「ビールが飲みたい！」
そう思ったのは、モクオラ島から戻ってきたドルフィンベイ・ホテルで。
再び車に乗り込み、ヒロ・ダウンタウンのＫＴＡストアへ。
しかし、今日は１月１日。お店はお休み。
加えて、買い物ができるお店が、付近にはありません。
そこで、
Kilauea Ave.沿いで見かけたコンビニを思い出し、
行ってみることに。
駐車場に車を停め、こじんまりとした店内に入ると、
ドリンク類の冷蔵ショーケースには、沢山の種類のビールが！
バドワイザー、ハイネケン、クアーズから地ビールまで、ずらりと並んでいます。
「どれにしようか？」
「私、バドワイザーにしようかな？」
ふたりで選んでいると、
明らかに日系とわかる高齢の老人がひとり、店内に入ってきました。
その老人の顔は、まるで映画「ホノカアボーイ」のコイチ（喜味こいし）にそっくり。
肌の色は褐色に日焼けしていますが、
白髪に白い髭をたくわえ、
紺色のズボンに、
白いワイシャツの裾をキッチリと入れてベルトを締めたその姿は、
どこか懐かしい昭和の雰囲気。
「ほら、コイチさんがいるよ。」
ぼくが冗談めかして言うと、
「ホントだ。」
と、すんなり受け入れる妻。
「コイチさん、日系２世くらいかな？」
勝手に老人をコイチさんと呼び始めるぼくたち。
結局、ぼくたちはビール３本とオレンジジュースのパック１本を買うことにしてレジに行くと、
コイチさんが先に缶ビール１本とチョコレート・バーをひとつ買おうとしていました。
しかし、お金を出すコイチさんに、レジにいる若い男の子の店員が何か言いました。
それを聞いたコイチさんは、なんだか面食らっている様子。
何事だろうとコイチさんの後ろに並びながら様子を見守ると、
財布の中の何かを探しながら、コイチさんは店員に不満らしきことを言っています。
すると店員が、自分の左胸につけたワッペンを指し示しました。
そこには、
『アルコール（お酒）を買う人は皆、ＩＤ（身分証）の提示が必要です。』という英語が。
「なるほど。」と、状況は飲み込めたものの、次の瞬間、
「しまった！！」
ぼくは、自分が免許証もパスポートも持って来ていないことに気づいたのです。
「ホテルに置いてきちゃったよ。」
ビールを買うどころか、
免許証不携帯で車を運転してきたことにも気づき、ドキドキしながら妻に言うと、
「ええっ？！」
一瞬驚きはしたものの、
「あ、ワタシ持ってる。」と、バッグから自分のパスポートを取り出して見せます。
「ナイス！」
とりあえず、ビールは買えそうです。
コイチさんも、財布の中からＩＤらしきカードを一枚抜き出して、店員に見せます。
そのカードの確認が済んだところで、ようやく代金の精算。
店員から品物の入ったレジ袋を受け取りながらも、納得がいかない様子のコイチさん。
続いて、ぼくたちがビールをレジ・カウンターに載せると、
店員の男の子が同じようにＩＤの提示を求めてきました。
妻がパスポートを差し出して見せると、
「ＯＫ」と、店員。
その様子を隣で見ていたコイチさんが、
ぼくたちに英語で言いました。
「なんだか、おかしいと思わないか？
ビール一本買うのに、
１００年近く生きてたって、ＩＤを見せなきゃならんなんて。
まったく、変な時代になったもんだよ。」
「そ、そうですね。」
コイチさんが〝１００歳近い年齢だった！”という驚きはひとまず置いておいて、
その不満は、ごもっとも。
もともとアメリカは酒類の販売に細かいルールがある国だし、
レジカウンターの店員（おそらく２０才前後）にしても、マニュアルに忠実なだけなのだろう。
でも、それは未成年者にアルコールを売らないためという目的だったはず。
それが、
成人どころか老人でさえＩＤを提示しなければならない義務へと替わってしまっている。
「やれやれ。」
そう言って寂しげに去っていく１００歳のコイチさん。
このハワイ島で、どんな人生を生きてきたのだろう？
ハワイで苦労してきた日系人の歴史も、ふと、その背中に重なって見えるような気がしました。
Ｍａｈａ・・・
「おっと、いけない。」
感傷に浸っている場合ではありませんでした。
免許証もパスポートも持たずに運転してきた身としては、一刻も早くホテルに戻らなくては！
途中でパトカーに止められることがないよう願いながら、
ぼくたちは、Kilauea Ave.をドルフィンベイ・ホテルへと引き返しました。
Ｍａｈａｌｏ ｎｕｉ ｌｏａ！
