必要なんてない…」

ばれたってなにも困りはしない。

「なにか言いました?社長」

となりでメイクを終え道具を片づけているヘアメイクの女性が反応した。

「なあ、子持ちの男ってどう?」

「えー?なんですかいきなり~。最近増えてるって言いますよね、離婚して男の人が子供ひきとるの。

シングルファーザーっていうんですか?」

「うん…」

やっぱもてなくなるかな、こぶつきだと…。

 

いま、玉澤は愛と一緒に暮らしている。

娘ということを内緒にする、という言う条件でしばらく日本に留まることを許した。

13才の少女との同居は予想以上に大変なものだ。

そして―。

玉澤は自分でも不思議なほど、以前ほどは恋愛に興味を持たなくなった。

それが愛との同居によるものなのか、ただ単に男として枯れ始めているからなのかはわからない。

恋におちることに臆病になっているのかもしれない。

ただひとつ、クリスマス前に出逢った、名前も知らないシンデレラの事だけはずっと気になっているのだが…。

 

 —つづく— 


 

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アナウンサー!冬物語chapter.2

2014-02-11 13:00:00 | アナ冬

「サヤちゃん来週の火曜日、あけといて?」

ソファの上でふたりはまどろんでいた。

東京、浅草。

右太郎のマンション。

魔性の微笑みを浮かべながら右太郎はサヤ子を後ろから抱きしめた。

サヤ子はまどろみのなかで思う。

彼は出逢った頃よりも顔つきが精悍になった、と。

どこがどう変化したのか?と訊かれれば、体型も顔も何も変わっていない、としか答えられない。

しかし最近の彼の色気は目に見えて増しているし、なにより男としての自信に満ちている。

男の名は張本右太郎、プチテレビ・アナウンサー。

平日22時台のニュースを担当している。

一方恋人のサヤ子は女医。

土曜日の診察が終わる午後、オフの右太郎が病院まで迎えにきて、

そのあとの週末を一緒に過ごすのが定番となっている。

付き合って半年以上が経過し、ふたりの関係は安定している。

ソファの上でまどろみながら右太郎はサヤ子のを後ろから抱きしめる。

「サヤちゃん?」

いっそう密着し、サヤ子の肩に顔をのせ、甘える右太郎。

「来週の火曜日?祝日よね。病院は休みだけど、いったい何がある日なの?」

「賛成がアメリカから帰ってきてるんだ。

その日は賛成の誕生日だから、集まれるメンツでお祝いしようって事になっててさ」

「ふぅん…」

サヤ子は年末、右太郎の件—飛行機トラブルーでアメリカに行った際、

賛成と彼の恋人であるレイにはとても世話になった。

その賛成の集まりであれば顔を出すのが礼儀だろう。

だが−。

「どうかなあ?いきなりそういう内輪の場に私が行くの、変じゃない?」

「そんな事ない!お祝いつってもこじんまりしたものだし、プチの人たちばっかりだよ?

伊藤でしょ、紀村さんでしょ、…みんな彼女連れてくるんじゃないかな。あと玉澤さん」

”玉澤”

そのワードが右太郎の口から出た瞬間、サヤ子の目が泳いだ。

表情が見られない体制だったことに心底感謝する。

何事にも動じない精神に長けていると思っていたが、どうだろう、

右太郎の口から出た玉澤という言葉に動揺を隠しきれないでいる。

「サヤちゃんをやっとみんなに紹介できるな。楽しみだね?」

「…う、うん」

右太郎はサヤ子の返事に安心したのだろう。

ソファからたちあげるとお腹がすいたのか、キッチンで何かを探しはじめた。

(どうしよう、玉澤さんには会いたくない)

去年ー、

サヤ子は玉澤と不貞を働く寸前まで行った。

なにもなかった。

嘘ではない。

玉澤も、サヤ子が右太郎の恋人だとは知らない。いや名前すら知らない。

しかし、自分の愛を信じきっている右太郎の目の前で、玉澤に紹介されるなど—

絶対にいやだ。

「食べる?」

右太郎がチョコレートを差し出してくる。

かわいい、こころからサヤ子の愛を信じきっている顔で。

ううん、と首を横に振りながら微笑みを返すサヤ子は、しかし頭の中で、

できれば行かないで済む口実はないかを考えている。

麻布十番、スタ—バックス。

ふたりの男が話し込んでいる。

「なるほど。話はわかりました。しかし意外だな、あなたがそんな事を考えていたなんて。」

そう言ったのは長髪のスレンダーな男。

東京経済新聞の記者、城之内彰だ。

 

「ずっと考えてたことなんだ。いや、すぐにじゃない。

ホーリーが…堀辺さんがこんな状態のまま俺がプチから抜けるわけにはいかないからな?」

もう1人の男は、紀村俊。

彼はプチとアメリカの企業・JYグループの合弁会社で働いている。

役職こそあえて、つけていないものの、実質経営の中枢であり、ブレーンそのものだ。 

「何人かマサチューセッツ帰りの知り合いにあたってみますよ。

他の記者にも聞いてみます。いや、ITに聡い人材はたくさんいます。

ただあなたの代わりというのは、結構難しいかもしれませんね?」

紀村俊の開拓してきた道は唯一無二だ。

ITの黎明期に置いて彼の残した功績は大きい。

プチテレビを買収しようなどという暴挙に出なければ、いまでもサイパー.comの社長として敏腕をふるっていた逸材だ。

「ありがとう城之内くん、助かるよ。君は記者だし人脈も広い。こんなこと頼める相手は限られてる。あ、そういえば」

「はい?」

「このことはまだプチの面々には言わないでほしい。動揺させたく…ないからね?」

「わかってますよ。誰にも言いません。

それはそうと賛成の集まり、紀村さんも行きますよね?」

「ああ、行くよ。そういえば城之内くんは黄桜くんと旧知の仲なんだよね?」

「ええまあ、やんちゃしてたころの仲間っす」

城之内がタバコをふかす。

「あ、ここ禁煙だよ?」

「あ」

ふたりはお茶もそこそこに、店をでた。

紀村俊は六本木の自宅のほうへ歩きながらなにやら考えている。

—遠くないうちにプチを去る。

しかしそれはまだ、誰にも、恋人のミーコにも、言えないことだった。

 

−つづく−


 

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※この物語はフィクションであり実在の2PMとは一切関係ありません。


アナウンサー!冬物語chapter.1

2014-02-10 18:00:00 | アナ冬

雪は前夜遅くからしんしんと降っていた。

空から墜ちてきた氷の結晶は、雨とは違い音をたてずひっそりと降り積もる。

雪の降らない土地に住む人間ならなおのこと、普段見慣れた都会の景色が一夜でさまがわりするのに少なからず興奮を覚えるだろう。

いや、どうか感じるかはひとそれぞれだ。

たとえばあなたは-

真っ白な雪が一面降り積もった、誰も足を踏み入れていない広場を前に、どんなふうに思うだろうか?

真っ先に自分が足を踏み入れ、跡を残したいと思う?

それとも無垢で真白なまま、残しておきたいと思う?

前者にも後者にもそれぞれの理由があるだろう。

理由には動機もある。

そこには感情が伴い、ひととひとが関係し合う。

これから始まるのは、そんな物語だ。

東京が記録的な大雪に見舞われた、2月某日。

JR新宿駅の南口前で、横なぐりの雪を受けながら取材をしているテレビクルーの一派がいた。

マイクを持ったアナウンサーが、ディレクターのキューの合図でカメラに向かって話し始める。

「えー、ここ、東京のターミナル駅であるJR新宿駅では、

電車の遅延や運行中止によって移動のアシをうばわれた乗客たちが改札前で立ち往生しています。

しかし休日ということもあり、さほどの混乱は見受けられません」

『--伊藤アナ、かなり強い風のようですね?』

-スタジオの女性アナウンサーからの返事が、通信の都合で少し遅れて彼の耳に届いた。

伊藤純保。

プチテレビの人気男子アナウンサーだ。

「--はい。今回の雪はごらんのとおり、ある程度の風速を伴ってますので、

非常に、この、なんですかね、体感温度も低いといいますか、

まさに冷凍庫の中にいるような、北極にいるペンギンのような、そのようなですね…」

『--はい、伊藤さんも気を付けてください。

時間なのでこのあたりでスタジオに戻します、ありがとうございました』

中継を引き取ったのは湾岸・プチテレビのニュース・スタジオ。

14時からのサスペンス再放送の前に差しこまれる、5分間のニュース番組だ。

女子アナがニュースを続けた。

「伊藤アナ、かなり寒そうでしたね…。

皆さまも、今日は必要でない外出は、なるべく控えるほうが賢明かもしれません。

以上、午後のニュースでした。みなさま、よい一日を。

…ちなみにペンギンがいるのは南極です。」

にっこりと笑顔でニュースを締めるアナウンサーは、ハルナ。

伊藤純保の恋人である。

 ・

ふたたび新宿駅前。

「伊藤さん、じゃあ、はけましょうか」ADが言う。

「あー。んー。さむいー」

「さーせん、ほんとは新人の仕事っすよね」

「あ、全然大丈夫。シフト制みたいなもんだかんね、新人も何も関係ないよ?

ね、カイロちょーだい?」

民放1の人気男子アナウンサー。

しかしおごり高ぶったところのない純保は社内でも人気者だ。

もっとも、正月のかくし芸大会でも見せた”負けず嫌い”な所が、共に仕事をする面々に好感を与えているからだろう。

「今日はもう、新幹線も飛行機も動きませんかねー?

オレらこのあと羽田と成田の中継まわるんで、伊藤さん、途中まで乗ってきます?ワンガン戻りっすか?」

「んー…」

曖昧に目を細め傘も差さず空を見上げる。

午後2時だというのに暗い。

赤みがかった灰色の空から雪が放射状に舞い、白い粒が次から次へと純保の顔に冷たくあたる。

今日は、飛行機は飛ばないだろうか-?

「…そだな、乗せもらってい?」

糸目の男、伊藤純保はそう言うとバンに飛び乗った。

 ・

飛行機の機内。

機内アナウンスが流れる。

”お客様にご案内申し上げます。当機NK624便、ケネディ空港発成田空港ゆきは、

関東地方の積雪により、急遽、到着地を羽田空港に変更いたします。”

-羽田空港に変更か。

ファーストクラスの椅子に座り分厚い本を読んでいた男が、手元の腕時計を見た。

-良かった、多少遅れはしたものの、無事に日本に着きそうだ。それにしても東京に雪なんて珍しいな-

本を閉じる。

男の名は黄桜賛成。

2か月ぶりの日本だ。

羽田空港。

賛成がスーツケースを引きながらゲートから出た、その時-

「賛成!」

自分の名を呼びとめた、その先にいたのは-、

「純保!」

親友、伊藤純保、そのひとだ。

「純保?!なんで?!」

駆け寄りお互いの顔を確認する、久しぶりの再会だ…。

「よくわかったな、純保!到着時間も到着地も変更になったのに!」

「ん…。賛成、おかえり」

そういう純保の表情に、いつもの明るさがないことを賛成はもちろん気が付いている。

元気のなさの理由は想像がついている。

それを聞いてやることが、賛成が今回帰国をした理由の半分なのだから…。

「純保、大変だったな?」

「んー…。まあ、それは後でいいよ?それよりお前、もうじき誕生日だろ?」

「純保…」

 「賛成、どうする?一旦家に帰るか?それとも会社に寄るか?玉澤さん今大変なんだよ?」

ふたりはとりあえずタクシーに乗り込み、湾岸のプチテレビに向かった。

 

-つづく-

 

 


始めてみました、冬物語。

春と違って、少量ずつマメにアップしていこうかなと思っています。

春の最後のあたりの展開と文字量、自分で自分の首をしめてましたのでね…HAHAHA!

と、言いつつ、思っているだけでどうなってゆくかはわかりませんが、

気楽に読んでいただければ幸いです。


 

「アナウンサー!冬物語」は下記からの続編です。

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