家族のこと話そう  その①

2019-04-30 11:49:28 | 日記

<家族のこと話そう>

父、兄の「遺産」のおかげ 評論家・樋口恵子さん

2017年11月12日

  父(考古学者の柴田常恵(じょうけい)、一八七七~一九五四年)は、二歳上の兄を偏愛していました。父が五十代で授かった跡取りでしたから、よほどうれしかったのでしょう。

 加えて兄は早熟。教えずとも新聞を読める神童でした。父は個室の書斎を与え、当時勤めていた大学の研究室などにも連れて行きました。「坊(兄)もいずれ洋行しないといけないから、テーブルマナーを学べ」と、帝国ホテルへ連れて行ったりもしました。

 私は常に留守番でしたが、にこにこして、よくしゃべる子でした。お茶の間のアイドルだったと思います。居間や勝手口を居場所に、親戚や近所の人たちの間で確固たる地位を築いていました。

 しかし、兄はそんな私を「恵子の鼻はひっくいらー」と、からかいました。父と兄は鼻筋が通っているのに、私は低い。父母に泣いて訴えても「お兄さまはふざけてるだけ」と、取り合ってくれませんでした。顔へのコンプレックスは成人するまで続きました。

 娘には、兄に言われたような容姿のことは百分の一も言っていません。しかし、五十代後半になった娘は、いまだに覚えています。なんで、もっと「かわいい」と言って育てなかったのか。人間は経験が生かせませんね。子どもはほめて育てるに限ります。  その①