子育てファンクラブ高知

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連載第2回 若草幼稚園・すくすくの森で育まれるもの・・・とぎすまされる感性(その1)

2011年01月18日 | 保育所・幼稚園

少々の雨でも週に一度は行くすくすくの森。三歳の時、バスを降りて森に差し掛かるだけで圧倒されて泣いていた子どもや、坂道が恐い、大きな木が恐いといって泣いていた子どもも、回を重ねる毎に幼稚園のどの場所よりもすくすくの森が大好きになっていきます。

この森で、子どもたちは何を育んでいくのでしょうか。

2 とぎすまされる感性と

      美しいものを美しいと感じる心

  

                                                               若草幼稚園 岡林道生

 森は私たちに様々な感動を与えてくれます。目に触れるもの、耳に届いてくるもの、どこからか漂ってくる匂いや香り、肌に触れるもの、子どもたちは全身で自然の息吹を感じながら感性を磨いていきます。 

 

(1)目に触れるもの 

春、三つ葉ツツジが山の斜面を真っ赤に染める頃、桜の花も満開を迎えます。ハルちゃんはお花が大好きです。満開の桜を見上げて「ウワー、きれい!」と両手を広げました。丁度風が吹いてきて、散る花びらを全身に受けて、「雪が降ってきた!!」と叫び、踊るかのように回り始めました。ハルちゃんに触発されて、先生と子どもたちがはしゃぐ姿はまるで絵を見ているようです。 

横でアユちゃんが離れていく花びらを「蝶々よ、蝶々よ!」と追いかけていきました。花びらが、池に落ちて浮かびました。アユちゃんは残念そうに池を見ていましたが、そのうち、池の中をジーっと見始め、ついには池を囲っている岩に腹ばいになって、とても真剣に池の右側から左側へと首を動かしながら池を眺め始めました。

CIMG0322_ビオトープ.jpg 池のそばには誰もおらず、アユちゃんは一人ですっかりその世界に浸りこんでいる様子です。私は何を見つけたのだろうと思い、そーっと近づいていくと、アユちゃんは池に写った雲の流れを追っているのでした。一緒にしばらく二人とも何も言わずに池の雲を追い、何も言わずにふと空を見上げました。不思議と同じタイミングで、私たちは顔を見合わせて笑いました。池に写る空をただ一緒に見つめ続け、言葉にならないけれど二人だけの秘密のような時間は、とても満ち足りていて、幸福な気持ちになります。 

桜が散ったあとに、次々と咲いてく花の美しさに目を奪われる子どももいれば、雨上がりの緑の美しさに気づく子どももいます。透きとおった空気の中で、雨のしずくを残す緑を見て、「先生、あの緑きれいやねー。」と、ハジメ君が言いました。「ほんとうねハジメ君、先生は季節の中で五月の雨上がりが一番好き。」と言うと、「僕もね、好きになった、一番かどうかわからんけんど。」と答えてくれました。

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 初夏、子どもたちはアジサイの花の間を歩き、きれいだと言いながら花の色を数えて進みます。そうしながら、ひとつの花の中に色々な色があることを発見します。みんながアジサイを見ている中で、トシちゃんが、「お花もきれいやね、けんど見て、葉っぱにある水がお日様に光ってすごくきれいで。」と言いました。「ほんとう、宝石みたいに光っちゅう」とカノちゃんが答えます。 

そして夏、もみじの緑濃い葉の中に、ピンクの小さい花を見つけたのも子どもたちでした。子どもは、自然の織りなす一瞬のできごとにふと目を留めて、その美しさや可愛さを素直に保育者に伝えてくれます。一緒に森の中を歩き、遊んでいると、一瞬一瞬が子どもにとってかけがえのない、満ち足りた時間になっているのを感じます。

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そして、夏休みを終えた9月、さまざまな虫が子どもたちを迎えてくれます。秋が深まったある日、木漏れ日の美しさに気づいたのはリョウ君でした。森の小道を歩いて帰路をたどっている時のことです。前を行くリョウ君が振り向いたまま動かなくなりました。「どうしたの?」と聞くと、指をさすのでその方を向くと、常緑樹の中で、真っ赤なハゼの木が木漏れ日を受けて輝いていました。「先生、もみじもきれいやけど、お日様も他の緑もきれいでね。」とリョウ君が言いました。リョウ君は、真っ赤なもみじの美しさに気づくと共に、それを際立たせているのがお日様と周りの緑であることに気づいたのでしょう。子どもは、自然の中ではっとするような美しさに気づき、心を動かしています。 

霜が降り始めると、子どもたちは「春を探そう。」と言い出します。「春?」「そうよ、春。」「春があるの?」「あるき先生も探してみいや。」「あるかなー。」「あるき。」口々に子どもたちが言います。ホノカさんが梅の枝の先を指さして、「ほら、蕾が膨らんで来ゆうよ。」というと、「そうでね。」とケイ君が相槌を打ち「僕はね、池の中に見つけちゅう。」と言ってみんなを池の方に連れて行きました。「ほら覗いて見いや。」とケイ君。カエルの卵がゼリーのようなものに包まれて、水の中で漂うように揺れていました。「カエルの卵が何で春なが。」とホノカさん。ケイ君は口を尖らせて「春になったらカエルになるで。春の準備でね。」と言いました。みんな納得です。

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子どもたちは、踏むとざくざく音のする霜柱の下に春の兆しの緑が見えるといい、落葉樹の枝の先に木の芽が膨らんでいるのを見て、春はそこに来ているといいます。みんなで春探しは、最初は教師の投げかけから始まりましたが、いつの間にか子どもたちが気づくようになっていて、寒くて吐く息が白く見えるようになると、必ず誰かが言い出します。「先生、今日は春を探しに行こう。」「そうしよう。」春を探して歩いていくと、冬の景色の中に春はそこらじゅうにあって、みんなをわくわくさせてくれます。 

一緒にいく教師の感性が子どもたちに影響するのはもちろんですが、子どもたちは回を重ね、年を経るごとに様々な発見をし、色々なものを美しいと感じ、愛しいと感じるようになります。風に吹かれて散っていく桜の花びら、アジサイの葉の上で輝く水滴、5月の雨上がりの緑の美しさ、振り返ったら木漏れ日を受けて真っ赤に映えるもみじの紅と緑の美しさに気づき、それらを友だちや先生に伝えて感動を共有する喜びは、子どもと子ども、先生と子どもを繋いでいきます。 

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感性は自分の中で生まれた気持ちを素直に、そして自分らしく表現することで磨かれていきます。自分らしく表現できて、その気持ちを先生や友だちと共有することができると益々豊かな気持ちになります。それがまた、新しい発見や心の動きを膨らませ広げていくのだと思います。 

(文中の画像は、若草幼稚園より提供していただいたものを中心に、編集者が選んで挿入したものです)  

〔『保育の実践と研究』(第15巻第2号)より転載〕

 

第1回の連載ほか、

 

かしこくて、たくましい子どもに育てる」コーナーを作成しました。  

 

 

HN:ちるどれん

 

かしこくて、たくましい子どもに育てる(高知市・若草幼稚園の実践)

 

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