マナゴ・ホテルのレストランには、
ハワイ島一周のドライブに出かけるとき、朝食を食べに立ち寄ったのが最初でした。
一歩中に入ると、初めてなのにとても懐かしく感じる、
ノスタルジックな雰囲気のレストランでした。
僕自身剣道をやっていたこともあり、
壁に掛けられた古びた剣道の防具一式が、よりいっそう郷愁を誘います。
食堂には数組の宿泊客らしい人たちがいて、食事をしていました。
案内されたテーブルに座り、朝食セットを注文。
妻は、ハムと目玉焼きとライス。
僕はソーセージと目玉焼き、そしてトーストを頼みました。
そして、ジュースかマンゴのどちらかをチョイスできるので、
僕はオレンジ・ジュース、妻はマンゴにしました。
マンゴにはクォーター・カットされたライムが添えられて出てきました。
妻は、別々に食べるものだと思っていたらしく、
先にマンゴを食べてライムには手をつけずに残していました。
すると、ウェイトレスがやって来て皿を下げようとするので、
「まだ、食べ終わってません。」と、妻はウェイトレスの手を止めさせました。
「O.K.」
ウェイトレスは、苦笑しながら皿をテーブルに戻し、厨房へ戻っていきました。
『?!』
そこで、妻はようやく気づいたのです。
マンゴに果汁をかけて食べるために、ライムが添えられていたことに。
しかし、気づくのが遅かった妻は、
仕方なくライムだけ食べようとして、そのあまりの酸っぱさにgive-up。
一つ勉強になったようでした。
さらに翌年。
今度は、マナゴホテルお薦めのランチを食べにいきました。
そう、ポーク・チョップです。
ご飯と付け合わせがついて、8ドル。
見た目はかなり油っぽい感じでしたが、食べてみるとしつこさは無く、
肉も柔らかく美味しかったです。
人気のメニューだと言うのがよく分かりました。
妻は、このポークチョップを食べるのが、この時の旅の目的のひとつだったらしく、
満足しているようでした。
会計を済ませ、妻がトイレに行っている間、
僕は、一足先に表に出てタバコを吸うことに。
(この当時は、まだハワイで喫煙が出来たので。)
タバコを一本口に咥え、ライターで火をつけようとしたところ、
「あんたは、ライターを持っているのかぁ。」と、
通りの向かい側いたおじさんが、声をかけてきました。
そのおじさんは長く伸びた白髪交じりのグレーの髪を後ろで束ね、
髭も長く伸ばしたままで、日に焼けた上半身は裸、バミューダパンツにサンダル姿で、
駐車場の石垣に腰を下ろしていました。
そして、傍には何かが入ったブルーのビニール袋を置いています。
日本で見かけたら間違いなくホームレスと見間違う格好です。
(いや、紛れもなく自宅を持たない人だったのですが・・・)
でも、何故か僕は、
「あなたは、ライター持ってないんですか?」と聞き返しながら、
道路を渡っておじさんのそばへ。
「どうぞ。」
ライターを差し出すと、おじさんもビニール袋からタバコを取り出し、
受け取ったライターで火をつけました。
煙を吐き出しながら、おじさんが訊ねます。
「旅行者かい?」
「ええ、そうです。」
「どれぐらいいるんだい?」
「10日ほどになります。」
「この島は気に入ったかい?」
「はい、とても。」
「そうか・・・。」
そして、おじさんはライターを僕に返しながら、
「この島はとてもいい。
何も持っていなくても、幸せだって感じられるんだよ。
ワシなんか、全財産はこれだけだよ。」
そう言って、傍らのビニール袋を持ち上げて見せて笑ったのです。
そんなおじさんを、僕は少し羨ましく思いました。
マナゴ・ホテルから妻が出てきたので、おじさんに別れを言って私たちの車へ。
まだ、石垣に腰を下ろしたままのおじさんに手を振り、マナゴ・ホテルを後にしました。
何てことはない旅のひとコマだったのですが、
何故かあの時のおじさんとの会話が、今も忘れられずにいるのです。
Mahalo nui loa.